遠くて懐かしい町まで

「クルミのセパレートタイプの食器棚とリビング収納のオーダー」

勝田 K様

design:Sさん
planning:daisuke imai
producer:kouhei kobayashi
painting:kouhei kobayashi

クルミのセパレートタイプの食器棚

キッチンの様子。奥の物入れも使い勝手を変えて、下の方がパントリー代わりに使えるように深めの引き出しを入れて、胸から上あたりは扉にして、中は既存の可動棚を生かしたり、トレイを新設したりしています。食器棚との印象もまとまって良い空間になりました。

「はじめまして。
4月に中古マンションに引っ越し、これから足りない家具を足していこうと考えています。
ウェブサイトでイマイ様のお仕事にすっかり魅せられてオーダー製作例を拝見するうち、水戸市や東海村の事例もあったので思い切って相談させていただきます。(ひたちなか市は水戸と東海の中間なのです。)

1.食器棚
オーダー製作例の「紙に描いた食器棚」や2017年3月21日の日記の節アリナラの食器棚が好きです。材質はリビングの床が節もあるオークの無垢材なので、違和感ないものがよいです。木の種類に詳しくないのですが、製作例にあったくるみも素敵です。
埃がたまらないように吊戸棚は天井まで。カウンターに置きたい家電はオーブンレンジとコーヒーメーカー。炊飯器は使わないので炊飯器置き場はいらないです。ごみ箱のスペースはオープンでクードのペダル式のものごみ箱を2つ並べられればよいかなと考えています。引出しの取っ手は手掛けのシンプルなものもいいなと思いつつ、KUMA鍛鉄工房さんの取っ手にも惹かれます。(かなぐやさんにも)
それから、食器棚に向かって右側が冷蔵庫置き場なのですが、そちら側に根菜やリサイクルに出すペットボトルなどの袋を引っかけておけるようにS字フックをかけられるバーか最初からフックが3つ4つあるといいなと思います。

2.物入れを引出しに
製作例の『いろいろなものを「再発見」』にあるような物入れがうちにもあります。どうにも使いづらいので、製作例のように引出しにしていただけたらと思います。4か所あり高さはどれも2100mm、①台所 幅410mm/奥行460mm ②リビング 幅460mm/奥行54.5mm ③洗面所 幅610mm/奥行365mmと幅260mm/奥行54.5です。
台所とリビングは食器棚に合わせた材質で洗面所は白っぽいイメージです。上の方の棚も固定の棚板ではなく大きな引き出して上からではなく横から物をとれるようになれば、奥の方も活用できるのではないかと素人考えで考えています。台所には高さ310mm位の調味料の瓶などしまいたいです。リビングの棚には本をしまいたいのですが、引出しだと荷重がかかりすぎますか?雑誌等の深い引出し、単行本等の浅めの引出し、文庫の引出しとあるといいなと思っています。洗面所はタオルや衣類などです。

3.ベッドサイドテーブル
幅350mm/高さ450mm/奥行350mm
材質はナラやくるみ等で、下部に読みかけの雑誌や本を立てて収納できるスペースが欲しいです。

長文になってしまいましたが、図面作成と見積もりをよろしくお願いします。」
とKさんからご相談のメールを頂きました。
茨城県にもオーダーで家具を作ってくださるところはあるようなのですが、なかなか自分の感覚と合わないのだそうで、それで私たちに相談してくださったのだそうです。

クルミのL型のリビングボードデスク

こちらはリビングのL型の家具。デスクと対面カウンターの下の収納がうまくまとまって良かった。もともとついていた収納がどこか分からないように納められたのがとても良かったのでした。

見ると、Kさんがお住まいなのは茨城県の勝田です。
今から10年ほど前はマンションの仕事が多くて、茨城県や福島県によく出かけていたのです。
勝田の駅前なんて何度も通っていて、まだハルカが生まれて数年しか経っていなかったころで自分が父親になった実感があまり持てなくて、アキコはきっと大変だったと思うのですが、自分は仕事で日中家を空けてしまうからどこかままごとの延長のような気持ちがあったりして、そういう自分にいけないなあと思いながらも、どうにか頑張っていた頃を何となく思い出しました。
そうか、あれからもうこんなに時間が経ったのか。
どこかで聞いたのですが、子供たちはできごとをひとつずつ丁寧に包んで記憶するけれど、大人たちは一つのできごとに関連する一連の時間を一つの塊として覚えておくそうで、だから、塊ごとに記憶していると、1年のイベントなんてあっという間に思い返せてしまうようで、時間が経つのが早く感じるのだそうで、たしかに私も勝田に通っていた頃にイメージはもうひとまとめになっちゃってる。
懐かしい空気だけが耳や鼻のまわりで思い出される感じで何だかこそばゆいのです。

クルミのセパレートタイプの食器棚

食器棚の吊戸棚の内部。表はクルミの突板ですが、内部は掃除がしやすいように白いポリエステル化粧板を使っています。


クルミのセパレートタイプの食器棚

吊戸棚の下にはオープン棚。


クルミのセパレートタイプの食器棚

リビングから見た様子。


クルミのセパレートタイプの食器棚

クルミの突板の印象。クルミの無垢材は色が濃く茶色っぽいものが多いのですが、突板は明るくて小節もないものが多いのです。

と、思い出に浸っていると時間が無くなってしまうのでして、さっそく形を考えてゆきます。
食器棚は形を考えてお伝えすることができるのですが、物入の改装は現状を拝見させて頂かないと分からない部分があり、またベッドサイドテーブルのようなその人の好みが大きく出る家具の場合は、私たちにはもともと家具の色がないので、その人の意見を汲み取りながら考えてゆかないといけないので、形が先走りしてしまってはいけません。
ということで、まず食器棚のプランと御見積を作ってKさんにお送りしたのです。
シンプルな形でしたが、材をいろいろ検討したうえでご依頼頂けて、さっそくKさんのご自宅まで採寸と細かい打ち合わせにお伺いしたのでした。

クルミのセパレートタイプの食器棚

引き出しの様子。


クルミのセパレートタイプの食器棚

引き出しの様子。


クルミのセパレートタイプの食器棚

引き出しの様子。


クルミのセパレートタイプの食器棚

引き出しの様子。


クルミのセパレートタイプの食器棚

引き出しの様子。


クルミのセパレートタイプの食器棚

引き出しの様子。


根菜収納バスケット

根菜バスケット。


食器棚にケユカのゴミ箱を組み込む

ケユカのゴミ箱。

そう、先に皆さんにお伝えしようと思うのですが、私たちはなるべくでしたら遠くても車で3時間くらいで行ける距離がお付き合いできるギリギリのところではないかと思っております。
もちろん、それよりも遠くのお客様に家具を納品させて頂いたこともあります。
豊橋、軽井沢、近江八幡、枚方、花巻、ずっと昔には伊豆大島にも。
家具を作って届けることはできるのですが、家具を使い続けていくことを考えると私たちが通える距離じゃないと気持ちが不安なのです。
家具ってやっぱり壊れる時が来ますし、そうなった時に「では、お預かりします。」とか「修理にお伺いしますね。」と言えないといけないなって思っているのです。
木だってあっという間に動きますし、高性能な金物を使うと壊れた時の修理も難しかったりする。そうなった時に責任もって動ける範囲じゃないと怖いのです。
だから、今まで遠方にお住いの皆さんのところに家具を納品する時は、もし不具合があった時はお伺いしますがこのあたりに住むみなさんに比べて交通費などが高くなってしまいます、というお話をさせて頂いて、それでもお願いしたいのです、という強い思いを頂いて作らせて頂きました。
さいわい、皆さんからまだ不具合のご連絡は頂いていないので、丁寧に使ってくださっているのだなあとうれしくなるのです。

パントリーに引き出しをつけるリフォーム

改装した物入の様子。アガチス材でトレイを作りました。


パントリーに引き出しをつけるリフォーム

こちらもパントリーの改装した様子。引き出しを作って乾物を入れられるように。

勝田ならまだどうにか対応しやすい距離かと思いまして、そんなことを考えながら電車に揺られて駅に降りたのでした。
さっそくKさんを訪ねます。
Kさんがお住まいなのはマンション。
マンションでいつも心配になるのが搬入なのですが、ここはエントランスがとても広く取られていて問題なさそうです。エレベーターも普通の大きさがありますので。
今回食器棚だけではなく、ここに来る前にリビングの家具も相談したい、とKさんからうれしいお話を頂いていたのですが、リビングの家具となると長い天板があったりするので、少し心配になるのです。
標準的なサイズのエレベーターだと、最長で2800ミリくらいの長さの板しか入らなくて、リビングボードなどを作る時に3メートルを超えるような天板があると、2つに分けないと入らなかったり、階段で担いで上がらないといけなかったりするのです。
やっぱり長い板がピシッと置かれているほうが美しいですから、そういう時はなるべく1枚で作りたいと思うわけです。
どうにかそれも今回は大丈夫そうで、さっそくKさんにいろいろとお話を伺うことに。

クルミのL型のリビングボードデスク

リビング収納のデスクの左側の様子。

食器棚は図面の通りで大きな変更なく進められそうで安心でしたが、物入の改装が合計3カ所あって、これはなかなか大変そう。
具体的に何をどう改装するのかというと、マンションに備え付けられている物入って、大きな扉がついていて、中にパーチクルボードでできた重たい可動棚が何枚か入っているシンプルな作りが多いのです。
時には奥行が60センチ~70センチもあるのに幅が30センチもないくらいのどう考えても使いづらい物入があったりするのです。
そうすると、やっぱり下の方が引き出しが使いやすかったりするので、引き出しを工房で作って持ってきて、ここでレールをつけて、引き出しの前板をつけてっていう現地での作業量が多くなるのです。
これが文章で書くと簡単なのですが、微妙な角度の調整だったり、幅が狭い場所でのスライドレールの取付だったりがなかなか手こずっちゃうのです。
これが3カ所となるとそれだけで丸1日掛かっちゃうかも。この勝田に来るのに車で数時間掛かって、そこから物入の作業、食器棚の取付、リビングの家具となると数人で来ても1日じゃ難しいかなあ。

クルミのL型のリビングボードデスク

開けると印刷できる設備が整っています。


プリンタ収納スライドレール

プリンタをしまうスライドテーブル。


デスクの配線孔

配線穴にはフタをつけました。

「それで、イマイさん。リビングのほうの家具なのですが・・。」
と、お知らせ頂いたリビングのほうは大変難しい作業になりそうなのでした・・。
何がどう大変なのかというと、リビングにはキッチンとの間に対面カウンターがついていて、そこと外壁沿いの壁にL型に収納とデスクを作りたいというお話だったのですが、その対面カウンターの一部に収納が備え付けられていたのです。それをうまく取り込んで家具を作れると良いなあというお話になったのですが、なかなか難しそう。
寸法を測るとどうにか既存の収納を覆いながら新たな家具でまとめられそうですが、実際に作って設置してみないと分からない部分もあって、距離も距離だしうまく段取りしておかないといけない、と今から気が引き締まるのでした。

クルミのL型のリビングボードデスク

デスクの端部は収納のなかにのみ込まれるようなデザイン。

そのような感じで、納め方に緊張しながらもKさんの思いに応えられるように、さっそく形をまとめてできあがったのでした。
やはり家具の取付は2回に分けないと終わらない、ということで、まず1回目は私とコバヤシ君とカイ君の3人で。

「クルミの家具」
https://www.freehandimai.com/?p=14438

そして、2回目はカナイ君とコバヤシ君で。
「マンションの物入れを使いやすくする」
https://www.freehandimai.com/?p=14479

どうにか終わりました。
Kさんにも使い勝手がとても良くなったこと、クルミの表情の優しさなどをとても喜んで頂けて、ホッとひと安心。

クルミのL型のリビングボードデスク

納まりの様子。


クルミのL型のリビングボードデスク

扉を開けると白い壁が・・。この左側はもともと造り付けられていた戸棚がありました。扉だけ撤去して、外せない白いキャビネットと、白い壁は扉で覆ってしまうことにしたのです。


クルミのL型のリビングボードデスク

扉の割付の都合上、右も狭いスペースになっているので、Kさん工夫して使ってくださっています。

必ずしも良い形が美しい形というわけではなく、使いやすい形が良い形であって、そういう形はおのずと使う人にとって美しく見えてくる。
使う人が心地よく使っているならば、その家具はいろんな人にも美しく見えてくる。
その形を作るのには作者の意図が少なからず入ってしまうものですが、その意図はあくまでもニュアンスなので、多くを占めるのは使う人の思いなのですから、私はいまだに自分らしい家具ってどんな形なのだろうって、悩むのです。
でも、「イマイさんらしいです。」とか「あっ、いいなあ、と思った家具を見ていたら、イマイさんの家具が多かったんですよ。」なんて言ってもらえると、うれしいのだけれどよけい分からなくなっちゃうよね。

クルミのL型のリビングボードデスク

そして、少し目を引く形にしたいと言われていた飾り棚。


クルミのL型のリビングボードデスク

S字状のちょっと変わった形を提案させて頂きました。

クルミの食器棚

価格:490,000円(製作費・塗装費)

クルミのL型デスクと収納

価格:680,000円(製作費・塗装費)

物入の改装3か所

価格:580,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は130,000円から、取付施工費は180,000円から)

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