十年後
「ナラ板目の引き戸のある食器棚」
裾野 Y様
design:Yさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:hideaki kawakami
painting:daisuke hirose
裾野のYさんと言えば、「すぐそばでご飯を作っているような距離」のYさんです。
あのキッチンを作らせて頂いたのが2013年ですので、もう10年前の話なのですね。
「10年前の様子」
https://freehands.exblog.jp/20324661/
私にとっては今でも思い出せるからついこの間のように思えてしまうのですが。
そのYさんから今から1年半ほど前にご連絡を頂いていたのでした。
「イマイさん、久しぶりです。
実は今ちょっとしたリフォームというかキッチンの使い方を変えようと思っていてね・・。」
とお電話いただいたのが再会のきっかけです。
Yさんとはちょうど同年代で子供たちの年齢も近いこともあって、あの当時は家具のことに限らず子育てのことなどいろいろなことを教わったとても親しくさせて頂いた方でした。
キッチンを使い始めてからも、奥様が肩に持病があることで吊戸棚の使い方について別の角度からの視点でのご意見を頂いたりと、時折お会いする機会がありましたので、この10年というのが何ともあっという間に感じてしまうのです。
しばらく前に伺った時に、引き出しの中に仕切りを作りたいという宿題を頂いていたままになっていたこともあって、どういう風に使い方を変えたいのかをさっそくお話を伺いに行きました。
そう、このあたりに来るには車のほうが便利なのですが、時折こうして電車で来る時間が楽しみだったのをあらためて思い出しました。
新松田で小田急線を降りて、横断歩道を渡って小振りな駅舎をくぐると、そこはどこかほっとする御殿場線の松田駅です。
お年寄りと学生の喧騒というよりはささやかな話声が三両(だったかな)編成の車両に心地よく響いて、気が付くと裾野駅です。
久しぶりにこの裾野の町に来ると、町の様子も少しずつ変わってきているのですね。道は広くなり、新しいお店も少しずつでき始めていましたが、Yさんのうちは懐かしいままです。
「こんにちは、Yさん。」
「イマイさん、ひさしぶりー。」
変わらない声に元気を頂きました。
「ご無沙汰しています、皆さんお元気ですか。あれからキッチンや家具の様子に変わりはありませんか。」
2階に案内して頂くと、以前と変わらないYさんのキッチンの様子。タモ材のキッチンやナラ材のダイニングテーブルはすっかり日焼けをして、ダイニングテーブルのほうは黒ずんでいる部分も出てきたりしていて、「イマイさん、ごめんねー、本当はもっとこまめにオイルを塗っておくべきだったんですけど・・。」とYさんも苦笑い。
ひと通り、キッチンや家具の様子を見させて頂いてから、あらためてお話を伺います。
「実は、今度お義母さんと一緒に暮らすことになる予定で、そうなるとこのキッチンも一緒に使うことになるでしょうから、キッチンはまだまだ使いやすいからこのままでよいのだけれど、食器棚の使い方を変えたいと思って。きっとお義母さんの食器なども持ってくるので、収納量もこのままだと少ないし、以前お話していたこの上開きの扉、ああ、あれから肩は手術したので、この扉でも使い方に問題はなくなったんだけど、やっぱり収納量を増やさないと、って思っていて。」
なるほど、そういうことなのですね。
それで、Yさんとどのような形にすることが良いのかをあらためて相談していきます。
新築当時は、持っているものがまだ少なかったし、この先も取捨選択しながらものを増やさないような暮らしかたを考えていましたが、暮らしかたはやはり変わります。特に子供が小さい頃に家を建てると、子供の成長に合わせて間取りも時間の使い方も大きく変わります。もちろん我が家もそれは経験済み。家族みんなの顔が見えるように暮らしたいと思うのは、やっぱり親の願望なのかわがままなのか(笑)、子供は思春期を迎えれば早く自分の時間を過ごしたいと思うようになるし、それが普通に思えます。
Yさんのお兄ちゃんたちも、もはや子供が遊ぶスペースだったところにおもちゃはなくなり、子供部屋はこの10年の間に兄弟それぞれの部屋を設けて、「もう反抗期なのよねー。」ということでした。
まずは、冷蔵庫が置かれている位置がYさんにとって使いづらい位置だということにあらためて気づいたそうで、食器棚と冷蔵庫の位置を反転させたいということ、そして、キッチンも物が少しずつ増え始めたし、これから増える予定が出てきたので、吊戸棚は取り払って大型の戸棚にしたい、というお話になりました。
そうなると、壁の補修も出てくるし、平成さんのご協力も頂く必要がありそうですね。
今回は、「イマイさんのほうで直接お話進めて頂いて、私たちで内装工事でお手伝いできるところがあったらお声掛けください。」とちょうど沼津でキッチンを作らせて頂いているHさんの現場で監督をされているHさんにそうおっしゃっていただけたので、壁の補修が必要な時にお声掛けくださいとお伝えして、まずはこうしてYさんのご要望を先にお伺いしてお話を進めることにしたのでした。
そのほかの部分は、今使っている食器棚の形そのままが使いやすいので、このデザインを踏まえた形で進めるということでお話はまとまりました。
それと、もう一つ頼まれたのが、扉の交換。
実は、キッチンのダイニング側の扉は反りが起きにくいようにとタモの無垢材と合板を合わせて作ったのですが、新築時に導入していた蓄熱暖房の効果が大きかったためか、かなり大きく反ってしまって、使い勝手が悪くなってしまったために、突板の扉を作り直していたのです。
おかげで反りが出ることなく使えていたのですが、Yさんは最初の扉の木目がとても気に入っていて、この10年間ずっと押し入れに保管しておいたのでした。
それで、「イマイさん、実はあの時の扉なんだけどね、できればもう一度使えるようにできないかなってずっと思っていて。」とYさん。
それを聞いて、そしてきれいに保管されていた様子を見てなんだかとてもうれしくなってしまいました。
「そうなのですね、うれしいなあ。」
愛されている家具なのだなあ。
ちょっと細工は難しそうでしたが、どうにかなりそうでしたので、引き取って食器棚の制作と一緒に加工することにしました。
今回の食器棚は、吊戸棚はやはり肩に少し負担が掛かることと収納量を増やしたいということで、天井いっぱいまでの戸棚にすることに。
リビングダイニングが広いワンルームになっているので、家具が多き憂くなっても圧迫感が出ることがないため収納量を優先して奥行も下の引き出し部分とほぼ同じくらいに奥行にすることに。
ただ、扉は開き扉にすると開け閉めするときに邪魔になりそうということで、引き戸にすることに。
Yさんとはメールでの打ち合わせはあまり得意ではないということで、こうして打ち合わせにお伺いして初めて具体的なイメージを聞かせていきながら、どうすれば使いやすく美しいのかを決めていったのでした。
こうしてできあがった食器棚を持っていざ取付。
食器棚の取付自体はそれほど複雑ではなかったのであまり心配はしていなかったのですが、今ついている食器棚がきれいに外れるかどうかがちょっと心配だったのです。
キッチンと食器棚を作った時の木取り表などは今でも残っていますが、どうやって取り付けたのかまでを記録はしていなかったので、きちんときれいに外れるだろうか・・。
私たちが家具を設置するときはなるべく取り外すことができるように取り付けます。なぜそうするのかというと、今までも事情があってお引っ越ししたり、家具の使い方を変えたいなどの理由で家具を取り外す機会があったからです。
その時に接着剤でくっつけてしまうと取り外せなかったりパーツごとに解体できなかったりして、きれいに外すことができなくなってしまう、そういう機会が減らせたらよいなと思って、極力接着剤は使わないで取付し、もしする場合でも現地で接着して固めることはしないで、何かあってもその接着剤を除去できるような施工を心がけています。
なので、どうにかすればきれいに取れるはずですが、どこをどのように固定したかまでは記録が残っていなくて、まずはやってみないと分からない状態でした。
今回引き戸部分を大きな箱で組み立てた状態にしていましたが、どうにか搬入することもできましたので、さっそく今の食器棚の取り外しにかかります。
ダウンライトの電源が干渉する吊戸棚は意外とすんなり外れて、一番大変だろうな御ともっていた食器棚のデスク部分も通称カチットと呼ばれる接合金物が入っているだけで、それが分かってうまく金物を解除することができたので、壁をいじめることもなく短時間で外すことができたのでした。
ほっと一息つくことができて、ここからは比較的スムーズに食器棚を吊溶けできたのですが、ここで私のうっかりミス・・。
食器棚の後ろに引き戸が引き込まれるのですが、てっきり食器棚の背面の壁の向こうに引き戸が引き込まれると思っていたら、壁の手前(すなわち、食器棚と壁の間)を引き戸が引き込まれる形になっているのを勘違いして、デスクと引き戸がぶつかってしまうのでした・・。
スムーズに終わる予定が、デスク部分だけを一度持ち帰って、奥行きを少しカットしまして、あらためて設置。
こうして無事に新しい食器棚に交換することができたのでした。
以前の食器棚がついていた壁は、壁の左官工事を行なう前に食器棚を取り付けているので、食器棚の形が変わった今回は、壁の石膏ボードが見えてしまう部分が出てきたので、この部分を平成さんに仕上げて頂こうと当初は考えていたのですが、実際に食器棚を交換して、冷蔵庫を入れてみると、そのボード部分はきれいに隠れてしまって、「しばらくはこのままでいいかな。気になったら平成さんにお声掛けしようかしら。」とYさん。
キッチンのダイニング側の扉もきれいに交換できて、「やっぱりこっちの方が素敵ね、イマイさんありがとうね。」とYさん。
後日、Yさんからあらためてお便りを頂きました。
「先日は、丁寧に対応してくださいましてありがとうございました。
食器棚、手触りとか質感もですが、すごく素敵で使いやすいです。
反らないように工夫して頂いて十年振りに帰ってきたダイニングの扉も感激して、昨日はずっと眺めていました。
私の勝手な要望にも誠実に対応してくださいまして、ありがとうございました!
スタッフの方々、奥様にもよろしくお伝えください。
またこれからもよろしくお願い致します。」
こちらこそ、ありがとうございました。
ナラ板目の引き戸のある食器棚
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