しずかにふくふくした様子
「ナラ板目材とステンレスバイブレーションのオーダーキッチン」
ちはら台 S様
design:Sさん/daisuke imai
planning:Sさん/daisuke imai
producer:kouhei kobayashi
painting:kouhei kobayashi
私はこの京成電鉄千原線が好きなのです。
千葉県の市原のほうにお住いの方々から時々家具のご依頼を頂くことがあります。
そういう時はもっぱら電車で打ち合わせに出かけるのですが、東京湾岸をぐるりと回る道のりはやはり車よりも電車のほうが風情があって好きです。
新宿から総武線に乗って、西に向かうにしたがって、町工場が立ち並ぶどこか懐かしい街並みを通り過ぎるのです。
場所は違うのですが、子供の頃、祖父母の家が文京区の小石川植物園のそばにありまして、すぐ2軒隣が家族で何やら作っている工場だったのです。
今でいう鉄工所だと思うのですが、夏に遊びに行くとお盆の季節ですから工場はしんと静まり返っていて、それなのに正面のシャッターはすこし開いていたりするのです。
祖父母の家での遊びが飽きると、玄関にある小さな草むらに置かれた赤さびだらけの動かなくなったトロッコに乗って遊んだりしていたものです。
すると、「これは乗っちゃだめよ。」と母に言われていたのに乗ったりしていると、どこからともなく「よっちゃんイカ」(酢漬けのイカのお菓子)の匂いがしてくるのです。
当時祖父が玄関先で駄菓子屋を営んでいた(とても素敵な環境でした。)こともあって、きっとそこから漂ってくる匂いだろうって思っていたのですが、よく嗅いでみるとちょっと違う。なんだろう、と弟と一緒に匂いのする方へ行くと、そのシャッターが少し開いたただ静かなくらい倉庫のあたりから漂ってきたのです。
今にもその暗闇から大きな目玉の人間が飛び出してくるのではないかとびくびくしたものです。
今でいうところの酢酸なのではないかなあと思うのですが、そのお宅は路地の突きあたりということもあって、私たち子どもにとっては用事のないので通ることもないし、いったい何が行なわれているのだろう、と子供の頃はその場所を見るたびに恐れを抱いていたものでした。
そういう煙突やら赤さびやら鉄骨で組まれたやぐらやら、屋上に干されている洗濯物などを見ると、どこからか「よっちゃんイカ」の香りがしてくるようでした。
西に向かうにつれて人もまばらになってきて(幕張あたりは大変な賑わいですが)、そこから南下していくともうどこか知らない町並みで乗り降りする人も少なくなって、本当に静かな気持ちになるのですね。
そういうプロローグが好きで、電車で出かける心地良さはよいものです。
ちはら台はその路線のターミナル駅で停車すると、その先にもう線路はありません。
皆静かに下車して、私もそれに続いて降りると、先ほどの人たちはどこへ行ったのかもう人影もなくなっていたのでした。
スマートフォン片手にそこから40分ほど歩きます。(バスはなかなか不安で乗らないことが多いのです。)
今日はSさんの家を建てる設計事務所さんのアトリエで打ち合わせなのです。
古い農家に混ざって新しく土地もちらほら見えます。大きな公園(うるいど自然公園いうのですね。すてきな場所でした。)新しい家がたくさん建っています。
すてきな街並みです。
と思ったら、Sさんの建築場所は駅を挟んで真向いの方向で、またそちらも目の前に田畑が広く広がる魅力的な土地でした。
やはり、Sさんらしい土地ですね。
最初にご相談頂いた時Sさんが希望されていたキッチンは畳に座りながら食事ができるような、もしくは耳付きの大きなテーブルがあるダイニングがあるキッチンをイメージされていて、こういう和風の形を実現させるのは、暮らす人それぞれの好みで大きくイメージが分かれそうだから難しそうだなと当初は考えていたのでした。
しかし、手元に届いたキッチンのカタログをSさんご夫婦でご覧頂くうちに、いつもの私たちの形のほうがスッキリしてよいかもという思いに定まったようで、その思いを携えて、この寒川まで足を運んでくださったのでした。
そこで大まかなイメージは固まりまして、いよいよ建築も始まるというタイミングでちはら台にお伺いしたのです。
ところでSさん。ご主人はとても物静かな方。奥様も同じようにご主人と同じく丁寧にお話される感じ。そして、設計士さんのYさんもどちらかというと穏やかな方。ここまで歩いてきた風景という導入部の物静かさもあってか、Sさんのキッチンを思い描く時は、とても静かな初夏の午後を思い出すのです。
メールでほぼ内容をまとめてきたこともあって、打ち合わせ自体は1時間もかからずに終わることができて、設置工事の段取りもうまく進められそうです。
私たちのキッチンというと、施主支給という形で新居に導入させて頂くことが多いので、設計事務所さんや工務店さんは初めて顔を合わせる会社さんが多いのです。
それで、基本的にその会社さんのご協力がないときれいに納まらないので、このご挨拶のタイミングはいつも緊張するわけです。
でも幸い、私たちにキッチンを依頼してくださる皆さんが選ぶ工務店さんだからか、気持ちの良い設計士さんや監督さんと出会うことが多くで、今では緊張するとともに楽しみであったりするのです。
形もおおよそまとまっていたこともあって、打ち合わせはそよ吹く風のようにゆったりとし短い時間で終了し、重要なポイントになりそうな、柱とキッチンの接する部分だけはしっかり進み具合を見て判断しましょう、ということで、あとは工事が始まるのを待つばかりです。
それから、数か月後。
いよいよ大工工事も始まって壁から柱までの距離が計測できる時期になりましたので、あらためて電車に揺られて伺います。
ご新居の建設地は、今度は駅から北に向かって15分ほど歩いた田園地帯でお寺さんの隣というとても静かで魅力的な場所です。
その住まいはというと、キッチンは高さを引き締めてリビングに入ると天井の高さがグッと上がるという気持ちの良い空間になりそうな印象。(まだ骨組みですので。)キッチンからは庭が見渡せるレイアウトで、これならこの柱も全く気になりません。
この柱は構造上必要な柱なのですが、視線、動線上の繋がりが切れてしまうような印象がありまして、それなら自然に見えるように柱とキッチンのラインを揃えたい、ということで、壁から柱までの位置が計測できるこのタイミングで現地を確認する必要があったのです。
打ち合わせの時よりも短時間で確認は終了。
これで制作に取り掛かれます。
今回はこのタイミングまで制作に取り掛からずにおりましたので、ちょっと手際よく進めなければいけません。
あらかじめ無垢材の段取りだけは済ませておいたので、(反っちゃうといけないので)あとは工房の中で一番手際のよいコバヤシ君が製作を担当します。
みんなが言うには、コバヤシ君は迷いがない、とのこと。
私も工房で作業に専念していた時代は手が早いと言われていましたが、コバヤシ君の動きを見ているとなるほど、早いです。
今な独立して一人で頑張っている元スタッフのムラカミ君が当時言っていたのは「自分だったら、ちょっと立ち止まる部分もあいつは進めるんですよね。でも、それが間違っていないからすごいなあって僕も思っちゃう。」って。ミスを繰り返して人は成長するってよく言うものですので、じゃあ彼の場合はいきなり大きなミスしちゃうと怖いなあなんて話も時々出たのですが、それも事前に回避できる推察力というのかとても勘も良いのです。
そのような彼のおかげで作業は順調に進んで、設置工事に入りました。
どうにか心配していた雨も上がっていて、まだぬかるみは残っていましたが、当日現地は私たちのためにほかの職人さんが入らない日を設けてくださったこともあって順調に搬入は終了。
搬入っていっつも心配なのです。
結構ばたばたとした現場も過去にあったりしまして、通してもらうのもひと苦労、設置場所には大工さんや設備屋さんの材料だらけで作業場がないくらい足の踏み場がないキッチン。そういう現場もありました。
皆さん持ちつ持たれつで作業しているので、そういう状況ももちろんあるものですので仕方ないのですが、やはり監督さんがうまく段取りしてくださる現場はきれいで、業者さんも順番にきちんと作業ができて気持ちが良い。
搬入が問題なければ、あとは工房で仮組したように組み上げていくだけ。思っていたようにみんなの段取りの良さでスムーズに終わらせることができて、無事に取付は完了。
お疲れさまでした。
あとは工務店さんが水道やガスの配管工事をして頂ければすべて完了。
こうして冬を迎える前に無事に作業は完了して、続いてお邪魔させて頂いたのは寒さが厳しくなってくる1月の半ばでした。
室内はふっくらと温かく、家具としてはこの時期一番心配な感想による板の収縮等の動きですが、そういった挙動はまだ見られずきれいに使ってくださっていたのでした。
実際にキッチンをメインに使われている奥様とはお仕事の関係でお会いできなかったのは残念ですが、ご主人のいつものような穏やかなふくふくした様子をキッチンを拝見させて頂いて、私も同じくらい気持ちが温まりまして、道中寒さを感じることなく家の帰ることができたのでした。
天板 | ステンレスバイブレーション |
---|---|
扉・前板 | ナラ板目無垢材/ナラ板目突板 |
本体外側 | ナラ板目無垢材/ナラ板目突板 |
本体内側 | ポリエステル化粧板「ホワイト」 |
塗装 | オイル塗装仕上げ |
ナラ板目のペニンシュラキッチン
価格:1,300,000円(制作費・塗装費、設備機器費用は別)
ナラ板目のバックカウンター
価格:600,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は60,000円から、取付施工費は150,000円から)
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