ネコ通りのキッチン

「ナラ板目材とステンレスバイブレーションのオーダーキッチン」

大船 N様

design:Nさん
planning:daisuke imai
producer:masakane murakami
painting:haraki tosou

ナラのとバイブレーションカウンターのキッチンと引き戸と格子扉の食器棚

キッチン全景。

「はじめてメールさせていただきます。横浜に住むNと申します。
現在横浜市内に新居を建てる為、設計を進めているのですが、その家のキッチン製作をフリーハンドイマイさんにお願いしたく、メールしました。
家を建てたら、私の基地の様なキッチンを作るのが夢でした。
家の中心部にあって、いつでも家全体を見渡せて、大好きな家族のそばに居ながらおいしいごはんを作れる場所。
ふっと息をつきたい時、お茶を入れて小さなスツールに座って休憩したり、料理の本なんかをゆっくり眺められる場所。
異色の場所ではなく、家に馴染んだ家具のような、あったかく優しい私仕様の台所。
システムキッチンの素晴らしさもわかっているので、当初は工務店の標準仕様のシステムキッチンにいくつかオプションを付けていけば理想のキッチンに近付くと思っていましたが、扉の面材や取っ手等、希望の物を選択するとそれだけでグレードが変わってしまい、元々のものより数十万もの差額がついてしまいました。
「どうせ高くなるなら…」とオーダーキッチンメーカーもいくつか伺い、見積もりを出してもらいましたが、信じられない様な値段。
他にも現在工務店からオールステンレスのキッチンを提案されているのですが、どうしても無骨なキッチンになり過ぎてしまいそうで、躊躇していました。
こだわりたい場所とは言えやはり予算にも限りがあるので、もう打つ手が無いか思っていましたが、勝手に「キッチンはやっていないだろう」と思い込んでいた「家具メーカー」で検索してみたところ、フリーハンドイマイさんのHPをみつけ、連絡した次第です。
製作例を見させていただいたら、そこには私の理想とするあたたかく優しいキッチンがいくつもありました。
もしよろしければ、このメールに書いてある条件で大体の見積もりを出していただくことは可能でしょうか。
以下に希望を書きます。
●キッチン全体の形は「縫う」の立川Kさんのような対面キッチンと背面の食器棚を希望
●対面キッチンのカウンターは「光が入る、風が抜ける」の藤沢Nさんのように、手元を立ち上げてリビング側から見えないように、立ち上げた部分を貼付のPDFのように互い違いの収納スペースに
●H870×W2550×D700のステンレスバイブレーション仕上げ(SUS304)のトップ、シンクもステンレスでトップと継ぎ目がないように
●バー取手希望
●シンク下はゴミ箱を置きたいので、オープンで
●床がチェリーなので、面材はそれに合わせた色(チェリー、オーク、タモ材?)の突き板ウレタン塗装仕上げ
●昨日貼付したキッチンメーカーで出してもらった設計図のように、H850×W2220×D650の棚の上部にH600×W1400~2200×D450の引違戸を設置
●キッチンと面材を揃える

予定している導入機器は
○クリナップ とってもクリンフード(工務店から支給できそうです)
○ミーレの45cm幅食洗機
○グリル無しコンロ(現在建築予定地に都市ガスが通る計画があり、それによってIHかガスかが決定します)

予算は100万円程度で予定しています。
間取り図と、以前キッチンメーカーで出してもらった設計図も貼付します。(変更箇所もあるのでわかりにくい部分があるかもしれません)
自分の中でもはっきりこの形がいい!というものがある訳ではなく、漠然とした考えなのでわかり辛い部分が多々あると思います。
予算の事もあるのでまだ他のキッチンも検討中で大変申し訳 ないのですが、大体の価格など出していただけるととても助かります。
どこまで実現できるかわかりませんが、キッチン、というより台所というようなあたたかい空間が作れたらと思っています。
何かありましたら、連絡をいただけると有り難いです。どうぞよろしくお願いします。」

ナラのとバイブレーションカウンターのキッチンと引き戸と格子扉の食器棚

背面の食器棚の全景。

おぉ、熱いメールが届きました。
キッチンって、そもそも家具の中でどういう位置にいるのだろう、っていつも家具の形を考えながら思うのです。私たちは、今までずっと家具作りを専門としてきて、キッチンの製作には、まだ10年足らずです。
もともとは、水が流せる流しがあって、火が炊ける火事場があって、その周りで調理ができる作業場があって、それをコンパクトにまとめたのが台所ですね。

ナラのとバイブレーションカウンターのキッチンと引き戸と格子扉の食器棚

キッチンの背面(=ダイニング側)は4枚扉の収納になっています。扉は手掛けで開けるようになっています。柱の位置が微妙なのですが、扉や約90度は開きます。この右隣に、ネコトンネルがあるのです。

台所を調べると、「宮中、貴族の家で食事を出す時に脚付きのお膳(を台盤と呼んだそうです。)を使うのですが、その台盤集めておく場所を台盤所、それが略されて台所」となったようです。
それから、煮炊き、炊事を行う場所が台所になったということです。
だから、それだけでも良いのかなって思ったりするのですが、やっぱり水切れの良いシンクは魅力的だし、火力の強いコンロは頼もしいし、洗い物が楽になる食器洗浄機はステキだしって、現代では、そういう必要以上の機能が求められていることが多く、多くのキッチンメーカーは、便利な機能を装備したシステムキッチンを作っているのですが、その機能が煩わしく感じてしまう、と言う方もいらっしゃるのです。
近年のシステムキッチンは、どちらかと言うと家具と言うよりは、近代的設備のような様相も見えてきます。
自動で開く○○、手が挟まらないような○○、抗菌仕様の○○を使ったものなど。

ナラのとバイブレーションカウンターのキッチンと引き戸と格子扉の食器棚

目隠しの立ち上がりのトップはナラ板目無垢材のカウンターになっています。今回は、ツヤのあまりないウレタンクリア塗装仕上げ。

確かに調理や片付けはなかなか大変な仕事です。それを快適にできるのは、機能だけではなく、心の持ちようもあるのだと、キッチンを作るようになってそう感じております。
触っていて気持ちの良い素材とか、もっと純粋に調理する楽しさを味わうこととか、便利なことも大切だけれど、そのこと自体を楽しめる場所を皆さんは希望されることが多くなってきたと感じています。
だから、システムキッチンに比べると、私たちのキッチンは素朴ですが、そこに魅力を感じてもらえるのかな、と漠然と思いながらいつも良いかたちを目指しております。

ナラのとバイブレーションカウンターのキッチンと引き戸と格子扉の食器棚

ここが、調味料や調理道具を置いておくシンクの奥のステンレスの箱。 また、シンクには洗剤ポケットと、前傾防止のバーも付いています。

今回のNさんも要望は、たくさんあるように思えますが、実際に私たちのショールームに来て下さってお話しすると、木の表情、手触りが何より好きだって目がキラキラしていました。
奥さんはストレートに、ご主人は細やかな表情で、私たちのキッチンを見てくださいました。
こうして、Nさんの希望を取り込んだキッチンをいよいよご依頼頂けることになり、さらにはキッチンを整えるのに合わせて背面の食器棚も作らせて頂けることになりました。

ナラのとバイブレーションカウンターのキッチンと引き戸と格子扉の食器棚

「このケースがちゃんと入るようなサイズをイマイさんにお伝えしたのですよ。」と奥様。

でも、いろいろとお話を進めていくと、シンプルだけではやはり物足りない部分が出てきて、自動洗浄してくれるレンジフードや、お水が自動で出る水栓など、近代的な設備も組み込むことになったのですが。(笑)

ナラのとバイブレーションカウンターのキッチンと引き戸と格子扉の食器棚

梁が関わってきたレンジフードの印象。このレンジフードの施工は、思ったよりも施工しやすく、また下にお水を入れておいてスイッチを入れるとファンを洗浄してくれるのだそうです。

さて、今回のキッチンのポイントは、シンクの前に目隠しの壁を作ることでした。カウンタートップから26cmほど立ち上げて、リビングからはキッチンのごちゃごちゃした印象を隠すようにしたのですが、その立ち上がりに調理道具や調味料が置けるようなステンレスの箱を組み込んだのです。
それがうまく納まってさらにその横にネコさんが通る道を作る、また、キッチンのすぐそばに構造上の柱が立つので、それがキッチンとどう関わってくるか、なかなか難しそうです・・。

ナラのとバイブレーションカウンターのキッチンと引き戸と格子扉の食器棚

レンジフードと壁の幅を調整するために、このようなパーツを作りました。下から見るとステンレスになっているフィラー材です。

今回の工程は比較的余裕を持って組み立てられているようでして、現場の大工工事がひと段落した頃に現場に採寸にお邪魔させて頂きます。
今回お世話になるサカエ建設の高芝さんと打ち合わせを行います。
丁寧に段取りをしてくださったので、まだ細かい壁などが出来ていない状態でも製作に取り掛かることができそうです。
今回のNさんのキッチンのように、コンロ前の壁が関わってくる場合などはなるべく現地の寸法を測ってから作りたいのです。ただ、現場によっては、「それから作るのですか。それだと他の工事が絡んできちゃうからもっと早めに納品してもらえますか。」って、言われることがあって、そういう場合は図面からの見込寸法で作る場合もあるのですが、それだとピッタリに納めるのがなかなか難しかったりするのです。
特に無垢材を使う場合は、削ってすぐに加工に入るっていうことが難しいのです。少しは削った状態で板を寝かせておかないと、板がどんどん動いちゃうし・・。
そのように急いでしまうといろいろなことがあるのですが、今回は比較的時間が取れそう。
そして、この時にあらかじめ作っておいたネコトンネルを高芝さんに預けます。
「お願いします。」
大工さんがつけてくださるのです。どんなふうになるかな。

ナラのとバイブレーションカウンターのキッチンと引き戸と格子扉の食器棚

こちらは、背面食器棚の引き戸の内部。こうして、カゴを活用していろんなものをしまうのだっておっしゃっていました。

さっそく現調した寸法に合わせて、図面を修正して製作に取り掛かります。先ほどのステンレスの箱やステンレスカウンターの関わりは、きちんとうまくいくかどうかここで一度組み立ててからじゃないと現場に持っていけませんので、製作を担当した村上君は心持ちペースを上げて取り掛かっています。
並行して、背面の食器棚も。
今回食器棚は、大きなルーバー扉を作ります。この材が反ってはいけないので、早めに木作りしておきます。

ナラのとバイブレーションカウンターのキッチンと引き戸と格子扉の食器棚

食器をしまう引き出しはまだまだ余裕があります。

そうして、大工工事が終わって内装の仕上げに入る直前にキッチンの設置に。
キッチンの設置も給排水管をあらかじめ渡した図面通りに立ち上げてもらっていたので、設置はすんなり終了。
一番気になっていた、レンジフード(今回初めて使うクリナップの自動洗浄タイプ)の取付も張りが絡んでくる部分があったのですが、どうにか無事に完了。
あとは、現場の終盤に扉や前板を取付に来るだけです。

ナラのとバイブレーションカウンターのキッチンと引き戸と格子扉の食器棚

こちらは、ルーバー扉の中。下には掃除機をしまうのだそうです。また、この扉は取っ手はつけずに、木口面に手を掛けられるような楕円の掘り込みを入れています。

で、引き渡し間際に扉などをセットして完了。
これでまた一つ、良い形、良い場所が整いました。
Nさんありがとうございました。

とお伝えしたら、
「イマイさん、次はね、ちょっとこちらを見てもらえますか。」とおもむろに2階に案内されました。
「この上にロフトがあるんですけどね。」と上を見ると、けっこう高い位置にロフトがあります。うーん・・。
「うーん、って顔してますね。そう、ここに階段を作りたいのです。ものがしまえる階段です。」

うーん・・、大変そうだ・・。

キッチン仕上
天板 ステンレスバイブレーション/ナラ板目無垢材
扉・前板 ナラ板目突板練り付け
本体外側 ナラ板目突板練り付け
本体内側 ポリエステル化粧板「ホワイト」/シナ合板
塗装 ウレタンクリア塗装3分ツヤ
食器棚仕上
天板 ナラ板目無垢材
扉・前板 ナラ板目突板練り付け/ナラ板目無垢材
本体外側 ナラ板目突板練り付け
本体内側 シナ合板
塗装 ウレタンクリア塗装3分ツヤ

ナラとバイブレーションカウンターのペニンシュラキッチン

価格:920,000円(制作費・塗装費、設備機器費用は別)

ルーバー扉と引き戸のある食器棚

価格:750,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は40,000円から、取付施工費は160,000円から)

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