眺めているだけで

「ナラのセパレートタイプの食器棚のオーダー」

川口 Y様

design:Yさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:masakane murakami
painting:masakane murakami

オークとブルータイルの食器棚とカウンターデスク

リズムのあるカウンターと吊戸棚、そして、その間に鮮やかに映える空色のタイル。今回は、お引き渡し後の工事でしたので、Yさんを通じて、工務店さんにタイルの貼り付け位置を指示して、ちょうど吊戸棚とカウンターの間にぴったりに来るようにしたのです。

「現在注文住宅の内装を打ち合わせ中です。
キッチンのバックカウンターと、その横にひとつながりになっているスタディカウンターについての相談です。
イメージは「静かに、確かにずっと」あざみ野M邸です。
樹の種類はナラが第1希望で、扉は無垢が良いです。
(キッチンに横並びで置くテーブルがナラなので、それに合わせたいです)
バックカウンターの天板はナラかステンレスのどちらかで。取っ手はつけずに手掛け扉が希望ですが、料理中は濡れた手で触ってしまいそうなので、ステンレスでなるべく主張の少ないシンプルな取っ手をつけようか迷っています。
バックカウンターは引き出し部分以外は観音開きの扉が良いかと思います。
見積もりは、可能であれば、バックカウンター(下部)、上部吊り戸棚、飾り棚、スタディカウンター、ワゴン、というように細かく分けていただくと助かります。
予算の都合上、すべてのオーダーが難しい場合、何か削れる部分があるかどうか検討したいと思います。
また、別途「ここで家具が迎えてくれる」の葉山K邸のテレビボードのような感じのテレビボードも検討していますが、こちらはまだ詳細検討中ですので、後日改めてご連絡いたします。
金額によってはお願いできないかもしれませんが、設計担当さんから提案されているシステムキャビネットが何となく無機質すぎて、できれば長く愛用できる家具を使いたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。」

オークの背の低いテレビボード

こちらは、テレビボード。私たちのショールームにとても背の低いテレビボードがありまして、もうだいぶ前に作った家具なのですが、未だにここに見に来られる方には人気がありまして、その形を元に各お客様のプランに合わせてアレンジをすることが時々あるのです。今回のYさんのテレビボードも原型はそのショールームのデザインを踏まえています。

頂いたメールについていた写真は、モダンでスッと部屋に横たわるような長いカウンターがある写真。それを元に、Yさんから頂いたスケッチを重ねて形を考えていきます。長いカウンターがつながっている空間はお部屋が広く見えます。でも、デスクと作業台とでどちらかを優先して高さを揃えてしまっているカウンターだと、どちらかの使い勝手が悪くなります。ですので、デスクはデスクとして使うやすい700mmくらいの高さ、作業台は作業台として、使いやすいキッチンと同じ高さにします。そこに生まれる凸凹した印象をもっとスッキリさせたいので、吊戸棚をコンパクトに考えます。
と、私が考えたような感じで書いておりますが、Yさんから頂いたスケッチでこの大まかなプランはすでにできあがっていたのです。図面だけで印象をイメージするというのは難しいことだと思うのですが、うーん、Yさんすごい!

オークの背の低いテレビボード

中央に、機器類が置けるようにして、両端は、ソフトを入れたり、細かいものをしまえるように引き出しに。

そこで、ひとつイメージについてのお話を。
今回Yさんのキッチンバックの収納部分にはその吊戸棚があるのですが、最近は吊戸棚も天井いっぱいまで作るよりも、上に空間を設けたい、とおっしゃる方が増えてきています。
収納がいっぱいあればたくさん入るけれど、やはり印象として圧迫した感じを受けてしまう、と言うご意見が多いのです。それに、天井高さが2400mm~2500mmとなると普通の人だと、天井付近にしまったものは容易に取り出せない。身長180cm以上の私(イマイダイスケ)でも天井付近のものの出し入れにはちょっと苦労しますし。

オークの背の低いテレビボード

テレビボードの角は、留に加工して、さらに内側に少しテーパーをつけることで、とてもシャープですっきりとした印象にしています。加工は大変なのですが・・。

それなら、天井付近はあえて収納にしないで、壁を見せて残すほうが良いのでは、とおっしゃる方が増えてきているのです。
もう10年以上も前のことですが、食器棚を作らせて頂いたお客様と家具を取り付け終わった後にお話ししていた時に、こういわれたのことがありました。
「この食器棚をつけたあとのほうが部屋が広く見えるんです。何ででしょうね。」

オークの背の低いテレビボード

足元は、このような印象。テレビボードのサイズいっぱいに合わせています。脚の上にただテレビボードが載っているだけだと、大きな塊で見えてしまうと思いまして、本体と脚の間にはスリットが入っています。

その時に、ご主人と奥様と私とでいろいろと思ったのは、メリハリが出るからではないかということでした。家具が入っていない白くて広いままの部屋と言う空間、もっと大きなスケールでいうと、まだ家も経っていない地墨しか出ていない土地というのは、人の感覚としてイメージしにくかったりします。地墨だけを見ていると、なぜかとても狭い場所って感じてしまうことが多いのですが、そこに床ができて、天井ができて、壁ができて初めて部屋のスケール感を感じることができるのです。
家具も一緒で、白い壁だけの空間はなんとなく距離感を失わせてしまうのではないか、と思うのです。

オークとブルータイルの食器棚とカウンターデスク

デスクはとてもシンプルに。写真だとどうやって固定されているか分からない感じです。どうやってつけたかは皆さんご想像くださいね。補強に入れた丸脚も細くて美しいです。

白い壁面に家具がついて、その家具が壁面いっぱいではなく、その奥の白い壁の印象を残すことで、壁を感じさせることで、のっぺりと見えていた空間にきちんとした奥行が感じられるようになって、かえって広さを感じるのではないか、そう思っているのです。
だから、今回のYさんの家具たちのように、白い壁と言う余白をうまく残して家具をリズム良く配置していくことで、このようにお部屋が引き締まって見えるのではないかと思います。

オークとブルータイルの食器棚とカウンターデスク

全体のリズム。

そして、引き締まって見える場所は、そこに置かれる者たちにも緊張感が多少生まれるのではないでしょうか。
キッチンで使う道具や材料たちは、あふれることなくしかるべき場所にしまわれて居心地よく、使い勝手良くいつまでもいられるのは、空間と家具とモノたちの調和がとれているからかもしれません。
「本日は遠いところまでありがとうございました。
素敵な木の香りのする家具、眺めているだけで嬉しくなります。
これから長い間大切に使わせていただきたいと思います。」
眺めているだけでうれしくなるのは、きっとYさんのイメージがこの場所にしっくりと当てはまったからなのでしょうね。

吊戸棚・バックカウンター

価格:620,000円(制作費・塗装費)

スタディカウンター

価格:180,000円(制作費・塗装費)

テレビボード

価格:310,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は40,000円から、取付施工費は80,000円から)

ちょっと関わりのありそうな家具たち