隆起した舞台

「ウォールナットとハードメープルとステンレスバイブレーションのオーダーキッチン」

裾野 N様

design:Nさん
planning:Nさん/daisuke imai
producer:masakane murakami
painting:haraki tosou

メープルとウォールナットとステンレスのアイランドキッチン

LDK全体の様子。この空間が外壁から切り離されて浮いているような作りなのです。

Nさんから最初に頂いたメールはこのような内容でした。
「夫婦ともに一級建築士で、現在自宅の設計をしております。
1階RC造の2階部分にキッチンを設置します。当方で作成した図面のとおり、お見積りをお願いします。
ただし、家具の構造には自信がないので、幕板や脚部など適切な位置になっていないかもしれません。その場合、必要に応じて適切な寸法に修正した形でお見積りをお願いします。木材の仕上げについても、まだイメージが固まっておりませんので、お勧めなどご教授いただけると幸いです。
なお、下の木架台は現場施工とし、ステンレス+シンクのみ御社からの搬入も可能でしょうか?
その場合、ステンレス+シンクのみのお見積りも合わせてお願いします。」

メープルとウォールナットとステンレスのアイランドキッチン

こちらがダイニングになります。足元を見るとその複雑な様子が分かりますでしょうか。キッチン側は、たって作業してちょうど良いカウンターの高さ、ダイニング側は、座ってちょうど良いカウンターの高さであるために、足元のレベルが違うのです。その高さに合わせて、脚となるパネルをカットしています。

普段はお仕事でいろいろな建物の建築設計に携わっているNさん。自宅を建てる時は、やはり自分で考えたいってずっと思っていて、一緒に設計の仕事をされる奥様と考えた形はとても幻想的な空間だったのです。 「イマイさん、ここは目の前が田んぼが広がる静かな場所なのですが、その中にフワッと浮いたような場所を作ってそこに、イマイさんのキッチンを入れたいって思っているのです。」
いろいろとお話を進めていくうちにNさんのイメージが見えてきました。
最初は上に書いたように、Nさんにはキッチンの天板だけを作ってもらうことができるかどうか、と言う相談を頂いていたのです。
その天板がなかなかストイックな形で、厚み9mmのステンレスカウンター(もちろん無垢だと大変なので、1.2mmの材を折って作るのですが。)で、できれば角は面を取らずに全てラインを際立たせるように。もちろんシンクも角々した形。それで長さが4mを越える長さの天板。
うーむ、作るのは可能です。
可能だけれど、強度が極端に弱いなあ。
でも、取り付けは工務店さんが行ってくれるのならどうにか収めてくれるかな・・、最初の頃はそういう相談だったのです。

メープルとウォールナットのモダンなキッチン

メープルとウォールナットの組み合わせ。そして、ステンレスカウンターの部分は厚み10mmで、面取り1Rと言うかなり特殊なもの。

カウンターの作りとしては、9mmの無垢なら角を際立たせるのも楽なのかもしれませんが、以前に5mmで1800mmの長さのカウンターを作った時の苦労を考えると、無垢というのはどうにも無理です。
1.2mmなら軽量になるからまだ大丈夫かな。でも、天板の角の面を取らないようにするには、どうするかな。
通常ステンレスカウンターは、1.2mmの板を折り曲げて26mmや40mmくらいの厚みに見せるようにして仕上げます。
1.2mmの下は、合板で作るのです。
当然折り曲げる部分は、わずかに丸く面が取れます。(2~2.5Rくらいですね。)
これが最近の流行なのか、1R、もしくはそれ以下の面取り具合のキッチンを時々見かけるのです。
そうするには普通には曲げられません。角の部分を削ってうすくすることで、わざと角が尖っているように見せるのです。

メープルとウォールナットとステンレスのアイランドキッチン

天板がシャープなので、全体の印象もかなりシャープ。

そうすることは可能なのですが、この長さ、重量でその仕上げのカウンターを2回に人力で持ち上げるのは大変なことです。 さらには、印象はシャープできれいですが、それが使い勝手の良さにつながるかどうかは、むずかしいところです。
角が立っている形は鋭利で怪我をしやすく、(先日私も額をしたたか尖ったステンレスにぶつけて、怪我をしたところです・・。)
シンクも角が直角だと、シンクの角にたまった水垢の掃除がしづらく、お料理や洗い物と言う毎日の動作を考えると、決して使いやすい形ではないのではないかと考えています。
そのような話をNさんと重ねていき、最終的には、カウンターの角は、いつもよりも面取りを少なめくらいにして、シンクの角はきれいに見えて洗いやすい10Rの面取りをすることに。

メープルとウォールナットとステンレスのアイランドキッチン

キッチンの収納はとてもシンプル。スライドワイヤーシェルフを多用して、引き出しは最小限。

そのようなわけで、カウンターのお話はまとまったのですが、その後工務店さんとNさんで打ち合わせていく過程で、カウンターの下のキャビネットは大工さんが作るのは難しい、と言うことになってしまったのでした。
それで、下の収納部分も私達の担当に。
これは、大変だ・・・。

メープルとウォールナットとステンレスのアイランドキッチン

スライドワイヤーシェルフは、パン類を効率よくしまうのに適していますね。

下の収納部もカウンターの打ち合わせの段階で形状は確認していました。
図面で見る限りはとてもシンプル。シンプルだから作りやすいかと思えるのですが、実際はその反対なことが多いのです。支える構造がミニマルになればなるほど、私達はどうやってその構造を実現したらよいかを悩むのです。
今回のキャビネットの形も箱と言うよりは、パネル上の脚と小さな箱たち、で構成された形です。だから、横揺れに弱いし、キッチンから繋がるダイニングテーブル部分なんて、脚の存在をなるべく消したい、なんてNさんが言うものですから、これまた大変。
もちろん脚は1本(1枚)付けさせて頂きましたが、脚だけではなくテーブルとなる部分の天板を支える補強の入れ方がとても難しい。
天板だけで見せたいと言うことですが、ステンレスもステンレスの下のメープル材で仕上げた部分も脚だけだと天板が垂れ下がっちゃう。そこで、脚と溶接した複雑な補強材を天板の下に半ば埋め込むように取り付けています。

メープルとウォールナットとステンレスのアイランドキッチン

コンロの奥に立っているのが、奥様が見つけたという置き型のキッチンディバイダー。 ふょうなと木は片づけられるし、ガラスも取り外しできるので、とても使いやすそうです。

さらには、キッチン側は奥様が立って使う高さに、キッチンの向かいはそのまま軽食が取れるようなカウンターになるように、ダイニングテーブルの高さに、と床のレベルもキッチンの真ん中で変わっているので、うまく合わせることが大変。
キッチンだけでもこれだけ悩ましいのですが、このキッチンに合わせたバックキャビネット(大型の食器棚)も合わせて作らせて頂けることに。
うれしいのですが、とてもとても気が引き締まります。
食器棚のほうは、まだ箱状になっている部分が多いので、がっしりと作りやすかったのですが、このキッチンにアクセスする廊下からも者の出し入れができるようになっていたりと、やはり一筋縄ではいきません。
現場で箱状に組まなければいけない部分があったり、家具内に組み込む配線が大量で、複雑で、電気屋さんと協働して作業を仕投げれば納まらない部分があったりと、大変苦労したことが多かったわけですが、完成したきれいな姿を見ているとね、もう全て思い出なのです。
「ああ、大変だったよね、はははっ。」
「良い勉強になったよね、うんうん。」

メープルとウォールナットとステンレスのアイランドキッチン

ハーフェレの調味料用の引き出しユニット。そして、他の引き出しはポリエステル化粧板で作っていますが、こちらもウォールナットに合わせて茶色の化粧板で製作。

Nさんのイメージは、夜でした。
お昼の風が抜ける気持ち良さのお話も聞かせて頂いたと思うのですが、どちらかというと、夕暮れから晩にかけて、辺りが静かになっていく中で、温かな明かりに照らされてフワッと浮かんで見えるキッチンやリビングと言う舞台で過ごす時間のお話を沢山聞かせて頂いたような気がします。
そのために、この家は、まるでお堀のように玄関から回廊が続いていて、その壁はまるで外壁のような少し無骨で夜の色のような壁なのです。
その壁に囲まれて家の中心にリビングダイニングキッチンと言う舞台が建っているのです。
それは、まるで井上直久氏の「イバラード」に出てくる「多層惑星」のよう。
幻想的で魅力的な場所になったのでした。

メープルとウォールナットとステンレスのアイランドキッチン

かなり大変だったダイニングテーブルの脚部。今回のNさんのキッチンはキッチンとダイニングテーブルがつながっているのですが、テーブル部分は天板が浮いているような印象にしたい、ということで、脚部に補強を入れて天板の強度を保たせるようにしているのです。写真だと分かりにくいのですが、天板の裏に埋め込むようにスチールプレートが入っていて、その材と脚が溶接されています。

「・・・さて、先日お話ししていた、照明をつけた夜の写真を送付します。
素人写真なので、どこまで伝わるか心配ですが。。。
そうそう、なんだかんだ言っていた主人が、先日ぽつりと、「この家で一番成功してるのは、キッチンだな。」と申しておりました。私もそう思います。
毎日仕事を終えて家に帰ってきて、キッチンに立つのが億劫でなくなりました。これから、キッチン用品や食器を揃えていくのが楽しみです。そして、このキッチン。毎日使って体に馴染んできたように思えます。そして何よりも、新しいキッチンになって主人が洗い物をしてくれる回数が増え田のがうれしいことです。
大満足してます。
本当にイマイさんにはたくさんのわがままに応えていただき、有難うございました。
それでは、お忙しい毎日かと思いますが、お体ご自愛ください。」

メープルとウォールナットとステンレスのアイランドキッチン

こちらが、キッチンの反対面の食器棚の様子。食器棚はこのキッチンと言う空間と寮歌となる部分を隔てる役目をしていると手尾も大型のもので、さらに冷蔵庫も組み込まれていたりするので、キッチンと同じくこちらも大変。


メープルとウォールナットとステンレスのアイランドキッチン

大変そうには見えないほど、気持ちよく使っている様子。


メープルとウォールナットとステンレスのアイランドキッチン

一部には、マット仕上げのアクリルを使った扉を採用しています。ガラスだと破損するといけないのと、重量がかなり違うので、丁番もカバーがきれいなものを探しました。


メープルとウォールナットとステンレスのアイランドキッチン

夜の様子、その1。(Nさん撮影)


メープルとウォールナットとステンレスのアイランドキッチン

夜の様子、その2。(Nさん撮影)

キッチン仕上
天板 ステンレスバイブレーション
扉・前板 ブラックウォールナット柾目突板練り付け
本体外側 ブラックウォールナット柾目突板練り付け/メープル板目突板練り付け
本体内側 ポリエステル化粧板「ブラウン」
塗装 ウレタンクリア塗装3分ツヤ
食器棚・間仕切り収納仕上
天板 ステンレスバイブレーション
扉・前板 ブラックウォールナット柾目突板練り付け
本体外側 ブラックウォールナット柾目突板練り付け
本体内側 ポリエステル化粧板「ブラウン」
塗装 ウレタンクリア塗装3分ツヤ

ウォールナットとハードメープルとステンレスバイブレーションのオーダーキッチン

価格:1,350,000円(制作費・塗装費、設備機器は別途)

ウォールナットキッチン背面収納

価格:1,020,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は70,000円から、取付施工費は190,000円から)

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