海風の吹く家

「タモのセパレートタイプの食器棚のオーダー」

辻堂 T様

design:Tさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:hideaki kawakami
painting:iku nogami

タモと真鍮とステンレスと引き戸の食器棚

全体の印象。

食器棚の相談をしたいのです、とお電話を頂き、こちらまで来て下さったTさん。最初にいろいろとお話をしてある程度プランを進めていたのですが、途中にぱったりとご連絡が無くなってしまって、「これはきっと他の家具屋さんに相談されたのだろう。」と思っていて、思い出すのは、ご主人の日に焼けた精悍なお顔をキラキラした瞳、そして真っ白な歯ばかりで、最初の原案は、もう数か月経ってしまったので、思いきって破棄してしまっておりました。

タモと真鍮とステンレスと引き戸の食器棚

奥行がいつもより深いことに加えて、スライドレールの重量でかなりの重さになっているこのキャビネット。搬入が心配なのでした。

そんなところに、再びご連絡が。
えっ、お話しが続いていたのですね。これは困りました・・。
と思い、あとでシュレッダーにかける用紙の中をあれこれと探していたら、「あった!」2か月前の資料がありました。
お聞きすると、お仕事が忙しくてなかなか家具を検討するまでの時間が取れなかったとのことだそうです。
時々、長い時間を掛けて考えてくださっているお客様とのやり取りの中でこういうことがあったりします。
たしかに。
家具がなくても生活はできますからおのずと優先しなければいけないことが先になりますよね。
私たちが考えている御見積期限が1ヶ月だと短いのかなあ、とその都度考えるのですが、それ以上保留にしておくと私の頭がいっぱいになってしまったりするので、やはりこの期日は昔からこのままだったりするのです。
もう少しこの体制を変えてゆけば良いのかな・・、そんなことも思ったりしますが、自分なりに考えてきたこのスタイル、なかなか変わるきっかけがなかったりするのです。
そんなわけで今日も慌ただしくファイルをめくってようやくTさんの過去の資料を見付け出し、読み返しているのです。

タモと真鍮とステンレスと引き戸の食器棚

カウンターのトップはステンレスで、左右と背面を少し立ち上げる仕上がりにしています。

ふむふむ、そうだった。
ではこれでやり取りを続けられます。
そうだそうだ引き出しがたくさんある奥行がとても深い食器棚だった。
それから、3か月かけてTさんの取っ手使いやすい形を探し続け、ようやく一つの形がまとまりまして、設置場所を確認しにお伺いすることになりました。

タモと真鍮とステンレスと引き戸の食器棚

特長のある吊戸棚の形状。一番使いやすい高さは奥行を狭くして、あまり使わない一番上の高さは、物がたくさん入るように奥行を思いきって深くしているのです。「おそらく私の身長でも最上段の奥の方には手が届きにくいと思います。」と言うお話をさせて頂きましたが、今回は収納量を最優先して深い奥行にしています。

Tさんのご自宅は、辻堂の海のそばの路地が突き当たったところ。何となく海風が入り込んできてはここでゆるやかに消えてゆく穏やかな場所。
そして、Tさんの家は外階段で2階に上がったところに玄関があって、玄関を入ってすぐに廊下が折れてさらに半階上がったところにリビングが現れる。
けっこう高い場所になっているのです。とても気持の良い風が抜けるし、見晴らしも良い。
でも、その分家具の搬入がちょっと大変かもしれない・・。

タモと真鍮とステンレスと引き戸の食器棚

ハンドルは真鍮磨き仕上げのものに。使い込むとくすんで鈍色になるのが特徴です。

「たぶん、大丈夫だと思いますよ。冷蔵庫を入れる時も外からではなくて、この開口部から横に倒して入れられましたので。必要でしたら当日私もお手伝いしますから。」
確かに玄関から折れる間際にある大きな開口部を通せば、あの奥行きの深い食器棚でも問題なさそうです。
それ以外は特に問題もなさそうだし、よし、これで製作に入れます。

タモと真鍮とステンレスと引き戸の食器棚

布巾をたくさんお持ちなのはどこのご家庭も一緒。

ということで、最初の打ち合わせから途中ブランクがありましたが、約1年後にこうして家具は完成したのでした。
あとは取付です。
当日の取付は、私は別のお客様のキッチン残工事があったので、ムラカミ君を筆頭にしてみんなに任せることに。
私が目黒で作業をしている時に、不意にムラカミ君からの着信が。うーん、やな予感。
「ちょっと問題がありまして・・。」
問題なく終わると思っていたのですが・・。
その日の作業を終えて会社に戻って、ムラカミ君から詳しい話を聞きました。

タモと真鍮とステンレスと引き戸の食器棚

最上段の引き出しの様子。

まず、搬入が思っていたルートからは入らなかったとのこと。奥行きが深い分横に転がすことが思ったよりも困難で、最終的には外からの荷揚げになったのだそうです。しかも今回は引き出しが多いので、構造上板が重くなっていたため、スライドレールをすべて外して、さらにはご主人の手もお借りして(ありがとうございました!)ようやく搬入できたということでした。
そして、搬入できて、吊戸棚をつけたところまでは良かったのですが、今度は引き出しのあるこの奥行の深いキャビネットが壁の歪みを拾いすぎてしまって、右の袖壁から4mmほど家具が出っ張ってしまうことに。

タモと真鍮とステンレスと引き戸の食器棚

そのほかの引き出しの様子。

これは困りました・・。もう少し奥行を逃げておくべきでした。
確かに3mmほど壁よりも奥行きを狭く考えたつもりでしたが、壁の一番狭いところと広いところで寸法の違いがあったのを見落としておりました。
Tさん、申し訳ございません。
そのようなわけで、あらためてパーツを用意して、現地でキャビネットの奥行を縮めてどうにか設置ができました。
ひと安心。

タモと真鍮とステンレスと引き戸の食器棚

一番下は根菜を入れるスペースで、スライドレールが見えないように取り付けてあります。また、テーブルトップは汚れても掃除しやすいように白いメラミン化粧板を張っています。

後日、あらためてご挨拶にお伺いした時にはご主人も奥様も、ご迷惑をおかけしたのにとてもにこやかに接してくださいまして、「搬入の件は私が手伝ったのはほんの少しだけですので気にされないで下さいね。食器棚はイメージ通りの形で非常に満足しております!とても使いやすく作ってくださってありがとうございます。」ってキラキラした目と真っ白な歯で微笑んでくださいました。
恐縮です。ありがとうございました。
また何かあればいつでもおっしゃってくださいね。
これからもよろしくお願い致します。

タモと真鍮とステンレスと引き戸の食器棚

一番上の扉にはもちろん耐震ラッチをつけています。

タモとステンレスの食器棚

価格:650,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は20,000円から、取付施工費は40,000円から)

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