大磯、かなり静かなり
「ブラックチェリー突板とステンレスバイブレーションのペニンシュラキッチンと背面食器棚」
大磯 T様
design:テントラインさん/daisuke imai
planning:テントラインさん/daisuke imai
producer:iku nogami/honoka takeishi
painting:iku nogami/honoka takeishi
葉山で活動されているテントラインさんからオーダーキッチンのご相談のメールを頂きました。
これから大磯に住まわれるTさんに私たちのキッチンのことをお話しくださったそうで、Tさんにとても気に入ってくださったということでご連絡をくださったのでした。
ただ、12月にメールを頂いたのですが、3月末の完成を目指しているということで、そうなるとキッチンの納品は2月末くらいだろうか・・、そうなると年明け早々には現場を見て制作に取り掛からないと・・と、なかなかスケジュールが厳しそうなのでした。
通常、オーダーキッチンのお話を進めていく場合は、制作する期間よりもいろいろと検討する時間が長くなることが多かったりします。
どこまで細かく考えていくかは、そのキッチンを使いたいと望むみなさんの具合にもよるのですが、私としては、せっかく考えるのですからいろいろとできることできないこと、良いと思うこと、良くないと思うことをお伝えして、そこからご自身にとって良い形を選んでいってもらえたらと思うのです。
そういうふうになると、通常みなさんは3ヶ月から半年くらい検討されることが多かったりするのです。
いろいろとアドバイスをするうちに間取りが変わってしまう方もいらっしゃるくらいです。
ですので、おせっかいかもしれませんがいろいろとお伝えするのです。
ここはもう一段引き出しがあったほうがこのように使えます・・
ここはこうするとゴミが溜まりやすいかもしれません・・
ここをこうすると、リビングから見た時にはこのように見えます・・
ご家族皆さんご一緒でお料理するならこういう動線があると良いかもしれません・・
などなど。
すると、今まで気が付かなかったことが見えてきて、新しい暮らしがより鮮明に見えてくるのです。図面と素材を見るだけの印象からぐっと踏み込んだ形が見えてくるわけです。
そうすると、正味1ヶ月の間にキッチンの内容をまとめるのは難しそうだなあ、という印象があったのです。
そこでさっそくテントラインさんから頂いた図面をもとに概算の金額をお伝えして、お話を進めてゆけることになりましたので、まずはこちらにいらして頂いてキッチンを見て頂くことになりました。
うん、実際に見てもらったほうが伝えやすいしまとめやすいので助かります。
そして、さっそくテントラインの水口さんご夫婦と、Tさんご夫婦でいらしてくださいました。
あとから教えて頂いたのですが、水口さんの奥様とTさんの奥様がご友人ということで、そして湘南地域で細かくオーダーキッチンの相談に載ってもらえるメーカーさんがほとんどいなかったということで、今回このようなすてきなご縁を頂くことができたのでした。
ありがたいことです。
そして、いろいろと見て頂きました。
私たちのショールームにはホワイトオーク板目の無垢を表面に使用したアイランドキッチンと、ブラックチェリー柾目の突板を使用したL型のキッチンの2台を見て頂くことができます。
無垢だとどのような感じになるのか、突板だとどのような感じになるのか、それぞれの良い部分や良くない部分をお伝えするとともに、実際のキッチンとして使用する時の使い勝手も見てもらえるようなレイアウトで展示してあるので、何かと実生活に近い印象を感じてもらえるのではないかと思っています。
そのあたりをいろいろと見てもらいながら、水口さんから頂いた図面を基にTさんのご要望を重ねて一つの形にまとまっていったのでした。
今回のTさんのご新居は新築ではなくリノベーションする予定です。
主要なお部屋を解体して間取りからあらたに作っていくということなのですが、工事期間としては2ヶ月はないくらいの予定とのこと。なかなかタイトな期間です。
プランはどうにか短期間でまとまりそうでしたが、今度は制作のほうが果たして間に合うかどうか・・。現地解体直後からすぐに取り掛かれればどうにかなるかな、このあたりが次なる心配だったのでした。
形もほぼまとまったし、工事が始まる時期にはほかのお客様の仕事も重なるからちょっと調整しようかな、と思っていたところに水口さんからメールが。
「突然なのですが、昨日T様より連絡がありまして、急に御主人が4月より地方に転勤する可能性が出てきたそうなのです(転勤の可能性は五分五分という感じだそうです)。
2月中旬にその結論が出るそうでその結果によっては今回の大磯のリフォーム工事を延期せざるをえなくなるそうです。」
おぉ、なるほど。そのようなこともあるのですね。
たしかに転勤って急に決まるってよく耳にしますものね。
ひとまず、どのような形になるかのお返事を待つことになりまして、工事の予定は一度白紙に。私としてはちょうど年度末にむかってとても慌ただしくなってくる感じでしたので、少し安心したところでもありました。
そして、数か月が過ぎた春になって、あらためて水口さんからご連絡がありまして、転勤のお話は無くなったとのことで、再びリノベーションのお話を進めることになったのでした。
ただ、この転勤の話が出ている間はTさんは身動きが取れなかったため、当初の引っ越しの予定がずれてしまったので、仮住まいを探し直したり、とても慌ただしくなってしまったことからそれが落ち着く初夏に差し掛かる頃から工事を始めることになったのでした。
そして、いよいよ工事開始。
開始時期はこの時期になったのですが、工事自体の内容は大きく変わっていないので、工事期間はなかなかタイトです。
解体が終わったこのタイミングで現地確認出来たらすぐに取り掛からないとね。
ということで、東海道線に揺られて大磯まで。
大磯だったら車で向かうほうが少し早かったりすることが多いのですが、近隣にパーキングが少ないということで電車に乗ってきちんと時間が読めるほうが良いし、電車のほうが気持ちが落ち着きますので。
また、車で来る大磯よりも電車で来る大磯が好きなのです。
駅から出ると静かなロータリーの横でスーッと立っている美しい洋館の旧木下家別邸。
そこを後ろに見て海のほうに下って物静かな町役場を過ぎ、幹線道路から1本入っただけなのにざわめきが消えて涼やかな風が吹く小道を行くとふいに現れるやはり物静かな草庵。鴫立庵というとても趣のある俳諧道場なのだそうです。
このあたりを過ぎるころにはまるで別の世界に迷い込んだかのように静けさと竹がこすれあう音しか聞こえなくなります。
すてきなファンタスティックロード。
しばらく歩き続けて初夏の大気が私の汗を呼ぶ頃にようやく到着。
そして、空気がとどまってしまった現場で汗を流しながら打ち合わせ。
コンロ前の変形した壁のあたりを確認して、あとは問題なく納められそうなことを確認したら、スケジュールを確認して、よし、これで制作に取り掛かれます。
さて今回は、ブラックチェリーを使ったペニンシュラキッチンと背面の食器棚を作らせて頂きます。
テントラインさんの作品を見ると、優しい表情を持つ空間ばかり。
その空間に合うような優しいけれどピシッとエッジの効いた形に仕上がるように頑張ります。
今回はノガミ君がキッチンを、タケイシさんが背面の食器棚の制作を担当します。
キッチンを受け持つのはもう少し先になるかもしれませんが、食器棚でしたら十分制作できる力がついてきたと思えるところ。みんなからするとまだまだひよっこなのかもしれませんが、家具作りは経験を積んで少しずつ見えてくるものがありますから長い目で見てあげたいところです。
キッチンのほうは複雑な形ではなく、いつもの私たちのキッチンの作りでしたので、順調に進めることができました。いつもと違う部分というと、Tさんが私たちのことを知る前にすでに手に入れていたミーレの食洗機とIHヒーターとオーブンを使いやすいレイアウト通りに組み込むことくらいでした。
ただ、現場が解体直後だったということもあって、コンロ前の壁の寸法がはっきりしません。特にリノベーションとなるともう少し工事が進まないとはっきりとした寸法が出ない場所もあったりします。
そこで、何かあっても逃げを見て置けるようにキッチン自体の寸法は10ミリ弱ほど小さめに作っておいて、天板でその逃げ部分を隠せるような作りにしておくことにしました。
できあがってしまうと分からない部分でありますが、こういう工夫がきれいに納まるための一歩だったりするのです。
こうして制作は無事に完了して間もなく設置工事に入らせて頂きます。
やはり壁の寸法は当初の予定よりも多少動きがあったのですが、工務店さんのほうで調整してくれて、キッチンのほうでも吸収することができてきれいに納めることができました。
そして、無事にお引渡が終わり、Tさんに引き渡されたのでした。
「いつもお世話になっております。
このたびはすてきなキッチンを完成して頂き、ありがうございました。
リビングにいますと、キッチンの木目が見事に綺麗に並んでいて、惚れ惚れ致します。
本当にお願いして良かったと思ってます!
また、ご相談事が出てまいりましたらご連絡させて頂きます。
今後ともどうぞ宜しくお願い致します。」
といううれしいご連絡を頂いてしばらくした頃、ちょうど納品町となっていた冷蔵庫が届いたということでそのタイミングでご挨拶に伺わせて頂きました。
前回と同じように大磯の小道を抜ける道程でまた空気がふっと静かになります。
「ほらねっ。」
「ほんとうだ。」
そして、Tさんに招いて頂いたリビングで海を見ながらお話をしていると、気が付くと、私たちの会話しか耳に届かないような静けさが。
「ここは静かなのですね。」
「はい、目の前が自動車道なのに、気にならないくらいなのですよ。」
小道を抜けたらまるで別の場所にたどり着いてしまったかのような。大磯、かなり静かなり。
天板 | ステンレスバイブレーション |
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前板・扉 | ブラックチェリー板目突板 |
本体外側 | ナラ板目ランダム張り突板 |
本体内側 | ポリエステル化粧板 |
塗装 | オイル塗装仕上げ |
ブラックチェリー突板とステンレスバイブレーションのペニンシュラキッチンと背面食器棚
費用につきましては、お問い合わせくださいませ。