暮らしの中に在る様子

ブラックチェリーとステンレスを使ったガラス扉のある吊戸棚と食器棚

川越 N様

design:Nさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:kenta watanabe
painting:honoka takeishi

ガラス扉のある吊戸棚とブラックチェリーの食器棚
ダイニングから見た食器棚全体の様子。鮮やかな色合いのダイニングペンダントはずっとここで使うことを想定したというNさんのお気に入り。ようやくこの暮らしの中に場所を見つけたのでした。今回はブラックチェリーの板目の突板を使っています。最近は、単板(無垢材をうすくスライスした板)の幅の広いものを使って作ることが多いので、明るい部分と濃い部分のグラデーションが美しい印象になります。ただ、チェリーは日焼けすると一様に色濃くなって、今のような色の揺らぎが少し薄れるのですが、それもまた良い印象なのです。
ガラス扉のある吊戸棚とブラックチェリーの食器棚
パントリー側から見た様子。マンションなので、大きな梁が現れていまして、それをどう内包して見せるかがポイントでもありました。当初の計画では梁のあたりに棚板を設けることも考えたのですが、棚として見せるには印象が薄い場所でもあり、収納方法も限られることもあり、またレンジを置くことで熱や蒸気を逃がすスペースにできることも考えて、何も設けない空間にしています。

中古マンションをリノベーションしてご新居にされるというNさんから食器棚のご相談についてメールをいただきました。
イメージとしてはブラックチェリーを使ったこちらのOさんの食器棚がイメージに近いということでした。

身近なものから良い色を」多摩 O様

懐かしいですね、今から11年も前に作らせて頂いた家具です。
チェリーは焼けてくると、大きく表情が変わってくるので今はきっと深みが出て魅力的な表情になっているのでしょうね。
さっそく、添付くださっていた図を基にどのくらいの金額でできるのかを伝えさせて頂きまして、お話を進めさせて頂けることに。

と、うれしいお話が始まりましたが、このお話が決まって1ヶ月後には採寸するという予定となりました。
ちょうどその時期には今取り掛かっている家具の制作がひと段落するのでスケジュールとして大丈夫なのですが、うーん、これはかなりテンポよく進めていかないといけませんね。

ガラス扉のある吊戸棚とブラックチェリーの食器棚
Nさんからメールで送られてきた原案図。

個人的には後付けできる家具はゆっくり作るほうが良いと思っております。
贅沢に時間を取らせてもらえるならば、住み始めてから自分自身の暮らしかたを見つめながら形を考えていく、という方法が一番良いのではないかと思っております。
どういう時間をその場所で持ちたいか、そこに何をしまうと使いやすいのか、その方かしっくりとくる形を描きやすかったりします。

でも、Nさんのようにご新居での生活が始まる時にはその家具が備わっていてほしいという考え方ももちろんあります。
自分にとっての形もしっかりと思い描けていて引っ越してすぐに家具を使い始めたいという場合は、今回のように先にしつらえておくのも良いと思います。
そのあたりは皆さんのペースで思い思いに考えていっていただければと思うのですが、もう一つの心配があるのです。

ブラックチェリーで作ったガラス扉のある吊戸棚
吊戸棚の印象。そういえば最近木目の流し方のお話がよく出ます。私たちの通常の作りでは、扉はヨコ目でも、側面はタテ目にすることが多いです。下面や背面等、家具の見え方によってはヨコ目にすることもありますが、基本的にはタテ目のほうが落ち着いて見えるかなと感じております。また、お話が飛びますが、今回の吊戸棚の框扉はガラスを押さえる縁材(幅5ミリの細い材)を正面にも見せる形にしています。
ブラックチェリーで作ったガラス扉のある吊戸棚
板の扉の内部は普段は外から見えない部分になるので、シナ合板ん無塗装の仕上げで。
ブラックチェリーで作ったガラス扉のある吊戸棚
ガラス越しに中が見える場合の内部の仕上げは、外と同じブラックチェリーのオイル塗装仕上げで。ちなみに、ちょっと分かりづらい部分ですが、1枚目と2枚目の写真を見て頂くと、框扉の上の横框が幅が広くしているのが分かります。強度的には下の框と同じ幅でも大丈夫なのですが、「耐震ラッチがガラス越しに見えにくいようにしたい。」というNさんのご要望で、このようなデザインにしています。

それは寸法。
特にリノベーションの場合は工期が短いので、私たちが考える採寸ができる時期となるともう引き渡しが間もなくというタイミングが多かったりします。文章が分かりづらいですね。

私たちとしては、可能ならばクロスが張られた状態が最良ですが、それが難しい場合は、できれば石膏ボードが張られている状態で寸法を測りたいと考えております。
その状態であれば、けっこう正確な寸法を測ることができますので。

これが工期の都合上、ボードも貼られていない時期から家具の制作に着手しないと間に合わないという場合もあります。
そうなると、ボードや壁の仕上がりの厚みを差し引いて家具の寸法を検討していくのですが、なかなか数字通りに現場が進むことも難しいことが多いので、ある程度逃げを見て作ることになります。
それでも、想定外のことが起きたりすることもまれにありますので、採寸の時期が早いというのは、きれいな家具作りと反比例してしまうこともあるのでなかなか緊張するわけです。

今回のNさんの場合は、工務店さんがちょうどそのタイミングを見計らってお声掛けくださり、ボードが張られた状態で採寸に伺うことができました。

ブラックチェリーで作ったガラス扉のある吊戸棚とステンレスカウンタートップの食器棚
吊戸棚とカウンターの間の空間は少し広めに650ミリの高さを確保しています。また、カウンタートップはステンレスバイブレーションの板を張っています。今回はトップのみで、カウンターの正面部分(厚み部分)はステンレスを巻き込まないでブラックチェリーで見せています。

ただ、工期の終わりがそれなりに迫っていたためか、現地はいろんな職人さんで賑やかな状態。
たまたまアキコにも今日の採寸を手伝ってもらうために同行してもらっていたので、どうにかスムーズに採寸することができましたが、このあとクロスが張られていくことを考えると、やはりもう少し逃げを見ておかないといけなさそうです。

ブラックチェリーの食器棚の引き出し
食器棚の左上の引き出しの様子。
食器棚のゴミ箱スペース
食器棚左下のゴミ箱スペースの様子。ちなみに今回の食器棚の奥行は450ミリ。オーブンレンジもゴミ箱も余裕を持っておくことができました。

今回は食器棚の両横が壁となるスペースに食器棚を設置するのですが、クロスが張られるので、クロスが壁の出隅(壁の先端部分)に貼られる時は壁の角がつぶれないように樹脂でできたコーナー材をボードの上から角の部分につけるのですが、コーナー材の厚みがあるために角に段差ができてしまいます、その段差が出ないように滑らかにパテを塗っていくので、壁の先端は壁の奥よりも間口が狭くなってしまうことが多いのです。
壁の奥に合わせた寸法で作ってしまうと、壁の先端で家具がつっかえてしまう、ということも起きてしまう可能性がありますので、そのあたりを考慮して分割して作ったり、逃げを見て少し小さく作るのです。

このような考え方で、家具の形がまとまりまして制作に取り掛かりまして、約1ヶ月半後に無事に納品することができたのでした。

ブラックチェリーの食器棚の引き出し
食器棚中央1段目の引き出しの様子。
ブラックチェリーの食器棚の扉を開けた様子
食器棚中央下段は開き扉にしています。もともとNさんの原案でもここは扉になっていましたが、私も一部が扉になっている形は良いと考えております。すべて引き出しにしてしまって、そのサイズに合わせたものをしまうという形はスマートで美しいですが、暮らしていく中で、引き出しの高さに微妙に納まらないものやわざわざ引き出ししまう必要がないくらい大きなものもあったりします。そういう場合は、棚の高さが変えられる可動棚がある扉の収納のほうが柔軟性があってよいのではないかと思っているのです。

「イマイ様
お世話になっております。Nです。
昨日、きれいな家具が設置され、とても喜んでおります。
時間をかけて丁寧に設置いただき、感謝しております。
家具の製作もさることながら、設置にもかなりの技術を要するのだと感動いたしました。
本当に素敵な家具をありがとうございます。
またお手入れの方法のご説明にいらしていただけるとのことでありがとうございます。
引き続きよろしくお願いいたします。」
Nさん、うれしいお便り、ありがとうございます。

ブラックチェリーの食器棚の引き出し
食器棚右側1段目の引き出しの様子。
ブラックチェリーの食器棚の引き出し
食器棚右側2段目の引き出しの様子。
ブラックチェリーの食器棚の引き出し
食器棚右側3段目の引き出しの様子。
ブラックチェリーの食器棚の引き出し
食器棚右側4段目の引き出しの様子。
ブラックチェリーの食器棚の引き出し
食器棚右側5段目の引き出しの様子。

納品からしばらくして、再びアキコと二人で訪問させて頂きました。
賑やかだった現場はもちろんすっかり落ち着いていてもうN様の暮らしに馴染んだ住まいになっておりました。
食器棚も1ヶ月ほどしか経っていなくてもよい感じに焼け始めていて、色みが濃くなっておりました。
今回はなかなかタイトなスケジュールでしたので、Nさんの思いをゆっくりとお伺いすることができなかったのですが、使っていらっしゃる器やダイニングの照明について思いを聞かせて頂いたり、寝室となっている和室のほんのり明かりが差し込む様子をご自身のアイデアで実現できたことをうれしくお話しされたりと、きちんと思い描いていた暮らしの中に在る様子を拝見することができて、私もアキコもほっとうれしくなったのでした。

ブラックチェリーとステンレスを使ったガラス扉のある吊戸棚と食器棚

価格:790,000円(制作費・塗装費)

*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は30,000円から、取付施工費は50,000円から)

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