
春うららかに
「コーリアンとブラックチェリーのパレートキッチン」
真鶴 S様
design:内田雄介設計室/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:kenta watanabe/honoka takeishi
painting:kenta watanabe/honoka takeishi
内田雄介さんはナラ材をよく使うのです。
今までご相談頂いたキッチンも内田さんの自邸もナラ材。
たしかにたしかに。
「ナラ材の色や表情が好きというのが一番なのですが、他の樹種でキッチンを作ることを今までチャレンジしたことがなかったので、私にとってはなかなかの冒険になるかもしれません。」

今回のSさんのキッチンも当初はナラ材でお話が進むかのように見えたのですが、内田さんとSさんが私たちのショールームまで打ち合わせにいらしてくださった時にここに置かれているブラックチェリーのスピーカーやL型のキッチンを見て、「この深い色はすてきですね。」とSさん。
最近はブラックチェリーを使う機会が増えています。
皆さん同じくここでスピーカーやキッチンの深い色を見て決めてくださるのですが、チェリーは色の変化が大きい樹種でもあります。
最初はこの深い色ではなくもう少し淡い桃色のような赤みのある色で、少し思っていた印象と違うかな、と思う方もいらっしゃったのですが、1年ほどでけっこう色みが増してきて思い描いていた色に近づいてきます。
その分日焼けが激しいので、うっかり物を置きっぱなしにしておくと、物があった場所だけくっきり色が明るいままになってしまうこともあって少し注意が必要な樹種でもあります。
「うん、それでもいいです。きれいな色ですから。」
とすっかりチェリーの色に惹かれたSさんに、内田さんが冒頭のようににこやかに伝えてくれました。
そして、選んだワークトップの素材も、いつもの内田さんのテイストだとステンレス一択なのですが、今回は人工大理石で、デュポン社のコーリアンの「クラムシェルⅡ」という少しベージュかかったカラーを選んだのでした。色濃くなったブラックチェリーとよく合いそうで、柔らかな印象のキッチンにまとまりそうです。

直接私たちにキッチンの相談を頂ける場合は、事前にメールのやり取りなどである程度その人の好みや思いを教えて頂いている場合が多いので、お会いする前からその人となりが何となく分かっているのですが、今回のように、内田さんが「これはイマイさんにキッチンを作ってもらうとよくまとまるだろう。」と思ってくださってお客様を連れていらしてくださる場合は、私はそのお客様がどのような方なのかお会いするまで分からないものですので、こうしてお話をしながらはじめてその人の好みや雰囲気と言ったキッチン作りのヒントになるきっかけを手探りしながら見つけていくことになります。
今回、Sさんとお話をしていると、作る人と使う人の距離よりももう少し近い印象を持つことができまして、このSさんのふんわりとお話をする印象がチェリーや石と言った素材とよく似あうような気がしていて、内田さんの物静かな中にきっぱりとした存在感のある空間にどのようにキッチンが溶け込んでいくのか今から楽しみでした。
さっそくそのイメージをスケッチに描いてみて、ほぼそのイメージの通りでキッチンの制作を進めていくことになりました。
そこで、次にそのスケッチを実現できるように図面に描き起こしてみて、Sさんの使い勝手とうまく合うかどうかを細かい寸法を確認して頂きました。
でも、Sさんはその印象そのままの人で、「使い勝手を先にしっかり決めておきたいです。」というよりも「できあがった形に合わせて柔軟に使い始めていきたいです。」とお考えでしたので、スケッチから大きな変更はなく、制作に取り掛かる段取りに入っていったのでした。
そして、いよいよ新築工事が始まりまして大工さんの工事が始まって間もなくのタイミングで現地に伺いました。
真鶴という町は馴染みがなくて、失礼ながら伊豆半島に抜ける時に乗り入れる真鶴道路がいつも混むあたりだなというくらいの思いしか持ち合わせていなかったのです。
昔、自転車で大観山まで出かけた時に、旧道(というのかな)真鶴道路を自転車が通れることを知らなくて県道740号線をくねくねとひたすら走ったことがあるのが唯一の思い出ででした。
内田さんから、「そろそろ現地で打ち合わせができます。」と声が掛かって東海道線でのんびりと揺られており立ったその場所をこうしてあらためて訪ねてみると、山肌に沿って物静かでとても落ち着いた気持ちの良い街並みが広がっていました。
駅から現地に到着する途中には古い家や店だけではなく、どこかアーティスティックなカフェやベーカリーがあったりして、このゆったりした空気は創作活動には心地よさそうなのでした。
Sさんも当時は世田谷に住まいがあったのですがこうして真鶴に越してこられる。
ゆったりした空気に惹かれてくる気持ちがこうして歩いているとよく分かりました。


「こんにちは、お邪魔します。」
真鶴でも息が白くなる2024年の年の初めです。
と入らせてもらうとすでに内田さんと工務店の市丸さんがお話をされていました。
「市丸さん、お久しぶりです。今回もお世話になります。」
と挨拶をさせて頂いて、まだ断熱材が入れられる前の状態でしたが、おおよその納まりや搬入経路を確認。
「イマイさんも老眼ですか。」と市丸さん。
2015年に初めて市丸さんとお会いしてからだいぶ時間が経ちまして、みんなすっかりおじさんです。
しばらくしてSさんもいらしてくださって、2階のリビングに上がってくるなり「なんてすてきな屋根!」と顔をほころばせました。
いよいよ始まりますね。
当時の日記
2024年1月11日「海のそばへ」
今回ちょっと早いこの時期に伺ったのは、「2階には掃き出しの窓がないんですよ。」と内田さんから言われて搬入できるのかどうかが心配だったからでした。
そのあたりも市丸さんと相談できて、階段の造作を少し待っていただけることになって、さらには天板が人工大理石になったので、長さが長くても分割して作って現地でつなぐことで1枚に見せることができると安心して戻ってきたのでした。
そしていよいよワタナベ君の担当で制作が始まりました。
また、今回は内田さんから「できれば下駄箱も追加でイマイさんに作ってもらいたくて。」とうれしい相談を頂いておりまして、先日の現場の状況だと玄関まわりの採寸は難しかったので、前回の現地確認からしばらく時間を開けたタイミングで再びお邪魔させて頂くことに。
「来られるならキッチンの配管の位置を出してほしいのです。」と市丸さんからのご要望も受けて、それならアキコに手伝ってもらおうと二人で伺わせて頂きました。
当時の日記
2024年2月23日「現調」
再びSさんもいらしてくださって、お土産までいただいてしまいました。
ありがとうございました。
さて、これですべて寸法がまとまりましたので、予定時期までに制作が終わるように進めていきます。
キッチンは順調に制作が進んでいて、下駄箱はタケイシさんが担当します。
シンプルな形ですが、手掛けの形状がいつもの形と少し違ったデザインで仕上げていきます。
そして、しばらくして市丸さんから「そろそろ大工さんが終わるのでキッチンを入れましょう。」という連絡を頂いていざ取付に。
事前確認は問題なかったからスムーズにいくかな、と思っていたら、大工さんが階段のそばの造作の真っ最中で、搬入にしばらく時間が掛かりそうな感じでしたが、「ちょっと待ってね。」と大工さんが手早くその周りの作業を片付けてくれて、しまいには階段がないから手間取っている荷揚げに手を貸してくださって。
順調に作業は終わったのでした。
ありがとうございました、たいへん助かりました。
当時の日記
2024年3月19日「チェリーのセパレートキッチン」
そのあとの玄関収納も無事に設置が終わってこれで完了。
ひと安心です。
と思ったのもつかの間、現場で引き戸がいつの間にか開いてしまっていたようで、うっかりしばらく数日そのままの状態になってしまっていたという連絡が。
で、引き戸を元のように閉めてみたら、空いて隠れていた部分と露出していた部分とでくっきり日焼けの具合が変わってしまったとのこと。
あらあら、どうしよう。
ひとまず引き取ってきて状態を確認してみて「ダメで元々でやってみようか。」ということで、引き戸の隠れていた部分はそのままにして、露出していた部分をきれいに新聞紙で覆って、しばらく放置。
以外と良い具合に焼けてきて、何度か試してみたらすっかり分からないくらい全体の焼け具合が馴染んでくれましてひと安心。
こうして無事にきれいな状態でお引き渡しすることができたのでした。
当時の日記
2024年5月30日「ブラックチェリーのセパレートキッチン」

そして半年ほど経った頃。
以前にもお伝えしたことがあるかもしれませんが、キッチンや家具はお引き渡しの時よりも少し使い始めた頃のほうがお手入れの方法をお伝えしやすいのです。
というのも、お引き渡しの時って他にも家のことをいろいろと申し伝えられてしまうので、全部をその場で覚えておくことってなかなか難しいと思うのです。
それに使ってみないとしっくり頭に入らないことってあると思います。
特にキッチンなんて、木の表面が少しざらついたり、天板が使い込まれてからのほうが、お手入れ方法が頭に入りやすかったりします。
そこで、このタイミングであらためてお邪魔させて頂きました。
当時の日記
2025年1月26日「コーリアンとブラックチェリーのセパレートキッチン」


Sさんご家族が心地よく暮らしている様子も拝見できて、一緒に暮らす三匹の猫たちもとても行儀よくキッチンにいたずらすることも無いようで、さらにはメンテナンス中に猫たちもすり寄ってきてくれて(うれしい)、とても心地よい時間でした。
そこはお名前に春の季語が入っているSさんのようにうららかな空気に包まれておりました。
Sさん、ありがとうございました。
| 天板 | コーリアン「クラムシェルⅡ」 |
|---|---|
| 前板・扉 | ブラックチェリー板目ランダム張り突板 |
| 本体外側 | ブラックチェリー板目ランダム張り突板 |
| 本体内側 | ポリエステル化粧板 |
| 塗装 | オイルノーマルクリア塗装仕上げ |
コーリアンとブラックチェリーのパレートキッチン
価格:2,150,000円(制作費・塗装費のみ、設備機器費用は別)
ブラックチェリーの下駄箱
価格:400,000円(制作費・塗装費のみ、設備機器費用は別)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は60,000円から、取付施工費は220,000円から)































