
言語化しづらい何か
「タモ板目ランダム張り突板とステンレスバイブレーションの食器棚、そしてテレビボードとデスク」
墨田区 S様
design:Sさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:kenta watanabe/honoka takeishi
painting:kenta watanabe/honoka takeishi

私が専門学校に通っていた頃というと今から約30年前になります。
入学した大学をまわりの状況に流されるようにして数か月で退学することに決めた時に当時の先生から、「もし、またデザインや建築のことを学びたいと思ったのならここに行くと良いですよ。」と教えてもらったのが、当時まだICS(インテリアセンタースクール)と呼ばれていた専門学校でした。

大学をやめた後に、1か月間工事現場のクリーニングのアルバイトでお金を貯めて車の免許を取ったあとにプラプラしている私は父に引っ張られて今の仕事に取り組み始めて2年ほど経った頃にふと先生の言葉を思い出しおもむろに学校に行くことを考え始めたのでした。
ただ、当時の仕事は店舗の什器製作が主な仕事で短納期の慌ただしい作業に埋もれるような毎日でしたので、専門学校に興味があっても昼間に時間を開けて通うわけにも行かず、思案していると2年間の夜間部があるという。さっそくそこに入学するために今まではきちんとやってこなかった製図の勉強をして無事に入学。そこで偶然にも寒川から通うイケメンで1歳年上の同級生ができたことで学校生活がたいへん楽しみになったものでした。
週に3日間は15時に仕事を上がって、18時30分からの授業に出た後に終電で帰ってくるという生活のはじまりはじまり。
両親には、せっかく入れてもらった大学を辞めて、さらに週に3日も仕事に穴を開けてしまう迷惑を掛けてしまうことにもなったわけですが・・。
そんなことも当時の私は気にも掛けずに授業が終わったら、みんなで近くの居酒屋で夜通しお酒を飲んでいたりとなんだか不規則な生活を送っていたのでした。
みんな仕事をしながら、別の学校に通いながらここに来ていたものですので、知らなかったいろいろな話が聞けるとても楽しい時間でした。ここで知り合って今でも一緒にお仕事をさせてもらっているのが自宅を設計してもらった福原正芳さんだったりして、良いお付き合いが続いていてうれしいことです。
そして、そのイケメンのフタミさん。サーフィンが好きでスポーツショップで働きながらここに通っていて、普段はガンダムと池波正太郎が好きという人物でした。
「粂八と血頭の丹兵衛のやり取りが格好いいんだよ。」なんていう彼に影響を受けて、私も鬼平に心酔した時期で、ろくに日本酒の味なんて知りもしないのにお蕎麦屋さんで飲んでみたいなあなんて焦がれた時期でもありました。
話が30年ほどそれてしまいましたが、墨田区の本所のあたりを通る機会があるたびに、そういう思いもあっていつも鬼平を思い出してしまうわけです。
Sさんの住まいも、その本所を通り抜けてスカイツリーが大きく見えるあたりの下町の風情が色濃く残るあたりで、築17年(くらいとおっしゃっていたかな)という年数の割にはとてもきれいな様子の集合住宅がSさんの住まいでした。
そこを全面的に改修するという中で、最初はオーダーメイドのキッチンのご相談を頂いていろいろとお話を進めていたのでしたが、
「いつもお世話になっております。
先日お邪魔させていただきましたSです。
いろいろと迷いがありましてご連絡が遅くなりました。
キッチンの結論ですが、サンワカンパニーのグラッド45という既存品を導入することにしました。
木目の美しさ、使い勝手やメンテナンス性、今井様のお人柄・・・私も妻も最後の最後まで迷ったのですが、妻としてはオールステンレスの見た目が好みということで、このような結論になりました。
せっかくお時間をいただきご説明くださったのに申し訳ありません。
オーダーキッチンは見送りとなってしまったのですが、長年使用していく家具を是非お願いしたいという気持ちがあります。
できればカップボード(+吊り戸棚)・テレビボード・洗面台下部扉の面材、計3点を作製いただけないでしょうか。」
ということで、キッチンのお話は残念ながら無しになってしまったのですが、背面の食器棚と、大きく部屋をつなげたリビングに置くテレビボードを作らせて頂くことになったのでした。
ありがとうございます。

形としては、最初からSさんのイメージがある程度決まっていましたので、その内容を実現可能な形に考え直していくという形で、まずは頂いた内容をもう少し細かく考えたかったのでスケッチを描いてお送りしました。
「お忙しいところ、スケッチの作成ありがとうございます。
私たちの漠然としたイメージを形にしていただき、お陰様で完成形が視覚化されたことで、妻とも相談しやすくなりました。」
ということで、Sさんからさらに具体的なご要望をお聞きすることができまして、おおよそ形がまとまっていったのでした。
そして、まもなくリフォーム工事が始まりまして壁ができあがってきたタイミングで現地にお邪魔させて頂きました。
「こんにちは、家具屋です。」と上がらせて頂く。
現場はまだ大工さんが作業の真っ最中で、ちょっと採寸には早かったのかな、と思ったのですが、監督さんと挨拶をしてお話をお伺いすると、現場のコンセントやタイルの納まりが関わってくる部分があったので、壁を仕上げる前に確認しておきたかったのだそうです。
打ち合わせが進むなかで、「つかぬことを伺いますが、イマイさんって家具だけではなくてオーダーキッチンなども作っていらっしゃるあのフリーハンドイマイさんですよね。」と、おもむろに監督さんがそうおっしゃいました。
「実は、数年前に高井戸のYさんというお客様のリフォームをうちで施工させて頂いたのですが、そこにあった家具がイマイさんが手掛けられたってYさんから聞いていたのですよ。」
おぉ、Yさん、懐かしい。今から11年前にダイニングの壁面収納とテーブルなどを作らせて頂いた「そのひとの色」の高井戸のYさんの家具作りはとても勉強になったことが多く、思い出深いお仕事でした。
あの時にいつかキッチンをリフォームしたいと言っていたのですが、実際にその数年後にダイニングキッチンをリフォームするというご相談を頂いたのでした。ただ、その時は予算が合わなくて、私たちのキッチンを実現することができずとても残念に思っていたのでした。
あの時に作った家具はリフォームに合わせてうまく移設したという話は聞いていたのですが、どのような空間になったのだろうなあ、と少し淋しく思いを引きずっていたっけなあ、なんてことを思い出しました。
そのリフォームに携わった方と今こうして話をしているなんて、不思議ですねえ、と言いながら打ち合わせは順調に終了。
その後、Sさんに現地の状況に合わせて修正した図面をお送りしていよいよ制作に取り掛かります。
今回の制作の難しい部分は、照明と塗装とラタン張りの扉。
担当は、食器棚をタケイシさん、リビングの2台の家具をワタナベ君が、と2人で手分けして制作に掛かる形になりました。

まずはラタン張りの扉。
以前にも何度かワタナベ君が担当したことがあったのですが、今回のように扉の手前からラタンを張る納まりは初めてでしたので、いろいろと試しながらの制作でした。
むかし、木製網戸を作る機会があって、網を張るための構造を加工するのに苦労したことがありましたが、この籐も網戸の網同様にコシがあるので貼り込んでいくのはなかなかコツが要るようですが、きれいに仕上げることができました。

そして、食器棚とテレビボードの照明。
ダウンライトと違ってLEDのテープライトは、家具の端から端までつけることが多く、そうなると埋め込むための板の厚みを増やさないと納めづらかったりします。さらには、変圧するための電源装置を仕込んだり、今回のSさんのように家具のどこかにスイッチを設ける必要があったりすると、配線の取り回しが複雑になってきます。
一般的にLEDは球切れがないと言われていますが、時々負荷がかかって切れてしまうこともあります。そうなると交換する必要があるのですが、基本的に壊れるのは壊れるのは変圧するための電源装置部分が多いです。
以前はこういう変圧装置が照明器具自体に内蔵されたものを使っていたことがありましたが、ある時期に数件のお客様から「照明が点滅してしまう。」という声をいただいてからは内蔵タイプを使うことは止めて、照明部分と電源装置が分離されたもので、電源装置はなるべく交換しやすいようなレイアウトにしています。
そういうことを考えていると結構複雑になるのですが、ここも二人ともきれいに仕上げてくれました。
そして、塗装。
私自身はできればその樹種が持つそのままの色で仕上げる形が好きなのですが、内装に合わせて着色することももちろんあります。
今回Sさんの希望で、家具の色もなるべくフローリングの色に近い感じにしたいと言われていたので、合わせるためにホワイトの着色料の入ったオイルで仕上げています。
この着色料入りのオイルは少しクセがあって、色の乗りが毎回毎回取り寄せるオイルによって微妙に異なるのです。それに新品のオイルと、以前に使って余っていたオイルとでもやはり色の濃度は違ったりします。
なので、後は塗りながら調整していくのですが、この塗り方もコツがあって、塗って間もなく拭き取るのがオイル塗装の基本ですが、色が乗りにくい時は少し寝かせてから拭き取るようにするのですが、そのふき取りの加減で辺縁だけが妙に白身が残ってしまうことがあります。
これが扉1枚だけだとあまり分からないのですが、扉を吊りこんでみるとなんだかまだらに見えることがある。
今回の塗装も最初はそういう印象が出てしまったので、あらためて塗り込んだオイルを溶かして、ふたたび塗り直すことでようやくSさんからお預かりしていたサンプルに近い印象にすることができたのでした。

こうしてなかなか難しい工程がありましたが、無事に制作を完了して、2週に渡ってお邪魔させて頂いた設置も無事に完了したのでした。
「イマイ様
お世話になります。Sです。
いつも遅くまで対応していただきありがとうございます。
床面のレベルが合っていなかったり、色々お手数をおかけしたかと思います。
TVボードとデスクも綺麗に仕上がっており、私も妻も大変気に入っております。
あらためてスタッフの皆さんには感謝をお伝えいただけますと幸いです。」
といううれしいお返事を頂けてひと安心。
その後、あらためてアキコと二人でご挨拶に伺わせて頂きました。
私たちはこうしてお時間を頂いて、住み始めたお客様のところにお伺いする機会をなるべく作っております。
それはお手入れの方法のご説明するためだったり、使っている様子の写真を撮らせて頂くためだったりといろいろな理由があります。
家具の設置した直後だと、そのキッチンや家具を使ってみないと分からないことが多かったりします。
オイル塗装のお手入れの方法だったり、引き出しの外し方だったり。
ですので、少し時間が経った頃にこうしてお邪魔させて頂くことが多いのです。
でもせっかくのお休みのところにお邪魔してしまってすみません。
お嬢ちゃんが「早く外に行きたいなあ。」とお父さんにつぶやく声を後ろに聞きながらひと通りお手入れ方法などをご説明させて頂きました。
「もうすぐで終わりますからね。」
でも、私がこうして住み始めたお客様のところにお邪魔させて頂くのには、実は別に大きな理由があったりします。
毎日こうしていろいろな形を考えていると、ふと自分たちが思う形が思いの通りに進んでいるのだろうか、と不安になるのですね。
もちろん、皆さんが思う形を実現することが一番の目的なのですが、それ以前に自分の思いがずれていってしまったら、作っていること自体が味気なくなってしまう。
そういう不安のようなものは常にどこかにあって、それをよい軌道に修正してもらう、というか自分自身で確認するためにこうしてお伺いするのです。
いろいろなお話のなかに含まれている言葉があって今の私たちがあるのです。
そして、この日も写真を撮らせて頂きながら、いろいろとSさんからお話を聞かせて頂きました。
「イマイさんは言語化しづらい何かを丁寧に伝えてくださいます。」という言葉がとてもうれしく響きました。
ごめんなさいね、お嬢さん、大事なお休みの時間をすこし頂いてしまいまして。おかげさまでよい気持ちを頂くことができました。
Sさん、ありがとうございました。

タモ板目ランダム張り突板を使った食器棚
価格:1,160,000円(制作費・塗装費)
タモ板目ランダム張り突板を使ったテレビボード
価格:800,000円(制作費・塗装費)
タモ板目ランダム張り突板を使ったデスク
価格:580,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は60,000円から、取付施工費は145,000円から)
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