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2018.09.24

ナラ節アリ材と5mmのステンレスカウンターのセパレートキッチンうつくしい形とは何か、物つくりとは何かをあらためて考えさせて頂くきっかけを与えてくれたMさんのキッチンのお話と、

ナラ節アリ材のキッチンとバックカウンター穏やかなご主人とチャキチャキして奥様の優しい印象が良く表れた風がふわっと吹き抜けるIさんのキッチンのお話と、

ステンレスとブラックウォールナットのペニンシュラキッチンとバックカウンター魅力的な設計士さんと魅力的なご家族が作るすてきな1年間をくださったMさんのキッチンのお話の3つの素敵なお話を掲載いたしました。

よろしかったらご覧になってくださいね。

ものの後ろにある目に見えない温度

2018.09.24

「クルミ板目材とステンレスバイブレーション5.0mmのオーダーキッチン」

沼津 M様

design:平成建設さん/Mさん/daisuke imai
planning:平成建設さん/Mさん/daisuke imai
producer:kouhei kobayashi
painting:kouhei kobayashi

ナラ節アリ材と5mmのステンレスカウンターのセパレートキッチン

玄関を通り抜けてくるとすぐにとこの印象が目に入ってくるのです。


ナラ節アリ材と5mmのステンレスカウンターのセパレートキッチン

リビングから眺めた様子。巾木にフレキシブルボードというモルタルのような印象になる材を張っています。


ナラ節アリ材と5mmのステンレスカウンターのセパレートキッチン

洗面所から見た印象。


ナラ節アリ材と5mmのステンレスカウンターのセパレートキッチン

今回、壁から出ている棚を窓の下枠として一体に見せて、さらにはキッチンパネルの割り付けを子の棚板に合わせて目地を取るという、大変細かい納まりにしています。そのあたりの施工の細かさはやはり平成さんだからできる連携なのだろうなあといつも感心するのです。


ナラ節アリ材と5mmのステンレスカウンターのセパレートキッチン

その棚は、今のところはもっぱらご主人のコーヒーの場所になっています。

「僕はあまり料理をするわけじゃないんですが、美しいかたちが好きなのです。」とご主人。
「ごめんなさいね、主人はときどき話が分かりにくくて。」と奥様。
とすてきな導入部。

平成建設の設計のOさんから、「イマイさん、またキッチンをお願いしたいのです。」と言って、一緒にいらしてくださった時の様子です。
Mさんとのやり取りはこんな形で始まりましたね。

だから、今回のキッチンのデザインは、ほとんどご主人が考えてくださったもの。そのイメージを実際になる形にプランを組むのが私の今回の仕事。
「ここはこれでどうかな、なかなか良いかたちになると思うのだけれど。」
「いいんじゃない、それなら使いやすそうだし。でもやっぱりあなたはあまりお料理しないのでしょうけれど。(笑)」
「うん、そうかもしれない。(笑)」
こういうご主人と奥様とのやり取りのなかから段々と一つの形が見え始めてきました。

ナラ節アリ材と5mmのステンレスカウンターのセパレートキッチン

工房での様子。工房では一度仮組みして、今回のようにセパレートのキッチンの場合は可能ならばその配置において確認するようにしています。今回はMさんが見に来てくれるということもあって、日が落ちる前に仮組み完了。

ご主人の提案に対して実際にできる形を示すことで、自分に何か必要か、何を求めているのかを研ぎ澄ませていく作業、のような感じでした。
自分がどんな素材が好きなのか、金属の光沢や木の表情、家に入ると見えてくる印象。

デルタのトリンシック

今回Mさんが選んだ水栓はデルタのトリンシックという水栓。電池式のタッチタイプもありますが、今回はオーソドックスなタイプを導入。仕上げの鈍色が良い印象。

キッチンや家具を作るにあたって、何を自分の拠り所にしていくか、とても大切です。
今回のMさんの思い描く形は,、使い方については縛られないように自由に使える形をイメージして、その造形を大切にして生まれてきた形です。

その拠り所は一人ひとり違います。
だから、同じようなキッチンや家具の形があっても、それを使う人の思いが全く違っているから、その形は全く違う形なのです。

洗剤ポケット付きステンレスシンク

洗剤ポケットは、ご主人がキッチンのデザインを決めていく中での奥様の大きな要望でした。

拠り所と考えていて、以前にあった少し淋しく感じたお話を思い出しました。

今回のMさんのお話とは全く別のところであったお客様とのお話です。
そのお客様のお家は、建売ではなくてきちんと設計士さんがプランを立ててくれた家なのに、実際に入ってみると、「ここはこうしておけば良かったなあ。」って思う箇所がいくつかあったというお話でした。
その時は家具のご相談を頂いて打ち合わせに伺っていた時でしたので、そのお話をご新居で聞かせて頂いたですが、たしかにこうなっていると良かったのかもしれない、と思う箇所もありました。(ご新居のなかで、お客様と正面を向いてはなかなか口には出せなかったのですが。)
その時に思ったことが、設計ができる人が必ずしもそこに住む人の暮らしをイメージしているわけではないのだなぁ、ということでした。
設計士さんに要望をお伝えすれば、使いやすくうまく工夫してくれるはず、と、私でも思ってしまいそうですが、実際は「ここにそれをつけることはできますので、ではつけましょうか。」というように言われた要望を当てはめていくだけの設計というものもあるようなのです。
その話を聞いていると、「この広さのスペースのここに出入り口を作ってしまったら、動線が生まれてしまってこの空間が落ち着かなくなってしまう。」とか「奥さんの料理を様子をもっと聞いていたら、ここはパントリーが良かったのではないかな。」とか時には、住む人の要望を取り止めてでも暮らしやすい提案ができたのではないかなって思えたのです。
でも、結果としては、「あの時の打ち合わせでそうおっしゃられたので、こういう形にしたのです。」ということになってしまって。
(この小さな出入り口を毎日通ることを考えたのかなあ)(別のものを削ってもここに物入れを作っておかないと暮らし始めたら、散らかりがちになると思わなかったのかなあ)などを住む人の気持ちになって少しでも考えてくださったのならもう少し良い空間になったのではと思えたのです。
いろいろ設計士さんも思うところがあってこの形になったのかもしれませんが、やはり住む人にため息をつかれてしまうのは淋しいことです。

その家に住もうと思ってて家作りをお願いしている皆さんは、設計士さんの目を通して新しい家を思い描きます。
図面を見るだけでは見えない部分ってたくさんあって、それを手をつないで連れて行ってあげるように、「ここには階段がありますが、毎日上り下りする場所ですから膝がつかれないように1段の高さを少しだけ低くしました。」とか「床に座るのがお好きですか。それならリビングのこのあたりに窓をつけると周りの視線も気にせずに明るくできますよ。ソファを置いてもここなら邪魔になりませんから。」とか暮らす目線で住む人のその新しい家に連れて行ってあげたらもっと良い空間になっていたのではないかなあ、そう思えてしまったのでした。

ナラ節アリ材と5mmのステンレスカウンターのセパレートキッチン

今回の天板はステンレスの厚み5ミリの無垢です。仕上げはバイブレーション仕上げで鈍い印象に仕上げています。


シンク下のオープンスペース

シンク下はゴミ箱スペース。


アイランドカウンターのダイニング側収納

ダイニング側はこのように扉になっています。この太い格子のデザインをまとめるのがなかなか難しいところでした。閉めた時に等間隔で格子が連続するようにしたい、というのがMさんのご要望でしたので。

ですので、それを逆手にとって、どうしたら住みやすいかを組み立てて少しずつ自分らしい家にしていくのも楽しさの一つです、というお話をその時はしたのでした。
そのお客様は使いにくさに焦ってしまって、住む前にここもこうして収納を作ったほうが良いかも、そこにも、あそこにも・・といろいろ悩んでしまっていたのですが、やはり必要なものって住み始めないと見えてこないものです。
ここには狭くてテーブルが置けないとイメージしていても、実際に置いてみたら、こういう暮らし方が生まれて、こういう家具が必要だと思えて来たって、時間と経験が教えてくれることってたくさんあると思います。
設計士さんが経験で教えてくれなかったことは、自分たちで時間を掛けて覚えていって、楽しい暮らしにしていくのもきっと良いはず。
お子さんだってこれから大きくなって、にぎやかに声が響いて、ここで勉強し始めて、こういうものが必要なのかもって、その時になって見えてくることがあるはず。
そうなった時にいろいろお手伝いします、だから、気分が沈んで慌てて取り揃えようと思わないで、時間を掛けて自分の家を作っていきましょう、というお話をしてことを思い出しました。

ステンレス5mmの天板

ダイニング側で家電が使いやすいように、またカウンターで調理家電を使いやすいようにここにコンセントを設けています。私たちが標準で使うのは、角のデザインと表情がきれいなJIMBOのNKシリーズです。


ナラ節アリ材と5mmのステンレスカウンターのセパレートキッチン

コンロ側キッチンの印象。

お話がだいぶそれましたが、そういうイメージって、たくさん伝えてあげることがとても大切だと思っています。
ここで何かできるか、ここでどう人が動くのか。私たちの作ってきたもの、そこで暮らしてきた人たちのお話、自分が経験したお話、それがこれから新しい暮らしを始める人にとっての大きなヒントになるはず。
そして、そこからまた新しいかたちが生まれるはずなのです。
その努力を怠っては、良いかたちは生まれないのではないかと思っております。

ハーマンのプラスドゥ

コンロは、ハーマンのプラスドゥ。シンプルなデザインで、五徳が大きい、というこのデザインで採用される皆さんが多いです。

Mさんはそういうイメージがとても上手で、それで私はそばで一言二言お伝えする程度。そうすると、ご主人と奥様とでイメージが膨らんでは研ぎ澄まされたものになっていくのでした。

ナラ節アリ材と5mmのステンレスカウンターのセパレートキッチン

調味料を入れる引き出し。いろいろな製作例をよく見てくださる方はお気づきかもしれませんが、調味料用の引き出しは、ソフトクローズレールを使う場合でもレールが横から見えるのです。引き出しの下面につけるには、引き出しのサイズが小さすぎてつけられないため、この側付けレールを採用しています。少しだけ引きが重いのですが、使っていると徐々に軽くなっていき、またレールの長さが長いのが特長です。


ナラ節アリ材と5mmのステンレスカウンターのセパレートキッチン

調味料の下段は、一升瓶などのボトルが置ける引き出し。


ナラ節アリ材と5mmのステンレスカウンターのセパレートキッチン

コンロの下の引き出しの様子。


ナラ節アリ材と5mmのステンレスカウンターのセパレートキッチン

その下の引き出しの様子。

そうして今回の形ができあがったのでした。
イメージの元となったプランは、Mさんの設計全体をまとめ上げてくださったOさんのキッチン
なんとなく思うのが、家具を設計できる設計士さんは暮らしをきちんと見つめてくれている人が多いなってことを思うのです。
Oさんはそういう暮らしまできちんと見つめながら設計してくださるので、できあがった形はやはり魅力的でしたし、今回のこのMさんの空間もとても魅力的でした。
良かった、こうして一つ良いかたちができた。

ナラ節アリ材と5mmのステンレスカウンターのセパレートキッチン

レンジはカウンターの上に。このあたりのレイアウトも皆さんの意見が分かれるのですが、家電をなるべく見せたくない、と言うかたは下にしまうのですが、レンジを使うためにはしゃがまないといけなくなります。あたためなど毎日よく使う作業でしゃがむのが億劫と感じる方も少なくありません。ですので、立って使いやすいこの高さにするためにレンジはカウンターの上に置く、という考えが今では多くなっています。


引き出しにホームベーカリーを収納

代わりにMさんの場合は炊飯器をレンジのすぐに下に置いています。炊飯器をスライドして使う方も多いのですが、Mさんの場合は、カウンターが広めということもあって、炊飯器を使うときはカウンターの上に持ち出して、ここはしまっておくスペース、という考え方。そして、その下はかなり深い引き出しにしています。

ということで、ほとんどの作業を終えて、お引き渡し後にご挨拶にお伺いしました。
ちょっとした軽作業が残っていたので、それを終えた頃、現場監督のNさんもいらしてくださってご主人とちょっとした雑談。
「Nさん、イマイさん、この度は本当にお世話になりました。ここに辿り着くまではいろいろな回り道をしましたが、こうして出来上がった家やキッチンはとても心地良くて本当に感謝しております。」と言いながらおもむろに取り出した2足の革靴。
とても繊細なデザインが施された革靴です。私たちにプレゼントしてくださるのだろうか、でも足のサイズを伝えていないしなあ・・なんて一人で勝手に思っておりましたら、
「実は私は趣味で靴づくりをしているんです。」
そういって、Mさんおもむろに正座をして、その靴をグイっと見せてくださいました。

ナラ節アリ材と5mmのステンレスカウンターのセパレートキッチン

そのほかの引き出しの様子。


ナラ節アリ材と5mmのステンレスカウンターのセパレートキッチン

そのほかの引き出しの様子。


ナラ節アリ材と5mmのステンレスカウンターのセパレートキッチン

そのほかの引き出しの様子。

思わず私も正座。
とてもきれいに作られている。あれっ、Mさん靴屋さんだったっけ?なんて思ってしまうくらい。
「この靴は本当は友人に送るために作ったものなのですが、この部分が自分の中でどうにも納得がいかなくて、いまだに友人には届けることができず、1年も経ってしまいまして・・。」と指さす箇所を見せて頂いたのですが、正直どこに不具合が出ているのかわからないくらい。
「なるほど、はい。」とひとまず相槌。

「だから物作りをしている人たちを見ると、素晴らしいなって思うのです。物つくりの大変さを私なりに分かっているつもりで、そのものを作り上げることに自分の思いを全力で形にしている姿を見ているとそう思うのです。」
「何というか・・、とても言葉にしづらい思いなのですが・・、こうしてとても魅力的な空間にしてくださったNさんもイマイさんももちろん全力でこの家を作ってくださったのですよね!」
おぉ、急にお説教されているような印象。
「は、はい。それは、もちろんです!」とMさんの勢いに気圧されそうになりながら答えさせて頂きました。
「そうですよね、それならとてもうれしいです。自分は、家も家具もいろいろなここにある物たちも、そのものを使うのではなく、そのものの向こうにある作り手を感じながら、皆さんの息づかいを感じながらこの家で暮らしていきたいなってそう思うのです。変なことを言ってしまってすみません。ありがとうございます。」
ということで喜んで頂けたようで、ひと安心。
と、そのタイミングでお仕事に行かれていた奥様が戻られました。
「あっ、また主人の長い話に付き合ってくださって。ありがとうございます。」

すてきなご家族なのでした。

キッチン仕上
天板 ステンレスバイブレーションt=5mm
扉・前板 クルミ板目無垢材
本体外側 クルミ板目突板練り付け/クルミ板目無垢材
本体内側 ポリエステル化粧板「ホワイト」
塗装 オイル塗装仕上げ

クルミ板目材とステンレスバイブレーション5.0mmのオーダーキッチン

費用につきましては、お問い合わせくださいませ。

そして、優しい時間がやってきた

2018.09.24

「ナラ節アリ材とコーリアンのオーダーキッチン」

静岡 I様

design:平成建設さん/Iさん/daisuke imai
planning:平成建設さん/Iさん/daisuke imai
producer:iku nogami
painting:haraki tosou

ナラ節アリ材とコーリアンを使ったキッチンとバックカウンター

照明の印象は、Iさんと平成さんのアイデア。写真には写っていないのですが、照明のソケットのそばから鉄のパイプが下がっている質素な形状なのですがその照明の掛け方がやはり質素で美しかったのです。


ナラ節アリ材とコーリアンを使ったキッチンとバックカウンター

Iさんが選んだ素材が、節が残るオーク材。床とキッチンをその素材で合わせて、アイアンを組み合わせると、武骨な印象になりがちですが、白いコーリアンの天板と奥様らしい優しい感覚で、柔らかな風が流れる場所になりました。


ナラ節アリ材とコーリアンを使ったキッチンとバックカウンター

洗面室から見た印象。突きあたり優しく揺らぐウィンドウトリートメントはリネンだったかな。この印象がとても美しくて、奥様の心持ちをよく表しております。

「イマイさんにキッチンの製作をお願いしたいのです。」と平成建設の設計のOさんからあらためてお話を頂いたのです。自宅のキッチンを作らせていただいてから、何度かOさんからこうしてお話を頂くのですが、どのかたもOさんのキッチンを見ているためか、セパレートの形、というかどんっと部屋の中心に近い位置にキッチンがくるレイアウトが多いのです。
でも、よく考えてみると、1日家に居られるとしたらキッチンあたりにいる時間が一番長いのかもしれない。私などはもし自宅にガレージなんかがあればそっちに行っちゃうかもしれないけれど、なかなかそういう場は少なかったりするので、インテリアのなかで物を創造できるところって言うとキッチンが一番良い場所ですものね。
ものを作っている時間って楽しいものね。

コーリアンシンク900J

コーリアンのカウンターにコーリアンのシンク。同素材なので、シームレスな仕上がりにすることができて、とてもうつくしい表情。

今回のIさんもそういう風に少しずつ好きなものを自分の周りにおいてきちんと時間をかけて物を作っていきたい、という考えをお持ちの人のように思えたのです。

JIMBOの家具コンセントソフトブラック

コンセントは、JINMBOのNKシリーズの黒いコンセント。エンボス掛かったマットな表情はやっぱりきれい。


シンク下の造作

シンクの下はオープンですが、うまくものがしまえるようなレイアウトにしています。

ときどき思うことに、設計事務所さんやハウスビルダーさんからご紹介して頂くお客様と持てる時間って、いつものお仕事のようにウェブサイトを見て直接ご相談にいらしてくださる皆さんに比べると少しそれが少な異様に思えてしまうのです。
それは、最初の導入部が設計士さんとお客様の間でもうしっかりある程度できあがっていて、私たちとは細部のお話が始まるから、というスタンスと、こちらにドキドキしながら来られて、私もドキドキしながらゼロの状態からお話していく手探り感から得られる時間の質があるのかもしれません。
今までも設計事務所さんからお話しいただける場合には、その家具を使う人にお会いすることなく作らせて頂くこともありました。
設計士さんに気に入って頂けることは大変光栄なことですが、やはり使っている人の顔を見たいよね。

キッチンカウンターを浮かせる

カウンターとキッチンのキャビネットを浮かせる印象にしたのは、もちろん設計のOさんの影響。このデザインも全体をやさしく見せている要素の一つ。

でも、Oさんのスタンスは設計の大きな枠組みが決まっているけれど、細かいニュアンスは私たちが汲み取ってもらえるようにきちんと余白を残しておいて頂けるので、たいへんうれしいのです。
だから、Iさんとのやり取りも密にできましたし、時期的にクレミル(私たちが年に一度行っている物作りのイベント)が重なったこともあって、イベントに静岡市内から駆けつけてくださったりして、とてもうれしい時間を過ごすことができたのでした。
どちらかというとキッチンのプランよりもそうした別の部分の時間のほうが思い出深かったりして。
でも、そういうところから垣間見えるその人となりがキッチンや家具を形作っている要素なのだなあ、できあがった形を見てあらためてそう思ったのでした。

シンク下の造作

シンク下の右側部分。ざるやボウル、まな板などの乾きにくいものを収納しています。


シンク下の造作

猫の後ろに隠れているひな壇。配管保護、メンテナンス用のスペースなのですが、皆さんうまくこの部分を活用してくださるので、見るのが楽しみな部分の一つです。

完成後に、平成さんがハウスマガジンを出されていて、その撮影があるということでお邪魔させて頂いた時でした。
クレミルに来て頂いた、ということもあり、アキコ(妻です)もぜひIさんにお会いしたいということで二人でお邪魔させて頂いたのです。
ご主人の優しい人柄を、奥様の快活な印象も久しぶりに思い出してうれしくなりました。
そして、いつもの平成さんの様子。
それぞれの部署の担当者さんが集まるのですが、この会社はいつも楽しそうだなあ、という感じ。
私たちはひと通りIさんと皆さんにご挨拶を済ませましたら、今回のこの写真を二人でパシャパシャと撮らせて頂いていたのですが、リビングではIさんを囲んで、まるで旧友の再会のような空気。
おもしろい人たちだなあ、と私が思ってはおこがましいのでしょうけれど、温かな印象はいつもそう思わせてくださるのです。

リンナイのドロップインコンロとヒーター

コンロはリンナイのドロップイン。IHヒーターとガスの両方の熱源を採用。


コンロ前の造作

このコンロの下は、電源やガス管を通すスペースが必要なので、ちょっとした空間を作っています。ハンドルがついていないから分かりづらいのですが、ここを押すとペタンと扉が開いてきて、メンテナンスできるようにしています。でも、「それなりに広いスペースなので、ものをしまっちゃっているんです。」と奥様。 それに調理中にここに立ってちょっとぶつかるだけで、ペタンと扉が開いていしまうのが帰って煩わしくなってしまって、この撮影の時に飛び出ないような蝶番に交換したのでした。

家ってね、住み始めたらそこに住む人が育てていくのでしょうけれど、家も家具も同じで育てていくためのアドバイスをくれる人や手を差し伸べてくれる距離の近い人たちがいないと、育てることが難しい時もあります。
そういう時に、「ちょっとおねがいできますか。」と気軽に声をかけてもらえる立ち位置にいつも居させてもらえる、平成さんとのお仕事はそう思わせてくれる近さがあります。

Iさん、楽しいキッチンにしていってくださいね、距離は遠いですが気持ちは近いですので。

ナラ節アリ材のキッチンバックカウンター

こちらは背面の食器棚。私の設計では、キッチンは手が濡れたり、汚れたりしていることが多いので、気に直接触らないようにハンドルをつけて、(早く黒ずんじゃうと良くないかなと思いまして。)食器棚は比較的きれいな手で触る機会が多いので、出っ張らない手掛けにすることが多いのです。


ナラ節アリ材のキッチンバックカウンター

食器棚の上には、壁から突き出た棚板。このような棚板は通常は材料だけを私たちが用意して、取り付けは工務店さんにお願いしてすることが多いのですが、今回はキッチンや食器棚の納品のタイミングと合わせてもらったので、棚を受けるブラケットがついている状態のところに棚を差し込んで取り付けています。このような取り付けの場合は、無垢材だとなかなか加工が困難なので、突板を使って製作しています。


アイアンのタオルバー

TOOLBOXさんのアイアンのハンガーバーをつけています。


ナラ節アリ材のキッチンバックカウンター

バルミューダのトースターが載るスライドテーブルは簡易式のスライドテーブルで、レールを使わない形で製作しました。レールを使わないぶん薄くできてシンプルに作れるのですが、そのまま引っ張ると抜け落ちちゃうことと、ときどき桟の部分にロウを塗ってあげないと滑りが悪くなってくる可能性があることが少しネックかもしれません。

キッチン仕上
天板 コーリアン「ミルキーホワイト」/シンク900J
扉・前板 ナラ節アリ突板練り付け
本体外側 ナラ節アリ突板練り付け/ナラ節アリ無垢材
本体内側 ポリエステル化粧板「ホワイト」
塗装 ウレタンクリア塗装つや消し仕上げ

ナラ節アリ材とコーリアンのオーダーキッチン

費用につきましては、お問い合わせくださいませ。

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2018.09.24

「ウォールナット板目材とステンレスヘアラインのオーダーキッチン」

世田谷 M様

design:無添加計画さん/Mさん/daisuke imai
planning:Mさん/daisuke imai
producer:iku nogami
painting:iku nogami

ステンレスとブラックウォールナットのペニンシュラキッチンとバックカウンター

キッチン内部の様子。ここにMさんオリジナルのあれこれが詰まっているのです。


ステンレスとブラックウォールナットのペニンシュラキッチンとバックカウンター

キッチンはペニンシュラタイプのようになっていますが、回遊性を持たせて、ぐるりと回れるようなレイアウトになっています。

私がトミヤさんという人物と出会ったのは、そう今から10年前になるのですね。ふじみ野のKさんのキッチンを作らせて頂いた時でした。
そのあとに越谷のOさんの時にも。
とても魅力がある人で出会ったら忘れられない印象があって、なんというか変な言い方ですけれど、鏡に映った自分と話しているように錯覚することがあったのです。
「いやあ、僕はもともと話しするのが苦手でっ。」って言っていたような気がしましたが、全くそのような風貌に見えず、ひたすら大きな声で気持ちを届けることが上手な人だって印象を受けていたのですが、鏡に映った、と思ったのは、昨年今回のMさんのお仕事に携わらせて頂くことになったため、その打ち合わせにはるばる浦和からいらしてくださった時でした。
トミヤさんは家を考える人、私は家具を考える人。その対象は違っていてもふと見せてくれる気持ちがこれほど似ている部分があるのだなあ、と不思議に思ったのです。
もの作りの考え方は良い面もあれば悪い面もあって、それを知っているからきちんと前に進むことができるんだって、お話をしているとはっきりと覚えたのを思い出します。
だから、その打ち合わせの時だって10年間数えても5、6回しか会っていないしそれほど話こともないだろうに、17時にこちらに来てくださってから、22時ごろまで何も食べずに夢中で話ができたのは、こうして近い気持ちの人っているんだなあ、という興味深さとうれしさからだったのだと思います。
その日にトミヤさんが帰られた後は体がホカホカして、気分が高揚していたのを思い出します。

水切りスペースのあるシンク

まずはシンク。左が浅く段が落ちています。ここで、野菜を洗ったり魚のうろこを落としたりして、そのままシャワーホースで洗い流せるようにしているのです。さらに水栓器具がついているところは10mm段が落ちています。水栓から垂れた洗剤がカウンタートップに広がらないように段を落としているのですが、この左の水洗いスペースに洗剤がいかないようにと10ミリ差をつけているのです。


ステンレスとブラックウォールナットのペニンシュラキッチンとバックカウンター

続いて水洗いスペースの下の収納。まずは、お弁当準備用の引き出し。


根菜収納バスケット

その下は、根菜バスケットと、お盆などの長いものを入れる薄い収納スペース。そして、写真を撮り忘れましたが、シンクの下はゴミ箱が入る引き出し。


ステンレスとブラックウォールナットのペニンシュラキッチンとバックカウンター

ご主人が熱弁していたミーレの食洗機と食器棚の引き出しの関係。ご夫婦そろってお仕事されているので、食洗機を回すのは夜の間。朝起きたら、余熱でほとんど乾燥しているのでそのまま引き出しにしまえるのが大変気持ち良いとのこと。「ほらね、こうしてこうして。もう使いやすいのですよ。」とご主人の実践しながらの熱弁!


ステンレスとブラックウォールナットのペニンシュラキッチンとバックカウンター

調理道具を入れる引き出しも食洗機のカトラリー洗浄部分からそのまま隣にポンとしまうだけ。「もうこれがほんとに心地よいんですよ!」とご主人熱弁!


ステンレスとブラックウォールナットのペニンシュラキッチンとバックカウンター

ここは奥様のアイデアだったかな、ご主人のアイデアだったかな。引き出し専用のパイプをたくさん渡すことで大皿などの収納にしてしまうアイデア。写真だと全く分からないのですが、お皿を立てても支えがこの棒だけだと滑って倒れてしまう可能性があるので、この引き出しの底板は凸凹になるようにスリットをたくさん入れた加工をしています。自分では思いつかないアイデア。面白いなあ、勉強になります。

さて、お話は分かりまして、Mさんとはどのようにして出会ったのかと言いますと、最初クレミルにいらしてくれたんですよね、ご家族で。
物静かなご家族、という印象を最初は抱いておりまして、静かにいろいろと見ていてくださるけれど、なかなか帰らない。(笑)
私たちのことを気に入ってくださったのかなあ・・、どうなのだろう・・、となかなかつかみにくいMさんの印象を受けながら、気が付くと陽もすっかり落ちて展覧会も終わるころの時間でした。
その帰りの時間が近づいたころにようやく「実は今、新居の設計の最中でイマイさんのキッチンに興味があってこうしてお邪魔させて頂いたのです。」

「そうだったのですね。」
でも、もう打ち合わせするにはちょっと時間も遅くなってしまったし、どうしようかなと思っておりましたら、
「もうしばらくしましたら、キッチンの要望もある程度まとまってくると思います。あらためてその時に打ち合わせさせてください。」ということで、その日はクレミルだけを楽しんで帰られたのでした。
(うん、きっと本当に楽しんでいらっしゃったと思う。だって途中でご主人ソファでお昼寝していたくらいリラックスしていましたものね。)

ステンレスとブラックウォールナットのペニンシュラキッチンとバックカウンター

コンロ周りはいつもの姿。


ステンレスとブラックウォールナットのペニンシュラキッチンとバックカウンター

最近よく採用しているスライドワイヤーシェルフ。


ステンレスとブラックウォールナットのペニンシュラキッチンとバックカウンター

調味料用の引き出し。


ステンレスとブラックウォールナットのペニンシュラキッチンとバックカウンター

こちらはボトル収納。ちょっと工夫したいということで、手前は背の低いビン類をしまえるように可動棚をつけています。「今のところは外して使っちゃっていますが。」とのこと。

後日、キッチンの打ち合わせを行ないたい、ということであらためてMさんご家族とご一緒に暮らすお母様も一緒にいらしてくださいました。
あの時は物静かに思えたMさん実はいろいろと思いめぐらすところがありましたようで、いろんなアイデアが出てきます。どちらかというと奥様のほうが堅実なご意見。そして、お母様もMさんのお母さんということで、とてもお話がお好きな方。結局この日はお母様のお話がメインで全体としての打ち合わせがようやく一歩踏み出したところでした。
でも、まだお部屋の間取りも正確に決まっていないし、まだまだプランはまとまらないかもしれないなあと思ってふと平面図を見ると、施工会社さんは無添加計画さんの名前が。
おや、まあ。
その後、Mさんのお話を聞くとやっぱりトミヤさんのお名前が。どうやらMさんの思いだとキッチンがメーカーの規格だと当てはまらないようで、オーダーにするならイマイさんに、と声をかけてくださったのだそうです。
うれしいご縁を頂き、ありがとうございます。

ステンレスとブラックウォールナットのペニンシュラキッチンとバックカウンター

こちらはキッチンの反対側リビングダイニング側の収納部です。上部は引き戸の飾り棚にしています。


ステンレスとブラックウォールナットのペニンシュラキッチンとバックカウンター

A4のハンギングホルダーが使えるように工夫した引き出し。


ステンレスとブラックウォールナットのペニンシュラキッチンとバックカウンター

隣は、不要になった書類を処分するためのシュレッダーが入っています。


ステンレスとブラックウォールナットのペニンシュラキッチンとバックカウンター

そのほかは扉の収納。

それから、本格的な打ち合わせが始まります。間取りがほぼ決まってMさんの子世帯のキッチンは、ご主人の強い思いが詰まった形でおおよそまとまってきました。
まだフワッとしていたのは、1階に住むお父さんお母さんの動線やキッチンのプランのほうでした。
「イマイさん、私はね、こうして色々としゃべっちゃっているけれど、結局はね与えられた形に合わせて収納するから形はどんな形でも大丈夫よ。」と言ってくださるのですが、なかなか何をきっかけにしたらよいかが分からない。
Mさんの奥様に手伝ってもらって、おおよその形はまとまったのだけれど、はたしてこれで良いのだろうか・・。と不安を覚えるのでした。
なぜなら、ご実家に打ち合わせにお伺いした時のキッチンの雰囲気がそれはもう独特だったからです。
(言ってよいのかな、奥様から事前に聞いてはおりましたが、もの凄い物の量なのでした。そのものに囲まれてお父さんとお母さんがいて、お父さんは学者さんでして、ジブリ映画に出てくるようなとても特長ある方で、そのお二人がそのリビングキッチンに居るとまるで映画を見ているような。)

ステンレスとブラックウォールナットのペニンシュラキッチンとバックカウンター

こちらは食器棚の吊戸棚。ここも独特の形。


ステンレスとブラックウォールナットのペニンシュラキッチンとバックカウンター

キッチンペーパーを下に引いて取り出すことができるようにしています。引き出す部分の上の棚にはストックが置いておけるように。


ステンレスとブラックウォールナットのペニンシュラキッチンとバックカウンター

下から見るとこんな感じ。


ステンレスとブラックウォールナットのペニンシュラキッチンとバックカウンター

食器棚のほうは食器をしまう以外に独特のスペースがあります。まずは、精米機。


ステンレスとブラックウォールナットのペニンシュラキッチンとバックカウンター

それを、天板の上に出して精米するのです。


ステンレスとブラックウォールナットのペニンシュラキッチンとバックカウンター

その精米機が入っている引き出しの隣に大きな茶袋。


ステンレスとブラックウォールナットのペニンシュラキッチンとバックカウンター

そこには玄米。玄米を毎週初めに1週間分精米して炊いてしまうのだそうです。で、炊いて余った分は新鮮なうちに冷凍して。

「私はね、いつもジイジ(お父様のこと)にはこれをこうして出しているからこの場所はここが使いやすいのよ。」
「で、ここの香辛料たちは中にしまっちゃうと、見えなくなっちゃうと使わなくなっちゃうじゃない。だからこうしてピンチで挟んでここにつるしておくのよ。」
なるほどー、でも、この量を新しいキッチンにまとめらるかな・・。とその時は不安になったのです。
でも、こうしてカウンターの上に出ているものはそれほど特別なものではなく、毎日よく使うものたちばかりでうまく見せられるようにすれば使いにくくならないのではないかな、あまり場所を限定しないで考えよう、そういう方向でお話を進めていくことにしました。
お母様も元々それほど具体的な収納についてのイメージをおっしゃっていなかったので、なんでもしまいやすく見えやすい形を念頭に置いて、キッチンから移動して別のお話をリビングで聞かせて頂いていた時でした。
ふと、お母様が好きなものの話になったのです。
その時に出たのが、少しクラシカルなデザインの書棚。ちょうどお話していた場所の背面にあった立派な作り付けの本棚です。これはこの実家を立てた時に作ってもらったものだそうで、こういう装飾のある形が好きなのだ、とここで初めて告白されたのでした。
そうでしたか・・。
と、私はうれしくなったのでした。
だって、それまでは使い勝手のお話ばかりしていてもなかなか「これこれっ!」っていうところに辿り着かなかったのですが、お母様の大好きなイメージを一つもらえたわけですから。
もともと真っ白にしようと考えていたキッチンにちょっとだけ遊び心を入れて、こうして1階のキッチンと食器収納ができあがったのでした。

鏡面ホワイト仕上げのキッチン

こちらがご両親のキッチン。


鏡面ホワイト仕上げのキッチン

「すぐ使う調味料を載せておきたいの。」という言葉がきっかけでしたね。


鏡面ホワイト仕上げのキッチン

お母様は、打ち合わせのその時「この本棚の濃い色が私は好きだったのよね。」と、その家を出るのを惜しむような表情になったのでした。それで、お母様の好みだった植物柄の印象を取り入れたちょっとした小物棚を作ったのです。


ポリカーボネイトとアルミを使った引き戸のある食器棚

食器棚にも濃い色を一部取り入れたいと思って、濃い色に囲われた白い食器棚、という印象で作らせて頂きました。扉はお母様の希望通りに白いアルミフレームにポリカーボネートを入れた引き戸にしています。引き戸を開ければ、しまうものが見渡せるようになっていて、さらには奥行きが900ミリもあるこの食器棚は正面と手前の両面から物の出し入れができるようにしています。

もの作りの考えかたには良い面も悪い面もあります。
それなりのものはいかようにでも作れてしまうけれど、何がその人にとって良いことなのかを知ることができてそれが作るものに込められたら、それは使う人に撮って宝物になるはず。
Mさんご家族のキッチンはご主人の臨場感あふれるコミュニケーションで使いやすい形はすでに見つかっておりました。
でも、お母様に辿り着くことが・・。
今回、お母様のその良いことをこうして知ることができたのが、私の今回の大きな仕事だったのかもしれません。

Mさんの良い形は、写真で追って詳しくご説明します。
いろんな魅力満載のキッチンができあがりました。

Mさん、トミヤさん、ありがとうございました。

キッチン仕上
天板 ステンレスヘアライン
扉・前板 ウォールナット板目突板練り付け
本体外側 ウォールナット板目突板練り付け/ウォールナット板目無垢材
本体内側 ポリエステル化粧板「ホワイト」
塗装 オイル塗装仕上げ

ウォールナット板目材とステンレスヘアラインのオーダーキッチン

費用につきましては、お問い合わせくださいませ。