あたらしいかたち
「センとアイアンを使った円卓のオーダー」
藤沢 M様
design:daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:iku nogami/onuma kougei
11月の終わりの少し寒くなって来る頃、毎年この小さなショールームで展示会を開いております。
その展示会、名前を「クレミル」と言います。
暮見る(くれみる)・・・日暮れがきれいに長い時間見ることができる場所が転じて、「倉見(くらみ)」と言う、この町の名前の由来だという説があります。
そのクレミルでは、いつもこの仕事を通じて知り合った作家さんの作品を置いたり、パン屋さん、カフェのオーナーさんにご協力頂いて、簡単なカフェを開いたりしているのです。
そのお客様の中にMさんがいらっしゃいました。
Mさんはクレミルの広告を見て、どんな家具屋さんだろう、と見にいらして下さったのでした。
ちょうど、その時はお客様も少なかったこともあって、いろいろとお話を聞かせて頂くと、ダイニングが円形になっていて、お引越し当初からずっと長い間きれいな丸いテーブルをオーダーできるところを探していたのだそうです。
それでもなかなか見つからずに、IKEAの丸テーブル(なかなか形はきれいなのですが)を使っていたのだそうです。
それで、いろいろとお話をしていくなかで、以前にアイアンとナラ柾目材を使って作ったMさんのテーブルのお話しになり、異素材の組み合わせの面白さのお話しになりました。
「それは良いですね、すてきな形になりそう。」とMさんもとても興味を持って下さったので、「じゃあ、ちょっと考えてみますね。」と軽くお返事してしまったのでした。
「ありがとうございます。ここまで待ったのだから特に急いではいないので、ゆっくり良い形を考えてくださいね。」
おぉ、軽く返事してしまったけれどどうしよう・・。
そのうち年明けまで時間を頂いたし、何か良いアイデアが浮かぶでしょう。
と、そんなふうに考えていて、年末の忙しさでバタバタしておりましたら、あっという間に年末の大掃除になり、仕事納めになり、お正月の準備をしたりしていると、年が明けてしまいました・・。
どうしよう・・。
そこで、正月三が日明けの会社で一人モヤモヤとしておりました。
アイアンできれいな形にしたいと考えると、やはり頭に浮かぶのはプルーヴェのデザイン。それから、東京タワーやエッフェル塔のように細い線が重なってできた繊細な感じ。それを組み合わせられないかな。
細い線が重なって、そんな形で壊れないの?っていうような感じでさらに、プルーヴェの有機的な鉄の形。
モヤモヤ・・。
頭でイメージしていても、図面を描いてみても、こればかりは分からないなあ・・。
モヤモヤ・・。
模型を作ってみようかな・・。
ということで、シナベニヤをカットして、ピアノ線を折り曲げて、接着剤でくっつけて、黒く塗って、底に張材で天板を丸くカットして載せて、できあがり。
おお、良い感じです。
この形をさっそく友人の鉄工屋さんのタカハシさんに見てもらいます。
「いい感じですね。でも難しそうだな。こことかくっついてないですものね。」と中心を指さします。
「ここが良いでしょ。緊張感があって。」
「でも、天板載せちゃうとこのついていない印象が真上から見えなくなっちゃうのか。それも寂しいねえ。ガラスの天板とかでも良いかも。」
と、あれこれ言いながら形を検証。
そして、どうにか治具を作れば大丈夫そうだ、と言うところにまとまりました。
せっかく生まれたあたらしい形、Mさんだけに作るだけではなく手元にも残しておきたい!そう思ってショールーム用にまず1台を作ってもらうことに。
その製作過程の中にで問題があればそれを修正して、本番のMさんの脚では完成された形にしましょう、ということになったのです。
ここまでお話が進んだところで準備万端。
Mさんにプレゼンテーションです。
「ご連絡が遅くなってしまいまして大変申し訳ございません。
あれこれ考えていまして、図面を作ったのですが、図面だけだとイメージがつかめなかったので、模型を作っておりました。
ようやく本日できあがりましたので、お知らせ致します。
また、「2つプランを・・」とお伝えしておりましたが、今のところこのプランが美しくなりそうですので、この1つだけで考えております。
こちらからご覧になれます。
https://www.freehandimai.com/?p=5011
脚部は、ブーメランのような形状をした5枚の鋼板材をV字に曲げたパイプが支える構造で考えております。
パイプの交点と鋼板材とパイプの接着点で強度は得られるのではないかと思っております。
心配なのは、鋼板材のブレで、無垢板の天板がそれなりに重いので、天板に肘をついたりすると左右にブレが出るのではないかと思うのですが、ブレース(と言うのだそうです。タカハシさんから教えてもらいました。)の役目をするパイプがそれを矯正してくれるのを期待したデザインです。5枚の鋼材は、中心では接しないようにすることで、軽快な印象になるかなと思っております。
このような形で考えてみましたがいかがでしょうか。
ご意見をお聞かせ頂ければ幸いです。
また、、脚部の色は黒くしましたが、他の色でも美しいと思います。
そのあたりのご意見もお聞かせ頂ければ幸いです。
もし、このデザインを元にさらに詳細を考えていってもよろしい場合は、鉄工屋さんと強度や板の厚みなど具体的なことを打ち合わせて材料と加工方法が決まりましたら、コストが出せるのでそれから御見積書を作ろうと思っております。
ご意見・ご感想をお待ちしております。どうぞよろしくお願い致します。」
「あけましておめでとうございます。
妻と写真のほう拝見いたしました。とても気に入りました。
特に中心のところには支えや接点がないので、おっしゃるとおり中心がとてもすっきりと見えていてゴテゴテした感じがなく軽さも感じられて期待以上に気に入っています。
天板の木は丸型なので木の柔らかさを感じられますし、支えの脚のブーメラン形のシャープさは鋼板を使ったならではのデザインですね。
とても素敵だと、妻とも話をしています。
色に関しては、写真のとおりでもバランス良く十分きれいだと感じました。でももしかするとグレーとか少しだけ明るめというか柔らかい印象の色でもいいのかもしれませんね。
支えのV字のワイヤは、模型の写真ではよい具合に見えましたが、実際の大きさになったときでも模型と同じように華奢な印象がそのまま維持されるといいなと感じました。
それと鋼板を利用しているので、重さがどの程度になるか見積もりのときにわかるとありがたいです。
この基本デザインでお願いいたします。」
やった!気に入ってもらえました。
そして、どのくらいかかるかの費用を見積もってその金額をお伝えし、さらにショールーム用の脚も間もなく完成ということで見に来て頂くことに。
「おぉ、かっこいい。これはカッコいいね、お母さん!すごいねえ。」
ショールームに入って一目見るなり、お二人でとてもうれしそう。私もうれしい。
「もうこれだよね、これ。イマイさん、もうこのまま持って帰りたいくらい、ぜひお願いします。」
ありがとうございます。こんなに気に入って頂けるなんて、それはそれはうれしい日でした。
そのあとに、一度Mさんのお宅にお邪魔して、実際の天板の大きさにした円形のベニヤを持って印象をつかんで頂き、これでスタートが切れます。
そして、さっそく本番の製作です。
Mさんのご希望で、脚の色はチョコレートのような濃い茶色に。天板はかえって明るく木目の流れが緩やかにはっきりとしたセンを使うことに。
また、ナラとは違った印象のテーブルの完成です。
そして、納品。
納品後、さっそくそのテーブルでお茶を頂きました。
「やっぱり今まで使っていたテーブルとは違う、違うねえ。」とご主人。
「こんなに素敵にできるなんて、感動しました。これなら6人でも余裕をもって座れますものね。」と奥様。
気に入って頂けて良かったです。
いつも私たちが作る家具は、気持ちのきっかけや物事の要因があって生まれてくる形が家具になることが多いのです。
今回のように、ゼロから任せて頂くことってなかなかないし、自分にもそこまでの自信がなかったりするから、何かお客様のほうからきっかけを頂くことが多いのです。
でも今回は、ここまで任せて頂けてとてもうれしく思います。
自分でもだんだんと何か形を考えることができるようになったことが、Mさんに喜んで頂くことと同じくらいうれしかったのでした。
センとアイアンのラウンドテーブル
価格:407,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は10,000円から)
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