静かな午後

「クルミ材とコーリアンのオーダーキッチン」

蕨 O様

design:Oさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:masakane murakami
painting:yasukazu kanai

「日課のようにウェブサイトを見ています。」とおっしゃってくださったOさんがご新居を建てるのは埼玉県の蕨市。
ちょっと遠いかもとOさんが心配していらっしゃいましたが、どうにかお伺いできますよ。

コーリアンラバロックとクルミのアイランドキッチン

玄関から入ると見えてくる印象。今回はバックセットは工務店さんの方で製作して頂いているのですが、グレーのEP塗装仕上げということでお互いがばらつくことなくとてもまとまった印象になりました。2台とも天板をコーリアンに揃えているので、よりまとまった印象になったのかもしれません。

オーダーキッチンにしてもオーダー家具にしても埼玉県でしたらまだ対応できるのですが、私たちが家具をお届けできる範囲はやはり車で2~3時間くらいの距離までと考えているのです。
キッチンも家具も道具ですからね。ずっと使っていればいつかはくたびれます。そうなった時に作り手が伺えることが大切だと思うのです。そうしないとずっと使えるキッチンや家具も使えなくなってしまいますから。
まずはOさんにそのようにご説明させて頂きまして、Oさんのイメージを考えていきます。

コーリアンラバロックとクルミのアイランドキッチン

シンクはデッキ(水栓部分が一段下がった状態)付きでさらに洗剤ポケットが付いたタイプ。コーリアンなどの石材でワークトップを作ってステンレスシンクにするとおのずとデッキ付きの形状になるのです。また今回のOさんの希望として、コーリアンの開口部とシンクのサイズをピッタリにしています。

最初にイメージしていた形は2700ミリのペニンシュラキッチンと同じくらいの大きさのバックカウンターでした。
素材はこの時からぶれることなく、ラバロックとクルミという組み合わせでしたので、なかなかコストが大きくなってしまったのでした。
ちなみにこのコーリアンのラバロックとクルミの組み合わせは、「豊かな色」「おとうさんなのです」の2つの制作例で使っている組み合わせなのですが、この印象をとても気に入ってくださる方が多いのです。
ただ、クルミのこの少しくすんだ茶色というか黄褐色は無垢材でないとなかなか出てこなくて、突板だともう少し赤みが強くて明るくきれいな木目になってしまうことが多いのです。
ですので、そうなると無垢材をメインに使って作ることになるのでやはりコストが高くなってきます。
さらにコーリアンでワークトップを作るとシンクを別に作ることになるのですが、皆さん洗剤ポケットの付いたシンクを希望されることが多いので、そうなるとタカハシさんに作って頂くことになるので、コストが少しずつ上がっていくのです。
まずはそのような形でご提案させて頂きました。

コーリアンラバロックとクルミのアイランドキッチン

シンクの下はいつものようにオープンにしてゴミ箱が置けるようにしています。またコーリアンとキャビネットの間は10ミリほどの目地を取って浮いた印象になるようにしています。それに伴って一番下の巾木も少し内側に入れて、またフレキシブルボードを使うことで印象を薄くして、さらに浮いたような印象に見せています。


コーリアンラバロックとクルミのアイランドキッチン

コンセントはJIMBOのNKシリーズのソフトグレー。食洗機はパナソニックのM8シリーズ。今回は天板の下に目地があるので、食洗機の上部に板を入れた納まりになっています。

そして、Oさんからのお返事は、やはり、「コストが大きく予算を上回っております。」ということですが、「どうにか導入できるように検討してみます。」ということでした。
そうですよね、この素材を使って食洗機にミーレを導入するとなるとかなり高額になってきますものね。
まずはOさんからあらためてご連絡頂けるかどうかをお待ちすることに。

コーリアンラバロックとクルミのアイランドキッチン

引き出しの様子。


コーリアンラバロックとクルミのアイランドキッチン

引き出しの様子。


コーリアンラバロックとクルミのアイランドキッチン

引き出しの様子。


コーリアンラバロックとクルミのアイランドキッチン

引き出しの様子。

いつも私は皆さんにお伝えしたお見積は1ヶ月くらいの間で皆さんにご判断頂いていて、それ以降にお返事がない場合は書類を処分してしまうことが多いのです。
そうしないと、頭がいろいろとこんがらがってしまって、頭を掻きむしりながら書類を探すばかりの時間が掛かってしまったりしていけませんので。
でも、自分が家を建てた時に思ったのですが、家具を考える時って何となく日々過ごしながらぽつんと思いつくことが良いきっかけになったりするもので、1ヶ月だと早いかなあと思ったりするのですが、いろいろ皆さんにご迷惑がかかるかもしれないし、と思うとやはりこの期限をひとつの目安としてやっているのです。
それから、約2か月ちょっと経った頃でした。
そのOさんからもお返事がないものだからきっと別のメーカーさんのキッチンを採用されることにしたのだろうなあとてっきりそう思って書類を処分しようと思っていたところに、Oさんからご連絡を頂いたのでした。

「お世話になっております。
前回ご連絡させていただいてから、だいぶお日にちが経ってしまいました。
あの後もずっとイマイさんのキッチンが忘れられず、イマイさんのホームページを眺める日々でした。
しかし予算も厳しく、建築士さんとも色々話し合いをし、システムキッチンでの提案も受けました。
ただ最後にもう一度、プランをもっとシンプルにした場合、可能性は無いのだろうか思いご連絡させていただきました。
お忙しい中、大変恐縮なのですが、お送りしたプラン内容で、再度お見積もりをしていただく事は出来ないでしょうか?
参考にキッチンのプランの図面も添付致します。
無理なお願いとは思いますが、どうかよろしくお願い致します。」

そうでしたか、うれしいお便りです。
その後、設計士さんからもご連絡をいただき、新しいプランが送られてきました。
設計士さんとOさんとで最善に向かうようにいろいろと悩んだ様子がよく分かるプランでした。

コーリアンラバロックとクルミのアイランドキッチン

吊戸棚も扉材にクルミの無垢材を使っています。木目の表情を良く見せたいということで、板の間に目地が入らないよう1枚の上に向かって開く大きな扉になっているシンプルな形です。

今度はI型のペニンシュラキッチンではなく、2列型のレイアウトで、メインとなるシンク側のキッチンのクルミの印象をしっかりと見せる部分を私たちが担当して、背面の奥まって見えるガスコンロの入るバックセット部分は工務店さんの方で準備して頂く、という形でした。
そしてそのバックセットの上に作る吊戸棚もシンボリックに見えるようにクルミで整えるという形です。
うれしいです、そこまで思って頂けるなんて。

コーリアンラバロックとクルミのアイランドキッチン

バックセットは天板はコーリアン「ラバロック」で揃えて、下のキャビネットは工務店さんが作ってくれたシンプルな扉収納になっています。仕上げはグレーのEP塗装でとても落ち着いた印象でクルミと相性よく納まっています。

今度はどうにか建築全体の予算の中にあてはめられそうです。
そこで、今度の打合せは設計士さんのアトリエで行うことになりました。
今回の設計事務所さんは、オノデザインさん。
アトリエ兼ご自宅にお邪魔させて頂くと、ウェブサイトの印象がそのままのとても静かな心地よい場所でした。
全体的に見渡すとどこか外国の裏通りに入ったところに建つこじんまりした家という印象なのですが、細部を見ていくと和風な納まりがそこかしこに見えて、懐かしいのでした。
そうか、こういう印象にキッチンは置かれるのか、とうれしくなったのです。
いろいろとお話をさせて頂きまして、シンク側のキッチン、吊戸棚のほかに、バックセットの天板も同じコーリアンで私たちが用意することができそうなので、より全体の印象がまとまりそうなのでした。

私たちのキッチンの設置工事のタイミングはいつもは大工さんの木工事が終わる前後に行なわせて頂くことが多いです。
そのタイミングで設置できれば、その後のクロス屋さんだったり、左官屋さんだったり、タイル屋さんだったりと各職人さんの作業がスムーズに進みますので。
そうなるとご新居の上等後まもなく制作に取り掛かる必要があります。

そこで、Oさんの時も上等後少しした頃(捨て張りの床が張られて仕上げのフローリングが敷かれている頃)に現場に伺わせて頂いて、オノさんと工務店さんとで打ち合わせをさせて頂きまして設置工事に向けての段取りと打ち合わせを行ないました。
この時に、お客様もタイミングが合えば来られる方も多いのですが、だいたい平日になることが多いので、設計士さんと現場監督さんとでのみ打合せすることが多いです。

で、何を話すかというと、今回の場合は、バックセットの上の壁がタイルになるので、吊戸棚をつける際はタイルの厚み分を逃がした状態で壁に取り付けたほうが良いかどうか、シンク側のキッチンの方では、今回の食洗機はミーレではなく、パナソニックに変わったので、給排水工事はオーソドックスな納まりなのですが、現場によっては海外製の食洗機の配管が難しいという風に考えていらっしゃる工務店さんもおられるので、そのあたりも細かく打合せしていきます。
でも、今回のように設計事務所さんが入っている場合は、その工務店さんも柔軟に対応してくださるところが多いので安心です。
今回の建築を担当されている内田産業さんも稲城の内田雄介さん設計の現場で良いお会いしていましたし、とても仕事がしやすかったのです。

先ほどの海外製の食洗機のことですが、国産のものは施工する側にも細かい部分が配慮されていて設置しやすいのですが、海外製の考え方も良くできています。
給水、排水が目視できるように、食洗機の隣のスペースまで給排水のホースを引き込むようになっているのです。水の元栓を閉めたい時や万が一漏水が起きている場合などはよく分かるのです。
特に私たちのキッチンの場合はシンク下をオープンにすることが多いのでとてもメンテナンスしやすくて助かります。
一般的な国産のものは食洗器の下で給排水をつなぐので、それしか見ていないと海外製のものは勝手が違うからできないっていう設備屋さんもいらっしゃったりするのです。
そのあたりの給排水の位置の確認と、さらに今回はコーリアンとレベルを合わせて木製のカウンターを大工さんがつけて頂く納まりでしたので、その取り合いをどのようにするかなどを打合せしまして、いよいよ製作が始まります。

クルミの無垢材の印象は、やはり「豊かな色」のようにバラつきを出したレイアウトで木取りをして、コーリアンも少し浮いた印象に見えるように作ります。
また、コーリアンですが、この幅サイズになると原板のサイズを超えるのです。そこでシームレスにつないで作ってもらうのですが、今回のように石目が入ると多少柄がずれますのでご理解ください、と加工所さんから言われるのですが、まず気にならないで、大変美しい納まりになりました。
そして、今回は先にバックセット側のコーリアンを現場に搬入設置して、あとからシンク側と吊戸棚を持って伺わせて頂き、無事にすべての設置が完了。

「おはようございます。お世話になっております。
ご連絡ありがとうございます。
実はインスタで拝見させていただき、木目とラバロックの感じがとっても素敵で、ついに!と思い感激しました。
そして楽しみに週末に現場に行ったのですが、まだキッチンも壁収納もカバーが掛かっており、水栓等の設備も付いていなかったので、もしかしたらまだ完成ではないのかな?と思っていて、完成したのを確認したら連絡を差し上げようと思っていました。
まだ器具が届いていなかったのですね。
完成した姿を見るのがとてもとても楽しみです!」

コーリアンラバロックとクルミのアイランドキッチン

庭から差し込む午後の光。静けさ。

そこから現場は左官、タイル、クロス、給排水の接続(それから今回は機器の接続も)といった仕上げ工事が行なわれて、約1か月半後に無事にお引渡しとなり、その後お挨拶に伺わせて頂きました。
「こんにちは、ご無沙汰しております。」
写真には写っていないのですが、玄関からこのキッチンがあるリビングに入っていくと突きあたりにある木サッシ越しの庭からの光がふんわりとキッチンに当たっていて、うん、オノさんのところで感じた静かな午後の印象です。(オノさんの時は午前でしたが)
優しいとても良い空間だなあと。
お茶を頂きながら、キッチンの使い勝手とお手入れの方法をお伝えしていき、丁寧に使ってくださっている様子を見て安心して帰ってきたのでした。

「昨日はありがとうございました。
あんなに広くて素敵なキッチン、立つたびにテンションが上がって嬉しくなります。
特にお休みの日は料理をするのが楽しみです。
あのように素敵なキッチンを作っていただき、本当にありがとうございます。
イマイさんにお願いすることが出来て、本当によかったなぁと思います。
引き出しの写真は整理しておけばよかったとても後悔していますが(笑)、ブログの写真もとっても素敵に撮れていてうれしいです。
次回いらっしゃる時には、引き出しも使いやすいように整理されていると思います。
こちらこそ今後ともどうぞよろしくお願い致します。」

Oさん、ありがとうございました。

キッチン仕上
天板 コーリアン「ラバロック」ステンレスオリジナルシンク
扉・前板 クルミ板目無垢材
本体外側 クルミ板目
本体内側 ポリエステル化粧板
塗装 オイル塗装仕上げ

クルミとコーリアンのシンク側カウンター

価格:1,000,000円(制作費・塗装費、設備機器費用は別)

クルミの吊戸棚

価格:230,000円(制作費・塗装費は別)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は50,000円から、取付施工費は100,000円から)

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