好きなかたちを作らせて頂く
「オークとホワイト塗装仕上げのテレビボードのオーダー」
五反田 S様
design:daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:kouhei kobayashi
painting:haraki tosou
はじめはテレビボードを作るつもりではなかったのです。
Sさんから最初にメールを頂いたときは、「リビングの家具を作りたいのです。」という大まかなご相談だったのでした。とりあえずお伺いして打ち合わせることにしまして、どのようなかたちをイメージされているのかをお伺いすることにしました。
場所は五反田。品川や芝浦は時々来たことがありますが、五反田は初めて。駅を降りて昼間は静かな飲み屋さんがある通りを過ぎたところに建つマンションがSさんのお住まい。背が高いマンション。長いカウンターのある家具になったら搬入がちょっと心配。
今までもタワーマンションにお住まいのお客様のお宅に伺うことがありましたが、防災センターがあるマンションなどもあったりして、高層マンションの搬入はなかなか苦手だったりするのです。
こちらのマンションもオートロックを2つ通り抜けてようやくエレベーターに乗り込んで、忘れないように手順を覚えて、搬入のエレベーターはこれでよいのかな、など一人ブツブツと階上へと向かいます。
「こんにちは、Sさん。」
リビングに上がらせて頂き、早速お話を伺います。
以前にお住まいだった場所から、最近こちらに移られてきたのだそうで、その以前の住まいはFILEさんがリノベーションしたのだそうで、写真を見せてもらいましたらとてもシンプルでFILEさんらしいテイストのお部屋でした。
前回の家具の経験を生かして、今回はここをうまく使いたくて細かく相談に乗ってもらえたらと思いまして。」ということでいろいろとお話を伺っていくのでした。
でも、お話を進めていくうちにどうやらSさんが最初に必要としているのは、リビングに大きな家具を作りつけることではなさそうだ、ということが分かってきたのでした。
お話しないと分からないことはあるのです。
リビングの一角にある白いピアノ。そのピアノをうまく取り込んで収納を作ろうと当初計画したのですが、そう作りこんでしまうと、先々身動きが取れなくなるかもしれないし・・。
「せっかく作った家具だから、家具に合わせて部屋の動線を決めよう。」となってしまうのは、どちらかというと私たちの望むことではなく、Sさんもそういうふうに窮屈になるのはどうかなという思いが出てきて。
そこで今必ず必要なものは何かをあらためて話を始めると、ピアノのあるべき位置が決まってきて、リビングから隣の部屋の活用方法までお話が広がっていくのでした。
そうして、リビングには印象よくテレビボードを置きましょう、というお話になり、普段人目に付きにくい隣の部屋の壁をうまく生かして収納にしましょう、というお話になったのでした。
さて、そのテレビボードの形はどうしようかな。打ち合わせの中で参考にしたのは、鎌倉のOさんのテレビボード。収納部をぐるりとナラ材が囲む印象がとても上品な形でした。あの形をうまくこの場所に取り入れたい、と思ったのです。
Sさんのお部屋のイメージはもう少しシンプルにまとまっていましたので、ピアノやそのほかの家具の色で使われている白い色を使いたい、というお話になりました。
その時にふと頭に浮かんだのが、NYのSymbol Audioさんが作っている「TABLETOP HIFI」でした。
以前にこのオーディオの形を見ていて(美しいなあ、いつかどこかで家具に生かしてみたいなあ。)と思っていたのです。
それで、Sさんにその写真をお見せしてお話させて頂くとSさんも気に入ってくださり、これで形の方向性は決まりました。
さて細かい部分を考えていきましょう。
当初のイメージが大きなテレビボードでしたので、なるべく印象をすっきり見せたいと思っておりました。
そこで、この幅の家具ならAV機器がしまえるサイズを考えて全体を5等分にすることにして、白い正面はゴチャゴチャならないように存在感はなるべくなくして、ナラの印象がはっきり見せたいと思っておりました。
またポイントとして扉や引き出しの開閉には、ナラの無垢材を手掛けに使う形にしましょう、ということになりました。
こちらの机のような印象です。
「子ども部屋が完成」
すてきな形になりそうです。
と、思っていたのですが、よく考えてみると過去にこの取っ手で1回失敗したことがありました。
この取っ手を扉につけると、取っ手が側板に当たって扉が全開しないのです。それで、取っ手の端を斜めにカットしたデザインにしたことがありました。
「シマシマとコウシ」
でも、今回はその取っ手がずらっと横並びになるので、それぞれの端がカットされてしまうとどうだろう、と思い悩むことに。
できれば一直線で取っ手が続いている印象にしたいな、と思いまして、それなら左右に開く扉ではなく、下に向かって開く扉ならぶつからないし、どうだろう、いいねいいねと一人思っていたのです。
それでさっそくSさんにそのようにお伝えすると、
「お見積りや図面ありがとうございます。とてもきれいな資料ですね。
もう少しよく拝見したいと思いますが、リビングのキャビネットの扉が下に開く形、別にいいとは思ったのですが、あまり下に開く扉というのを使ったことがないので使い勝手の面でどうなのかなと思うようになりました。
やはり開いた扉の奥行きの分棚に体を近づけることができない?というように想像されるのですが、そうなると、奥のものに手が届きづらいのではないかとか・・。」
なるほど、おっしゃる通りでございます。
確かに高さ40センチ近い扉が手前に開いてくると、テレビボードから体を40センチ離さないといけなくなりますね。
そうなると、操作したりソフトを出し入れするのに、ちょっと手が遠くなりますものね。
では、どうしましょうか、とSさんとあれこれ悩みまして、最終的には扉は普通日左右に開く扉にして、手を掛ける部分はシンプルに上端部分を掘りこんだ手掛けにしてそこも白く塗り包んでしまおう、ということになりました。
Sさんらしい潔い形です。
Sさんとお話をしているととても簡潔で要領をまとめてお話をされる女性で、むしろ男らしく感じるところがあるくらい考えをスパッと切りまとめて話してくださる方なので、この提案を聞いてなるほど、と思ったのでした。
こうしてまとまったテレビボード。続いてリビングにあるものをうまく隣の部屋にまとめて大きな壁面収納にして整理しやすいように、と考えていた家具は、まずはテレビボードが入って、ピアノを動かして、しまえる物を作りつけの物入に整理してからあらためて考えましょう、ということになり、今回はこのテレビボードに専念して製作することになりました。
製作を担当するのは、鎌倉のOさんのテレビボードを担当したコバヤシ君。留の納め方や小口の曲面の仕上げ方などコツを使ってもらっているので、ここは彼が頼もしいわけです。
また、現場に搬入しやすいように、ナラの板と白いキャビネットは分割できるようにして、キャビネット本体は塗装で仕上げると大幅にコストが上がってしまうので、化粧板そのままで仕上げて、扉のみ塗装で仕上げることにしたのでした。
通常、塗装して仕上げる場合は下塗りが良く定着するように木地で作ると思うのですが、塗装屋さんに聞いてみると、化粧板を使ったほうがあらかじめ工場で塗装されたものなので、下地が均一になっているからきれいに仕上げやすいのだということで、キャビネットに使っている化粧板で扉を作りその表面を一度荒らしてから仕上げ塗りをしてもらうことが多いのです。
格子扉はさすがに化粧板での製作は難しいので、シナの無垢を使って製作しています。
こうして、無事にテレビボードは完成しました。
Sさんにも事前に管理事務所さんに届けておいてもらったので、搬入もスムーズに終わらせることができて、ちょっと心配だった玄関からリビングへ抜ける矩折れの廊下の通り抜けもほかの部屋に一度逃げたりしながらどうにかリビングまで運び入れることができ、壁への固定もスムーズに完了。
Sさんのしっかりとした表情がにこやかに緩んだのを見てほっとひと安心したのでした。
ナラとホワイトウレタン塗装のテレビボード
価格:580,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は20,000円から)
ご注文・お問い合わせをご検討中のかた
ちょっと関わりのありそうな家具たち
-
2019.10.03テレビボードのオーダー
私のアトリエ、まずはテレビボード
「シナのテレビボードのオーダー」 海老名…
-
2015.10.29テレビボードのオーダー
音がうまれる部屋
「節のあるナラのテレビボードのオーダー」…
-
2015.01.24テレビボードのオーダー
同窓の人
「テレビボードのオーダー」 町田 O様 …