
暮らしの中に在る様子
ブラックチェリーとステンレスを使ったガラス扉のある吊戸棚と食器棚
川越 N様
design:Nさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:kenta watanabe
painting:honoka takeishi


中古マンションをリノベーションしてご新居にされるというNさんから食器棚のご相談についてメールをいただきました。
イメージとしてはブラックチェリーを使ったこちらのOさんの食器棚がイメージに近いということでした。
「身近なものから良い色を」多摩 O様
懐かしいですね、今から11年も前に作らせて頂いた家具です。チェリーは焼けてくると、大きく表情が変わってくるので今はきっと深みが出て魅力的な表情になっているのでしょうね。
さっそく、添付くださっていた図を基にどのくらいの金額でできるのかを伝えさせて頂きまして、お話を進めさせて頂けることに。
と、うれしいお話が始まりましたが、このお話が決まって1ヶ月後には採寸するという予定となりました。
ちょうどその時期には今取り掛かっている家具の制作がひと段落するのでスケジュールとして大丈夫なのですが、うーん、これはかなりテンポよく進めていかないといけませんね。
個人的には後付けできる家具はゆっくり作るほうが良いと思っております。
贅沢に時間を取らせてもらえるならば、住み始めてから自分自身の暮らしかたを見つめながら形を考えていく、という方法が一番良いのではないかと思っております。
どういう時間をその場所で持ちたいか、そこに何をしまうと使いやすいのか、その方かしっくりとくる形を描きやすかったりします。
でも、Nさんのようにご新居での生活が始まる時にはその家具が備わっていてほしいという考え方ももちろんあります。
自分にとっての形もしっかりと思い描けていて引っ越してすぐに家具を使い始めたいという場合は、今回のように先にしつらえておくのも良いと思います。
そのあたりは皆さんのペースで思い思いに考えていっていただければと思うのですが、もう一つの心配があるのです。


それは寸法。
特にリノベーションの場合は工期が短いので、私たちが考える採寸ができる時期となるともう引き渡しが間もなくというタイミングが多かったりします。文章が分かりづらいですね。
私たちとしては、可能ならばクロスが張られた状態が最良ですが、それが難しい場合は、できれば石膏ボードが張られている状態で寸法を測りたいと考えております。
その状態であれば、けっこう正確な寸法を測ることができますので。
これが工期の都合上、ボードも貼られていない時期から家具の制作に着手しないと間に合わないという場合もあります。
そうなると、ボードや壁の仕上がりの厚みを差し引いて家具の寸法を検討していくのですが、なかなか数字通りに現場が進むことも難しいことが多いので、ある程度逃げを見て作ることになります。
それでも、想定外のことが起きたりすることもまれにありますので、採寸の時期が早いというのは、きれいな家具作りと反比例してしまうこともあるのでなかなか緊張するわけです。
今回のNさんの場合は、工務店さんがちょうどそのタイミングを見計らってお声掛けくださり、ボードが張られた状態で採寸に伺うことができました。

ただ、工期の終わりがそれなりに迫っていたためか、現地はいろんな職人さんで賑やかな状態。
たまたまアキコにも今日の採寸を手伝ってもらうために同行してもらっていたので、どうにかスムーズに採寸することができましたが、このあとクロスが張られていくことを考えると、やはりもう少し逃げを見ておかないといけなさそうです。
今回は食器棚の両横が壁となるスペースに食器棚を設置するのですが、クロスが張られるので、クロスが壁の出隅(壁の先端部分)に貼られる時は壁の角がつぶれないように樹脂でできたコーナー材をボードの上から角の部分につけるのですが、コーナー材の厚みがあるために角に段差ができてしまいます、その段差が出ないように滑らかにパテを塗っていくので、壁の先端は壁の奥よりも間口が狭くなってしまうことが多いのです。
壁の奥に合わせた寸法で作ってしまうと、壁の先端で家具がつっかえてしまう、ということも起きてしまう可能性がありますので、そのあたりを考慮して分割して作ったり、逃げを見て少し小さく作るのです。
このような考え方で、家具の形がまとまりまして制作に取り掛かりまして、約1ヶ月半後に無事に納品することができたのでした。

「イマイ様
お世話になっております。Nです。
昨日、きれいな家具が設置され、とても喜んでおります。
時間をかけて丁寧に設置いただき、感謝しております。
家具の製作もさることながら、設置にもかなりの技術を要するのだと感動いたしました。
本当に素敵な家具をありがとうございます。
またお手入れの方法のご説明にいらしていただけるとのことでありがとうございます。
引き続きよろしくお願いいたします。」
Nさん、うれしいお便り、ありがとうございます。
納品からしばらくして、再びアキコと二人で訪問させて頂きました。
賑やかだった現場はもちろんすっかり落ち着いていてもうN様の暮らしに馴染んだ住まいになっておりました。
食器棚も1ヶ月ほどしか経っていなくてもよい感じに焼け始めていて、色みが濃くなっておりました。
今回はなかなかタイトなスケジュールでしたので、Nさんの思いをゆっくりとお伺いすることができなかったのですが、使っていらっしゃる器やダイニングの照明について思いを聞かせて頂いたり、寝室となっている和室のほんのり明かりが差し込む様子をご自身のアイデアで実現できたことをうれしくお話しされたりと、きちんと思い描いていた暮らしの中に在る様子を拝見することができて、私もアキコもほっとうれしくなったのでした。
ブラックチェリーとステンレスを使ったガラス扉のある吊戸棚と食器棚
価格:790,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は30,000円から、取付施工費は50,000円から)