この土のうえで暮らそう
「ブラックチェリー無垢材とステンレスバイブレーションのL型キッチン」
富里 U様
design:Uさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:kenta watanabe
painting:kenta watanabe
私は勘違いすることがあります。
Uさんからメールを頂きました。
キッチンのリフォームのご相談でした。
「こんにちは。以前カタログを頂きました、Uと申します。
いつもインスタを拝見させて頂いており、とてもステキなキッチンとキッチンを作ってもらうならイマイさんで!と沢山の皆様のお言葉などなど・・・ずっと気になっていました。が…コロナ禍や新築で自宅を建ててまだ10年弱というのもあり、リフォーム?と色々悩んでおりました。
しかし,やはり数年暮らしてみて・・・どうしてもキッチンの向きやサイズ、機能、使い勝手が悪く暮らしにくく・・・毎日のように色々なキッチンの本や画像検索をしている自分に我慢が出来なくてメールさせて頂きました。
やはりしっかりイメージを共有するのならキッチンの見学はした方が良いでしょうか?県外なので少し考えていました・・・。すみません。
キッチンは今はペニンシュラですが,壁付I型かコンパクトなL型でスライドの引き出しを考えております。(吊り戸棚付き)
手持ちの家具が北欧ヴィンテージの物が多いのでそれに合うキッチンの風合いが希望です。
理想はコックピットのようなコンパクトだけど使いやすい感じと思っております。
メールですと伝わりにくいと思うので郵送にて写真やイメージの書いたものなどを送らせて頂いてもよろしいでしょうか?
長々と沢山の質問をしてしまい申し訳ありませんがよろしくお願い致します。」
というメールが届きまして、しばらくしてUさんからお便りが届きました。
Uさん、角ログで組まれたログハウスにお住まいのようで、そこにペニンシュラキッチンが据えられている写真も添えられていました。
写真を見る限りはそれほど使い勝手は悪くなさそうに見えるのですが、どうやらキッチンが据えられている位置が使いづらそうということは、なんとなく伝わってきたのでした。
なぜそう思ったのだろう・・。
キッチンが部屋の真ん中にあるからかな。食卓でゆったりした時間を過ごせるイメージが描けない印象があったからかな。
Uさんもその点を強く思っていて、優雅に動ける動線が見えない印象を変えたかったのでした。
ただ、それをどう変えたら暮らしやすくなるのかが、お手紙を読む感じではまだUさんご自身の中でイメージできていない部分もあるようにも思えたのでした。
Uさんが求めている本当のことは何だろうかな・・。
さて、どういうふうにお話を進めようかな。
いきなり具体的な形を考えてゆくのも良いのかもしれませんが、ここはまず身体感覚と照らし合わせながら、どのようなレイアウトが最適なのかを考えるために簡単な平面図を描いてお送りしました。寸法をお伝えすればより具体的にどう暮らしたいかのイメージが分かってくるのかなって思いまして。そして、そのレイアウトを見て頂いて、どの形なら作業動線が確保しやすいのか、またワークトップで作業しやすいのか、ダイニングの空間が広くとれるのかを判断してもらえたらと思ったのでした。
でも、実際Uさんはそのあたりはもうきちんとイメージできていらっしゃったようで、それをうまく伝えることが難しいというだけだったのでした。
Uさんが求めているものは何だろう・・。私の勘違い、というか思い違いはもう少し続くのです。
次に頂いたUさんから頂いたメールの内容も少し私の勘違いのままお話を進めてしまっておりました。
「イマイさんから頂いたレイアウト図を拝見させて頂きました。
家のLDK部分が写真や図面で見るより狭い空間でどうしてもアイランドや提案して頂いたL型だとダイニングスペースがとれないと言うことから壁付のL型を希望しました。
本当はコの字型もいいなと思っていますが、ラウンドテーブルに椅子4脚置き、リビングを出来るだけ狭くしたくなく、家族は2人で料理は基本1人でしている状態(今後も)など色々考えて、1番スペースがとれそうなシンプルなI型かL型かなと行きつきました。
L型と言ってもI型のキッチンに横に少し引き出し収納があるカウンターを付けた様なL型、と言う感じでしょうか⁈
説明が下手ですみません。」
お送り頂いた平面図を見る感じではそれほど狭い印象はなくて、相変わらずL型のメリットが思い描けなかった私でしたが、まずはL型にする場合とI型と直角に食器棚を置くL型のようなキッチンを作る場合のおおよその金額をお伝えしたのでした。
その予算感を汲んで頂いて、具体的な話をしにUさんがこちらまでいらしてくださることになりました。
何となく自分の中でボタンを掛け違えたまま、というかどこかUさんの核心がつかめないままお話が進んでいるような気がしてどうまとめたら良いか定まらないままでしたが、まずはお話を聞いてUさんの思いを聞いてみなくては。
そうしてUさんおひとりで電車に乗り継いでいらしてくださっていろいろなお話を聞かせて頂きました。
やはりこうして直接お会いしてお話ができて良かったです。何となく勘違いしていたと思う部分がほぐれていくのが分かりました。
お話の中で興味深かったのは、「家自体は広いのに、ほとんどキッチンがある部屋のみで過ごしてしまう。」とおっしゃっていたことでした。
よくお話を伺うと、リビングは大きなサッシがあってそこからウッドデッキのあるテラスに出られるという心地よさそうな空間に思えるのですが、新築当初はのどかだった近所も、ここ数年でだんだんと周りに住宅が増えてくると、デッキのすぐ向こうの人の往来やまわりの視線が気になってしまうことや、ログハウスならではの出っ張り(ノッチの先端部分の出っ張り)が壁の出隅のあちこちにあるのでどうしても壁の角が生かせなくて、その分部屋が狭く感じでしまうことなど、このような要因があって、本当は広々と過ごせると思える室内が、狭く限られた空間で過ごすばかりになってしまいがちだったのだそうです。」
なるほど、そういうこともあるのですね。
しかし、そうなるとキッチンを作り替えるだけでは暮らしかたを替えることはできないのではないだろうか・・と私は話を一人で飛躍させてしまったのでした。
軒を深くできるような細工を施したり、むしろウッドデッキを縮小して、背の高い植栽を入れてゆるやかに視線を遮ってみたりすることで、キッチンを変えるよりももっと豊かな時間の過ごし方がまれるのではないかとまたまたひとり勘違いの思いで話がそれていってしまったのでした。
あとあと思い返すと、何だか恥ずかしく、Uさんはそういうことも住み始めて10年で体感していらっしゃるだろうから、「そんな話じゃないのにな。」なんて思われていたかもしれません。(笑)
それでもUさん、その話を聞いて自身で気づけなかったことに気が付いたとおっしゃってくださって、今すぐキッチンに手を加えるのではなく、暮らしかたを振り返ってみて、自分の気持ちを整理してみます、ということになったのでした。
「よかったよかった、キッチンのお仕事にはつながらなかったけれど、ひとまずUさんの暮らしかたが良くなったら良いなあ。」なんてのんきに思い違いしていたのがその年の夏の始まる6月の半ばのことでした。
このままお話はどうなってしまうのかしらと思っていたらあっという間に冬に差し掛かろうという時期になり、ふとUさんからメールが届いたのでした。 「イマイ様、以前、夏頃にご相談・見学させて頂きましたUです。 ご連絡が大変遅くなりまして申し訳ありません。キッチンをお願いしたいという気持ちはもちろん変わらずあるのですが、仕事も忙しくなってしまったり、あまりにも悩み過ぎて集中出来ずに決めきれずにいました。すみません。 あれから何度も考えては悩み、これからの生活や自分の居るキッチンを想像してみましたがなかなかはっきり思い描けず、理想だけがどんどん膨らんでしまって完全にキッチン迷子になり考えがまとまらず何度も挫けてしまいましたが,やはりL字型と吊り戸棚の形でお願いしたいと思います。 小さめなカウンターについては未だ悩んでいます。こちらは後ほどまた伝えさせて頂きたいです。 お忙しいとは思いますがこちらは急ぎませんのでまたご相談にのって頂ければと思っております。 また素人の考え、発想なので物理的に無理な事や難しい事がありましたら色々アドバイス教えて頂けましたら幸いです。 絵も分かりにくくわがままな要望ばかりでご面倒おかけしますがよろしくお願い致します。」
そうして再び、以前の形よりも具体的なご要望が書き込まれたUさんのスケッチが届いたのでした。
きちんと書かれているということは、ご自身がその思い描くイメージの中を実際に過ごしたのですね。
私の勘違いもここできちんと終わることができました。Uさんが求めているのは、リビングやデッキで過ごす時間ではなく、心地よいキッチンとダイニングで過ごす時間なのだと、あらためてメールとそのスケッチで気づかされたのでした。
この家でこの場所でずっと心地よく暮らしていくための最初のひとあしがこのキッチン作りだったのです。
いろいろと思い違いがあってすみませんでした、Uさん。
今度はボタンがきちんとはまっているような気がしたのをおぼえています。
ここに来るまで7か月が経っておりました。
さっそくその頂いたイメージをもう少しまとめるために私もスケッチを描いてお送りしました。
少しずつUさんの暮らしが動き始めた感じがしました。
そして、そのスケッチを基に具体的にお話を進めるにあたりまして、Uさんが再びこちらにいらしてくださることになりました。
ちょうどその一年前にショールームにL型のキッチンを作ったこともあって、実際にL型キッチンの感覚を知ってもらえる良い機会でしたので。
そして、今度はご主人と二人でいらしてくださったのでした。
私はUさんのことをこの時まで勘違いしていたようで、もっとほんわかした人だと思い込んでいたのですが、イメージがまとまってきてその様子をお話する印象は今までの思いとどこか印象が違って、話す様子はとてもきっちりしているのですが、思いがいろいろあってまだはっきりとまとまらなくって、ということでそれが表れた様子でそう思いこんでいたのかもしれません。
Uさんすみません・・。
そして、ご主人はとても物静かなかたで終始隣で話に耳を傾けてくれて、奥様が「ねえ、これで良いかな、どう思う?」と質問しても「君の思うようにするとよいよ。」とにこやかに答えるのでした。
きっと奥様がこういう質問するときはすでに奥様の中で答えが出ている時だって知っているのでしょうね。
そうして、ひとつずつ思い描いていたことや悩んでいたことがクリアになっていって、ひとつの形にまとまっていったのでした。
さて、今回のキッチンのリノベーションはもちろん私たちだけでは工事を完了させることができないので、いつものようにkotiさんにお声掛けさせて頂いたのでした。
この内装工事ですが、角ログの家ということもあって通常の木造住宅と異なるので、本来でしたら、ここを建てたビルダーさんに内装工事をお願いする方が良いと思っていて、当然そういう形になるかと思ったのですが、Uさんがこの家を新築するときにそのビルダーさんとの信頼関係を築けなかったのだそうです。
その後も小さな修繕工事をお願いした際もやはりその関係は改善されなくて、「できれば別の会社さんにお願いしたいと思っておりまして。」というお話を聞いて、kotiの伊藤さんにちょっと遠いけれど来てくれるかどうか相談に載ってもらったのでした。
遠距離な分、交通費などの経費が高くはなってしまいますが、もちろん大丈夫ですよ。ということでkotiさんのいつものチームで乗り込んで頂けることに。
こういうふうにいつも私たちの仕事を見てくださっている職方さんたちが受け持ってくれるのはとても安心です。
さて、おおよそ話がまとまったので、伊藤さんと一緒にUさんのご自宅までお伺いしました。
成田にほど近いところにお住いのUさんのところまではなかなか距離がありますね。
周りは緑に囲まれた立地にだんだんと住宅地として造成されてきた一角に角ログのとても雰囲気のあるお宅が見えてきました。
指輪物語のフロドの家みたいな感じでしたね。
「こんにちは、お邪魔します。」
さっそくキッチンを拝見させて頂きました。
今使っているキッチンお解体は特に問題なさそうでしたが、レンジフードが天井の傾斜に少し差し掛かるような感じでついていたので、新しいものに交換するときはちょっと工夫が必要になりそうなことが分かり、今回新たにキッチンの奥にライニングカウンターを設けるのでそれがうまく納まるかどうかを確認しました。
特にログの家は木材の収縮が大きいので、壁の歪みが大きく出ている可能性があります。
キッチン設置の際にもそれが影響しないかどうかが心配でしたが、それほどの動きはなさそうで、もう10年ほど経つということですのでだいぶ落ち着いているのではないかと思われ、設置はスムーズに進めることができそうでした。
また、L型キッチンの醍醐味として、天板を1枚で作りたいところですので、それが搬入可能かどうかも確認しまして、大きな開口のサッシがありましたのでそのあたりも問題なく進められます。
こうして順調に進められることを確認して現地を後にしようとしたときに、「イマイさん、実はこの玄関も。」ということで、新たに玄関周りのご相談もいただいたのでした。
玄関は、パインの集成材で大工さんが棚を作ってあるだけなので質素ではありましたが、Uさんがきれいに季節の小物たちを置いてくださっていたので、その様子でも十分美しいと感じていたのですが、少し前に籐を使った扉を作った話をしたことがあって、それをぜひ玄関に迎えられたらとUさんは思っていたのでした。
なるほどすてきな印象になりそうだ、と、この玄関まわりを見てようやくUさんの好みがいまさらながら気が付いたのでした。
最初のメールにも書いてあったのですが、北欧のインテリアの印象が好きだということで、小物だったり家具だったりを少しずつ集めているのだということを今あらためて思い出したのでした。
それなら、チェリーやラタンという印象は素敵に生えると思います。
なるほどなるほど、と一人うなづきながら外に出るとかわいらしい角ログの小屋(といっていいのかな。)が。
先ほど訪ねた時は、慌ただしくなってしまって素通りしていたのですが、この小屋もきれいにお手入れされていて、不思議なたたずまいでした。
「実はここが私の仕事場なんです。ここでヘアサロンを開いていまして。」とにこやかに奥様。
聞くとご主人と二人でいろいろと手を加えてできあがった今のこの形。とても味わいのあるサロンだったのです。
自宅の玄関からサロンまでの草目地が入っている石畳みもお二人でしつらえたということで、とても良い印象です。
「主人もヘアサロンをやっておりまして、主人の仕事場は成田のほうなので、私はここでプライベートサロンのような形で皆さんの髪を切らせてもらっているのです。」
それはすてきなお話です。
こうして、やっとUさんというご夫婦がどのような好みをお持ちなのか、どういう気持ちでこの場所に暮らしていくことを思い描いているのが良く分かりまして、よりキッチンを作りやすくなっていったのでした。
工事の時期は、私たちがキッチンの制作が完了する時期から逆算して予定を組んで頂いて、現地確認をした冬から少し季節が変わって、初夏に差し掛かる5月の終わりごろに行なうことが決まりました。 その時期までに制作が完了するように、今回はワタナベ君が制作に取り掛かってくれました。 今回は表面にブラックチェリーの無垢材を使うことになりましたので、当然板の動きが出るところが一番心配な部分ですので、時間に余裕を持たせて、様子を見ながら加工を進めていきました。
こうして、順調に制作が終わるタイミングでkotiさんが解体作業を進めてくださって、配管に切り回しも問題なく完了。そのタイミングでいよいよ設置工事に乗り込みます。
L型の天板とキッチンキャビネットがうまく積み込めるか心配でしたが、そちらもどうにかクリアできて、ワタナベ君、タケイシさん、助っ人として元スタッフで今は独立して頑張っているコバヤシ君、そして搬入とおさまりの確認をするために私が、という4人で向かいます。
当日は好天に恵まれまして、サッシを解放したままでもとても心地よい風が入り込んでくる、すてきな取付日和でした。
Uさんはサロンにお客様がいらっしゃるので、その準備をしながらも作業を見守ってくださり、私たちも順調に搬入を終えることができたのでした。
そのあとは、配管の様子を確認して、問題なく進められることが分かりましたので、3人に設置作業を任せて、泊りがけで無事に設置が完了したのでした。
その時の様子
「5月23日 ブラックチェリーのL型キッチン」
https://www.freehandimai.com/?p=56373
そして、後日kotiさんのほうで給排水やガスのつなぎを行なってもらって、そのあとにUさんがオイル塗装を行なって、無事にすべてが完了したのでした。
後日、挨拶に伺わせて頂きました。
その時の様子
「6月19日 ブラックチェリーのL型キッチン」
https://www.freehandimai.com/?p=56486
そして、Uさんからうれしいお便りが届きました。
「お世話になっております。
先日はいろいろお世話になりありがとうございました。
今日、伊藤さんにも残りの作業を行なって頂いて無事に全て終わりました。
オイルを塗ってより素敵になりましたね。と言って頂けました。
本当に毎日ほぼキッチンダイニング空間で過ごしているのでとても快適でうれしい限りです。
素敵な猫用ご飯台もありがとうございました。私達も猫達もお気に入りです。大切に使わせて頂きたいと思います。
なんだか最適な言葉がみつかりませんが・・・、めぐりめぐってやっとめぐり逢えたと言いますか、やはりfreehandimaiさんにお願いしてとても良かったです。今井さん,奥様をはじめ制作スタッフの皆様,伊藤さんや工事をして頂いた方々にも諸々大変お世話になり本当にありがとうございました。どうぞよろしくお伝えください。
またこの小さな家の素敵なお気に入りキッチンダイニングで暮らしていっていろいろと感じたり考えが変わったりした時にお世話になると思います。
その時はまた懲りずによろしくお願いいたします。ありがとうございました。」
天板 | ステンレスバイブレーション |
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前板・扉 | ブラックチェリー板目無垢材 |
本体外側 | ブラックチェリー板目突板 |
本体内側 | ポリエステル化粧板 |
塗装 | オイル塗装仕上げ |
ブラックチェリー無垢材とステンレスバイブレーションのL型キッチン
価格:2,020,000円(制作費のみ、塗装費、設備機器費用は別)
クルミと籐の玄関扉4枚
価格:250,000円(制作費のみ、塗装費、設備機器費用は別)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は120,000円から、取付施工費は240,000円から)