
きちんと進んでいたよ
「ステンレスバイブレーションとナラ板目とモールテックスのセパレートキッチン」
茨城 F様
design:Fさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:kenta watanabe
painting:honoka takeishi
茨城のFさんからキッチンのご相談のメールを頂きました。
「初めまして。
ウェブを拝見させていただき、イマイ様のキッチンに一目惚れしまして是非お願い出来たらなと思いご連絡させていただきました。
現在新築の打ち合わせ中で、間取りは決定し、今はインテリアコーディネーターさんとの打ち合わせを行なっているところです。
キッチンを決める上で、無垢のオーダーキッチンを探していたところイマイ様を見つけて一目惚れしご連絡させていただきました。
しかしながら予算との兼ね合いもあり、一度大まかなお見積りをお願いしたいです。
希望としては
・ペニンシュラキッチンとカップボード
・床材が無垢床のオークなので色味合わせたいです。
・コンロ側、シンク側の天板はステンレスバイブレーション仕上げ。
・天板薄くして浮いてるみたいにしてほしいです。(予算をみて)
・食洗機フロントオープンタイプ45型入れたいです。
・シンク下はゴミ箱スペースほしいです。
・洗剤スポンジ置き欲しいです。
・ワイヤーシェルフ欲しいです。
・カップボードに炊飯器の収納が欲しいです。
・それぞれの奥行きがどれくらいが良いのか分からないのでご相談したいところです。
壁の厚みなどで誤差あると思いますがざっくりこんな感じかなというイラストを描いてみました。
コンロとカップボードの間には壁が必要みたいなので、壁を挟みます。シンク側はモールテックスの腰壁を付けようかなと検討中です。
わかりづらいかと思うので、間取り図も一緒に送らせていただきます。確認よろしくお願いします。」
と、とても丁寧なスケッチを一緒に送ってくださいましたので、おおよそのどのくらいの金額で制作できるかをお伝えしたのでした。
まずは、両横と背面はモールテックスになるかもしれないということで、参考までに無垢材でパネルを作る場合の金額をお伝えしました。
また、引き出しの前板などの収納部分の仕上げも無垢材だとコストが高くなってしまうと思いましたので、こちらは突板合板を使う形で考えてお伝えしたのでした。
それでもやはりFさんの予算を大きく超えてしまうそうで、ただ、どうしても私たちのキッチンを迎え入れたいのです、ということで、どの部分の加工や材料を抑えれば減額につながるのかを検討してしていったのでした。
Fさん、うれしい気持ちをありがとうございます。
そして、どうにかキッチンを導入できるだろうという期待を持ちながら、ご主人と奥様のお二人が遠路はるばるこちらまでいらしてくださいました。
まだお若いお二人、まるで私の娘と変わらないくらいに思える初々しさです。
奥様の印象もメールの文面のほうが饒舌に感じたくらい奥ゆかしい様子で、二人ともお若いのに物静かだ。
それでも、実際のキッチンの様子を見て頂きながら、どこをどのくらい減額できるのかという具体的なお話もさせて頂いたり、オイル塗装もご自身で行なって頂くことで減額できることをお伝えしたりしたあとに、あらためてFさんのご要望を踏まえた上で予算に近いかたちで実現可能なキッチンのイメージをスケッチにまとめ直して打ち合わせは終了。
実際のキッチンや家具をにこやかに見ていってくださって気に入ってもらえたようでして、実現できるとうれしいのですね。
あとはご新居の建築全体のコストから考慮して、現実的に導入できるかどうかをお二人で検討して頂くことになりました。
そうして、しばらくして、
「お世話になります。昨日の家の打ち合わせでイマイ様にオーダーキッチンをお願いする方向になりました。
今後ともよろしくお願いいたします。」
とうれしいご連絡を頂きまして、無事に私たちのキッチンを入れることができることになったのでした。
制作のご依頼を頂けるとのことでありがとうございます。大変うれしく思っております。
プランはこの時点でおおよそまとまっておりましたので、Fさんとのやり取りはいったんストップとなりまして、このあと工務店の担当者さんから連絡を頂けることになりました。
この、工務店さんとのやり取りが始まる時期は、その工務店さんによってまちまちで、どちらかというと上棟して現場に伺って初めてご挨拶させて頂く場合が多いのですが、今回は自社設計施工の工務店さんということもありまして、工事の着工前から設計担当の方からご連絡を頂いたのでした。
![リクシルのナビッシュ[SF-NAA471SY]](https://www.freehandimai.com/wp-content/uploads/2025/08/isf009.jpg)
さて、工務店さんとのやり取りで尋ねられることが多いのは以下のことになります。
まずは給排水や電気の位置がどこになるのか、制作にどのくらいかかるのかといった基本的なことが多いですが、私もこうしてこじんまりとキッチンを作り続けて20年になりますので、ようやくこのあたりのやり取りは慣れてきた次第ですが、すべてが独学ですから、キッチンを作り始めた当初はきっと工務店さんはやりづらかったのだろうなあと振り返るのです。
この位置出しや家具の納まりの逃げの取り方、さらには水栓器具や食洗機なんて家具作りには今まで全く出てこなかったものですから、懇意にしてくださる工務店の監督さんや設計士さん、さらにはキッチンメーカーに勤めているお客様からもアドバイスを頂いたりして今こうして皆様のご要望に合わせたキッチンを作ることができているのです。ありがたいことです。
それでも、逆止弁とか連動排気とか連動給気とか乾燥促進とかモールテックスなどと見知らぬことばかりが現れてきますのでなかなか前に進めている気がしません。

それでも、こうして私たちの形を気に入ってくださる方々がいらっしゃるということは、きっと少しずつは前に進めているのでしょう。
先日、大変久しぶりに家族で海水浴に出かけて海で泳ぐ機会がありました。
泳ぐことは得意ではなく、むしろ足がつかない海で泳ぐなんておっかないくらい情けないのですが、なんとなしに泳いでみたのです。
海というのはもちろん波がありますので、どうにも自分は進んでいるのか流されているのか感覚がおぼつかない。それに周りを見ても遠くの景色というのは本当にゆっくり変わるくらいなので、自分が岸から遠くなっているのかその場でバタついていただけなのかもおぼつかない。
周りを見回してもすぐそこの距離なんて水面に書かれているわけではないから、やっぱりよく分からない。
それでも砂浜から見ていた娘たちは、「さっきはきちんと進んでいたよ。」とそっけない返事。
そんなものなのかもしれません。
自分ではっきりとした確信の持てないまま、だた良いことだと信じて進んできたことは、自分には分かりづらくてもまわりからはきちんと見てもらえているのかもしれない。Fさんの「一目惚れしました。」といううれしい一言は私が砂浜から自分自身を見ることができたように思えたのでした。
さて、その新しく覚えなくてはいけないことにモールテックスというものがありました。
今回のFさんで初めて使用するわけはないのですが、このモールテックスとキッチンときれいに納めるためには少し苦労しながら形を考えていくことが多いのです。
ちなみに、「イマイさんのところでもモールテックス仕上げも可能でしょうか。」と時々聞かれることがあります。よく家具やキッチンでも採用されている写真を見かけることが多くなりましたので、私たちも聞かれるようになったのですが、今のところ私たち自身で施工は行なっていないのです。
モールテックス仕上げになる場合は、下地の状態で納品してそのあとに左官屋さんに塗って頂く、という形を採っています。
講習を受けたらだれでもできるという印象を持たれるモールテックスですが、やはり均一な厚み均質な仕上げで塗り重ねていくことは、経験を重ねてできあがる表情です。
一朝一夕でできるものではありませんので、私たちとしては気軽にそこまで踏み込むのは良くないのではないかと思っているのです。
そして、今回はシンクのつくアイランドキッチンのまわりをモールテックスで仕上げることになりましたので、キッチンや左官工事の時期について事前に担当者さんと打ち合わせしていく必要があります。
左官仕事はキッチンが入った後のほうがしやすい。さらにはタイルも今回のような見せ方の場合は、キッチンが入ってからのほうがタイル屋さんも貼りやすい。
そうなると、大工さんの木工事が終わってすぐにキッチンを納品する形が良いので、制作にはそろそろ着手しないといけない。
そうなると、シンクあたりの腰壁のできあがりを待っていてはキッチンの制作が追い付かない・・というようなことを、上棟前にメールで事前にやり取りしていったのでした。
そして、そのモールテックスの段取りが終わったら、さらに食洗機の電圧をいくつにするのか、今回のIHを入れる場合の電流がいくつかなどなど、いろいろなことが複雑に絡み合った糸をこの打ち合わせできちんとほぐしてつないでいくのですが、その糸が多くて大変。
「木のキッチンは良いですよ。」などと気軽に言っていられないくらい、その完成に近づいていくためにはいろいろな過程があったりします。
そして、そのあたりを上棟後の打ち合わせの時にすべて整理して、いよいよ制作に取り掛かるのです。
その前に、今までメールでやり取りしたことを現地で確認です。
今回、細かい打ち合わせ内容の確認のほかにさらに気が引き締まったのは、Fさんのご新居の住所が茨城県の内陸のほうでしたので、段取りよく進めないとすぐに行って帰ってこられる距離ではなかったですので、緊張したのです。
その上棟後の打ち合わせには、設計の担当者さんと監督さん、そしてFさんご夫婦も立ち会ってくださいました。
キッチンを設置するスケジュールの関係で、かなり早いタイミングでの打ち合わせとなりまして、現場はまだ上棟して間もなくの資材が搬入されたばかりのタイミング。
大引や根太の上をピョンピョン渡りながら、ここにこうしてキッチンが納まる予定で、この辺りに配管が立ち上がってくる感じで、とみんなで確認していったのでした。
こういう状況での打ち合わせとなると、あとはもう現場の精度にお任せするしかなくて、数ミリの逃げや調整代をあらかじめ見込んでおく形で制作に取り掛かることになりました。
そして、形自体はシンプルなキッチンでしたので制作は順調に進めることができまして、いよいよ設置工事の日程を待つばかりとなりました。
と、いうタイミングで、左官屋さんとタイル屋さんの工事日程に変更が出て、急きょキッチンの設置と他業者さんとの工程を入れ替えることに。
事前に打ち合わせをしていてもなかなか予定通りに進まないこともありますが、今回はシンク側とコンロ側と家電収納という3つのキャビネットの構成になっていて、数日かけての取付になることが予想されていたので、できる部分から取り付けに入らせて頂いて、無事に設置が完了。
このあとにFさんにオイル塗装を行なって頂いて無事にすべてが完了。一安心です。
ちなみにFさんのご主人は塗装のお仕事をされているということで、普段はこのような家具のオイル塗料は扱わないのだそうですが、とてもきれいに仕上がっておりました。
このようにキッチンというのは私たち家具屋だけでできるものではなく、そこに住むみなさん、いろいろな業者さんとの連携で成り立つものなのだとあらためて感じたのでした。
後日、Fさんのご新居を尋ねました。
「本日は遠いところ来ていただきありがとうございました。
まだ、引っ越し間もなく片付いていない中でしたが、お写真拝見いたしまして、すてきに撮って頂きうれしいです。
塗装やステンレスのお手入れについても教えてくださりありがとうございました
キッチンは家の中でも特にお気に入りの場所になりました。これから使うのが楽しみです!
経年変化を楽しみながら沢山使って育てていきたいです。
今後ともよろしくお願いいたします」
また、お会いできる時が来るのを楽しみにしております。
| 天板 | ステンレスバイブレーション |
|---|---|
| サイドパネル | モールテックス |
| バックパネル | モールテックス |
| 前板・扉 | ナラ板目突板 |
| 本体外側 | ナラ板目突板 |
| 本体内側 | ポリエステル化粧板 |
| 塗装 | オイルノーマルクリア塗装仕上げ |
ステンレスバイブレーションとナラ板目とモールテックスのセパレートキッチン
価格:1,280,000円(制作費のみ、塗装は施主施工、設備機器費用は別)
ナラ板目のカップボード
価格:425,000円(制作費のみ、塗装は施主施工、設備機器費用は別)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は80,000円から、取付施工費は170,000円から)





















