床材の選び方。素材ごとの感じ方の違い

2021.10.15

もともと父が創業した当時の私たちの家具作りというのは、一般家庭向けの家具よりもお店に置く家具(というか什器)を作ることのほうが多く、またできあがった家具は工房まで運送屋さんが引き取りに来てくれて設置工事は大工さんが行なう、そういう昔ながらの木工屋の家具作りだったので、実際に使っている声を聞く機会がとても少なかったのです。
でも、こうしてインターネットが普及したおかげで、いろいろなところから直接家具のご相談を頂けるようになり、そのたびに私もいろいろなことを皆さんから聞くことができるようになった今日があるのです。そういう日々ですので、以前に比べると家具の形を考えるだけではなく、室内空間全体のことを相談されることも増えてきました。
さらにはオーダー家具だけではなく、オーダーキッチンを作らせて頂く機会が増えると、より家具やキッチン単体ではなく、暮らしの動線や時間の過ごしかたなどより生活に踏み込んだお話をすることが多くなってきました。

その時によくお話が出るのは、キッチンの床材をどうしたらよいか、というお話です。
リビングの床は、今のところほぼフローリングにされるお客様が多いですね。やはり木の床というのは気持ちが良いものです。
ただ、「リビングは汚れなさそうで良いのですが、キッチンに木を使うのはどうなのでしょうか。」とよく皆さんに聞かれるのです。
「お料理をしていると汚れたり、濡れたりすることが心配で・・。」と。

私も以前の住まいは、一般的なマンションでしたので、なかなかその感想を伝えることができず、こうしてようやく自宅を無垢のフローリングにしてみるまでは、いろいろなイメージばかりが先行してしまって、キッチンにフローリングということに私もすこし心配があったのです。でも暮らしてみるとそれほど気にならないかな、というところが正直な気持ちです。
もちろん、揚げ物などをすると油は跳ねるので、細かなシミはできたりします。それは日常的なお手入れで軽減できたり、徐々についてゆく暮らしのあとは私は良いものと思って受け入れることができます。それほど木の床は気持ち良いものだと思えています。

そもそも無垢の木を使うということは、材が動いて歪んだり、割れが起きたり、染みがついたりはしやすいものです。それよりもその表情自体、感触自体を楽しむために自然素材を使うのですから、無理に抑えつけたり、塗膜で覆ったりするのは材料にとってもストレスになるのではないかという思いがあります。
なので、無垢の木を使う場合にリビングダイニングなどはオイルなどの自然塗料で仕上げて、キッチンだけは木の内部に染みこまないようにウレタン塗装にするというのは少しもったいないかなと感じてしまうことがあります。

ただ、それぞれの暮らしの中で何を重視されるかはその人それぞれですので、木の表情が好きでも汚れが付くことが気になるという場合は、キッチンだけではなくリビングダイニングも掃除がしやすいようなウレタン塗装などのコーティングで仕上げるほうがまとまりが出て、美しく仕上がるのではないかと思っています。
以前に汚れやすいキッチンだけウレタン塗装で、他はオイル塗装で、と床を塗り分けて仕上げているところを拝見させてもらったことがありましたが、やはり仕上がりの印象に大きく違和感があって、明らかに表情が違ってしまうのです、ですので、キッチンとリビングダイニングとで見切り材などを入れない限りは、塗装を切り替えるのはかえって不自然に見えるのではないかと思っております。

むしろ、塗装で切り替えるのでしたら、別の素材にするほうが潔くきれいに見えると思うのです。
ただ、その素材によっては、個人的に良いものもあればよくないものもあると感じています。
私が良いと思えるものは、見た目の印象よりも手触り、足触りなどの感触が優しいものが良いと思えております。
こんなお話がありました。
よくフローリング以外にタイルにされる方も多くいらっしゃいます。
フローリングもタイルもその家に住む皆さんの好みですので、自分の中で最善と思える素材を選ばれることが良いかと思いますが、私はキッチンにタイルを張ることは少し躊躇してしまいます。
なぜなら冷たいからです。
私は毎日スリッパを履くという習慣がなく、どちらかというと冬でも裸足で過ごしていることが多いくらいでして、妻や娘たちはさすがに冬は寒いから靴下を履いてもやはり普段からスリッパを履く暮らしにはなりませんでした。
そうなると、タイルは冷たいのです。自宅の洗面所は掃除しやすさを優先してタイル張りにしたのでよく分かります。
風呂上りなどは、洗面所を移動するのにバスマットの上を飛び跳ねるように移動していたりしますので(笑)
特にキッチンは洗面所よりも長い時間を過ごすことが多い場所で、さらにはそこに立つ女性は冷え性になりやすかったりしますので、タイルの床は体が冷えてしまうこともあるそうで、やはりどのような素材でもメリット・デメリットがあるのだなあと実感するのです。
では、木が最善なのかというと、ほかにも良い素材をお客様から教えて頂いたことがありました。
コルクです。昔ながらの表情のコルクだけではなく、今はモダンな柄に仕上げられたコルクも出ていてタイルのようなシックな印象なのに、掃除もしやすく、さらに冷たくないものもあったりします。
いろいろな素材があるのだなあと日々勉強の毎日ですね。

さらに木のフローリングのなかでも樹種によっては見た目も違えば感じる印象も大きく違うものがあります。
先日、自宅のオープンハウスを行なった時に、以前にキッチンを作らせて頂いたお客様が遊びにいらしてくださったことがあったのです。
その時に、自宅に上がって開口一番「あ―、足が疲れないです。」そうおっしゃったのでした。
詳しくお話を聞くと、仕事で海外生活が長く、海外では、絨毯敷きでさらには靴を履く暮らしだったので感じなかったのだそうですが、いざ日本に戻ってくると自分の家の床は硬くて丈夫なナラ材。さらには海に近い場所に暮らしていることもあり、家では裸足で過ごすことが多くなると、なぜかかかとから脚が疲れて怠く感じる、なんだろうなって思っていたのだそうです。
その時に私の家に来て思ったのが先ほどの言葉でした。
私の自宅の床はアカマツ、そのお客様の床はナラ。
ナラは広葉樹の中でも傷がつきにくくて丈夫に使えるのですが、傷が付きにくい分堅いのです。硬いと踵からくる反動で脚やひざに感じますし、さらには硬い材は冷たいので、体が冷えやすかったりします。
アカマツは針葉樹ですので、木の中に空洞が多いので、柔らかくて傷つきやすいのですが、そのかわりに空洞に空気が含まれていて断熱効果もあるのです。
柔らかいため足が疲れにくく、冬でも床が冷たくなりすぎないので、歩いていて優しかったりします。
でも家の床はもう凹みだらけですけれどね。

選ぶ素材の違いで感じ方の違いもありますし、木を選んでも選ぶ木によっては感じ方が大きく変わるのです。
家を建てる、リノベーションをするというのは暮らしが大きく変わる場合もあります。
見た目が美しくなる、新しくなるということもとても気持ちが華やぐことですが、新しい暮らしがどのように変わるかが体験できるように素手や素足など自分の中できちんと感じ取ったうえで形や素材を決めてゆけると心地よい空間ができあがるのではないかと思うのです。

エッセイ一覧に戻る