春うららかに

「コーリアンとブラックチェリーのパレートキッチン」

真鶴 S様

design:内田雄介設計室/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:kenta watanabe/honoka takeishi
painting:kenta watanabe/honoka takeishi

コーリアン「クラムシェル」とブラックチェリー板目ランダム張りのセパレートキッチン
LDKのダイナミックな屋根の構造が現れた印象やアールが強調された建具のデザインなど今までの内田さんの作品とはまた趣の異なる空間。チェリーのキッチンの見せ方もひと工夫があります。

内田雄介さんはナラ材をよく使うのです。
今までご相談頂いたキッチンも内田さんの自邸もナラ材。
たしかにたしかに。

「ナラ材の色や表情が好きというのが一番なのですが、他の樹種でキッチンを作ることを今までチャレンジしたことがなかったので、私にとってはなかなかの冒険になるかもしれません。」

コーリアン「クラムシェル」とブラックチェリー板目ランダム張りのセパレートキッチン
引き戸はシンプルに大きな2枚の引き戸の構成。特別な金物は設けずに戸の下に戸車を組み込んでいるだけの作り。シンプルで美しい印象になりました。表面材はブラックチェリーのランダム張り突板という木目の並びをバラバラにしたものを使っているので、豊かな表情に仕上がっています。
コーリアン「クラムシェル」とブラックチェリー板目ランダム張りのセパレートキッチン
キッチン突きあたりに白い壁があって、その部屋がパントリーになっている、というレイアウト。

今回のSさんのキッチンも当初はナラ材でお話が進むかのように見えたのですが、内田さんとSさんが私たちのショールームまで打ち合わせにいらしてくださった時にここに置かれているブラックチェリーのスピーカーやL型のキッチンを見て、「この深い色はすてきですね。」とSさん。
最近はブラックチェリーを使う機会が増えています。
皆さん同じくここでスピーカーやキッチンの深い色を見て決めてくださるのですが、チェリーは色の変化が大きい樹種でもあります。
最初はこの深い色ではなくもう少し淡い桃色のような赤みのある色で、少し思っていた印象と違うかな、と思う方もいらっしゃったのですが、1年ほどでけっこう色みが増してきて思い描いていた色に近づいてきます。
その分日焼けが激しいので、うっかり物を置きっぱなしにしておくと、物があった場所だけくっきり色が明るいままになってしまうこともあって少し注意が必要な樹種でもあります。
「うん、それでもいいです。きれいな色ですから。」
とすっかりチェリーの色に惹かれたSさんに、内田さんが冒頭のようににこやかに伝えてくれました。

コーリアン「クラムシェル」とブラックチェリー板目ランダム張りのキッチンのスケッチ
内田さんとSさんがいらしてくださった際に打ち合わせた内容を新たにまとめ直したスケッチ。
コーリアン「クラムシェル」とブラックチェリー板目ランダム張りのキッチンのスケッチ
この当初のイメージからほぼ変わることなくキッチンはできあがりました。
ブラックチェリー板目ランダム張りの玄関下駄箱のスケッチ
追加でご依頼いただいた下駄箱のスケッチ。

そして、選んだワークトップの素材も、いつもの内田さんのテイストだとステンレス一択なのですが、今回は人工大理石で、デュポン社のコーリアンの「クラムシェルⅡ」という少しベージュかかったカラーを選んだのでした。色濃くなったブラックチェリーとよく合いそうで、柔らかな印象のキッチンにまとまりそうです。

コーリアン「クラムシェル」とブラックチェリー板目ランダム張りのセパレートキッチン
カウンタートップはコーリアンの「クラムシェルⅡ」。今回はダイニング側に引き戸の収納を設けているのですが、その天板はブラックチェリーの天板です。その天板とコーリアンの天板とでメリハリをつけたい、ということで、チェリー材の厚み分だけ段差を設けています。また、サイドパネルもそれに合わせて立ち上がるようなデザインにしています。

直接私たちにキッチンの相談を頂ける場合は、事前にメールのやり取りなどである程度その人の好みや思いを教えて頂いている場合が多いので、お会いする前からその人となりが何となく分かっているのですが、今回のように、内田さんが「これはイマイさんにキッチンを作ってもらうとよくまとまるだろう。」と思ってくださってお客様を連れていらしてくださる場合は、私はそのお客様がどのような方なのかお会いするまで分からないものですので、こうしてお話をしながらはじめてその人の好みや雰囲気と言ったキッチン作りのヒントになるきっかけを手探りしながら見つけていくことになります。
今回、Sさんとお話をしていると、作る人と使う人の距離よりももう少し近い印象を持つことができまして、このSさんのふんわりとお話をする印象がチェリーや石と言った素材とよく似あうような気がしていて、内田さんの物静かな中にきっぱりとした存在感のある空間にどのようにキッチンが溶け込んでいくのか今から楽しみでした。

ブラックチェリー板目ランダム張りの引き出し
今回は食洗機はつけていません。代わりに収納量を増やすために引き出しを幅広く作っています。また、こちら側の引き出しは濡れた手でも木に直接触ることの無いようにしんちゅうのはんどるをつけています。
ブラックチェリー板目ランダム張りの引き出し
シンク左隣の引き出しの1段目。ちなみに、この引き出しの内寸は、幅853ミリ×深さ100ミリ×奥行510ミリ。
ブラックチェリー板目ランダム張りの引き出し
シンク左隣の引き出しの2段目。
ブラックチェリー板目ランダム張りの引き出し
シンク左隣の引き出しの3段目。

さっそくそのイメージをスケッチに描いてみて、ほぼそのイメージの通りでキッチンの制作を進めていくことになりました。
そこで、次にそのスケッチを実現できるように図面に描き起こしてみて、Sさんの使い勝手とうまく合うかどうかを細かい寸法を確認して頂きました。
でも、Sさんはその印象そのままの人で、「使い勝手を先にしっかり決めておきたいです。」というよりも「できあがった形に合わせて柔軟に使い始めていきたいです。」とお考えでしたので、スケッチから大きな変更はなく、制作に取り掛かる段取りに入っていったのでした。

洗剤ポケット付きのステンレスバイブレーションシンク
シンクはステンレスバイブレーション仕上げ。洗剤ポケットを設けて、さらに水栓器具がコーリアンに直接取り付けるのではなく、ステンレスの上に取り付けるようにして掃除をしやすくしています。
シンク手前の家電用コンセント
シンク手前の幕板には調理家電用のコンセントを備えています。ちなみにコンセントはJIMBOのNKシリーズの「KAG1501」。
シンク側面の家電用コンセント
キッチン側面にはダイニング側から使うことができるようにコンセントをつけています。

そして、いよいよ新築工事が始まりまして大工さんの工事が始まって間もなくのタイミングで現地に伺いました。
真鶴という町は馴染みがなくて、失礼ながら伊豆半島に抜ける時に乗り入れる真鶴道路がいつも混むあたりだなというくらいの思いしか持ち合わせていなかったのです。
昔、自転車で大観山まで出かけた時に、旧道(というのかな)真鶴道路を自転車が通れることを知らなくて県道740号線をくねくねとひたすら走ったことがあるのが唯一の思い出ででした。
内田さんから、「そろそろ現地で打ち合わせができます。」と声が掛かって東海道線でのんびりと揺られており立ったその場所をこうしてあらためて訪ねてみると、山肌に沿って物静かでとても落ち着いた気持ちの良い街並みが広がっていました。
駅から現地に到着する途中には古い家や店だけではなく、どこかアーティスティックなカフェやベーカリーがあったりして、このゆったりした空気は創作活動には心地よさそうなのでした。
Sさんも当時は世田谷に住まいがあったのですがこうして真鶴に越してこられる。
ゆったりした空気に惹かれてくる気持ちがこうして歩いているとよく分かりました。

ブラックチェリーの引き戸の手掛け
チェリーの天板よりもサイドパネルを勝たせる見せ方。サイドパネルは表面は突板ですが、小口には2~3ミリの無垢を練りつけています。引き戸の手掛けは戸の端部に無垢を練りつけてその部分に掘り込みを入れる見せ方。
ブラックチェリーのカウンターと側板の納まり
チェリーの天板とサイドパネルは現場組みになるのですが、引き戸を開け閉めしていると隙間が開く可能性があるため、側面からビス止めして木栓で化粧しています。ちなみに今回のサイドパネルはヨコ目。内田さんのリクエストです。
ブラックチェリーのカウンターと側板と引き戸の納まり
引き戸内部は白いポリエステル化粧板で作って掃除をしやすくしています。奥行きの浅い可動棚を2枚ずつ備えました。

「こんにちは、お邪魔します。」
真鶴でも息が白くなる2024年の年の初めです。
と入らせてもらうとすでに内田さんと工務店の市丸さんがお話をされていました。
「市丸さん、お久しぶりです。今回もお世話になります。」
と挨拶をさせて頂いて、まだ断熱材が入れられる前の状態でしたが、おおよその納まりや搬入経路を確認。
「イマイさんも老眼ですか。」と市丸さん。
2015年に初めて市丸さんとお会いしてからだいぶ時間が経ちまして、みんなすっかりおじさんです。
しばらくしてSさんもいらしてくださって、2階のリビングに上がってくるなり「なんてすてきな屋根!」と顔をほころばせました。
いよいよ始まりますね。

当時の日記
2024年1月11日「海のそばへ

レンジフードはアリアフィーナのフェデリカ
レンジフードはアリアフィーナのフェデリカ。
ガスコンロはノーリツ「ピアットライト」
ガスコンロは、ノーリツのピアットライト。

今回ちょっと早いこの時期に伺ったのは、「2階には掃き出しの窓がないんですよ。」と内田さんから言われて搬入できるのかどうかが心配だったからでした。
そのあたりも市丸さんと相談できて、階段の造作を少し待っていただけることになって、さらには天板が人工大理石になったので、長さが長くても分割して作って現地でつなぐことで1枚に見せることができると安心して戻ってきたのでした。
そしていよいよワタナベ君の担当で制作が始まりました。

調味料用の引き出し
調味料用の引き出し1段目。
調味料用の引き出し
調味料用の引き出し2段目。
調味料用の引き出し
調味料用の引き出し3段目。

また、今回は内田さんから「できれば下駄箱も追加でイマイさんに作ってもらいたくて。」とうれしい相談を頂いておりまして、先日の現場の状況だと玄関まわりの採寸は難しかったので、前回の現地確認からしばらく時間を開けたタイミングで再びお邪魔させて頂くことに。
「来られるならキッチンの配管の位置を出してほしいのです。」と市丸さんからのご要望も受けて、それならアキコに手伝ってもらおうと二人で伺わせて頂きました。

当時の日記
2024年2月23日「現調

再びSさんもいらしてくださって、お土産までいただいてしまいました。
ありがとうございました。

コンロ下のスライドワイヤーシェルフ
コンロ下はスライドワイヤーシェルフ。
コンロ下のスライドワイヤーシェルフ
魚焼きグリル付きのコンロを導入してその下にワイヤーシェルフを設置する場合は、3枚備えることが多いです。

さて、これですべて寸法がまとまりましたので、予定時期までに制作が終わるように進めていきます。
キッチンは順調に制作が進んでいて、下駄箱はタケイシさんが担当します。
シンプルな形ですが、手掛けの形状がいつもの形と少し違ったデザインで仕上げていきます。

そして、しばらくして市丸さんから「そろそろ大工さんが終わるのでキッチンを入れましょう。」という連絡を頂いていざ取付に。
事前確認は問題なかったからスムーズにいくかな、と思っていたら、大工さんが階段のそばの造作の真っ最中で、搬入にしばらく時間が掛かりそうな感じでしたが、「ちょっと待ってね。」と大工さんが手早くその周りの作業を片付けてくれて、しまいには階段がないから手間取っている荷揚げに手を貸してくださって。
順調に作業は終わったのでした。
ありがとうございました、たいへん助かりました。

当時の日記
2024年3月19日「チェリーのセパレートキッチン

コンロ側キッチンの引き出しの様子
コンロの隣に引き出しは深め、上段。
コンロ側キッチンの引き出しの様子
コンロの隣に引き出しは深め、下段。
コンロ側キッチンの引き出しの様子
深めの引き出しの隣は食器用の引き出し、1段目。
コンロ側キッチンの引き出しの様子
深めの引き出しの隣は食器用の引き出し、2段目。
コンロ側キッチンの引き出しの様子
深めの引き出しの隣は食器用の引き出し、3段目。
コンロ側キッチンの引き出しの様子
その右列の引き出しは多用途に活用されています。1段目。
コンロ側キッチンの引き出しの様子
その右列の引き出しは多用途に活用されています。3段目。3率いるネコたちのご飯。

そのあとの玄関収納も無事に設置が終わってこれで完了。
ひと安心です。
と思ったのもつかの間、現場で引き戸がいつの間にか開いてしまっていたようで、うっかりしばらく数日そのままの状態になってしまっていたという連絡が。
で、引き戸を元のように閉めてみたら、空いて隠れていた部分と露出していた部分とでくっきり日焼けの具合が変わってしまったとのこと。
あらあら、どうしよう。
ひとまず引き取ってきて状態を確認してみて「ダメで元々でやってみようか。」ということで、引き戸の隠れていた部分はそのままにして、露出していた部分をきれいに新聞紙で覆って、しばらく放置。
以外と良い具合に焼けてきて、何度か試してみたらすっかり分からないくらい全体の焼け具合が馴染んでくれましてひと安心。
こうして無事にきれいな状態でお引き渡しすることができたのでした。

当時の日記
2024年5月30日「ブラックチェリーのセパレートキッチン

コンロ側キッチンの扉を開けた様子
一番端は開き扉。全部引き出しでも良いのですが、写真に写っているように背の高いグラスなどは引き出しに入れると倒れることもあります。また、引き出しだと深さが限定されるので、しまいたいものが入らないという場合はここの可動棚を調整してしまうことで、柔軟な収納になると考えております。

そして半年ほど経った頃。
以前にもお伝えしたことがあるかもしれませんが、キッチンや家具はお引き渡しの時よりも少し使い始めた頃のほうがお手入れの方法をお伝えしやすいのです。
というのも、お引き渡しの時って他にも家のことをいろいろと申し伝えられてしまうので、全部をその場で覚えておくことってなかなか難しいと思うのです。
それに使ってみないとしっくり頭に入らないことってあると思います。
特にキッチンなんて、木の表面が少しざらついたり、天板が使い込まれてからのほうが、お手入れ方法が頭に入りやすかったりします。
そこで、このタイミングであらためてお邪魔させて頂きました。

当時の日記
2025年1月26日「コーリアンとブラックチェリーのセパレートキッチン

ブラックチェリーランダム張り突板の玄関下駄箱
下駄箱。長さ2570ミリとなかなかの大きさ。「下駄箱としてだけではなく、玄関を彩るスペースにもなるので、なるべくシンプルな作りにしましょう。」と内田さん。そのシンプルさのために天板を2重にしています。玄関ドアの枠があるので、この下駄箱を1本で作ると搬入できないのです。そこで本体は2分割されていて、その上に1枚で作った天板をかぶせて設置しています。
ブラックチェリーランダム張り突板の玄関下駄箱
いつも作る形と違って扉勝ちになっているデザイン。特に指定がなければいつもは天板勝ちにするところですが見せ方をすっきりさせるためにこの納まりにしています。ちなみに平成建設さんの下駄箱でよく見るデザインで、このSさんの時に思い出したのです。真似てしまってすみません。
ブラックチェリーランダム張り突板の玄関下駄箱
手掛けの納まり。扉上端にチェリーの無垢材を練りつけています。手の当たりが和ら無く感じられるように欠き取った入隅部分はアール加工を施しています。

Sさんご家族が心地よく暮らしている様子も拝見できて、一緒に暮らす三匹の猫たちもとても行儀よくキッチンにいたずらすることも無いようで、さらにはメンテナンス中に猫たちもすり寄ってきてくれて(うれしい)、とても心地よい時間でした。
そこはお名前に春の季語が入っているSさんのようにうららかな空気に包まれておりました。
Sさん、ありがとうございました。

天板 コーリアン「クラムシェルⅡ」
前板・扉 ブラックチェリー板目ランダム張り突板
本体外側 ブラックチェリー板目ランダム張り突板
本体内側 ポリエステル化粧板
塗装 オイルノーマルクリア塗装仕上げ
キッチン仕上げ

コーリアンとブラックチェリーのパレートキッチン

価格:2,150,000円(制作費・塗装費のみ、設備機器費用は別)

ブラックチェリーの下駄箱

価格:400,000円(制作費・塗装費のみ、設備機器費用は別)

*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は60,000円から、取付施工費は220,000円から)

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