風が流れて
「チェリー板目のリビング壁面収納のオーダー」
杉並 S様
design:Sさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:yasukazu kanai
painting:yasukazu kanai
「リビング収納、キッチン収納について一度ご相談させていただけたらと思っております。
新築マンションに2月上旬に引越す予定でマンションの内装を担当している業者さんに相談していたのですが、家具の素材感や質感に違和感がありまして、家具屋さんをまわったりネットでも調べているうちに、貴社のウェブサイトに たどり着きました。製作例を拝見し、家具そのものもそうですが、それぞれ使い手と作り手の思いがたくさんつまった家具が出来上がるまでのストーリーがとても素敵で、何より丁寧なお仕事ぶりにこちらなら安心してお任せできると思いました。」
と素敵なお便りを頂きました。
でも、まだ自身でどのような形にされたいのかがまとまらない、ということで食器棚のイメージはおおよそまとまってきたのですが、リビングの家具は自分の好きな家具をそろえておく形にするかどうしようかと迷われていたのでした。
まずは食器棚。
お持ちのダイニングテーブルがチェリー材でできているということで、その素材からお話を広げていくことに。
個人的には、全面的にチェリー材を使った形で食器棚を作り上げたいなと思うところでしたが、Sさんとしては、床も建具も色が濃いのでキッチンの印象が重くならないように、というお考えもあって、いろいろ悩んだうえで、白く塗装をして仕上げる部分をメインに、部分的にチェリーを使う形でお話がまとまりました。
白くするのも、方法としてはメーカーで作られている白い化粧板をそのまま使う方法もありますが、今回はひと手間掛けて塗装で仕上げることにしたのです。
化粧板のままと塗装だとそれほど違うのですか、とよく言われるのですが、これは写真だとちょっとわかりにくくて、実物を見て頂けるとなるほど、と皆さん納得してもらえます。
化粧板も一般的なポリエステル化粧板を使ったオーソドックスな仕上げと、メラミン化粧板を使って角を曲げて作る方法や、薄い化粧板を3次元で折り曲げて作る方法などいろいろなものがありますが、塗装仕上げの一番良いのは、やはり表情が柔らかく仕上がるという点だと思います。
食器棚の本体まで塗装仕上げにするとかなり手間がかかって費用が高くなってしまうので、本体は化粧板を使い、扉や引き出しの前板を塗装して仕上げることにしたのでした。
扉や引き出しの前板は角を少しだけ丸めることで塗膜がのると、とても滑らかな面が取れた仕上がりになります。
また、今回のSさんのように手掛けの仕上げにすると、その部分も滑らかに塗り包むことができますので、お豆腐のように滑らかに仕上がるのです。
そして、色も真っ白ではなく、壁が少しグレー掛かったクロスでしたので、トーンを少し落とした白で仕上げています。
そして、天板とオープン棚だけチェリーを使う形にして、とても明るい印象でまとめることができたのでした。
それから、今回ちょっと面白い試みだったのは、この食器棚が間仕切にもなっていることです。
写真だとその感じが分かりづらいのですが、実は、Sさんの間取りはキッチンから洗面室に抜けられるようなになっていたのです。
でも、その出入り口を使わなくても、キッチンから一度廊下を経て洗面室に入る形でも不便が全くない、ということで、この通路を塞いで、その分食器棚を広く作りたい、という希望だったのでした。
通路を生かす形にすると、この食器棚の幅の2/3ほどの幅しか取れなくなってしまいそうでしたので。
そこで、通路は塞いで食器棚を大きくして、そのかわりにそれでうまれる段差を利用して、洗面室側からはこの出入り口を活用して、物入れとして使えるようなスペースにしたのでした。
これはSさんのアイデア。皆さんからは本当にいろいろなことを教わります。
さて、これで食器棚のプランはまとまって取付のほうも順調に終わりましたタイミングで、いよいよリビングのイメージがSさんの中でまとまってきまして、製作に着手できそうです。
この食器棚設置までの期間で、実際にご新居で暮らしてみて、何かどのように必要なのかが見えてきたのでした。
あらためて打ち合わせを行ない、形をまとめていきます。
こうしてできた形はシンプルで柔軟性がある形になりました。
あえて挙げると、パイプスペースが壁に現れていたので、そのでっぱりの印象をうすくするためにカウンターを変形させたことくらい。
あとは落ち着きのある素朴な形となったのです。
当初はテレビボードまで含めた形で予定しておりましたが、そちらはもともとお使いの家具がまだまだ使えますし、全体のまとまりを崩すような形ではなかったのでそのまま使うことになり、印象としてはダイニングのあたりをまとめる家具のような印象になりました。
さて、これでお部屋全体がきれいに整いましたね。
また、何か必要なことが出てきましたらいつでもご相談くださいね。
と、そう終わる予定だったのですが、半年ほど経った冬にSさんからご連絡を頂きました。
どうやら扉が反ってしまったということ。
「木の動きですので仕方ないとも思っているのですが、作って間もないこともあってどうにか調整して頂けるととてもうれしいのですが・・。」
ということで、ちょうど大雪が都内に降ったあと、ガリガリ言いながらSさんのところへお伺いしたのでした。
「お邪魔致します。」
とリビングに案内して頂くと、なるほど反っております。
手前に向かって乾燥して縮んでいるのでした。
エアコンはこの冬の寒さで使っていたということですが床暖房などは特になくて、それほど無理な乾燥状態で過ごしたしたこともない、ということで。
ちょうどこの時期、こういった反りが出るというお話をいくつかご相談いただいていたのです。
突板を使っているのに、こうなるなんて・・。
いずれの場合も反りが出ている時は斜めに、しかもどの扉の同じ向きに歪んでいたのです。
どの反りの場合も結局はっきりとした原因がつかめないまま、反り止め金具を使って矯正する方法を採らせて頂いたり、あまりに大きな反りの時は新しく作り直したりして、対応させて頂いておりました。
Sさんの場合も、同じようにすべての扉が同じ向きに反っています。はっきりとした原因はつかめませんでしたが、ある方法(それほど大それたことでありませんが秘密でございます。)で、反りがある程度改善できるかもしれないとお伝えして、しばらくのあいだ試して頂いていたのですが、やはり完全には戻らないので、扉に使われている基材を変えて新しく作り直す方向に。
そして、しばらくお時間を頂いてから作り直した扉をお持ちしたのです。
「イマイさんのおっしゃるように試していたためか扉がだいぶ直りました。」
春風はしっとりとSさんのリビングを流れているのでした。
「本当だ。でも、素材を変えた形で作り直してきましたので、新しいものにしますね。」
と、言うことで、カウンターより下の扉や引き出しの前板を交換させて頂いたのでした。季節はすっかり春風が吹く頃になっておりました。
無垢材にしても突板にしてもやはり木は動くものです。この動きのある扉は、今後のための勉強材料にしないと。今回はとても勉強になったのでした。
Sさん、また何かありましたらご連絡くださいね。
チェリーとオフホワイト塗装の食器棚
価格:620,000円(制作費・塗装費)
チェリーのリビングボード
価格:690,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は30,000円から、取付施工費は90,000円から)
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