
お互い踏み込んできますね
「天然石とブラックチェリーのコの字型キッチン」
鎌倉 F様
design:Fさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:iku nogami
painting:Fさん

Fさんからお声掛け頂いたのは、見返すと今から4年前にできごとのようです。
最後の納品が昨年でしたので、3年間のお付き合いで実現した形だったのですね。
かなり密度の濃い内容でキッチンやテーブルを作らせて頂いたのに、最初のきっかけがどうやらメールではなく電話だったらしく、もう記憶がおぼろげなのです。
Fさん、すみません・・。

ただ、いまだに何となく覚えているのは、まだキッチンの図面もきちんと描く前の段階だったと思うのですが、一度Fさんと揉めてしまったことがあったような気が・・。それもやはりメールには残っていなくて電話でだったと思うのですが、どちらの何が原因だったのかがもう覚えていなくて、「それでは、この図面を他のオーダーキッチンのメーカーさんにそのままお見せくださってご相談頂いても大丈夫ですので。」というようなことを電話口で鼻息荒く話してしまったという気持ちだけを何となく覚えているのです。
Fさん、すみません・・。
そのような経緯がありましたのに、Fさんは丁寧に「それでもこのキッチンはやはりイマイさんにお願いしたいのです。」と、うれしい言葉をくださったのでした。
私はなんて小さな気持ちしか持ち合わせていないのだろうか・・。これはしっかり気を引き締めて取り組まなくてはいけない。
大変ありがたく、たいへん反省したスタートだったのでした。


「フリーハンドイマイ 今井大輔さま
こんにちは。
お世話になっております。
先日は急なご連絡だったにも関わらず、長い時間にわたりご対応くださいましてありがとうございました。
実際の作品を拝見し、イマイさんと色々お話しする中で、そのお人柄や制作に対する想いや真摯な姿勢がそのまま家具から滲み出ているなと感じました。
家づくりというのは楽しいことばかりでなく、時に困難が立ちはだかって気持ちが折れそうになることもあるのですが、イマイさんとお話し、作品を拝見したことで妻ともども帰路は前向きな気持ちになりました。
こういう「物で、通じ合える」ってなかなかないものですから、とても有意義な出合いだったと感じてます。あらためて、ありがとうございます。
そしてお忙しい中、早々にお見積もりもいただきありがとうございました。
本音を申しますと僕らにとってはかなり贅沢な金額ではあるのですが、キッチンは生活の中枢部であり今回の計画の肝でもあります。
ですので、今回はぜひイマイさんにお願いしたいと考えております。」
Fさん、本当にありがとうございます。
国立に台形と呼ばれるレストランがあったそうです。
私はお酒を飲むこととご飯を食べることは人一倍好きなのですが、あまり外でご飯を食べたり、お酒を飲んだりする機会が多くないので、そのお話をお聞きするまで不思議な名前だな、というくらいに思っていったのですが、聞くと独創的でおいしいお料理を提供されていてなかなか予約が取れない有名なお店なのだそうです。
でもネットで調べてみても詳しい様子はなかなか分かりづらく、板張りのすごく簡素な小屋(失礼に聞こえたらすみません、私は小屋が大好きなのです)と彩りの豊かなお料理の対比が不思議な魅力を持っているところだな、という印象だったのです。
最初に打ち合わせをしている頃には、私はFさんのそのお仕事に気づくことなく、変わった形のキッチンを希望されるのだなあ、という感じでお話を進めておりました。

しばらくして、お料理を提供するお仕事をされていることが分かると、よりFさんの希望が明確に捉えることができるようになりまして、形は徐々に一つの方向にまとまっていったのでした。
しかし、その中でイメージできないこともありました。
それはキッチンの天板です。
Fさんは人工石ではなく、天然石を使いたいとおっしゃっていたのですが、その天然石もよく使うことの多い御影石ではなく、染みなどになりやすい大理石を希望されていました。お店のキッチンと住居のキッチンということで2台のキッチンを手掛けさせてもらうことになっていたのですが、その1台にはさらにボコボコと虫食いの穴が開いたような石種を希望されていて、制作する私たちからすると、汚れがかなり目立ってしまうのではないだろうか、とデメリットばかりに目が向いてしまっていたのでした。

しかし、Fさんからすると、「そういう表情を持つ石の天板なんてすてきじゃないですか。」と、とても前向きな物の見方をされていて、今までのキッチンはこうだろうと思っていた考え方とはがらりと違ったその意見に膝を打つ思いがしたものでした。
そういうやり取りのなかで、Fさんが本を出されるとお聞きしました。

【台形日誌】
伏木庸平 著
晶文社
A5判変型上製 248頁
定価:2,420円(本体2,200円)
978-4-7949-7360-3 C0095 〔2023年5月〕
料理はそんなふうに、
幾重にも差し重ねられた
刺繍のようなものだ
どの料理にも似ていない楽しいごはんを出すお店「台形」。いつの間にか一緒に住み始めた山羊「オク」、懐かしくも異国の風が吹く料理たち、溺愛してカニにシャインマスカットを与える……。辺境飲食店「台形」の、暮らしの星々をつづった奇想で極上な初エッセイ&レシピ集。
これはぜひFさんの考え方を知る良い機会だと思って、そこに書かれた日常をさっそく読ませて頂きました。
「・・本来、暮らしってのは鰻屋のタレとか伯母さんのぬか床みたいな感じに、ハウスとんがりコーンのような状態であるべきだと思うのだけれど・・」
そうだよね、私自身の仕事もいくつもの積み重ねだったり、継ぎ足されて味わい深くなっているものであってほしいよね、なんて思いながら、さらにはいつかFさんたちと一緒に暮らす「オク」に会える日が来るかなと、キッチンを考えながら楽しみになっていたのでした。


そのキッチンは、Fさんが書いてくださったスケッチを基にお話を進めていきました。具体的なご要望が細かく書かれておりましたが、基本的にはとてもシンプルな形。
使いやすいオートマティックなものが書かれているわけでもなく、技巧に富んだこれ見よがしのギミックが描かれているわけでもなく、その文章に書かれていたFさんの味わいそのままのシンプルな形だったのです。
なるほど。
あとはこれを実際の家具の家具の形として設計していってほぼ形は決まっていきました。
そのお話のなかで新たな相談事が出てきました。
実はまだ新居の施工会社さんが決まっていないのだそうです。
今回の新居の設計は、西口賢建築設計事務所さんにお願いされているそうで、西口さんが中部地方で活動されていらっしゃる建築士さんで、こちらの施工会社さんに詳しくないこともあって、どこにお願いすべきか悩んでいたのだそうです。
その時に、ふと「継ぐものたちへ」でお世話になった久保田さんがいろいろな建築士さんの仕事をされていることを思い出して、さっそく相談に載ってもらったのでした。
その久保田さん、二つ返事でさっそくお話が進むことになりまして、いよいよすべてが動き出します。

その西口さんの建築はウェブサイトを拝見すると、とても大胆な素材の使い方をされていて、この印象がFさんのご新居でどのように表現されていくのかは私もまだ知ることができず、キッチンのお話はキッチンに限ったことでしたので、西口さんや久保田さんや届く図面はキッチンスペースに限られたものでしたので、天然石を複雑に使う形だったこともあって、はたしてうまく納まるキッチンなのだろうか楽しみというよりも不安が先にあったのでした。
Fさんにそのあたりを聞いてみると、「小屋が増殖しているような感じです。」と、たしかそのようなニュアンスのことを言っていたような気がします。
小屋が増殖って何だろう・・。


「イマイさん、そろそろ採寸できそうです。」
と梅雨に入りそうな6月。久保田さんから連絡を頂いて、さっそく初めて見る現場に。
グーグルでも正確に場所が現れないような鎌倉の山の中を恐る恐る進んでいくと、ふいに不思議な建築物が現れました。
久保田さんが「イマイさん、こんにちは。」と快活に声をかけてくれたのですが、見るからに搬入が難しそうな建物だ。増殖する小屋とはこれか・・。
キッチンの様子を見まわして、よくわからない納まりに頭を悩ませていると、ひと段落した久保田さんがやってきて「キッチンのフロアレベルが少し低めで基礎と関わってくるので、キッチンも部分的に欠き込んだ形にしないといけなさそうで・・。」とのこと。
なるほど・・、これは採寸できなさそうだ・・。
なんて頭を掻いて悩んでいたら、どうやらユニットバスが搬入されるらしく、大工さんたちが急にわらわらと集まってきて、キッチン前で掛け声をかけ始めました。
「じゃあ、下から揚げるぞ。」
「ちょっと待って。ここから入れるなら体を入れ替えるから。」
と、久保田さんも混じって体格の良い大工さんたちが数人がかりで顔を紅潮させながら、ようやくお風呂が入り口を乗り越えていったのでした。
大仕事を終えた大工さんたちは火照った体に汗を光らせていましたが、私は一人冷たい汗を背中に感じていたのでした。
キッチン入るのだろうか‥。石は重いのだぞ・・。
次第にじんわりと変な唾が口の中に湧いてきたところで小さなちいさな赤ちゃんを抱えてFさんたちが登場。
前回お会いした時は、まだお腹の中だったような・・。
時間が経つのは早いなあ、なんて思いながらも、なかなかたいへんそうなことをお伝えして、もう少ししたらまた採寸と搬入方法を検討しに来ますね。とお伝えして、ひとまず作戦を練り直すのでした。
そして後日、どうにか採寸を終えて、制作に取り掛かり始めたのでした。
「キッチンは今回の建築の核となる場所なので、大変楽しみにしております。」とFさんからメールが届きました。
キッチン自体の形はシンプルな構成なのですが、コの字のキッチンで逃げがあまりないことや、キッチンの配管がキッチン内で振り回さないといけない構造になったり、床がコンクリートなので、その不陸を吸収できるような柔軟な作りにしないといけなかったりと、なかなかシビアな作りになっていて、緊張感の中で制作が始まりました。
このキッチンの制作を担当したノガミ君の苦労はこちらからお読みいただけますとうれしいです。
夏から取り掛かり始めた制作が秋に差し掛かる前に無事に完了し、いよいよ10月に入って取付です。
季節は少し肌寒くなってきた頃でしたが、当日はさいわい良いお天気に恵まれ、重量のある石の天板も問題なく運び込むことができてひと安心。
ここから3日間かけて、大きなコの字型のメインのキッチンとシンプルなサブキッチンを設置したのでした。
設置が終わった後も引き戸が多いデザインでしたので、引き戸の場合は召し合わせ部分などが変に日焼けしてしまうといけないので、引き渡し日の手前まで工房で寝かせておくことにして、ひとまず終了。
お引き渡し後にFさんご自身で左官を塗られるということでその作業が終わる頃を見計らって、ご挨拶に伺わせて頂きました。
その時の様子はこちらに。
そして、その時にFさんからうれしい言葉を頂いたのでした。
「イマイさんのようなキッチンメーカーさんはなかなかいないんですよ。」って。
クライアントの伝えにくいニュアンスをうまく汲み取ってくれているっておっしゃってくださいました。
ちょうどこの時どうしたら自分たちらしいキッチンや家具を表現できるのかって悩んでいたのですが(今でも悩んでいるのですが)、Fさんの言葉はまた私たちの背中を押してくれたのでした。
とてもうれしい言葉でした。
そういえば、その当時、やはりオーダーキッチンの打ち合わせを進めていたNさん(Nさんのキッチン)にも打ち合わせの時に似たようなことを言われたっけ。
「イマイさんは、私の思いに踏み込んでくれる。」って。
ありがたい言葉です。
その後、Fさんにはお店で使うテーブルのオーダーも頂いたのでした。
そういえば、まだ「オク」には会えなかったな。次の機会で会えるかな。
そのお話はどこか機会がありましたら、お伝えできると思います。
| 寸法 | 1階キッチン:幅3,490ミリ・3,160ミリ・1,430ミリ/高さ880ミリ/奥行670ミリ・650ミリ・580ミリ 吊戸棚:幅1,430ミリ/高さ870ミリ/奥行385ミリ 2階キッチン:幅820ミリ/高さ850ミリ/奥行780ミリ |
|---|---|
| 天板 | 天然石:1階キッチン「シナイパール」 2階キッチン天然石「琉球石灰岩」 |
| 前板・扉 | ブラックチェリー板目突板 |
| 本体外側 | ブラックチェリー板目突板 |
| 本体内側 | ラワン合板 |
| 水栓器具 | 1階キッチン:TOTO[TKS05305J]/TOTO[TLC11AR] 2階キッチン:TOOLBOX[KP-TP005-01-G141] |
| ガスコンロ | ノーリツ プラスドゥ[N3WS9KJTKSTED] |
| ガスオーブン | ノーリツ コンビネーションレンジ[NDR420EK] |
| レンジフード | 富士工業[CLRL-ECS-901R] |
天然石とブラックチェリーのコの字型キッチン
費用につきましては、お問い合わせくださいませ。






















