お宿のように
「ステンレスバイブレーションとクルミのL型キッチン」
つくば O様
design:Oさん
planning:Oさん/daisuke imai
producer:daisuke hirose
painting:daisuke hirose
「はじめまして!Oと申します。
このたび、つくばに家を建てることになり、これから間取りを決めて7月に着工して来年2月完成というスケジュールで予定しています。
いろいろキッチンメーカーを見て回ったのですが人工的な扉材があまりしっくりこず、木のキッチンを探しているうちにフリーハンドイマイさんに辿り着きました。
どれも素敵なキッチンばかり、またそれぞれの制作ストーリーもおもしろく、イマイさんにオーダーでお願いしてみたくなりドキドキしながらメールを打っております。
キッチン計画をPDFでまとめましたのでお時間のある時に見ていただけたら嬉しいです。
[家のイメージ]
・外壁は焼杉
・床は節ありヒノキ無垢
・内壁はベージュの塗り壁
[キッチンのイメージ]
・コンセプトは木と石の台所
・ガサツな使い方に耐えるワークトップ
・樹は少し明るい色(クリ、クルミあたり)
・いつかスパイスカレー教室を開きたい
どうぞよろしくお願いいたします。」
という印象深いスケッチが添付された元気のあふれるメールを頂きました。
「つくば」というと、少し前にも納品したTさんのお住まいもつくばでしたね。
研究学園駅の周りも勢いのある開発がなされているように見えましたし、Tさんのところにお伺いする道程でもよちよち歩きのお子さんを連れたお母さんが公園で遊ぶ姿がありましたものね。
ちょっと遠いかなあ、なんて思えるこのあたりでも都内に出るにはそれほどストレスなく交通の便もありますし、私たちの工房がある町に走る単線のほうがよほど不便に思えるくらいです。(笑)
でも、こういうふうに続けて同じ地域に住まう皆さんからご依頼を頂くというのは何かご縁ってあるのでしょうね。
過去の制作例か、もしくはブログでも触れたかもしれませんが、ある時期に集中して同じ地域にお住いの方々からご相談を頂くことって珍しくないのです。
それは私だけではなく、スタッフのみんなも感じていて、不思議なものだねえと話題になるくらい。
立て続けに鎌倉だったり、埼玉と東京の境あたりだったり、世田谷線の周りだったりと。
なぜなのかいまだに分からないのですが、きっと家具の神様がいていろんな地域に立ち寄っては、単線が走るこの町に向かって良い風を吹かせてくれているんじゃないかなあ、と思っています。
キッチンの計画は新居全体の計画のいつ頃から考え始めると良いのでしょうか、と皆さんに時々聞かれます。
私としてはいつが最適という決まりはないのですが、中には「キッチンは私が一番長く過ごす場所なので、まだ間取りも決まっていないけれど理想のキッチンの形は決まっているので真っ先にここを考えたいのです。それに合わせて間取りを決めていきます。」という強い意気込みを聞かせてくださるお客様もある程度いらっしゃいましたが、あえて言うとしましたら、キッチンという場所がその家の空間に馴染む場所で在ったらよいなと思いますので、間取りがおおよそ決まって、何となくその家での動線が見え始めたタイミングになると、キッチンではどういうふうに過ごしたいか、誰と過ごしたいか、という暮らしかたが見え始める時期なのではないかと思うのです。
ですので、そういうタイミングで考えていくと、漠然としていた思いも自然とひとつの方向にまとまっていくのかな、なんて思っております。
ちなみに結婚してからマンション住まいだった私が戸建て住宅に住むきっかけとなったのは、1冊の本で、そこに描かれていた庭で食事をする光景に気持ちを突き動かせて、あっという間に家作りを決意してしまいました。
それまではマンションに不便もなかったものですから、戸建に移り住むことなんて思いがけないことだったのですけれどね。
当時のアキコは、そんな急な衝動にちょっとあきれておりましたが。(笑)
なので、タイミングというのは、自分や家族の中で自然に思い起こされるようになるその時がちょうど良い時期なのでしょうね。
Oさんからのメールを今あらためて見返しますと、お引越しされる約1年半前にキッチンの相談を頂いておりましたね。
この最初のご相談のタイミングではまだOさんの暮らしかたやキッチンとどう付き合っていきたいかということは分かりませんので、まずは「頂いたスケッチのような形のキッチンを私たちが作らせて頂くとこのくらいになります。」という概算の費用を伝えさせて頂きました。
やはり家作りはお金が掛かるものですから、必ずしもキッチンにばかり予算を割り当てられるものではないでしょうから、まずは最初のステップとして、この費用を見て頂いて皆さんにご判断頂くことになるのです。
すると、さっそくOさんから、「こうして合計金額を出すとビックリする価格ですネ・・」というお返事を頂いたのですが、ご自身の決意は固いようで(ありがとうございます)どのような形で実現できるかを模索しながらもお話を進めさせて頂けることになりました。うれしいことです。
さて、ここからOさんのプランが溢れ出るようにどんどん広がっていくのです。
予算的に難しいはずなのに、L型だったものが今度はコの字型に戸可愛らしいスケッチと共に形は頭を悩ませるほど複雑になって行ったりして。
私自身どのような形で落ち着くのかなあなんて思いながら、その都度どのくらいの費用感かをお伝えしながらOさんのお話がどのようになるのか楽しみに見守っていくのでした。
そういうふうに形がさまざまに変化していく中で、ただ一つ変わらないように思えたことがありました。
それはOさんが思い描く素材の選び方でした。
お二人ともお若いはずなのに選ぶイメージが純和風なイメージ。
キッチンの腰壁に石を貼るイメージが出てきたり、名栗仕上げの印象を表面に出したいというお話が出てきたり。
天板も石を用いるかもしれないと迷われたりと。
私たちのようなオーダーでキッチンを作るというスタイルですと、お店やショールームに実物があるのとは違って、その人が望んでいる形そのままが実際その時その場所にあるわけではないので、イメージだけで形を思い描いて頂くというのはなかなか難しいことだと思います。
また、その難しい中でどうやって形をまとめていったらよいのかと考える時に、ただ要望だけを詰め込めばすべて良い形になるのかというと、決してそうではないと思うのです。
また、イメージしている仕上がりが上品で落ち着いたまとまりに見えるかどうかということは、実際にはできあがってみないと分からず、予想以上に派手に見えてしまうこともあったり、思いがけず目立たない印象になってしまう可能性もあります。
私自身はいつになってもデザインのスペシャリストというような卓越した感覚を持っているわけではありませんから、必ずしも全問正解をお伝えできるわけではないのですが、今まで見てきたこと経験してきたことの中から思いをひねり出して、自分で正しいと思っていることやその形の持つ良さはどういったバランスで成り立つのかということをせいいっぱい伝えることで今までの形作りを成してきました。
ですが、バランスを考えていくのに私はいつもその家具の使い勝手ばかりを先に考えちゃうので、できあがる形は何となく地味な形になりがちだったりするので、皆さんから頂く自分では思い描けないイメージや意見はいつも私の糧となっているのです。
そうして、頂いたイメージや形を自分なりに咀嚼して、また新たなひねり出す思いの中にしまっておけるのです。
ありがたいことです。
さて、そうしておおよその形がまとまりましたところにOさんが遠路はるばるこちらまでいらして下さることになりまして、さらには私の自宅まで見ていってくださって、ショールームではお見せすることのできない、実際に私たちの作るキッチンや家具を使いこむことでどのような風合いになって行くのか、メールでは伝えきれない具体的な形の納まりや見せ方をお伝えすることができたのでした。
「お世話になっております。Oです。
本日は長々とお時間いただきありがとうございました!
オーダー家具屋さんは初めてで、さぞハードルが高いのだろうと、お伺いするまでドキドキでした。
イマイさんとても素敵な方で、私のまとまりのない話も聞いてくださりとても安心しました。
キッチン自体も想像以上に素晴らしくて、2人とも夢が膨らむばかりです。
そして、ご自宅のほうも実際に住まわれているお家を見る機会がなかなかなかったため、とても参考になりました。
本当に心地よい空間で、いいないいなと話しながら帰ってきました。
私も新しいお家に住むのが楽しみです!」
と、最初のご相談から2ヵ月ほどを経てこれで形がまとまりましたね。
なんて思っていたのでしたが、ここから半年間掛けて、Oさんはコの字型から、L型と小さなカウンターを合わせたコの字のような形、そしてまたL型へといろいろと模索していくのでした。
さらには壁付けの棚板をただ壁から棚板が飛び出ているのではなく、違い棚のようにして、棚同氏は小さな四角柱でつなげたい、なんてお話もありましたね。
最終的には、もう工務店さんとの契約も済んでいたこともあって、「今から窓の位置を変更することが難しいのです。」と設計士さんからの言葉で、
「悩んだ結果、いっそ壁付のL型に丸いテーブルを置くのが良いかなと思いました。
まわりまわって、一番最初にスケッチを書いていただいたような形です。」
という形にまとまったのでした。
うーん、おもしろい。
それから間もなく無事に上棟となりまして、そのあといよいよ現地確認にお伺いしました。
当日は設計担当のKさんと棟梁とOさんとで納まりを確認させて頂きます。
現場はまだ捨て貼りの床が貼られたくらいで壁は断熱材をこれから充填するというタイミングでしたので石膏ボードがまだ張られていない状態。
キッチンの端部が窓のサッシあたりに合わせるということで、サッシまでの寸法を見込んで採寸をしていきます。
できあがっている場所を測るのではなく、仕上がりを見込んで寸法を採るのはいつも緊張するのです。
私の測り方一つでも寸法は変わってくる可能性はありますし、実際に壁が張られていくと予定通りの寸法では収まらない現場もあったりしましたので。
もう少し後で採寸できれば確実なのでしょうけれど、それだと無垢材を加工していくには時間が足りなかったりします。そういう諸々を考えるといつも緊張するのです。
そうして、現場の寸法に合わせて図面を修正して、いよいよ制作に取り掛かります。
今回はヒロセ君が担当してくれることになりまして、制作前の打ち合わせを行なっていきます。
無垢材はどうしても動きますので、どの部分で動かないように矯正したら良いか、どこで逃げを見ておくかを考えていきます。さらには今回L型キッチン専用の特殊な金物を使うので、それがきちんと納まるかどうかもちょっと心配な部分があります。
そのあたりを相談して制作に取り掛かります。
キッチン自体はこの形にまとまるまでいろいろと寄り道しましたが、形はシンプルにまとまりましたので、制作も比較的順調に進んでいきます。
1点ちょっと危なかったのがL型専用の金物をつける時でした。
L型の形を作る時に以前に一度うっかりしていたことがあったのですが、L型の家具でハンドルをつける時って、ハンドルが出っ張る分をきちんと見込んでおかないと引き出しや扉がつっかえて開かなくなっちゃうことがあるのです。
以前にあったのは、ノーリツのプラスドゥのグリルを開ける取っ手が思った以上に出っ張っていて、その奥に直角に配置された引き出しを開ける時に引き出しがその取ってに当たってしまって全開しないことがありました。
その時は引き出しの前板を工夫することで回避できましたが、今回もちょっと出っ張りの大きなハンドルを扉につけていたので、扉が90度開くかどうか微妙なところでした。90度開かないとその専用金物が扉に擦っちゃう。
でもどうにか回避することができてひと安心。
そして、現場の進み具合を見て取付工事に入らせて頂きました。
【2022年6月2日のブログから】
到着したのはちょうど10時で、事前にOさんと連絡を取っておりまして、「伺えそうだったらお邪魔しますね。」とおっしゃっていたのですが、すでにいらしてくださっていて(遅くなっちゃってすみません。)
棟梁には前回の現場打合せでご挨拶だけさせて頂いておりましたが、今日はご年輩の監督さんもOさんからあらためてご紹介頂き、また作業されている電気屋さんもクロス屋さんもお人柄のよく分かる素敵な職人さんたちで。
「キッチン屋さんの都合のいいように付けてくれていいよ。あとはこっちでやるからさ。」
3業者さんに私たちで現場はちょっと手狭な状態ではありましたが、こういう温かなところなら作業しやすそうだな、という感じでした。
私はさっそく電気屋さんに呼ばれて、IHヒーターのコンセントの位置の打ち合わせをしている間に、制作を担当したヒロセ君と今回はサポートのノガミ君の二人で手際よく荷下ろしを始めました。
雨もポツポツしてきたからね。
するとおもむろにトラックの幌骨にいつも刺さっている芯材(木の角材)を引き出して、幌をその芯材に引っかけると、俄か屋根のできあがり。
へえ、おもしろい。
私の知らないところで、みんないろいろな工夫がされているのだなあ、なんて今さら関心。
(シャチョー、そんなことも知らないのですかーって言われないようにしないと・・。)
そんなことを考えながら電気屋さんの打ち合わせを終えて、荷下ろしを手伝っていると、打ち合わせで手が止まっちゃった電気屋さんがキリの良いところまで作業をしていると、おもむろに棟梁が顔を出して、「○○さん、お茶にすっぺぇよ。」って。
あぁ、久しぶりに「すっぺぇよ。」聞いたなぁ。うれしいなあ。
昔まだ父にくっついていろんな現場に出かけていた時にはやっぱりその現場のいろいろなルールみたいなものがあって、このお茶の時間が結構きっちり決まっていて、その間は作業は止めないといけなくて、お施主さんが大きな魔法瓶と一緒にたくあんがごっそり入ったガラス鉢を用意してくれたりすると、棟梁が各職方さんに「お茶にすっぺぇよ。」って声掛けて。それをつまみながら、年輩の職人さんたちはエコーだとか、わかばだとか、懐かしい煙草を引っ張り出しては一服していましたね。
私も当時は煙草が好きだったので一緒にさせてもらったのですが、父のように話が上手じゃないものですから、一服し終わってしまうと、時間を持て余してしまって、自分もいつか父のようにいろんな現場でうまくやれるのかなあ・・、なんて変な悩みを持っていたことを「すっぺぇよ。」という言葉で思い出したのでした。
そんな物思いに耽っているうちに荷下ろしは終わって、設置位置の確認も棟梁と済ませることができたので、ヒロセ君とノガミ君に作業は任せて、Oさんにもご挨拶させて頂いて昨日先に戻ってきたのでした。
そして、二日目の夕方無事に作業を完了させて二人が戻ってきました。
その後、Oさんからもうれしいお便りをいただきました。
「フリーハンドイマイ イマイ様
お世話になっております。ご連絡が遅くなりました。
昨日、一昨日と遠方までキッチン取り付けいただきありがとうございました!
棟梁も電気屋さんもこてこての茨城弁で、話伝わるかな・・?とちょっと心配に思っていましたが、問題なさそうでよかったです。
ノガミさんもヒロセさんも、画面越しで知るよりずっと素敵な方々で、職人というよりは聖人?のような雰囲気で、お二人が作業しているのを眺めているとなんだか気持ちが癒されました。
驚くようなスピードで作業いただいたおかげで、2日目の午後に顔を出した時にはもう帰られる寸前だったので、あやうくお礼をし損ねるところでした(笑)
なによりキッチンが素敵すぎて、眺めるたびにニヤニヤしています。
クルミも最初はなんとなく決めたのですが、優しくてとても良い雰囲気ですね。
クルミを見ると、小学校の図工室を思い出して懐かしい気がします。
とにかくありがとうございました!!」
こうして無事にキッチンの設置が完了して、無事にOさんに引き渡されて数か月後にご挨拶に伺わせて頂きました。
「2022年10月15日 Oさんのクルミのキッチンに会いに」
この時初めてOさんが思い描いていた家の空気がやっと分かりました。
本当はもっと早く汲み取っていないといけなかったのかもしれませんが・・、すみません・・。
「私たち旅行に出かけることが好きで、出掛けて止まる宿に入るたびにこういう宿のようなおうちにしたいなってずっと思い描いていたのです。」
なるほど。
階段、下駄箱、吊戸棚、洗面台といろいろな部分の造作は棟梁一人でやってしまったというとても心地よく木に囲まれた空間の中に置かれたクルミのキッチンがとても温かくくるまれたように見えるおうちでした。
「このあとは二人で庭作りも頑張っていこうと思って。」とうれしそうにお話しするお二人。
頑張ってくださいね、すてきな時間をありがとうございました。
天板 | ステンレスバイブレーション(トヨウラ) |
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キッチン扉・前板 | クルミ板目無垢材 |
側面 | クルミ板目無垢材 |
本体外側 | クルミ板目突板 |
本体内側 | ポリエステル化粧板 |
塗装 | オイル塗装仕上げ |
ステンレスバイブレーションとクルミのL型キッチン
価格:1,590,000円(制作費のみ、塗装費と設備機器費用は別)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は80,000円から、取付施工費は180,000円から)