父の椅子

「タモとレザーのラウンジチェアのオーダー」

川崎 K様

design:daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:tsuyoshi kawaguchi
painting:tsuyoshi kawaguchi

「座椅子。ダイニングチェアの脚を切り取ったイメージ。家は低いところで生活しているので。
肘掛けは欲しいです。お尻部分にクッション付きを今は考えています。
床上10~15cmで座れる椅子。食事をする時よりもくつろぐ椅子です。
そういう椅子はいくらぐらいで作れますか?
50000円あたりを希望します。相場がわからない物で。
イマイさん親子のもの作りの姿勢に共感しました。 私も自営業でもの作りをしています。 自転車、日曜大工を趣味としています。 できれば作っていただく事ができたら子供にも同じ(似た)ような物を作ってみたいです。」
椅子というのは手間の掛かるもので、時にはダイニングテーブルを作るよりも時間が掛かってしまうこともあります。そうなると当然費用のかかるものになってしまうのですが、市販されている椅子というのは、驚くほど低コストで販売されているものが多く、どうしたらそこまでコストを抑えて製作できるのかと不思議に思ってしまうくらいです。そして、その流通している金額が相場になってしまっているので、私たちが作ろうとするととても高いものになってしまうのが現状で、なかなか椅子を1台だけ注文してくださるという方が増えないのが現実です。
椅子って大きさ的に一番自分を表現しやすい家具なのです。現に建築家さんたちは立派な建物を残すと同時に見事に考えられた椅子も残しています。だから、本当はもっともっといろんな椅子にたくさん挑戦してみたいところなのですが、作る機会はそんなに多くないのです。
前置きが長くなってしまいましたが、今回Kさんのためにプランを二つ考えてみました。

ナラ材で作る洋風座椅子

第1案。


ナラ材で作る洋風座椅子

第2案。

この2案です。
もともと、予算内に抑えて製作するのは難しいと考えていたので、その旨をお伝えして、プランを説明しました。すると、Kさんはこう応えてくださいました。
「・・・オーダー家具という事で妥協はあまりしない方がよいのかと・・・。
やっぱりくつろげる椅子が良いのかなと思いまして。
仕事上パソコンとのにらめっこが多い仕事なので。
予算はなるべく無視して今井さんが考えるリラックスできる者をもう一度考えていただけないでしょうか?アンバランス(短足)目が希望です。
色々わがまま言って申し訳ありません。・・・」
そのお返事を聞いて幾分胸のつっかえが取れた私は、原案に手を加えたものをお送りしました。

ナラ材で作る洋風座椅子

最終案。

すると、それを見たKさんからこんなお返事が・・。
「こんばんわ。色々ありがとうございます。
正直色々悩んでいます。
家具作りを趣味として子育ての合間をぬって5個作ってきました。その中で今井さんのHPに出会いイマイさんの物作りの姿勢、出来たものに影響を受けました。
オーダーをするって事に正直ビビっています。長く大切にしたいとは思っていますがどうしても踏ん切りがつきません。
もう少し時間を下さい。・・・」
と言うことでした。
私はこのやり取りの時点で、Kさんをすでに好きになっていたので、こんな返事を送りました。
「メールありがとうございます。
私たちも、言ってみればKさんと同じように趣味として木工が好きで、それがいつの間にかお仕事としてご依頼頂ける形になったというまででオーダー家具自体はそんなに高尚なものではないと思います。(笑)
でも、いままで5台も家具を作ってきたというのはすばらしいですね。そこまでできるのであれば、せっかくですので今回の椅子も自作されるのもひとつの方法だと思います。もし、そうお考えでしたら、アドバイスが必要でしたら、ご相談頂ければと思います。
必要でしたら、一度お話を伺いに行っても良いと思っています。
その場合は、お仕事ではないので時間のできたときに自転車でフラッと行けたら楽しいかなあなんて思っています。(笑)
以前もどうしても自分で作りたいと言われた女性(茅ヶ崎のNさんですね。)に、簡単な小物の作り方を教えてあげて、必要な道具も一緒に買いに行ったら、家を新築した時に、洗面化粧台や下駄箱や書斎のデスクを作っていました。
「イマイさん、見て見て。あのあといろいろチャレンジしてここまでできるようになったんですよ。」と、その方は嬉しそうに言っていました。
もうすごいなあと感心でした。・・・」
と。正直なところ、この椅子を仕事として依頼されることにならなくてもいいかなって、思っていました。フラッと自転車で出掛けて、簡単な家具の作り方を教えるだけに出かけるって言うのも楽しそうだな、そんな休日もいいかなって。
そして、Kさんからお返事が。
「正直返信の内容に驚きました。
僕の中ではイマイさんと近づいて『色々な話(家具作り)を聞いてみたい』と思ってオーダーをしようと思いました。
どちらかというと会うためには何かをオーダーしなくてはいけないと思っていました。
それが仕事以外で教えて頂けるという答えにはびっくりしました。
同じ物を作るという事を仕事にしている人間とは思いませんでした。
でもこの椅子はやっぱりイマイさんに作ってもらいたいと思います。
ただ図面だけではどうしてもイメージが出来ないので会ってお話をしてみたいと思います。・・・」
と言うことでした。そして、このお返事と一緒に今まで作った家具の写真やお子さんの書いた絵なんかも送ってくださったのです。
楽しいですねえ。
そうして、あれやこれやらと、家具の話や、好きな自転車の話や、子供の話をしたりしているうちに、だんだんとお客さんじゃないような雰囲気で、お子さんを連れてきた時はうちの娘と遊んだりして、そんなふうにワイワイとしているうちに椅子はできあがりました。
一番大変だったのは、製作を担当した河口君ですね。(笑)

ナラ材で作る洋風座椅子

素地が完成しました。

まずはベース部分の加工をして仮組みします。脚と貫板の接合は、ここまでしなくても良いかなと思ったのですが、見た印象が美しいのと、強度が得られるので「持ち出し接ぎ」にしています。前後の脚は末広がりに転ばせて、肘掛を乗せています。肘掛と前脚がつながるようにこれから見せていきます。
細かい面取りは全体のバランスを見てから行うので、その前に背もたれを製作して仮組み。当初、図面で考えていた背もたれのカーブだとうまく体に馴染まなかったので、ベニヤで型を作って、それを2回のショールームに持っていって、カワグチ君と二人であーだこーだと腰や頭の当たり具合をチェックしてようやく良い具合になったところで、実際に使うタモ材を削りだしました。そのため実際に座ると良い心地です。

ナラ材で作る洋風座椅子

背もたれの印象。

バランスを見ながら背もたれの貫にカーブをつけたり、細かい部分の面取りをしてひとまず木地の状態は完成。ここで、Kさんが見に来るのを待ちます。
そして、Kさんに実際に座ってもらって、肘掛の丸みや他の部分の丸み(ぶつかっても痛くないか)、そして、背と座の当たり具合を見てもらっていよいよ塗装に入ります。(幸い、Kさんと私の身長はそんなに変わらないくらいだったので、座り心地はピッタリでした。)

ナラ材で作る洋風座椅子

背のクッションの調整。

塗装を終わらせたあとに、このフレームを張り屋さんに持ち込んで、「こういう感じで張ってほしいのです。」とお伝えしました。なかなか難しそうな形でしたので、わざわざ、背のクッションのサンプルを作って、背もたれに当てに来てくれたりして、おかげで理想通りの形になりました。

ナラ材で作る洋風座椅子

全体の印象、その1。


ナラ材で作る洋風座椅子

背もたれのベルトの様子。

「ほらイマイさん、父親の椅子ってあるでしょう。なんていうか仕事から帰ってきて食事が終わったあとに、ゆったり体をあずけるように座って、その椅子は父親だけが座ることができて、自分たち子供は何だか恐れ多くて触れなかったような感じの椅子。そういう椅子があったらうれしいなって思っているんです。」
Kさんが望んでいる椅子はこうしてできあがりました。
先日、Kさんからお便りが届きました。

「今回は初めて問い合わせしてから半年という長い期間の間おつきあいありがとうございました。
はじめはもう少し軽い気持ちでオーダーさせて頂いた物がせっかく作る物という事でここまで大きい物になってしまいました。
正直そちらのアトリエで見ていたときはまだ自分の物という実感がなくまだ他人ごとのように見ていた物がいざ自分の家に入ってきたときはその存在感に驚きました。
なんかこの感覚はどこかで覚えがあるなと始めは慣れず、慣れようと無理矢理座っていました。今お酒を飲みながら音楽を聴いていると、小学校の入学前のランドセルを買ってもらった時の感覚だったのだと今思いました。
憧れていたものなのに何かしっくりこず、でも何か気恥ずかしい。
でも自分に取って特別な物。でもみんな持っているもの。
今の自分の子供の年に近い頃の自分の気分になりました。
ランドセルのようにあまり気にせずガンガン気にせず使って行きたいと思います。
壊れたら宜しくお願いします。
せっかく色々お話が出来たのでこれからも色々お話が出来ればと思います。
とりあえず何枚か写真を取りましたので送らさせて頂きたいと思います。
PS. 河口さんにも宜しくお伝えください。
会えなかったのは残念ですが、素敵な椅子をありがとうございました。
また何かお願いする事があれば宜しくお願いします。
それと、ご結婚おめでとうございます。」

ナラ材で作る洋風座椅子

背もたれの背のカーブの印象。


ナラ材で作る洋風座椅子

脚と幕板は持ち出し接ぎ。


ナラ材で作る洋風座椅子

肘掛けは少し幅広く。


ナラ材で作る洋風座椅子

肘掛けから背の様子。

タモとレザーのラウンジチェア

価格:230,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は15,000円から)

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