あたたかイーハトブ

「ナラ材を使った食器棚のオーダー」

盛岡 S様

design:Sさん
planning:daisuke imai
producer:gaku suzuki
painting:gaku suzuki

オーク板目のリビングボード

リビングに設置した一番大きな食器棚兼多目的収納。

格子扉のあるオークの食器棚

こちらは、ダイニングに設置させて頂いた食器を主にしまう食器棚。

格子扉のあるタモの和風なキャビネット

2階の客間に置かせて頂いたタモのキャビネット。

「初めまして。
岩手県盛岡市に在住のSと申します。
今、家を新築しているところで、キッチン付近に置く作り付けの家具などを探しています。
既製品には私の頭の中でイメージしているものとぴったりのものが見つからず、また地元の家具店の作品と私の希望とは幾分方向性が異なるような感じがして、なかなかこれだ!というものが見つかりませんでした。
探し疲れてきて、既製品の中から無難なものを選ぶほかないのかな、と思い始めたところ、貴社のホームページにたどり着きました。
最初にたどり着いたページは、「シャープなデザインよりも」の葉山Yさんでした。とても素敵で、一目惚れしてしまいました。
その後、他のページも拝見させていただきましたが、じっと眺めていたくなるような作品ばかりで、すっかり見入ってしまいました。
私がイメージしていた収納は、「smile sweetly」の葉山Kさんのような感じです。私の頭の中にあったものを、そのまま作品化しているようで、そう!これがまさに私の考えていたもの!!と感動してしまいました。
オーダー家具を受注している店舗に自分のイメージを伝え、そのまま作っていただくことはなかなか難しいのではないかと思い、イメージがぴったりのフリーハンドイマイ様に制作していただけたら・・・と思うようになりました。
作り付け家具は首都圏のみという記載があるのは拝見いたしましたが、諦め難くてご連絡差し上げました。
お忙しい中、岩手県まで現地確認・取付等に来ていただくのは難しいでしょうか。
私は月に1,2回東京へ出張することがありますので、日程が合えば貴社にお伺いすることは可能です。また、夫が設計施工している家ですので、メールやFAXでも、柱の位置や施工状況や材料などは比較的詳しくお答えできるかと思います。
家は6月末完成予定です。
今のところ探しているのは、作り付けでカウンターと吊り戸棚で上下に分かれた収納です。
サイズは、幅2800、高さ850位のカウンター&900位の吊り戸棚のセット、奥行きはカウンターが450、吊り戸棚が350くらいと考えておりました。
加算料金・出張料金などで対応可能かどうか、教えていただけないでしょうか。」と。
驚きました。最近は遠方からのお客様のお問い合わせが増えてきていたのですが、盛岡と言うと、うーん、遠いですね。引き受けてよいものかどうか・・・。

ひとまず、
「はじめまして、お問い合わせありがとうございます。
フリーハンドイマイの今井大輔と申します。
岩手県となりますとかなり遠方ですね。ただ今までにも山形県、福島県、茨城県、滋賀県、長野県、伊豆大島あたりに家具を納品したこともありますので岩手県にお住まいでも、家具製作のご依頼を受けるのは難しいと言うことはありません。
ただ、S様のおっしゃるように、打ち合わせの出張費、取付に掛かる交通費などが近県のお客様よりは掛かってしまいますのでその点はあらかじめご了承ください。
それから、私は家具と言うのは基本的に調度品ではなく、道具だと考えています。その人のそばで一緒に暮らしていく道具だと思っています。ですので、10年、15年と長い間使っていると当然傷んでくる部分があると思います。大きな傷がついてしまったり、扉の蝶番の調子が悪くなってきたり、引き出しのスライドレールが硬くなってきたり・・。
その時は、もちろん私たちのほうで修理し、修理が難しい場合は部分的に新しく作り直して、ずっと使い続けていくことができるようにお付き合いさせていただきたいと思うのですが、そういう時にも出張費や工事費が近県のお客様よりも金額が掛かってしまいます。
その点もあらかじめご了承ください。
まずは、葉山のKさんのプランを元に杉下様のサイズに合わせて、再設計をしてみます。
それから、家具のお見積を出してみて、さらに他に掛かる経費も出してみてまとめてお伝えしたいと思います。」
とお伝えし、しばらくして出来上がったプランをお送り致しました。
すると、「掛かる経費も承知ですので、是非お願いしたいと思います。」と言うお返事が。私自身、気楽な気持ちで引き受けてしまったような気がして、少し焦ると言うか、不安になると言うか、少しだけ何だか心許ない気持ちになったのでした。私に責任が持てるだろうか・・・。

それから、細かい部分についてのお話を進めて行くうちに、もう1台食器棚が必要になることが分かり、そちらも合わせてどんな形にしたら良いかを考えていきました。そうして、ある程度形が決まった頃に、Sさんがお仕事の都合でこちらにいらっしゃる機会があったので、私たちのショールームに立ち寄って頂けることに。
聞くと、Sさんは私と同じ年。家具の好みも私たちの形を気に入って下さっているとあって、はじめてお会いするのに、しかも普段はこんなに距離が離れているのに、何だかとても近くに感じているんなお話をさせて頂きました。
そのようにお話していく位置に形はほぼ決まりました。それから、いろいろと考え始めたのが素材とその色についてでした。
素材については、いろんな素材を検討したのですが、最初の自分の気持ちに立ち戻って考えると、オーク(ナラ)が一番好きだと言う結論に。そして、塗装の色について、こちらがいろいろと悩みどころでした・・。
私たちは、普段塗料のオイルに、イギリスの「ワトコオイル」を使っています。これは、粘度が比較的緩くて塗りやすいことと、低コストで手に入れられることと、いろいろあるオイル塗料の中で販売経路がたくさんあるので、インターネットでもホームセンターでも手軽に手に入れられること、これらを考えて、自分たちにとっても、家具を使う皆さんにとっても経つ買いやすいオイルだと考えているためです。他にもたくさんのオイル塗料があります。私も全てをいろいろと試したわけではありませんが、ドイツのオスモ、リボス、日本の桐油やキヌカ(米オイル)などさまざまにあるのですが、価格が高いと言うのが大きなネックになっています。
今回、Sさんが希望していた色は、透明感があって木肌がきれいに見える色。そのイメージに近い写真を見せて頂いたら、それは、オーク材の生地そのままの色に近い仕上がり(かなり白っぽい色です。)の家具の写真だったのです。塗料は「塗る」ものなので、ワトコオイルの場合、オーク材に塗るとオイルの黄みが出た黄褐色に仕上がります。でも、それはSさんのイメージとは違うのでした。

オスモカラーの場合は、透明に仕上がるオイルがあります。ただ、透明と言っても濡れた感じの色には変わるので、黄色みは消えて明るく仕上がるのですが、やはり頂いている写真とは少し異なります。うーん、どうしよう。
生地そのままの色を表現するには、2つの方法しかないと思っています。一つは無難にウレタン着色仕上げにしてしまうものです。ウレタンのクリアを吹き付けても木肌は濡れた感じの色に仕上がります。だから、そのままでは色が変わってしまうので、意図的にホワイトで着色して、そこにクリアを吹いて仕上げる方法。これだと、意図した色に仕上がりますが、やはり樹脂でコートした手触りになるので、素材の温かみはオイル仕上げに比べると薄れてしまいます。頂いた写真の家具の仕上げはこの仕上げでした。
そして、もう一つの方法は、「ソープフィニッシュ」と言う家具の仕上げに使う石鹸を用いて仕上げる方法です。これだと、ほのかにツヤが出る程度で、濡れた色にはならないので、生地そのままの色や手触りが楽しめます。ただ、塗膜ではなく、ツヤ出しや木肌が荒れないように保護することを目的とした石鹸をすり込んで仕上げるものなので、使って数ヶ月くらいで、手の脂などによって、黒ずんでくる部分ができると思います。それはオイル仕上げよりも保護膜が弱いので、使い始めて比較的早い時期から現れると思います。その経過が過ぎて、素材が黒光りするようになると、それはとても使い込んだ表情になって美しいものなのですが、収納家具の塗装としては適しません。人の脂以外に汚れやシミなどがつきやすいので、きれいな経年変化よりも汚れが目立つことになるかもしれません。

そのあたりを説明して、ワトコオイルの仕上がりサンプルとオスモカラーの仕上がりサンプル、そしてソープフィニッシュに近いワックスのみで仕上げたサンプルをお送りしました。そのサンプルに色の濃いものを垂らしてみたり、傷をつけてみたりして、どの仕上げが一番使いやすく、そして美しいかをSさんに判断して頂きました。
最終的にオスモにすることに。
普段私たちはオスモを使わないので、今回は取り寄せて塗ることにして、余った塗料はそのままお持ちして、メンテナンス用に使って頂くことにしました。
そうして、塗料もどうにか決まったところで、そろそろ設置場所の採寸ができる頃になったので、新幹線で盛岡まで。新幹線って早いね。車で都内に出かけるのと同じくらいの時間で、あっという間に800km近くはなれたところまで着いちゃう。これだと、盛岡って意外に近いんだねって勘違いしてしまいそう。
降り立った駅も、私たちの最寄り駅より立派だし、駅前だってこのあたりと何も変わりないくらい。だから、よけいに距離感がなくなっちゃう。駅からSさんの車で、ご新居の建つ現場まで連れて行って頂きながらも、錯覚。でも、気を緩めてはいけません。「採寸に漏れがあると、またここに来るのに大変な時間が掛かるんだよ。」そんなことを心でつぶやきながら必要なことを済ませていきます。でも、今回作らせて頂く2台の家具は、どのかの壁のサイズと合わせないといけないといった制約も無く、天井まで作りこむわけでもなく、また電源の増設といった小工事は今回Sさんのご主人がご自身でできると言うことで、その工事も必要ないので、極端なことを言うと、採寸しなくても家具が作れてしまうくらいなのでした。そんなことを考えると気が緩んだりして。ちょっと旅行気分だし・・。

そうして、採寸が終わる頃に、Sさんからもう一つのご要望が。
「2階の客間に置くテレビボードもお願いしたいのです。」と言うことでした。こちらは細かい部分は私たちに任せて頂けると言うことで、素材だけはご主人が好きだと言うタモ材にして、必要な機能を聞いて、あとは私たちの好みの形に。帰りに冷麺をご馳走になって、帰宅したらもう夜もすっかり更けていて、なぜか疲れが。やっぱり遠いんだなあ・・。
それから、もう一度細かい部分を修正した図面と、タモのテレビボードのプランを作って、よし、製作です。
3台あるので、しばらく時間を頂いて、ちょうど真夏に取り付けに伺うことに。
今回2階のテレビボードは置くだけで良いのですが、2台のカップボードは壁に固定しなくてはいけない。そうなると午前中から工事をしたいので、そうすると出発する時間は午前1時頃になります。私と河口君と鈴木君は、前日の仕事を早く切り上げて、夜中に出発したのです。
新幹線と違って、トラックはのんびり進むので、うーん、やっぱり遠いんだなあと実感します。
で、取り付けはと言うと、予定よりも早く着いてしまって少し早めに作業に入らせてもらって、さらに電気の工事はご主人が全て行ってくれたおかげで、お昼を少し回った頃には、作業が完了。本当はもっとゆっくりとSさんとお話したかったのですが、ちょうどこの時期は仕事が重なっていてとても忙しい時期でした。翌日をお休みにすることもできないので、早々に引き上げたのでした。
でも、会社に戻ったのは夜の9時頃。うーん、くたくたです。
でも、全て気に入ってくださったSさんお二人の顔が、とてもうれしかったのでした。
まもなくお便りを頂きました。
「先週は遠いところ、取付に来ていただいて本当にありがとうございました。
無事に帰り着くことができましたでしょうか。
予想していたよりもずっと素晴らしい仕上がりで、とっても気に入りました。
夫婦で毎日ため息をついて、ほれぼれと見ています。
木目がきれいで、色味も試行錯誤したおかげで梁などと雰囲気が合って、部屋全体が華やかになったと思います。
特に大きなカップボードのほうは、1枚ごとの扉が大きめなのと、ちょうど窓やダウンライトからの光が当たるので、木目の美しさがよく出ていて素晴らしいなと思っています。
(小さなカップボードも和室のテレビ台も、もちろんとっても素敵なのですが、普段目に入るのがカップボード1なので余計そう感じるのかもしれません)
火曜日に取り付けていただきましたが、勿体なくてなかなか使うことができないでいました。
そのまま飾っておいても仕方ないので、土日に食器などを出して収納してみました。
収納してみたら、想像以上に収納量が多くて、感激しています。
小さなカップボードの引き出しは、ソフトクローズにして良かったです。
食器をぎっしり収納しても、とても使いやすいです。
勢いを付けて大丈夫なので、安心して使えますし、大きなカップボードに付いている普通の引き出しよりもスムーズに出し入れできて、便利に使っております。
今回は、遠いところ、注文を引き受けてくださいまして、本当にありがとうございました。
ホームページを拝見したときには悩みましたが、思い切ってフリーハンドイマイ様にお願いして良かったです。
細かいところまでご相談させていただきながら決められたので、自分好みのものに作り上げられて満足しています。
今のところ、作り付けの家具を設置する予定はありませんが、据え置きの家具など入れるときには、またご相談させていただくかもしれません。
本当にありがとうございました。」
また、ブログに取り付けのときの様子を載せてまもなく、またまたお便りを頂きました。
「お世話になっております。
引っ越しの準備等で、7月中はかなりバタバタしていて、今日ようやくゆっくりと今井様のブログを拝見しました。
もう我が家の家具が載っていたんですね~!(しかも製作途中も・・・)しばらく気が付かなくてすみませんでした。
掲載されているのを見ると、我が家も立派に見えます(笑)
素敵な写真で嬉しいです。ちょっと冷蔵庫が邪魔でしたね。
でも実物は、写真よりもっと素晴らしいですね!!木目のいい感じが、写真だと薄まってしまっていて残念です。素敵な柄の木目で、とっても気に入っています。
しかも、ブログには先日送付したメールまで載っていて、お恥ずかしい限りです。(ちゃんと文章推敲すれば良かったです・・・)
今回、「無垢 作り付け家具」(だったかな?)という言葉で検索したら、偶然にも今井様のHPがヒットしました。
しかもどれもこれも好みの家具ばかり。
是非、ここの家具を取り付けたい!と思いました。
他の家具を取り付けてしまってから、イマイ様のホームページを発見していたら、相当後悔しただろうと思います。
収納をどうするか、もう決めなければ!というときに、今井様のHPを見つけることができて、本当にラッキーでした。
前にもお話ししましたが、以前私は三ツ境に住んでいて、原付で湘南台の辺りまで、時には藤沢や辻堂のあたりまで
走り回っていたので、会社所在地近辺にもなんとなく馴染みがあり、遠隔地の割には親近感がありました。
これが千葉や埼玉や東京都の会社だったら、お願いしなかったような気がしますので・・・。
その上、イマイ様のホームページには、宮澤賢治のことまで書いてあって、もうこれは、ここにお願いするしかない、運命だ!と思ってしまいました(笑)
お願いして、本当に良かったと思います。
素敵な家具は勿論ですが、今井様のお仕事(打ち合わせ)の仕方、ホームページやブログの内容など、夫婦ともども、とても参考になりました。
夫婦とも自営なのですが、うまくネットを活用できていないので、今後も是非参考にさせていただきたいと思います。
また何かお願いするかもしれません。
そのときはまたよろしくお願いします。」
そういえば花巻にまた行きたいなあ・・、なんてふと思ったのでした。

オーク板目のリビングボード

扉は本体の高さに対して少し大きめ。下が出っ張っているのはそこに手を掛けて扉を開けて頂くためですが、上が出っ張っているのは、上に間接照明を入れているので、その器具が見えないようにするため。

食器棚のバスケット収納

葉山のKさんのプランから取り入れたアイデアでこの部分はスライドバスケットにしています。

オーク板目のリビングボード

また、一部はフローリングと続くようにして、キャスター付きのキャビネットをしまったり、と言った収納ができるようにしています。

オーク板目のリビングボード

引き出しの幅の見た目の印象を扉の割り付けと合わせる為に引き出しの前板の真ん中にスリットを入れています。また引出しには取り外しのできる仕切り付。

格子扉のあるオークの食器棚

上部は吊戸棚。普段使いのカップなどを入れて分かるようにと、中が少し見えるルーバー扉にしています。上に向かって開くので、90度でストップさせるソフトダウンステー付。

格子扉のあるオークの食器棚

リビングから見た印象。奥行きがとても深い食器棚なのですが、お部屋の広さと冷蔵庫とのレイアウトのためかとてもすっきりとした印象。

格子扉のあるオークの食器棚

こちらの引き出しには、ソフトクローズするタイプのスライドレールをつけています。底付けのレールなので、レールが表に出ないのが美しいのです。

格子扉のあるタモの和風なキャビネット

キャビネットの印象。特徴的な格子の形状。

格子扉のあるタモの和風なキャビネット

真ん中にはAV機器が入るので、ルーバー扉にしたのですが、「Sさんのルーバーの出っ張った感じも良いですね。」と言うご意見のもとに遊び心を入れました。

格子扉のあるタモの和風なキャビネット

左右は扉を開けると引き出し。扉を開けて引き出すと言う2アクションになりますが、ここは日常使いの家具ではないので、見た目のスッキリとした印象を優先。

ナラの大きな食器棚

価格:640,000円(制作費・塗装費)

ナラの格子扉のある食器棚

価格:480,000円(制作費・塗装費)

タモの和室キャビネット

価格:370,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は130,000円から、取付施工費は90,000円から)

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