2019.04.03
とても良い表情のタモのランダム張りの突板を使ったキッチン。
2日間に渡ってみんなに材木座まで通ってもらって、クライアントのTさんも両日ともいらしてくださって、まずはここまで作業が完了。
あとは水栓器具を取り付けて、パネルを交換して・・。
と、サイドパネルの印象がTさんのイメージと違ってしまっていたのです。
Tさんはてっきり横に木目が流れる感じをイメージされていて、私はてっきりいつもの自然な納まりで、と考えてしまっていて、はっきり確認しなかった私がいけないのでした。
側面もヨコ目にすると少し印象がにぎやかに見える気がしていて、自然なバランスだと縦目かなって思っているのですが、使う人は私ではないですからね、きちんとご要望に応えられなかった自分がいけません。
「すみません、きちんと言葉が伝わっていなくて。」
「いやあ、私ももっときちんと確認してイマイさんに聞いておけばよかったなあ。」
「いやあ。」
「いやあ。」
なんて、間違ってしまったのにTさんとのやり取りは気持ちが朗らかになります。
今月下旬頃にはきちんと終わらせる予定ですので、Tさん、今しばらくお待ちくださいませ。
ちなみにこちらがリノベーション前の様子。印象が大きく変わりましたね。
2019.04.03
オヌマのタカハシさんにまたまた相談に載ってもらって、少し変わったかたちたちを作る4月。
3mmを曲げると黒皮がパリパリ剥がれてしまうかどうかを確認したのです。それから、このビードの印象。
服飾デザインのお仕事をされている方のキッチン、カフェスペースを作り出す作家さんたちの椅子、シューメーカーさんのワークデスク。
書いているだけでよく分からなくなっちゃうくらい、少し変わった仕事をいくつかさせて頂きます。
バタバタしておりますが楽しみな始まりですね。
2019.04.01
昨日旅立ったコバヤシ君と入れ替えで、今日から新しくハラダ君が来てくれています。(今度紹介しましょう。)
そのように新人君初日なのでですが、アキコがちょっと予定があって本日はお休みで、ワタナベ君は製作を担当したOさんの取付にカナイ君とカイ君のサポートで出かけたりして、なかなかみんなが揃わないスタートになってしまいましたが、ノガミ君がハラダ君のオリエンテーションを行なってくれています。
私たちらしい新年度の始まりなのかもしれません。
ワタナベ君は今年で3年目になって、こうして自分が先頭になって納品に向かう日も少しずつ出てきました。
頼もしい日々。
お昼前にコバヤシ君がこれからの準備に必要な書類を取りに来ました。
離れていてもみんな近いのです。
みんなが頼もしく、楽しく作っていられるように、みんなに楽しくうれしく家具を使ってもらえるように私たちはこうしていつものように回り続けるのです。
2019.04.04
「ナラ節アリ材とステンレスバイブレーションのオーダーキッチン」
浦和 O様
design:Oさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:yasukazu kanai
painting:yasukazu kanai
リビングから見るキッチン全体の印象。
ダイニングから見るキッチン全体の印象。
「跡をのこす」という独特の表情のキッチンを作らせて頂いたことがありました。あの時はKさんのご要望で、木部はあえて鋸のナイフマークを残して、平面も出さず、アイアンにはビートを残して、とイレギュラーな納め方をしたキッチンだったのですが、そのキッチンの様子を見て自宅にもあの形を取り入れたい、というのがOさんの希望。
洗剤ポケットのあるステンレスシンク。仕上げはバイブレーション。
Kさんと同じ仕上げ方法で作ると普通に作るよりもかえって手間が掛かる部分があったりしてかなりコストが掛かってしまうと思われましたので、印象を大きく変えることなく実現できるように考えたのがこの形になります。
Oさんのイメージの、「節のある力強い木々を支える鉄の武骨な感じ。」を大切にして、どのように表現できるかを考えていくのです。
シンクの下は、今回は引き出しになっています。
内引き出しになっている上段の様子。
なぜ内引き出しにしたかというと、皆さんやはりこのあたりにタオルを掛けたいと思うのですが、やはりOさんもこのあたりにタオルをかけたくて、できれば引き出しのハンドルと兼用となるタオル掛けが良い、ということになりまして。しかし、引き出しは1段だけだと深すぎて使い勝手が悪いから、2段にしたい。でも2段にするとタオルをかけていると引き出しを閉める時に挟まっちゃう。それで、引き出しの前板は1枚の大きな板にすればタオルが挟まることはないよね、ということで内引き出しにしているのです。
私たちからしてみると、節がある材は反りが出やすかったり、刃が通りにくくて仕上げづらかったりと使いづらい材なわけでして、たしかに言われてみると、表情の豊かさは普通の板目材にはないほど豊かな部分もあったりして、物の見方はこうも時代によって変わるのだなあと感心させられます。
しかしそれを凹凸があるままで仕上げるのは私たちはやはり仕上げとは思えず、そういう手の跡が必然的に残ってしまった家具たちが作られてきた、使われてきた文化が評価されているからであって、それを真似て意図的に手の跡を残しすぎるのは、なかなか受け入れづらかったりするわけです。
食洗機とガスコンロの間の引き出しの様子。
食洗機とガスコンロの間の引き出しの様子。
食洗機とガスコンロの間の引き出しの様子。
そこで、今回も素材はナラの節がある部分を使うのですが、平面はきちんと平滑に仕上げていきます。本来、家具の板は4面(木口もいれると6面)がきちんと平らかで直角になっていることでしっかりとした形が作りやすくなります。どの部分の凹凸を残して、どの部分を平滑にしてと考えていくのは、やはり家具屋の仕事としてはかなり手探りな部分が出てきてコストが高くなってしまったりするので。
収納部の前板は無垢材ではなく突板を用いています。板をつく技術もすごいなあと思うのは、節がある突板を作れる、ということ。
突板というと人工的と思われがちですが、板のバランスを整えて作るという無垢材にはない魅力があります。
きれいに並べたり、左右反転させたり、そういう表情の遊びというかゆとりができるのは突板ならではで、コストを抑えていろいろな樹種を活用できるのも魅力です。
節アリの突板なんて今までは聞いたこともなかったのに、当然節の部分は抜けてしまうのですが、それでも板は割れずにきれいにスライスされている。決して表情が人工的にはならないで、色バランスよく整って張られている。
無垢材、突板、それぞれが持つ役割と魅力があって、そう言ういろんな選択肢からよいと思われる使い方をしていくことが私たちの仕事だと思っております。
ガスコンロはプラスドゥ。火力が強いというのも魅力ですが、全面に五徳が敷かれているのが個人的にとても気に入っております。
それでも、最近は雨が少ないせいか乾燥がひどくて、突板でも修復しようがないほどの大きな反りが出てしまうことがあって、やっぱり気は難しいな、と頭を悩ませながら作る日々です。
ガスコンロ下の引き出しの様子。
ガスコンロ下の引き出しの様子。
調味料用の引き出し。下段は油などのボトル用引き出し。
キャビネット内部はいつものように掃除がしやすいように化粧板を用いています。
本来でしたら、内外とも同じ材を使うと美しいのでしょうけれど、コストやお手入れの簡便さを考えていくとやはりしっかりと塗膜が形成されている化粧板を使うことが多いのです。
特にキッチンですと、お水が使われます。
内部を突板やシナ合板で仕上げたこともありますが、その方の住まう環境のせいなのか、しばらくしてご挨拶にお伺いすると、「イマイさん、実は引き出しに黒い点々が・・。」とか言われてしまうこともありました。
それほど湿気を感じていなくても、毎日きちんと開け閉めしている場所でも、いつの間にか小さなカビがついてしまうことがあるようです。
そうなった時には化粧板のほうが掃除がしやすいのではないかな、というお話をさせて頂き、皆さんはおおよそ化粧板を使われる方が多いのです。
節アリ材の表情。
天板はステンレスバイブレーション仕上げ。
余談ですが、先日自分でバイブレーション仕上げを施してみたいと思いまして、オービタルサンダー(グルグル円を描いて研磨する電動工具)に100番のやすりをくっつけて、手元にあった端材を磨いてみたら、速度と力の入れ具合で良い印象に仕上がるのでした。番手を少し上げて120番くらいでもどこか繊細なバイブレーションに仕上げになります。
これはなかなか面白い。
餅は餅屋だっていう思いはずっとあって、自分も家具屋だから木のことならという気持ちでいたのですが、こうしてだんだんと家具からキッチンなども手掛けるようになってくるといろいろな素材や器具にさわる機会も増えてきます。その分責任も大きくなってくるのですが、純粋に何かを作ったり、何かに施す作業って楽しいのです。
物を作る楽しさって、純粋にこういうことだよね、なんて思いながら、では次はみんなで使って傷が増えてきたショールームのキッチンの天板をやってみよう、と思い立ち、こちらはヘアラインでしたので、ひたすら包丁研ぐように手を行っては返しを繰り返すと、ホホォ、やっぱりきれいになります。
物ごとが新しく生まれたり整ったりする喜びはやはり楽しい。
いつか金属の表面仕上げのワークショップとかやりたいなあ。
そして、脚部はスチール。お馴染みのオヌマさんに作って頂いて、今回は溶接痕もきれいに除去して、塗装もメラミン焼付塗装で上品な印象に仕上げています。
オヌマ工業の高橋さんとはまだ4、5年のお付き合いですが、子供たちの学校を通じて知り合ったということもあって、仕事だけのお付き合いにはない細やかな提案や仕上がりをしてくれて大変頼もしい方なのです。
こうして、それぞれの素材が集まりまして、一つの形ができあがりました。
スチールの脚とナラ材の印象はとてもきれいです。そして、シンク下はよく見ると黒い箱になっています。これは、配管が露出してしまうと掃除がたいへんなのと、配管、配線で見た目がうるさくなるので、陰になるように黒い化粧板で囲っているのです。
「イマイさん、キッチン素敵です!
ありがとうございます!
とてもうれしくてメールでお伝えできないくらい感激しています。
キッチンが一番最初に我が家に入った家具ですが、少しづつ他の家具がそろっていき、わたしたちもだんだん今の家に馴染んできました。
気づけば床もキッチンもテーブルもほとんどの家具が無垢材のものになりました。
キッチンもやっぱり無垢材で、気に入ったデザインのものを製作してもらってよかったな、とあらためて感じております。
涼しい季節になったら、ぜひ家に見に来ていただければと思っております。」
Oさんにもその普段使いの仕上がりの良さが分かって頂けましたようで、とてもうれしく思っております。
キッチン仕上
天板 |
ステンレスバイブレーション |
扉・前板 |
ナラ節アリ無垢材/ナラ節アリ突板 |
本体外側 |
ナラ節アリ無垢材/ナラ節アリ突板 |
本体内側 |
ポリエステル化粧板「ホワイト」 |
塗装 |
オイル塗装仕上げ |
ナラ節有り材とステンレスバイブレーションとアイアンを使ったアイランドキッチン
価格:1,250,000円(制作費・塗装費、設備機器は別途)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は40,000円から、取付施工費は90,000円から)
2019.04.04
「ガラストップの円卓とラウンジチェアのオーダー」
台場 A様
design:Aさん/daisuke imai
planning:Aさん/daisuke imai
producer:yasukazu kanai
painting:yasukazu kanai
リビングボードの納品を終えて、満を持してテーブルと椅子を納品したのです。
しかし、このあと大変なことになろうとは‥。
美しい納まりですね。この時はとてもほっとしておりました。
[
libra]と名付けたテーブルがあります。
藤沢のMさんの依頼で生まれた傑作です。(傑作と思っております。)
スチールなのにとても繊細な表情は鉄工のオヌマ工業のタカハシさんのセンスですし、それをナラと組み合わせた形はとてもバランスよくて、Mさんのところにはもう少し明るい印象で天板にはセンを使って、脚部はダークブラウンで仕上げたこのテーブルはMさんに納品させて頂いた後も数台ご依頼を頂けた美しいかたちです。その初代であるナラの試作は私たちの工房でいつでも見られるようにしてあるのですが、ちょうどそのような時期にとてもお久しぶりにAさんからご連絡を頂いていたのでした。
今回は、ほぼテーブルとイス外メインのご紹介になってしまっていますが、リビングボードもなかなか手が込んでいたのです。
奥のカップボードは、その後ろの壁を将来取り払ってキッチンとつなげることを考えて、置くだけの家具にしています。グラスたちは天板がフタになっていて(天板もガラス製)フタを開けて出し入れできるようになっています。
一番難しかった部分で、コンセントは壁のちょうど角にあって、そこから左方のテレビボードのAV機器収納部にスムーズに配線できるように、アクセスしやすいかたちで設計して、さらには異なる高さの格子扉の格子とすき間を合わせる部分など、一見地味なところが大変な作りだったりするのです。
持ち帰った郵便物をテーブルの上に置きっぱなしにしないで仮置きしやすくした半オープンの引き出し。一日分がたまったら、引き出しているものと要らないものを確認するというAさんの面白いアイデアです。
初回に納品したテーブル。華奢なところが美しいわけでありますが、使ってみるとやはり華奢だったのだなあと反省。
小オンラインがいろいろと交差して見えてくる印象はとても美しいのでしたが、うーん、よい勉強になりました。
Aさんは、「color」のAさんです。この家具を作らせて頂きましてから、もう12年が経つのですね。あの時、家具の取付の終わり絵手紙を書いてくれたお嬢さんは、もう高校3年生だそうで、子供の成長を目の当たりにすると、あらためて時間の経過がどれほどだったのか目を細めて考えてしまうのでした。
そのAさんには、以前から年賀はがきを頂いていて、「イマイさんはキッチンのお仕事を手掛けておられるようですので、次は我が家のキッチンをうまく使いやすいようにしたいと考えております。」と数年前のはがきに書かれていたのでした。
そうして、あのお話はどのようになったのかなと思っていたところに、メールをいただいたのです。
「キッチンを使いやすくしていく前提で、まずはリビングの使い方を変えていきたいのです。リビングのいろいろなものたちをうまく整理してからキッチンに取り掛かれたらよいなと考えております。」
まずは椅子の試作を開始です。これがご飯を食べる時のダイニングチェアとしての角度。
普通の椅子としての角度。
ご飯を食べ終わって、リラックスできる角度。
もうここで寝てしまいそうな角度。ただ、座面もそれなりに飛び出るので、前方に体重をかけると座面がポンと浮き上がっちゃうのですが。ちなみに置いてある座面は合板下地ではなく、ウェビングベルと下地のもの。そのあたりの座り心地も検討していったのでした。
角度の機構も確立できたので、続いては背もたれの印象について検討していきます。工房に展示してある椅子たちを使ってイメージを重ねていきます。
それでは、お久しぶりにごあいさつを兼ねて、ということで、Aさんのところにお伺いすることに。
Aさんは住まいはお台場にある背の高いマンションです。あの当時は、とても格式高そうなエントランスなのに、集会所でお勉強食べさせてもらったり、車ものんびり留めさせて頂いたり、という思い出がありましたが、どうやら今は違うようです。
「数年前に管理組合が一新されましてね。昨今の社会事情を踏まえてセキュリティが厳しくなったのです。」
なるほど、搬入に少々時間が掛かりそうですね。
そうして、案内されたリビングは懐かしいあの時のままで、あの時作らせて頂いたそれぞれのお部屋の家具たちは、色こそ日焼けしたり、手の跡がついたりしていますが、12年が経ってもきれいなまま。
「とても気分よく使わせてもらっていますよ。」
あの頃、ブナを使って作る機会が少なかったので、特にブナをホワイトオイルで仕上げるなんてなかったものですから、仕上がりのとても良い色合いだったのが思い出されました。
そして、こちらが試作の完成。座面は合板下地にして、クッションは少し厚めにして革ベルトでクッションを固定するいつもの方法で納めています。なかなか良いかたち。
後ろ姿を美しくしたい、というのが今回の椅子の課題と自分で考えていました。この椅子を作る少し前に天童木工のソファを見る機会があったのですが、その背骨の美しさに見とれてしまいまして、いつか実現させたいなって思っていたところにAさんからお声が掛かってので、そのよい機会だったのでした。
あの当時のままですが、家族は大きくなるので物はだんだんと増えていってキッチンもリビングもちょっと窮屈な感じです。
ぐるっと見回した感じでは、リビングだけでどうにかするには物が多すぎるようにも思えます。
できれば今ここで家具を作りつけるのではなく、もう少しすると一人暮らしを始めるだろうというお兄ちゃんの独立を待って子供部屋をリノベーションするのもリビングを広くするためには良いかもしれない・・。
そういったいろんな案をあれこれとAさんと話しながら、それでもまずはリビングだけでも快適に過ごせる方向で整え、将来的にキッチンを隔てる壁や子供部屋を隔てる壁を取り払った場合でも使いづらくない収納を設けたい、というお話になったのでした。
そのお話の中で、ダイニングとリビングが一体になったこの場所で、ダイニングチェアとソファを置くことが難しいから、というお話になり、そこで両方の用途を兼用できる椅子と、回遊できるような円卓を置くことでこのスペースを広く使いたい、というお話になったのでした。
円卓は、藤沢のMさんと同じデザインで提案して、椅子は当初は軸が開店するようなデザインのものを考えていたのですが、打ち合わせの中で背もたれが可動する形へと変わっていったのでした。
そして、テーブルのデザインもここで変わっていったのです。
今回、リビングの家具たちと一緒にお嬢さんのベッドも同じくブナ材で作らせて頂いてます。ヘッドボードはピンクの革張りで、印象をかわいらしくボタン止めしているのです。
Aさんのご自宅にお伺いしてしばらくしましてから、今度はAさんが工房を訪ねてくださいました。
そこに置かれていたあのテーブルを見て、「いやあ、美しい形ですね。」とおほめ頂いたのですが、その後で、「イマイさん、我が家の場合は天板をガラスにしたいので、ガラス越し見見える脚部はアイアンではなくて、ぜひ木で作ってもらいたいのです。」と、信じられない提案が飛び出しました・・。
「木で脚を作るのですか‥。」
実はAさんからこういうお話を頂く以前にも、このテーブルをご覧になった方から、ここが木でできたら、また魅力的な形になりそうですよね、なんてお話のためになったこともありましたが、あくまでもお話の中でって思っていたのです。
このテーブルはくの字の部材とパイプ状の細い棒で構成されていて、5枚のくの字
はそれぞれ接していなくて、パイプがくの字と固定されて、成り立っているという、自分で言うのもなんですが、絶妙な形なのです。
タカハシさんにはそういった部分で大変苦労してもらったわけですが、この形を木で作るには強度が持たなそうですし、どうしたらこの3次元の組み合わせを実現できるのか自分でもイメージできなかったですので。
でも、長いお付き合いのAさんからそう言われたときは、ああこれはもういよいよ気を引き締める時が来たのだなってそう思ったのです。
Aさん、一度決めたら気持ちが変わらない部分がありますので。(笑)
「・・では、まずは試作してみますので、少しお時間を頂けますでしょうか・・。」
ここからはテーブルの試作の様子。鉄のタカハシさんの時もそうでしたが、くの字の脚は接しないでそれぞれ独立して立っているので、その脚を支える治具作りから始まります。
クロス部材の先端とくの字の接する部分は、手作りですので1本ずつ位置が微妙に違ってきます。無理に位置を合わせようとするとひずみが出てがたつきが出たり、ゆがんで材が破損したりするので、時間をかけて一を出していきます。
クロスの部分。たしかに華奢でしたね。でもこの部分には負荷が掛からないはずって信じていたもので・・。
クロス部分の接合も終わって、先端部分の位置出しも終わって、いよいよ組み立て。
そして、塗装。格好良いです。
ガラスを載せてみます。きれいです。
この試作には木口をラウンドさせたガラスを使ってみて、脚のシャープな感じに対照的に柔らかな感じにしてみたのです。そして、このテーブルとアイアンのテーブルを一対としてコンテストに応募してみましたら、とても良い評価を頂くことができて、それは一つの糧になったのでした。
ここからは、試行錯誤の繰り返しです。
テーブルとイスはカナイ君の担当で、ノガミ君はリビングボードの担当で、ノガミ君のほうは順調に進めることができそうなので、まずはこちらの家具を先に進めて先に納品できるようにして、カナイ君とあれこれ悩みながら試作、そして本政策へと進めていったのでした。
しかし、喜んでいたのもつかの間。クロス部分が破断して、新たなる形を探し始めるのです。これは2回目の試作の時の部材ですね。これでも壊れちゃったのですけれどね。
椅子の角度を変えて固定する機構、座面がずれないようにする部材、張地の選定やベルトの製作。そのあたりはうまく進んでいきます。
問題はテーブル。
くの字の構造はうまくいきそうで、そこに天板が載るとどう荷重が掛かるのか。それがいまいち分からなくて。
でも、天板の重さはすべてくの字が支えてくれるはずなので、あとはくの字同士をつなげるパイプの部材をどのように木で作るか・・。
最初は、ただ、くの字同士をクロスした部材でくっつける形で考えていたのです。でもね、その形って何というか格好良くなかったのです。
どうにかあのアイアンのかたちを表現したい、1本の棒が連続してつながるイメージを表現したいなあ・・。
それにはクロスする部分の接合をどのようにしたらよいのかなあ・・。
暗くなった工房で一人もやもやしながらあれこれ思っていたのですが、あれっ、こういう方法はどうかなってちょっと思いついたのです。
そういえば、アイアンのテーブルを考えた時も一人の夜だったなあ。
こういう静かな時間はやはりクリエイティブになれるのもねえ。
さっそく思いついた形をサクサクと芯材を削ってみまして、うんよし、何となく良い印象になってきた。
翌朝、カナイ君に相談。この形で接合部の強度を出せれば完成できるかも。
クロス部分を別々の棒で作るのではなく、1枚の板を削りだす方法で作っていったのです。
クロス部分の容積も増やすためにきっちり十字型にせず、真ん中は多少ふっくらと。これでもまだ完成形ではありませんでしたが。
そして、これが完成形です。Aさんのテーブルにはさらに補強を施しましたが。
ワクワクしながら作業を進めまして、ハイ、完成!秋ごろにできたその試作のテーブルはちょうど冬に開かれる工房のイベントでみんなに座ってもらって、それで強度の試験をしてみよう。
そうして、リビングの家具の納品は無事に終わった後でも試作と試験が続きます。
工房にいらしてくださったお客様にこのテーブルでお茶を飲んでもらうこと2か月ほど。
ガラスが載ると均等にテーブルに負荷が掛かって安定していたし、どうやらくの字
だけが荷重を受けているだけのように見えるし。
よし、大丈夫だね、ということでさっそくブナを使って本製作に入ります。
2回目の製作とあって、カナイ君の作業はスムーズです。
ハイ、完成。
さっそくAさんのところに納品させて頂いて、同時に椅子も完成させていましたので、これですべてが揃いました。
ちょうど乾燥のきつい時期で、リビングボードの天板が大きく縮んだ部分がありましたが、それを手直しさせて頂いて無事に納品終了。
Aさん、楽しんで使ってくださいね。
と、ひと安心して帰ってきたのでした。
さて、椅子は形が確定しているので、角度が変わるタイプを2脚、角度固定のタイプを2脚の本製作を進めていきます。角度を固定させる機構が、試作よりもシンプルになっているのに気づきましたでしょうか。どのようにしているのかは内緒でございます。
背のクッションと背のフレームの印象。きれいです。
革ベルトは、父が昔に使っていた川道具を引っ張り出して、皆が工房を帰った後にちまちまと作っていきます。
背骨の美しさ。
回転軸部分もどのようにしているかは内緒。座枠がフレームからずれないようにする機構もシンプルな構造ですが、うまく機能しています。
と、ここでお話が終わるはずなのですが、工房で使っていた試作の上でお茶を飲むのではなく、ちょっとした作業をしていた時です。
ガラスにフィルムを張る作業をその上で行なっていたのです。
引き続きの強度試験を兼ねて。
フィルムの空気を抜くのにスクレーパーを当てていたら、ピキッという音とともにクロス部分が1本折れてしまったのでした。
「お、お、おやっ・・。」
クロス部分には負荷が掛からないものと思っていたのですが、1か所に荷重が掛かるとくの字だけでは支えられなかったのでした。
幸い、1本折れただけでテーブルが瓦解することはかなったので、ガラスが落ちてくることはなかったのですが、もうぐらついています。
Aさんのところは大丈夫なのだろうか・・。
と、案の定ほどなくしてAさんから電話が。普通に使っていたのに、折れてはいないそうですが、クロス部分に亀裂が入っていてもうすぐで破断してしまいそう、と。
おお、危ない。
さっそく工房に置いてあるアイアンの脚を代わりにお持ちして、グラつく脚としばらく交換。
うーん、どうしたものかなあ。
Aさんも、実現が難しい場合はくの字同士の頂点を接してしまっても良いですよ、と提案してくださるのですが、やはりアイアンはイメージとは違くて、木で実現させたい部分は譲れない。(笑)
アイアンならば、完成形なので問題なく納品できるのですが、なかなか難関です。
さて、どうしようか、とカナイ君と再び悩みます。
今まではクロスの部分は3本の棒で構成して、2本が交差しているように見せていました。クロス部分のホゾもそれなりにしっかりと作ったつもりでしたが、それで壊れてしまったのですから、クロス部分を1つの部材にしてみよう。
四角い板を十字型に切り出して再びチャレンジ。
うん、うん、よい感じです。
そうして、ハイ、完成。
できたね、しっかりした形、とみんなで喜びます。作ったカナイ君が一番うれしそう。じゃあさっそく塗装だね、と思ったら、再びパキッて音とともにクロス部分が割れました。
えっ、なぜ・・。
いろいろ探るうちにどうやらクロス部分の木取りに原因があるようでした。
最善だと思っていた木取りの仕方が、逆に負荷に対して割れやすかったようで。
こうして何度か繰り返すうちにAさんも気長に待ってくださって、応援してくださいまして、私たちも作業の中で最善な形がようやく見えてきていたのでした。
具体的な構造は、説明しちゃうともったいないので書かないわけですが、ここからさらに2回試作を繰り返して、さらに3か月ほど使用してみて、ようやく安心できる形が完成。
そうして、満を持してAさんの本製作に取り掛かり、試作開始から丸2年が経ってようやく納品できたのでした。
テーブルは、最終的には補強のリングを付けさせてもらいました。リングがないほうがスッキリしていて美しいのですが、くの字の脚が開くのを防止するための形として提案させてもらいました。
工房の試作はリングなしにしていて、相変わらず強度が大丈夫かを試しながら使っていっています。無しでも大丈夫、と確定できればもっと作っていくことができるのですが、今のところは世界にこの2台しかありません。(笑)
ありがとうございました。
試作は今でも工房に置かれています。できあがりの美しさのなかにある時間や手仕事の苦労も見て頂けるとうれしいです。
ガラスとブナのラウンドテーブル
価格:720,000円(制作費・塗装費)
ブナのラウンジチェア
価格:300,000円(制作費・塗装費)
ブナのL型リビングボード一式
価格:1,150,000円(制作費・塗装費)
ブナのベッドフレーム
価格:340,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は25,000円から)