素直な家
「ナラ節アリ材とクォーツストーンのセパレートキッチン」
横浜 I様
design:平成建設さん/Iさん
planning:平成建設さん/daisuke imai
producer:iku nogami
painting:iku nogami
たしか最初はお電話を頂いたのだったと思うのです。
それで、ぜひキッチンの相談に載ってほしいということで、こちらにいらしてくださることになったのでしたっけ。
すみません、なかなかこうして記事にする時間を取らずに時間ばかり過ぎてしまうと、記憶が曖昧になってしまって。
そこで、あらためて平成建設さんのお名前が出てきたんですよね。
キッチンのお話をいろいろ聞いてなんとなくスケッチをまとめていて、「ご新居を建てる施工会社さんはどちらなのですか。」と聞いたら、平成さんだったのです。
「平成さんからお聞きするよりも先に私がイマイさんを見付けちゃったので・・。」とうれしい言葉を頂いていたような気がします。
それでIさんが帰られた後にさっそく平成さんに連絡を取ってみたのでした。
当時、平成建設さんの中で私たちの工房から最も近い支店が藤沢支店でした。
ですが、本社のほうで声を掛けられればすぐに伺っていたのですが、藤沢支店からはかなり昔に「めぐりめぐるよ」の戸塚のTさんのお仕事をさせて頂いて以来お声が掛からなかったものですので、自分から定期的に挨拶などでほとんど足を運んだことがなくて、キッチンカタログを作成した当初にご挨拶にお伺いさせて頂いたくらい。
何しろ口下手なものですから自分からはなかなか訪問しづらかったのでした・・。
ですが、このIさんをきっかけにお伺いする機会が増えましたので、これはもうIさんには頭が上がりません。
そのようなわけで、始まったIさんのキッチン作りです。
今回担当してくださった設計のTさんはまだお若い女性の設計士さんで、私のイメージとIさんのイメージをうまく組み合わせながら、プランを丁寧にまとめてくださいます。
設計士さんにもいろいろなお話の進め方があって、きちんと家具まで設計する方もいらっしゃれば、お客様のニュアンスを汲み取ってこちらに伝えてくださる方もいらっしゃったり、「専門的なことなのでお任せしますね。」と言ってくださる方もいらっしゃったり。
Tさんの場合は家全体の打ち合わせの中でキッチンの話もある程度進めてくれて、そのイメージを私にお伝え頂けるという感じでお話が進んでいくのでした。
そのお話の中で、コウケンテツさんのキッチンがとても好みに近い、というお話が出てきました。
おもしろなあ、最初にIさんがここにいらしてくださった時には聞くことができなかったイメージです。
コウケンテツさん・・。。
コウさんについてはそれまでは、格好良くて女性からとても人気のあるお料理研究家さんというくらいしか知らなかったものですので、どんなキッチンなのかを知るためにあれこれ調べてみることにしました。
そうしていくつかの写真を見る機会がありまして、よく拝見させて頂くとどこか無骨な印象のキッチン。
石とオーク材と鉄の組み合わせで無駄なものがなく、オープン棚と扉がメインの収納との組み合わせ、というシンプルな形です。
特徴的なのはオーク材の白太をうまく取り入れているその表情。
そうか、Iさんのイメージはこのようなキッチンだったのか、ちょっと想像と違ったなあ、なんて思いながらどのように実現されるかを考え始めました。
どうやって表現しようかな・・。
と、そのキッチンを眺めてはプランを練りつつ、また眺めては、を繰り返すうちに、キッチンよりもコウさんと人物像に私自身とても惹かれていったのでした。
元々お料理をする男の人というと、どこか踏み込めない堅さのようなものを持っているように思えていて、どれほどお料理が素晴らしくてもあまりきちんとその様子を見ることはなかったのですが、コウさんのキッチンを見つつお料理をしている様子を見ていると、とても柔らかくて、とても近くに居る印象を持てたのです。なんか偉そうに聞こえるかもしれませんが、
(ああ、こういう人とお話してみたいなあ。)と思わせてくれる人物像でした。
そういえば、土井善晴さんのお話も同じように感じました。
何というか、素直に近くで話を聞いていて、素直にそしてきちんとそのままを表現できる人という感じ。
料理に対する考え方と料理以外の面できちんと素の自分が表現されていて、その素の様子がとても魅力的に見えたのでした。
人って、人前に出ると多少なりとも飾ろうとしてしまいますし、そういう気持ちを持っていないとメリハリのある姿にならないから飾ることはとても大切なことなのだと思うのですが、見栄えばかりが意識してしまうと本当のかたちが見えにくくなってしまう。
そうなってしまうと、せっかくの魅力が埋もれてしまいます。
だから、飾ろうとする時もきちんと自分が表現できる形じゃなければあとあと良くないことにつながってしまうのだろうと感じていて、素直でありたいと自分もそう思っているのです。
昔、もう20年近く前のことかな。
工務店さんからリビングの家具の相談を頂いたことがありまして、「詳細について打ち合わせをしたいので、お客様のところに一緒に行ってほしいのです。」と言われたことがありました。
その方がクラシック音楽をプロデュースされる会社の社長さんで仕事柄いろいろな人を見ていらっしゃって。
初めてお会いした時は、仏頂面でなかなかおっかなそうだなあ、と思っておりまして。(すみません、Sさん。)
またしゃべり口調も関西弁でどこかぶっきらぼうに聞こえていたので、家具の形を気に入ってもらえるだろうか・・、と20代の若造はドキドキしていたわけですが、連れてきてくださったコーディネーターさんのプランで一ヶ所納まりがあまり良くなさそうに見えた部分があって、打ち合わせが進む中で、私のほうがブスッと黙り込んでしまって。(実はどうしたら良いかいろいろ考えているところだったのですが。)
その様子を見たSさんが、なんて言っていたかなあ・・、「遠慮がないところが気に入ったよ。」と言ってくださって私の考える形を気に入ってくださったのでした。
たまたまSさんにはこうして気に入ってもらえたわけですが、やはり自分の気持ちは素直に伝えることが一番だなってその時から思ったのでした。
コウさんの料理の動画などを拝見していると、自分の心の在り方もそうでないといけないとこの方々の仕草を見ているととても勉強になったのでした。
と、お話がずれてしまいましたが、そういう思いを心がけながら、Iさんの思いをキッチンの形へと反映させていくのですが、初めて試みる形も多かったりして、なかなか戸惑う場面もあったのです。
白太があるけれど節のない材を選ばないといけなかったり、壁から突き出た棚板を壁に埋め細かい形にするのでそこをどのように納めるのかがやはり悩ましかったり、キッチンキャビネットよりも持ち出した形になる天板の構造をどのようにするときれいに納まるかがとても悩ましかったり、その天板に乗せるクォーツストーンを丘の上に立つIさんの家のキッチンにどのようにうまく搬入するかなど、いろんな問題がありましたがどうにか無事に進められそうな段取りができたのでした。
こうしてひと通り形が決まりましたら、今度は現地の確認です。
だいたい上棟が終わって、1ヶ月くらい経った頃になるとある程度床や壁の下地ができ始めていて採寸がしやすく、搬入経路も確認しやすくなるので、このタイミングで現場を見させて頂くことが多いのです。
ちょうどその頃に、「あー、イマイさーん。」と電話をくださったのは、懐かしい声。4,5年ぶりくらいでしょうか。
以前目黒の現場で監督さんだったOさんが今回のIさんの現場を受け持っていらっしゃって。
平成さん自体が、ある程度私たちのことを知っていてくださるのでとても仕事がしやすいのですが、こうして懐かしい方が担当してくれる現場はより仕事がしやすくて助かります。
さっそく現場にお邪魔しますと、「お久しぶりでーす、イマイさーん。」と懐かしい野太い声。
「細かい納まりはイマイさんのやりやすいように動きますから何でも言ってくださいねー。」と。
ありがたいです。
今回はキッチンパネルの代わりの大判(900ミリ角だったかな。)のタイルが壁に張られるので、その取り合いがなかなかシビアです。
またアイランドカウンターもかなりの大きさなので、早めに現場に持ってきちゃうと他の皆さんの邪魔になってしまうといけないので、うまい具合にスケジュールをO監督に組んでもらって、その工程に合わせて、いよいよ制作に取り掛かることに。
今回の担当はノガミ君。ノガミ君が工房の中では一番のベテランになりましたので、いつも彼が大きな仕事を受け持ってくれますね。心配りが家具の形を考えた私よりも細かいので、いつも見過ごしがちなところまで気が付いてくれて、、いやあ、みんなで作ってるなあって感じるのです。(私がもっとしっかりすればよいのですけれどね・・。)
オーダー家具やオーダーキッチンを作る時は制作に着する前に担当するみんなが自分自身で分かりやすいように板取りの表を書いたり、細かい納まりの漫画を描いたりして頭の中で形を作ってから取り掛かるのですが、今回のような複雑な形をしたキッチンの場合は、私の図面が細かいこともあったりしてその事前の準備だけでも数日かかることがあります。
今回は、ナラの木取りのイメージやらクォーツストーンの納まりやら細かい部分が数多くありましたので、その段取りだけでも大変です。
そうして、制作が始まりました。
今回は扉に薄く挽いた無垢材を合板に重ねて作る方法を採りますので、その為のうすい板作りがかなりの枚数ですのでなかなか大変な作業です。
荒取りが終わって、養生させている間にキッチン本体などを組み上げていきます。
ナラ材を使う以外に吊戸棚は塗りつぶし塗装仕上げなので、MDFを加工して扉を作ったりと、すべてが同じ工程で進まないのは大変なところですが、事前の準備が良かったこともあり、順調に制作は進んでいきました。
途中、外構の相談にこの近所の造園屋さんを訪ねたというIさんが立ち寄って制作途中の様子を見ていってくださったりと、いろいろなイベントもありながら作業は進んでようやく完成。
さあ、いよいよ設置工事です。
今回はかなりの物量なので、大工さんの工事ともあまり干渉しないように日程を設定してもらって、リビングにいろいろと広げて作業ができるように段取りしてもらっていました。
で、場所は確保できましたが、それまでの搬入が思っていたとおりに困難だったのでした。
Iさんのキッチンは2階にあるのですが、傾斜地に立つということで、道路から2階に直接アクセスできるのですが、勝手口からは入らないことが分かって、急きょ外から掃き出し窓まで庭を回ることに。4人がかりでどうにか運べるような重量のクオーツストーンは厚み12ミリのままで見せられるように仕上げているので、なかなか手に食い込むわけです。
そこに朝からの作業だったので、ちょうど出勤する方々の車がときおり通り抜けていくのに私たちの車が邪魔になってしまったりと、大変な困難はありましたが、どうにか無事にリビングにすべてを運び込むことができて、あとは工房で仮組した時のように組み上げていくだけです。
それでも丸2日間は掛かりましたがどうにかきれいに設置することができたのでした。
「遅くにすみません。
ここ何日かで家がどんどんと形になってきております中、いろいろとありますが、キッチンは想像以上に素晴らしくて、本当にありがとうございます。ノガミさんにもお伝えしましたが、イマイさんにお願いして本当に良かったと思っております。
実はあのあときちんと見られてなくて、まだチラリと撫でただけなのです。
作業後はあっという間に養生されまして、現場に行っても指をくわえて見るだけでした。
今日も別件で現場に行きまして、O監督が、「このキッチンすごいですよね、イマイさんすごいなぁ!」と絶賛していらっしゃいましたよ。」
よかった、無事に完了しました。
ホッと一安心したのでした。
このあとに、電気屋さん、設備屋さん、ガス屋さんの各々仕上げてくださって、キッチンは完成しまして、無事にお引渡することができたのでした。
「こちらは引越しのバタバタに加え、娘の学校が休校措置になっておりまして、それはそれで中々毎日自由がきかなくて。
来週からやっと学校再開することになりそうです。
キッチン、毎日少しずつでも仲良しになりたくてたくさん触れてます。
白太とシーザーストーンの表情、真鍮のハンドル、もうすべてが愛しいです。
使い勝手もとても良いです。
取り急ぎ不具合などはありませんが、もしこちらまでご都合つくようでしたら私も是非見にいらしてくださいね。」
と、ご連絡を頂きまして、後日あらためてお邪魔させて頂きました。
こうして見ると、コウさんのキッチンとはまた違った静かな印象があって、Iさんが心地よく使っていらっしゃる様子が良く分かりました。お腹いっぱいになるくらい降り注いでくる陽射しがキッチンを照らしている様子がとても気持ちよくて、そのまま外が感じられるリビングはとても心地よかったのですが、Iさん曰く、「夏の暑さがこの中に入ってくるのかしら。それが今からちょっと心配なのです。」とのことでしたが、その顔もうれしそうで、私もつられて笑顔になります。
過ごしかたも接しかたも素直に感じられる魅力的な家になっていたのでした。
そしてこのあと、Tさんからもうれしいお便りが。
「フリーハンドイマイ 今井様
お世話になっております。
I様邸、とても素敵に作っていただき、ありがとうございました!
I様も大変お喜びで、完成後に初めて見にいらした時、奥様は、キッチンに触れるのをためらってしまうほど、とても感動されていました。
お忙しい中、ご協力本当にありがとうございました。
お陰様で、完成見学会も開くことが出来て、いろんなお客様にも見ていただけました。
今お打合せを進めているW様にも見ていただき、是非オーダーキッチンを検討したいとご要望をいただきました。
I様同様、キッチンへの想いが大きいお客様です。
是非お力をお貸しいただけたらと思います。」
と、とてもうれしいお便りだったのです。
このお話はまた次の機会に。
天板 | シーザーストーン「4004 Raw Concrete Matt」 |
---|---|
扉・前板 | ナラ節アリ無垢材 |
本体外側 | ナラ板目突板 |
本体内側 | ポリエステル化粧板/ナラ板目突板 |
塗装 | オイル塗装仕上げ |
ナラ節アリ材とクォーツストーンのセパレートキッチン
費用につきましては、お問い合わせくださいませ。
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