風まろやかに
「ナラ板目ランダム張り突板とステンレスバイブレーションのL型キッチン」
葉山 I様
design:Iさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:daisuke hirose
painting:daisuke hirose
「はじめまして。Iと申します。
さっそくの質問なのですが、築20年以上の2LDK一戸建てに住んでおります。
キッチンのリフォームを考えています。2階にキッチンがありL字型のキッチンを使っております。
これをオーダーキッチンに変えたいと思っています。それと食器棚も作っていただければと考えています。
階段の幅は78センチで折り返し階段になっているのですが設置が可能なものなのでしょうか。
よろしくお願い致します。」
2階にL型のキッチンはなかなか難しいところです。
私たちはL型のキッチンの場合で天板をステンレスで作る場合は、可能であればL型の天板を一体で作りたいと考えております。
2枚の天板に分けてしまうと直角を出すのにも多少時間が要しますし、現地で溶接するとなるとリフォームの場合はなかなか大掛かりになってしまう可能性もありますし、なるべくなら工房で継ぎ目なく作っておきたいのです。そのほうが仕上がりも美しいですし。
人工大理石の場合は、現地でそれほど大掛かりな作業をせずにシームレス加工(継ぎ目を同じカラーの樹脂でつないでしまう加工)を行なえますので、2階がキッチンになる場合は2枚の天板で搬入するのですが、ステンレスはこういう悩みがあるのです。
まずはL型一体で搬入できるかどうかは現時点では確認しづらいので保留としておいて、しばらくしてIさんがスケッチを描いて送ってくださいましたので、その内容をもとにおおよそどのくらいの費用になるかをお伝えすることにしました。
キッチンの制作は私たちが担当しますが、その周りの内装工事はいつもお願いしているkotiの伊藤さんにご相談。
伊藤さんとのお付き合いはかれこれ13年になりますね。
伊藤さんがまだ独立される前にご自宅のキッチンを作らせて頂いたことがご縁でした。
今はこうしていろいろな場面でご協力を頂いており大変助かっています。
以前に何度かあったのですが、キッチンのリノベーションのような小さな工事だけの場合は請けてくださらない会社さんもあるようでして、それが元で私たちのところにお話をくださったというリフォームのお話が何件がありました。
工事範囲が小さすぎて採算が合わないからなのか、実際にその会社さんの理由は聞くことはできなかったのだそうですが、こうして細かいことでも相談に載ってくださる伊藤さんは私たちとしてもとても頼もしいのです。
そして、伊藤さんとお話をしていてありがたいと思うのは、できることは「できます」、できないことは「見てみないと分からないけれどできない場合もあります」ときちんとそのままの言葉で伝えてくださることです。
私たちも、なるべく曖昧なことや分かりづらい伝え方はコミュニケーションがスマートに行なわれない原因になると思っておりますので、その姿勢は崩れないように心掛けております。
「そのこと」がいつの間にか「あのこと」になってしまったり、それは何のことを示しているのかって、自分にしか分からないことは自分にしか分からないままなわけです。
ですので、きちんと伝えられる人たちと仕事をするというのは気持ちが良いのです。
ということで、伊藤さんに相談に載ってもらって、キッチン部分と内装部分のおおよその費用をお伝えして、Iさんに確認頂いた後は、Iさんのご自宅にお伺いすることになりました。
そこで、当日にスケッチだけを基にした打ち合わせだと具体的な話が進めにくいかな、と思いまして取り急ぎIさんのスケッチをベースに図面を作っていくことにしました。
スケッチから寸法が入った図面に変わると現実味が増してきますものね。
それに私たちとしても、図面があればこの寸法のものをどのように搬入して、どのように設置場所に納めるかを検討しやすくなりますので。
そしてその図面をもっていざ葉山に。
伊藤さんとは現地で待ち合わせることにして、私は、うーんどうしようかと思案して電車で出掛けることに。
葉山は電車が通らない町ですので、逗子から歩いて海岸のほうへ向かいます。
季節はゴールデンウィークを過ぎて心地よい風が吹く季節なのでしたが、到着した頃にはやはり汗だく。(2回目以降はご迷惑をかけておかけするといけないので車にしました・・。)
「はじめまして、フリーハンドイマイです。」
とインターホンを押すと、出迎えてくださったのは、お二人ともとても心地よい笑顔の私よりも少し年上と思われるご夫婦。
「イマイさん、電車ですか。」とIさんからも伊藤さんからも「おやまあ」という笑顔を頂いて、和やかに打ち合わせは始まりました。
表情は和やかですが、気持ちは緊張しておりますよ。
なにしろ2階にL型天板がそのまま入るのかどうかを判断しないといけなかったので。
そして、確認した結果、どうにか入るのではないだろうか・・、というか、入ることは入るけれど、どうやって天板を空中で水平にしようかしら・・、というのが悩みでした。
1階の庭から引き揚げて、そのまま斜めにした状態だと対角線で見ると、サッシや壁にぶつかりそうにも思える。
なるべく天板を2階のバルコニーで水平にできれば入るだろうな、という感じなのでした。
ステンレスならそれほど重さはないだろうから、当日どうにかなるだろうよ、というそんな印象。
まあ、どうにかなるかな。(このあたりはもう感覚ですね。)
あとは、L型の天板が設置場所にきちんと納まるかどうかと壁の直角がどのくらい曲がっているかを伊藤さんと確認。
伊藤さんとしては、そのほかに給排水位置に問題がないかを確認(今回はキッチン自体のレイアウトは変えていないので、配管は特に問題なさそうでした)して、今までキッチンがついていた壁と床を部分的に仕上げ直すにあたっての施工範囲の確認などを行ないました。
その間、Iさんご夫婦はにこやかに見守っていてくださって、細かい部分はお任せいただけて、Iさんの思い描くイメージをきちんと実現できるように私と伊藤さんとで打ち合わせを進めていったのでした。
そして、この日は顔合わせと最初の現地確認ということで、おおよそお話をまとめて次回までに内容をまとめることに。
そして、2回目の打ち合わせ。
最初の3月末のご相談から2ヶ月半ほど経った頃でしたね。
リノベーションのスピード感というのは私は特に分からないのですが、今回のIさんの流れを見てみますと、最終的には10月末頃に完了しましたので、7か月間は掛かっていますね。今までのお客様も見返してみるとご相談の始まりから、リノベーションの完了まで最短でも半年くらいの期間が掛かることが多かったですね。
ご覧くださっている皆さんの参考になれば幸いです。
2回目の打ち合わせは前回の宿題の答え合わせと細かい仕上がりや納まりを確認して、キッチンに関してはプランはほぼまとまりましたが、実際のキッチンなどを見て頂いて素材や仕上がりを確認して頂くと安心です、ということで一度工房の様子を見て頂くことになりました。
約1か月後にIさんにいらしてくださって、実際のキッチンの様子や素材の様子を確認してもらい、素材の印象やステンレスの感じ、細かい板の納まりなどを確認してもらい、これで決定。
工事について、私たちの制作の予定が立て込んでいたこともありまして、少し先の秋頃に予定を立てさせて頂きました。
工事自体はキッチン周りを新しくするだけですので1週間ほどの期間で終わる予定なのですが、キッチンの制作は工事が始まるだいぶ前から取り掛かっておりまして、今回はヒロセ君がいろいろとうまく段取りをしながら進めてくれています。
そして、キッチンの制作完了に合わせて伊藤さんのほうでIさんと相談して工事日程を決めてくださいました。
よく住みながらのリノベーションの場合は、「キッチンが使えない期間はどのくらいですか。」と聞かれます。
やはりいつも通りに食事が作れないというのはストレスですからね。
今回のIさんの場合は4日間ほど。ほかの皆様の場合でも4日間から7日間くらいが多かったです。
それでは、住みながらのリノベーションの場合にキッチンが使えなくなってしまう間はどうするのかというと、皆さん工夫して暮らしてくださるのですが、その間は外食が多くなったり、洗面所で水を確保して、カセットコンロやオーブンレンジで加熱調理を行なったりと、非日常を楽しんでくださる皆さんも多かったりします。
そうして、キッチンが完成する10日ほど前からいよいよ工事が始まりました。
リノベーションの場合は、通常現地の解体を終えたタイミングで現地確認に伺います。
伊藤さんとのお仕事の場合は、このタイミングで電気屋さんや設備屋さんが一緒に居てくださることが多く、この時に配管に切り回しや電気配線の立ち上げなど具体的に確認してもらえるので安心なのです。
今回はシンクを少し小さくしていて、それに伴ってシンク下のスペースも少し狭くしているのですが、そのスペースに水素水生成器を置くということで、けっこう配管の位置がシビアになっています。
今までのキッチンの給排水の位置から設備屋さんがうまく今回の位置へとつなぎ直してくれてきれいに納まることになったのですが、こういうところはあうんの呼吸ができないと難しなあといつも思います。
そして、内装工事がひと段落していよいよキッチンの設置工事日。
長めの脚立を用意して、上から2人でロープで引き揚げます。ただ、それだけだと天板を水平にすることができないので、下から脚立に登って2人で天板を押し上げます。
どうにかなるかなあ・・、と揚げながらも心配でしたが、途中で伊藤さんも手を貸してくださって、うまくバルコニーの手摺を超えてサッシの中に運び込むことができたのでした。
おぉ、よかった。
続いての心配は、L型がその壁にうまく納まるかどうかということ。
現地の採寸は解体前にしか行なえません。解体してから採寸してそれから制作していては工期がとても延びてしまいますので。
ですので、解体前のタイルやキッチンパネルが張られた状態から、そのくらい幅が広がるかを見込んで採寸をしていきます。
伊藤さんの建築のアドバイスも頂きながら採寸をしていくのですが、やはり新築と違って解体しないと分からない部分があるので、ギリギリの寸法で作ると設置できない可能性もあるので、少し逃げを見て作るのです。
で、今回は少しだけ逃げた部分が広くなってしまったところはありましたが、無事にきれいに納まりました。
おぉ、よかった。
このあとは、工房で組み上げたとおりにヒロセ君主導のもと手際よく進めていきます。
工事中はIさんの奥様がにこやかに、そして楽しそうに見守ってくださり、すべての作業はこの奥様の笑顔のように穏やかに和やかに順序良く進んでいったのでした。
このあたりは何というか時間がまろやかというか、海沿いを東に向かって披露山を望むあたりから空気が少しのんびりしてくる気がします。逗子の渚橋を超えるとさらにまろやかな空気に変わる感じ。
Iさんの住む葉山の海のあたりももちろんそういう空気が感じられて、工事期間中はご近隣の皆様も快く伊藤さんや私たちを迎え入れてくださって、とても仕事がしやすい時間を過ごすことができたのでした。
完成したキッチンにはいろいろな酒器が並んでおりました。
きっと楽しいお酒の時間になるのだろうなあ、と思わせてくれるキッチンになりました。
ありがとうございました。
天板 | ステンレスバイブレーション |
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前板・扉 | ナラ板目ランダム張り突板 |
本体外側 | ナラ板目ランダム張り突板 |
本体内側 | ポリエステル化粧板 |
塗装 | オイル塗装仕上げ |
ナラ板目ランダム張り突板とステンレスバイブレーションのL型キッチン
価格:2,200,000円(制作費、塗装費のみ、設備機器費用は別)
ナラ板目ランダム張り突板の食器棚と壁付け棚板
価格:470,000円(制作費、塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は80,000円から、取付施工費は220,000円から)