Sさんのキッチンを制作して:スタッフ ヒロセ君の制作日記

2022.10.10

今回はシナ材を使用したコの字型のキッチンを担当させていただきました。

天板の2面は、L字型のステンレスバイブレーション仕上げの天板、残る1面の天板はシナ無垢材のテーブルが組み込まれているのが特徴的なキッチンです。

今回の製作で難しいと感じた所は、寸法の関係性や散りの関係性でした。

図面を読めば読む程、色々な関係性が見えてきて、全ての納まりを理解し把握するのは中々苦労した所です。

テーブルを横に置くだけの形でしたら別の物として考えて製作できるのですが、キッチンの一部として組み込まれている為、複雑さが増しているのです。

具体的に言うとシナ無垢材の天板はキッチンのシンク下のキャビネット側に入り込んでいたり、テーブルの足はパネルから散りを付けて出す部分があったり、パネルと合わせなければいけない部分があったりしています。

そしてその関係性を理解した上で製作を進めていきました。

このキッチンの天板を固定するときに使う駒留の駒たち。
制作の手伝いをしていたタケイシさんが一つ一つきれいに磨いていました。

もちろん社長の書いた図面通りに製作していけば同じように完成する訳なのですが、やはり完成した時の納まりや関係性を頭に入れて作らなければ、完成させるまでの道のりも悪くなり、スムーズな作業工程を選択出来きず、製作難易度を高めてしまう可能性も有るのです。

今回のS様邸のキッチンでは、パネルの小口や棚の小口がほぼ全て露出している形になっています。

一般的に露出している部分は痛みが出てきやすい箇所になります。

突板テープが剥がれてきてしまったり、テープ自体が欠け、下地が出てきてしまう事も考えられます。またテープの継ぎ目が入ってしまい見栄えが悪くなってしまう事もあり得ますので、私達はそういった部分に関しましてはテープ処理ではなく、2mm厚に製材した無垢材を接着し処理させてもらっています。突板テープ処理と比べると、すごく多くの手間が掛かる為、今回のように露出している部分が多いと中々大変な部分ではありますが、長期的に使用する事を考えると大事なポイントの1つなのではないかと思います。

今回のキッチンはテーブルの脚部に可動棚が入ります。脚と棚板のクリアランスは1mm程なので、脚が1mm以上動くと棚が入らなくなってしまうという問題も有ります。見ただけでは、わからない部分なのですが、単体になってしまう脚の部分は全てインロー加工し(フローリングに凸形状の物を取り付け、脚の下を凹加工し嵌め込む)脚の場所を固定させてしまう事により問題をクリアさせています。

設置は 加賀妻工務店さん 施工の現場です。今回の取り付けでは、床の不陸がすごく気になる所でした。脚が8本も有りますので、不陸が大きいと宙に浮いてしまう脚が出来てしまったり、重みで床に着いたとしてもテーブル下の棚が影響を受け、棚のガタつきが出てしまい、脚の調整が必要になってしまうのです。設置当日、現場ではレーザーを使用して床の不陸を確認したのですが、どこを測定しても1mmの誤差もありませんでした。仕上がりが非常に良い床で、このキッチンを据えるには最良な条件のなか設置することができました。


大きく存在感のある梁組や杉板張りの勾配天井、大きな掃き出しサッシがとても心地の良い空間になっていて、設置させていただいたキッチンの引き出し収納は1箇所のみという事や、手前にテーブルを置く事により、一般的なキッチンの少し平面的な印象よりも、視線が後方へ抜ける分、キッチンの

立体感や奥行きを感じられ、その点が家との一体感をより良い物にしたのではないかと思います。そして最後に散りのお話しになるのですが、寸法や厚み等により散りの加減に正解は無く難しい所なのだと思います。見た目の印象も僅かですが異なりますし、加減を間違えると何か違和感を感じてしまう所でもあると思います。今回のキッチンは色々な部分に散りが多いのですが散りの加減も良い塩梅でとても綺麗に見えているのではないかと思います。

難しく考えていた納まりも完成してみるとそれほど複雑ではなく、自分の図面を読む力とそれをイメージする力がまだ足りないのだなとも感じた仕事になりました。

今回のキッチンでも色々と勉強させてもらえた点があり、今後この経験が生きてくる事があると思います。

Sさんありがとうございました。

(Sさんのお宅にキッチンが設置されている様子は、前日のSさんの完成見学会の投稿に載せてありますのでご参照ください。)