タモのL型キッチン

2023.05.30

「いやあ、イマイさん。とても勉強になりましたよ。」とTさんはそう言ってくださいましたが、何しろすべてを教わったのは私たちのほうです。

形を作ることの美しさを、この仕事を通じてたくさん教えて頂きました。

とても優しい光がフワッと入り込んでくるキッチンはこうしてできあがりました。

そして、どこかで見たことがあるような形、と思ってくださった皆さんは、なるほど、いつも私たちをよく見てくださってありがとうございます。

平成さんの皆さんとTさんご夫婦が私の自宅を見学にいらして下さった時に、いろいろなところを気に入ってくださったのです。食器棚のレイアウトだったり、アキコが選んだタイルだったりと。

その様子を見て、設計を担当してくださったSさんとNさんはこのキッチンがある空間を大切にしたいって考えてくださって、私たちにとってはたいへんうれしいお仕事だったのです。

そして、今日がそのお引渡でした。

現場監督のOさんも「今回は鉋の刃がかなりすり減りました。」と、とてもうれしそうな表情。鴨居も敷居もとても丁寧に仕上げられていたり、手すりも釿(ちょうな)で仕上げた名栗仕上げだったり、ひとつひとつがきちんと作った形です。

そして、個人的にすごく好きだったのは塗り壁の出隅に施されたタモの保護材というのかな、その壁の角が傷まないように据え付けられた木片がとても美しかったのです。とてもさり気ない形なのですけれどね。すごく当たり前にそこに在って。

何といえばよいのかな。

ここにあるものは何も特別な形をしているわけではないのですが、小さなものまですべてがきちんと手が加えられていて美しいのでした。

塗り替えのご依頼を頂いたキャビネットも良い表情はそのまま残して、古く傷んでいた塗装を剥がして新たにラッカーを吹き直しました。

「良いね、よいね。」とうれしそうなTさん。

「あとね、ここにはこの絵を置きたいんだ。」とリ・ウーファンさんの作品をおもむろに運んでこられました。

「ここの大きな画面をこの絵の場所にしてね・・。」とうれしそうにお話しされるTさん。

奥様もお嬢様もうれしそう。

前庭にはちょうど今作業をしているところだという稲の苗がずらっと置かれていて、「そうだ、イマイさん!ジャガイモ獲れたから持って行って。まずは塩ゆでにして食べてみてね。」と袋いっぱいのお土産まで頂いてしまいまして。

そこは、暮らしのありのままが美しく歌っているような場所だったのです。