おすそわけ
「ステンレスバイブレーションとナラのセパレートキッチン」
群馬 I様
design:Iさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:masakane murakami
painting:takashi haraki
無垢スタイル建築設計さんという埼玉県にある設計事務所さんからお電話を頂きました。
「群馬県でもキッチンの制作、施工はされておりますでしょうか。」と設計担当のNさんからでした。
群馬県は少し遠いかなあと思ったのですが、地図で調べてみると130キロくらい。
今までで一番遠くにお届けしたキッチンとなると「「夢の種まき」の水戸のNさんでここから210キロになるので、それほど遠くない方か・・。Nさんが私の中では一つの基準です。
施工会社さんとはきちんと連携が取れるなら大丈夫かな。
今回は設計施工会社さんだったので大丈夫でしょう。
「はい、大丈夫ですよ。もしよろしければ、大まかなイメージなどがございましたらお送り頂けますと助かります。」とお伝えすると、まもなくNさんからメールが届きました。
お施主様のIさんの奥様が描いた可愛らしいスケッチ。
「お打ち合わせは直接行なって頂けますか。」とNさんがおっしゃってくださって、それならやりやすいですね。
もちろん、あいだを取り持って話を進めてくださるとその時間などは省ける部分は助かるのですが、使い勝手のの細かいニュアンスなどは直接使う人とお話しないと伝わらない部分があったりします。
もちろん、設計士さんの考える空間を台無しにすることにならないように考えますが、私とお客様のお話はどちらかというとデザインよりも使い勝手の話になることが多いので、デザインに影響が出ることは少なかったりします。
使い勝手が良くないと、ずっと使っていくのが気持ち良くないですものね。
と、思っていたのですが、今あらためてメールを見返してみると、Iさんからキッチンカタログのお申し込みのメールがNさんからの相談よりも2年前に来ていたのでした。
そこにはこう書かれておりました。
「Pinterestというアプリケーションで初めて拝見しました。
実例を写真に収めるだけでなく、それぞれのキッチンがどのようなオーダーによって作られたか、実際に使う人の生活と気持ちに寄り添う相談をされている文章で、読んでいてうれしい気持ちになります。」
そうか、Iさんが私たちを見つけてくださってNさんに提案してくれたのかしら。
さっそく頂いたスケッチを実現可能な形にする場合のイメージをあらためて私のほうで描き直してお送りしました。
まもなく、Iさんからお返事が届きました。
「イマイ様、はじめまして、Iと申します。
以前よりPinterestなどでイマイ様のキッチンを拝見(そして保存)していたので、今回制作をお願いできることになり、とてもうれしく思います。
あらためまして、よろしくお願いいたします。
さっそくですが、以前頂いたスケッチに加筆させて頂きました。
素晴らしい絵なのでもうほぼ変更ないのでは?という感じだったのですが、
・減額の件でご提案頂いた、引戸の框をなくして突板にする
・アイランドシンクに家電用コンセント追加(グレー)
・シンク、コンロ側共に天板の高さ87.5センチ
・IHコンロはアリアフィーナ製のグリルなしモデル
・レンジフードはアリアフィーナ製、ジリオの白
・ガラス吊り戸棚内部に、可動棚板2枚(中央に仕切り)
・シンクの台輪は、モルタル調メラミン、可能であればサンワカンパニーの不燃マテリアルボードのモルタルライト色(キッチンパネルに採用しているため色を揃えたい)
以上の変更点を追加させて頂きたく思っております。
ご確認の程よろしくお願いいたします。
また、やはり直接お会いしてお話しさせて頂きたいと思いまして、イマイ様のご都合が合えば工場(店舗でしょうか?)の方に伺いたいと考えております。時間は何時でも構いません。
ただ、1歳児を連れていくので泣いたり騒いだりしてご迷惑をおかけするかもしれません・・・
急ぎ足になってしまい本当に申し訳ないのですが、メールの返信等私たちにできることは可能な限り早くいたします!のでこれからよろしくお願いいたします!」
そうでしたか、やはり以前から見てくださっていたのですね。うれしいことです。
ちびっ子が居ても大丈夫ですよー。最近はアキコが子守をしてくれますからね。
アキコも「よし、小さなお子さんが居るのね、おばさん頑張っちゃうよ。」という感じですから。
こちらにいらしてくださる日まで2週間ほどありましたので、打ち合わせを進めやすいようにと図面を作成して、あらかじめメールでお送りしてある程度細かい部分のイメージをつかんでおいていただくことに。
そして、いらしてくださった当日は、いろいろとお話をさせて頂きました。
最近のシステムキッチンだと、大きな引き出しに内部が細かく機能的に作られているものが多いので、どのような暮らしにもフィットするのだと思うのですが、私たちの作る形はどちらかというとオーダーだけれど、シンプルな形になる傾向が多いのです。
めずらしい金物や機能を持たせても良いのですけれど、あとあと修理が必要になったりすると困るかもしれなくて、そういうことを使う人に落ち着けてしまうような気がするので、そこに立った時に開けやすかったり、触り心地が良い質感にしたり、部屋を見まわした時にどう映るかを考えたりと、もう少し使う様子をイメージしながら形を考えていくことが多いです。
なので、宿題も多く出してしまったりして、Iさんにも当日だけでは決めきれない部分はご自宅でスケール感を今一度検討してもらって、お話を進めていくことになりました。
「夜分にメール失礼致します。
先日はお打ち合わせありがとうございました。
細かい仕様を悩むのがとても楽しく、長居をしてしまいました。
相談に乗ってくださり、ありがとうございました。
今日、無垢スタイルさんとの打ち合わせをしてきました。
レンジフードの高さ調節の詳細など、設計のNさんから連絡が入るかと思います。
キッチンパネルの余分が台輪に使えたら、というお話しでしたが、無垢スタイルさん側は3枚取り寄せして、使うのが2枚半ぐらいの予定のようです。余分で台輪全部貼るには足りないかもですね・・。
シンク横の引き出しの件ですが、3段がいいかなと考えています。
使用しているまな板2枚を立てた時のサイズは、大きい方は高さ200ミリ、小さい方は高さ260ミリ程でした。
その他、大きめのお皿を立てて収納したいと考えています。
こちらは皿立てに設置した状態で高さ300ミリでした。
2段目か3段目(おそらく3段目?)に、まな板と一緒に入ればいいなと思います。
それぞれの内寸は決めきれないのでお任せします!
それから、IHコンロ横の縦型の引き出しですが、3段でお願いしていたのですが、やはり2段にしていただけますか?
ショールームで拝見した、金属製のカゴが付いているものを採用したいです。
説明が下手ですみません・・。
分からない点があればご連絡下さい。
ご確認よろしくお願い致します。」
このような感じで細かい部分を調整しながら、Iさんの形がまとまっていったのでした。
その年の秋にまとまった形を最終図面にして無垢スタイルさんにお送りしまして、いよいよ年明けに上棟、そして少し木工事が進んだあたりで現場にお邪魔させて頂きました。
「こんにちは、キッチンを担当させて頂くフリーハンドイマイです。」
現場に入らせてもらうのはなかなか緊張するのですよ。
こちらは一人で、ひとさまのフィールドに邪魔させて頂くことになりますからね。
そして、いつもだいたいこの時に初めて現場監督さんとお会いするので、どのような人なのかも分からないですし、「一見のキッチン業者なんて」って思われることもあったりしますので、おっかない人も過去にはおりました。
今は皆さんとても親身になってくださる方が多くてうれしいところです。
今回の監督のKさんも最初は大工さんかな、と思うほどいかつい体の人が作業をされていて、何となく声を掛けづらかったのですが、挨拶をするととても柔和な印象の監督さんでした。
配管の墨出しやキッチンの位置はすでにKさんのほうで段取りしてくださっていたので、搬入経路(と言っても今回は平屋なので問題なし)とキッチンの実際の設置位置の確認と工事の時期を確認して終了。
唯一、納まりがシビアになりそうだったのは、キッチンの床と他の部分の床の見切りがキッチン設置位置に関わってくるので、その納まりをどのようにするかということくらい。こちらもうまくいきそうです。
ここまで3時間弱の電車に乗ってきたけれど、打ち合わせは30分くらいで終わってしまいました。
ただ、打ち合わせがスムーズに終わったということは設置するにあたっての問題が少ないということなので、ひと安心。
よしよし、これで図面通りに制作に取り掛かることができます。
今回はナラとステンレスを組み合わせたセパレート型のキッチン。
シンク側がアイランドでコンロ側が壁付けというオーソドックスな形です。
今さらですが、今のキッチンの収納の主流は引き出し式の収納です。
それを押して開けるようにできたり、しまうものに特化した形に変えたりと、機能的な金物を使ったりすることでいろいろな形に表現できるのですが、特徴のある形はその特徴に基づいた形でしか使えなくなってしまうこともあります。
ですので、私はあまり、複雑な形は好まないかなあ。
Iさんもそういう考えにご賛同くださって、ほぼ引き出しです。
扉が一か所あってもおもしろそうだなあ、と思うところもありますが、すぐ隣がパントリーというキッチンのレイアウトなので、大きなものはそこに置けます。
引き出しは、レールが露出しないので壊れるリスクが少ないソフトクローズの底付けレール。
今のところは最初の引きが軽いグラスのダイナムーブを使っています。
ヘティヒのクアドロが動きが滑らかで引きも軽く、脱着もシンプルなので本当は好きなのですが、他のメーカーとの互換性がないことと、レールのサイズが特殊で、さらには在庫が少ないので、なかなかすぐに使いづらいところがあって、次に心地良いと思われるダイナムーブが私たちのキッチンや家具の主流となっています。
さらにはブラケットもハーフェレに相談して一般的なものとは別のものを使わせてもらっています。
なので使いやすく作りやすい。
また、今回のIさんもそうですが、調理中に汚れた手で触りそうな場所にはハンドルをつけて、それ以外のところは手を掛けて開ける形の引き出しが私たちの主流になっています。
ダイニング側の引き戸には戸車をし込んだ戸をナラの敷居に直接滑らせています。
これは、友人の福原さんから教わった納まり。
一般的に家具に使われている広葉樹でしたら、フラッシュで作る引戸は軽いので、戸を直接滑らせても敷居がすり減ることは少ないのです。
ちなみに我が家はシナの無垢で引戸にしているのですが、さすがにシナが柔らかいことと引き戸もそれなりの重量があるので、少しはすり減ってきています。このあたりは時間を掛けて検証していこうかな。(自宅は試験するには良い場所なのです)
天板のステンレスは1.2ミリを使って合板を裏打ちしています。
裏打ちの接着剤もASKOの食洗機を入れるようになってからは見直すようにしていて、天板の仕上がり厚みも最小で15ミリ、最大で40ミリくらいにすることを基準に考えています。
それ以上うすくする場合は、下地を厚く見せたいのでちょっと工夫をしたりと、シンプルな形に見えてもなかなか手の込んだ作りにしています。
でもそれもすべて今まで作らせて頂いたお客様から頂いた意見を基に試行錯誤しながら今の形があるのです。
皆さんには本当に感謝しております。
こうしてできあがったキッチンは4月に入って内装工事も大方終わったタイミングで今回は設置工事に入らせて頂きました。
このあたりは、監督さんとのやり取りで決めていくのですが、今回は仕上げ工事に取り掛かっている最中に入らせて頂き無事に工事は完了しました。
「イマイ様、お世話になっております。
キッチンの製作と設置工事ありがとうございました。
現場監督さんから設置の様子を写真で撮って送って頂いたのですが、居ても立っても居られず、今日現場に見に行ってしまいました。
実物を見てもなお、実感が湧かず、こんな素晴らしいキッチンが、うちにあっていいのだろうか・・と始終興奮と混乱で言葉がうまくでてきませんでした。
ガラス引戸の吊り戸棚が、勾配天井の中心にあって、とても印象的で優しいキッチンになったと感じました。
また、改めてこちらに来て頂けるとのことですが、ご都合の良い日があれば、予め教えて頂けるとうれしいです。
家族揃ってご挨拶できるかと思います。
お忙しい中、ご連絡を頂きありがとうございました。
引き続きよろしくお願い致します。」
Iさんにはこのようにすぐにお返事を頂きまして、とても喜んで頂けてひと安心。
その後、お引っ越しを終えて、しばらく経った頃にアキコと二人でお邪魔させて頂きました。
私はこの時にいつも気の表面のお手入れの方法をお伝えして、さらには引き出しの外し方をあらためてお伝えしています。
設計士さんや監督さんには、お引き渡しの時にご説明願えますか、と言われることが多いのですが、その時って家の中の一つのキッチンとなってしまって、説明しても忘れてしまう、という方が多かったので、なるべくこのタイミングであらためてご説明しているのです。
今回は、塗装はウレタン塗装でしたので、日常的なお掃除の仕方をお伝えして、ステンレス天板のお手入れの方法はいつもの通りアキコにお任せして、そのあとは引き出しの取り外し方を説明して、そして写真を撮らせて頂きました。
「引き出しのなかも撮らせてもらっても良いですか。」とお聞きすると、
「ごちゃごちゃであまりきれいではないですが、それでも良ければ。」
「もちろん大丈夫です。その人が使っているって感じが見たいですので。」
「そうですよね、私もキッチンを作る時に皆さんの姉妹方をいろいろと参考にさせてもらいましたから、それでも良ければどんどん撮ってください。」
皆さん、そうおっしゃってくださるのです。
「なかなか引き出しの中まで写真を撮っているキッチンってないですよ。」とよく皆さんに言われるのですが、それはこうしてみんなのおすそ分けからできあがっているのですよ。
天板 | ステンレスバイブレーション |
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前板・扉 | ナラ板目突板 |
本体外側 | ナラ板目突板 |
本体内側 | ポリエステル化粧板 |
塗装 | ウレタン塗装仕上げ |
ステンレスバイブレーションとナラのセパレートキッチン
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