小鳥のようにうれしく楽しく

「タモ板目無垢材とステンレスバイブレーションの壁付けキッチン」

伊東 T様

design:Tさん
planning:daisuke imai
producer:kenta watanabe
painting:kenta watanabe

タモとステンレスバイブレーションの壁付けキッチン
キッチン全体の様子。タモ板目材と真鍮磨き仕上げのハンドルを組み合わせていますので、使い込んでいくとその表情が変わっていくのが楽しみです。もともと時間が止まったように思える空間ですので、キッチンだけがまだ若々しく見えますものね。少し時間が経った頃、またお邪魔させて頂けるとうれしいです。

こういう言い方をすると誤解を生んでしまうかもしれないのですが、以前は自分よりも大きく年上の方とお話することが苦手に感じていたのです。
特に男性のお客様とのお話がなかなか苦手だったのですね。

どういう時にそう感じるかというと、年上の皆さまはいろいろなことを見知っていて私なんかよりも経験豊富ですから、なかなか私の意見が通らないことが多かったりしたのです。
私としては、きっとこういうふうにしたほうが使いやすいのだと思うけれど、ご主人は「ここはあえてこういう細工をしてこうするとすっきり見えるよ。」というご意見で、奥様としてはなかなかそこまでイメージしづらかったりするので、「良いようにお任せするわね。」となると、「これで大丈夫だから。じゃあイマイさん、そこはそういうふうにやってくれたまえ。」ってなったりして、私もそれ以上言葉が出にくくなってしまって、結果として、使いにくい形になってしまったこともいくつかあったりしました。

タモとステンレスバイブレーションの壁付けキッチン
青いタイルが実際に見るまでどのような印象になるのか私自身想像できていないままでした。とても懐かしい印象でTさんの人柄がよく現れた色というのでしょうか。見ていて心地良いキッチンになりました。

でもだんだんと年を重ねてきたせいなのか、最近はお二人でいらしてくださっても、ご主人は「君たちの良いようにするとよいよ。」というお考えの方が多くなっていて、私にとってはとても話を進めやすいのでした。

このTさんの打ち合わせの時もそうで、あとで伺うとご主人はいろいろと知っていらっしゃる方で、今まで家の修繕も「見よう見まねだけどね。」と言いながらもきれいに作業されていて、すてきなご夫婦に出会えてうれしいなあと思ったものでした。

改修前のキッチンの様子
ご主人の工夫がされて使い続けてきた以前のL型キッチン。この先の藏h氏にはL形まで必要ないからということで今回はコンパクトな壁付けのI型キッチンにすることになりました。

そのTさんですが、今まで別荘として使っていた古い戸建て住宅を改装していずれ住まいをこちらに移していきたいということで、キッチンの入れ替えの相談をくださったのでした。
場所は城ヶ崎海岸。
結婚する前にアキコと何度かドライブしに来たなあ、なんて懐かしく思い出したのですが、今はね、あまり車が好きではないものですから、キッチンの話がおおよそまとまったあたりでのんびりと伊東線に乗って現地を確認させて頂きに来ました。

タモとステンレスバイブレーションの壁付けキッチンのサイドパネルとタオル掛け
シンク右側は天板から物が落ちないようにサイドパネルをキッチンよりも立ち上げています。シンクの前の幕板には真鍮の長さ300ミリのハンドルをつけたタイル掛けとしています。

Tさんの希望するキッチンはかなりシンプルな形でした。これからここで暮らしていくのには今までの暮らしよりももっとシンプルに過ごしたくて、キッチンのプランも細かくあれこれ決めるよりは素材の手触りや木目の表情を楽しみたいというお話を打ち合わせの時にされていました。
なるほど、こうしてこの家を訪ねてみるとその思いがよく分かりました。
海を垣間見ながら山あいを抜けてたどり着いたログで組まれた趣のある駅舎の城ヶ崎海岸駅から携帯電話の地図を見ながら数分歩くと見えてきたのは、手作りの垣根の向こうに色とりどりの花々が咲く庭とほどよくくたびれて豊かな表情になった外壁のどこか懐かしい家の佇まいでした。
「あっ、イマイさん。いらっしゃい。」と改装途中(なのかな)のバルコニーから奥様が声をかけてくださり玄関に案内してくださいました。

ステンレスバイブレーションシンクと水切りプレート
いつものように洗剤ポケット付きのシンク。

「ああ、懐かしいかな‥。」
少し古くなった木の香りがしました。
昔、夏に両親に連れられて祖父母の家に帰るとこういう香りがしていたような。

父の実家では古びたクスノキとセンノキとマツ(この仕事を始めてから知ることができましたね)の香りと線香の香りが入り混じった匂いが漂っていましたね。
母の実家ではマツの香りと線香の香りと祖父がしょっちゅうふかしていた煙草の香りの入り混じったなんとも不思議な香りがただよっていましたね。

ステンレスバイブレーションシンクと水切りプレート
水切りプレートは市販のくるくると丸めてしまって置けるタイプのものを普段使いにして、食事に使った食器類は食洗機を活用するという使い方で。

さて、懐かしい気持ちでキッチンに案内して頂くと、なかなか物が多い空間。でもね、時間が積み重なってできた何だか楽しそうな空間。
「ちょっと散らかってますけれどまあ座ってくださいね。」
と、ちょっと私の体ではいくぶん狭めな椅子に案内してくださって、そのうち工務店さんの監督さんもいらっしゃってお話が始まりました。
今ここについているキッチンはだいぶ年季が入っているもので、表面の扉は昔の面影はなくて、ご主人がご自身で作られたという扉たちがついていて、それがとても良い表情。
そうか、庭の柵や小屋などもご主人と奥様が少しずつ時間を掛けて作って来たもの。その時間とお二人の気持ちがなければこういう場所はできないよね。
この庭に入った時に感じた懐かしさは、そういう時間を感じられたからなのですね。

キッチンの引き出しと真鍮の取っ手
「まだ、あまり整理できていないのよ。」という引き出しをちらっと見せてもらいました。

「はい、おまたせ。」
と、大工作業をされていたご主人もいらっしゃって、キッチンをどうするかのお話が始まります。
基本的にプランは一度私たちの工房に来て下さった時にまとまっていて、その形もシンプルでしたので、どちらかというと今日はその再確認と現地の様子を見させて頂くことと、工務店さんへの挨拶に伺ったのでした。
「キッチンのことについては基本的に君にお任せするからね、好きな形で進めてくださいね。」と奥様にお伝えして、ご主人は朗らかに見守ります。
奥様はうれしそうに楽しそうに小鳥のようにキッチンについてお話されます。
樹種のことだったり、窓から見える景色だったり、青いタイルだったり。
すべてが楽しげに目の前に表現されていくようです。私にも青いタイルが見えましたから。
Tさんお二人の気持ちとその形がこうしてきちんと見えてきて、納まりも確認できたので、今日はこれで帰ります。
海を眺めながら帰る電車に揺られることでちょっとしたワンダーランドから今の場所に戻ってくるようなそんな気持ちで帰ってきたのでした。

ガスコンロ「プラスドゥ」とスライドワイヤーシェルフ
ガスコンロはノーリツのプラスドゥ。その下はスライドワイヤーシェルフ。

さっそく制作を始めます。
タモの無垢材を使って表面を仕上げていくのですが、どうしたって無垢材は反りますから、そこをどうなだめるかを考えながら進めていくのですが、それでもやはり季節によって素材は正しい動きをします。
でも表情の深みはやはり魅力的です。
時々、そういうことをないがしろにするように思われる言葉を頂くこともあります。
針葉樹にムラなく着色したり、表情が豊かなまま反りや歪みが起きない形を作り出そうとしたり・・。
技術がとても進んだ今の時代ならそういうこと腿論可能なのかもしれませんが、それを素材を変質させているように思えてしまうのです。
すてきな結果はすべて良いことだけが叶っているものではなく、そこにアクションがあれば必ずリアクションがあって、それを工夫してよいことにしようとするけれど必ずしも克服(で合ってるかな)できるものではなかったり、克服すべきものではない時もあります。
ですので、結果だけを見ずにすべての過程があってそのような形になることを知って頂いた上で作らせて頂けることが、私たちとしては一番うれしいことだったりします。
Tさんご夫婦はそういう諸々のことをすべて楽しんでくださっていて、ワタナベ君が作ったこと形をとてもうれしく迎えてくださったのでした。

オーダーキッチンの調味料用引き出し
いつもは3段にすることが多い子の引き出し。今回はYさんの希望で2段にしています。上段はこのように調味料用のボトルがしまわれています。

完成したキッチンの設置は、やはり年月を経た空間ということで、多少削ったりの工夫が必要でしたがきれいに納めることができまして、このあとは工務店さん混合水栓と食洗機とガスコンロの配管をつないでもらって無事に工事完了となる予定。

そして、すべてが終わった頃に今度はアキコと再びお邪魔させて頂きました。
相変わらず素敵な庭は春からもう少しで初夏へと変わっていく様子です。
ひと通りキッチンのお手入れ方法をお伝えしました後、奥様が庭を案内してくださいました。
私たちもこういう生き生きした様子に囲まれる暮らしかたをしてゆけるように努めていこう、お二人の笑顔を見ているとやっぱりそう思えるのです。
その時の様子をアキコが書いていましたね。

「お宅訪問」2021年4月19日 https://www.freehandimai.com/?p=26256

Tさん、また素敵な季節にお会いできるのを楽しみしております。

オーダーキッチンの調味料用引き出し
下段はラップ類を立てて収納。そうか、以前にも別のお客様からこのように使いたい、というお話をお聞きしたことがありました。皆さんの使い方は勉強になることばかり。
天板 ステンレスバイブレーション
扉・前板 タモ板目無垢材
本体外側 タモ板目突板
本体内側 ポリエステル化粧板/タモ板目突板
塗装 オイル塗装仕上げ
キッチン仕上げ

タモ板目無垢材とステンレスバイブレーションの壁付けキッチン

価格:860,000円(制作費・塗装費)  
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は60,000円から、取付施工費は100,000円から)

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