雪融け、うれしいところ
「ナラ板目のリビング壁面収納のオーダー」
鎌倉 N様
design:Nさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:kouhei kobayashi/iku nogami
painting:kouhei kobayashi/iku nogami
Nさんは実は古くから私たちのことを知っていてくださったとお聞きしたのは、何度か打ち合わせが進んだ頃でした。
たしかにNさんご夫婦とお話をしていると昔感じたような空気に触れる時がありました。
Nさんのご自宅の様子もそう思わせるところがありました。
少し築年数の経った家を手に入れて住まわれていて、懐かしく感じられることと丁寧に暮らしているのだなあという様子が空気となって表れている家でした。
「実は、私イマイさんのことを以前から知っているんですよ。」
「あらっ、そうなのですか。」
「以前にイマイさんのところでキッチンを作ってもらったNさんが高校の同級生で。」
「えっ、そうなのですか。それはうれしいです。」
そのNさんとは同じく鎌倉にお住まいで「私のキッチン」のNさん。
なるほど、何となく雰囲気が近いような気がしておりました。
鎌倉のNさんのキッチンは今から10年前の2010年に作らせて頂いたのでした。長谷の大仏様から歩いて10分ほどのところに立つ可愛らしい家にキッチンを作らせて頂いたあの時の空気を思い出したのでした。
「それで、Nさんから話をずっと聞いていていつか依頼するチャンスが来たらいいなってずっと思っていて、ようやく今がその時です。」
それはとてもうれしいつながりです。
私たちが作る家具はどこかのお店に置かれているわけでもないので、こうして皆さんが伝えてくれる言葉を通じて知ってもらえることはとてもありがたいことです。
そのようなわけで、どこか懐かしい空気を感じながら話は進んでいくのでした。
お話としてはこのような感じでした。
もともとついている白い造作家具が傷んできたこと。また、扉だけの収納は使い勝手が悪いこと。お子さんも大きくなってきたので暮らし方が徐々に変わってきて家具の使い方も変わり始めていること。このあたりを改善するために思いきってダイニングとリビングの家具を新しくしようと思ったのだそうです。
おもしろそうなお話です。
今ある状況をいろいろな制約があるなかで使いやすい形にしていくという作業は、私は好きなのです。
仕事の上でもこういったクセがあるようで、これが良いのか悪いのか分からないのですが、しなければいけないことをいくつか並べておいて、あちらをメインにやりながら、合間をみてこちらを取り掛かって、みたいな進め方が好きだったりして、何だか住寸d根いるのかどうかよく分からないけれど、時間や段取りの制約があるなかであれこれ進めていて、終盤になってくると一気に今まで散らばっていたものが片付くっていう感じが何だか好きなのです。(効率は良くないかもしれませんが・・。)
そこで、今回のNさんからの要望を聞かせて頂いて、現状の様子を探ってみました。
なるほど。
家自体の構造はとてもしっかりしているのですが、内壁の作りがちょっと変わっていてスタイロパネル張りというのでしょうか。コンクリート造の躯体に直接ベニヤが張られたスタイロフォームを貼っているので、壁に家具を固定する強度がなく、押すとふんわり壁が動く構造です。
しかも現在設置されている白い家具、どうやって固定されているのだろう・・。扉を開けてみる限りはよく分からず、背板を軽く叩くと堅い音がする。壁に貼っちゃってるのか‥。
私たちの工房は、私の父が創業して今年で34年目になります。私も19歳の時からこの仕事に関わっているので今年で27年目。時間が経つのは早い。
その間にお店の家具や集合住宅向けの量産家具などいろいろな仕事をしてきましたが、ずっと変わらず造り付け家具という形を主に作ってきました。今でこそオーダーキッチンを作ることができる状況になりましたが、今から15年前くらいまではもっぱら造り付け家具を作っておりました。
その昔から思っていたことは、「なるべく家具は取り外せるように作りたい。」ということでした。
もちろん、お店の家具ばかり作っていた入社当初の頃って、そのように作れることはほとんどなくって、現場に行って接着剤で現場でくっつけて、磨いてってやっていたわけですが、そうなると何か不具合あった時に対応しづらいことと、時々みなさんから言われることにお引越しする必要が出た時に家具を持っていきたいっていうお話があって、それに対応できるようにしたいっていう思うとやはり外せるように作ることが最善なのではないかと考えております。
もちろん、オーダーキッチン等の場合は現場の都合上、一部壁を解体しないと外せない作りだったりします。
ただそれでも、家具をガッチリ壁に接着しちゃったり、どこからネジ止めしているか分からないような作りにはしたくないなあ、と思っております。
それから、今回は既存家具の解体から新しい家具の設置までを内装屋さん等に入ってもらうことなく私達だけで完了させる予定でした。そこで、内装工事が入らなくても大丈夫なように、壁や床に不用意に傷を増やすことないように進めていったのでした。
まずはダイニングのほうから始めることに。
1日間で両方の家具の交換設置は難しいので、ダイニングは1日間、リビングは可能なら1日間という工程で合計2日間で進める予定です。
その間にNさんもダイニング側に収納されていたものをリビング側に仮置きして、ダイニング設置後に今度はリビング側のものをダイニングに仮置きしてという感じで進めていく予定なのです。
で、その白い家具。
やっぱりどうやってついているのか分かりません。
施工の初日はどうにかお天気に恵まれましたが、気持ちがもやもや、ちょっとまごついてしまいます。
その時にコバヤシ君。お父さんがクロス屋さんで子供時分に手伝っていただけのことはあって、躊躇なく、手際よく、こう思うっていう方向に作業を進めていきます。
なるほど、頼もしい。
もうね、ビスはさびて途中で頭が折れたりもするし、どこから固定されているか皆目見当もつかない部分もあるので、バールとカッターで剥がしては刻んでいくのです。
すると、なるほど、ここでビス留めしたあとに化粧したのだな、と思えるところがいろいろ出てきたりして、どうにか壁と床に傷を作ることなく外せたのでした。
外せたは良いけれど、壁に下地がないので、必要な個所のスタイロフォームをはがして、下地を入れていきます。
天井も左右の端でだいぶ下がり方が違ってきているので(これはなぜなのか分かりませんでした。)水平だけはしっかり取ってようやく家具を取り付けるための下準備が整いました。
この下準備だけで半日近くが掛かりました。
あとは、工房で組んだとおりに組み上げていくだけですので、順調に進みそうです。
このダイニングの家具はノガミ君の制作なので、ノガミ君の声掛けのもとに作業が進んでいきます。
床と壁に悩まされながらもどうにかその日のうちにほぼ作業は完了。
残った部分は、次回リビングの作業の時に行なうことに。
その夜、Nさんからお便りが届きました。
「こんにちは!Nです。
昨日は素晴らしいリビングボードを設置していただき、ありがとうございました。
うちの床や壁が古いために思った以上に歪みがあったなか、ノガミさんはじめスタッフのみなさんが頭を悩ませながらも本当に丁寧に作業いただいて、申し訳ないやら有り難いやらで。
寒い中、早朝から夜遅くまで本当にありがとうございました。
昨夜から主人とあまりの美しさにうっとりしながら過ごしました。「もったいなくて食器を入れたくないね〜、、」とすぐには入れずに今朝からゆっくり入れはじめ、ようやく落ち着いたところです。
おかげさまで以前よりも多くの食器たちが、ゆったりとすっきりと収納されました。
正直、家具でここまで部屋の印象が変わるとは思っておらず、驚きました。
コーヒーを飲みながらゆっくり眺めていると、時間を忘れてしまいます。
流れるような木の表情もとても素敵です。
が、まだ半分。いまの我が家のリビングは東側と西側が同じ部屋とは思えない感じになっています(笑)。
来週のリビングボードも楽しみにしております。また大変な作業になってしまいそうですが、引き続きどうぞよろしくお願いします!」
そして、約1週間後にリビングの大きな家具設置の日。
その日はあいにく雨模様でとても寒い日でしたね。雪でも降りそうなくらい。
でも、鎌倉にしては北のほうにあたるこのあたり。Nさんのお宅は山の中腹に建つような立地なのですが、このあたりはめったに雪が降らないということで、路面の心配はしておりませんでしたが、屋外での切削加工も必要な部分があったので、雨模様はなかなか難儀でしたが、カーポートを使わせて頂いたりしてどうにかしのげそうです。
今回は前回の教訓もあり、コバヤシ君が解体に適した道具を用意していてくれて、ボリュームはこちらの方が大きかったのに解体はあっという間に完了。
こちらの家具はコバヤシ君が担当したので、彼の声掛けで作業が進みます。
ただ、こちらも壁と床の納まりに悩んだり、通気孔やガス栓など家具と干渉する部分をうまくよけながらの作業で、やはり1日間では終わりませんでしたが、翌日も作業に入らせて頂き無事に取付は完了。
そして、翌日再びNさん(今度はご主人)からお便りを戴きました。
「おはようございます。Nです。
昨日はありがとうございました。
ダイニングに続いてリビングボードも入り、我が家が見違えるほど素敵な空間になりました!
お陰様で、心が本当に明るくなる、空間となりました。
昨日はテレビなどの配線を行いましたが、おかげさまでとてもスムーズに設置できました。
妻も息子純之介も嬉しそうで、一層にぎやかなリビングダイニングになりました。
息子のおもちゃも下の引き戸にたくさん収納でき、自分で開け閉めして楽しんでお片付けしています。
あらためて、デザイン、機能が充実した家具のパワーと影響力は偉大だなと、つくづく感じています。
またお会いできるのを楽しみにしています。」
こういう言葉、気持ちが雪融けのように軽やかになっていきます。
特にね、今回のように家具を作らせて頂く前の状況と、設置した後の様子でこれほど印象が変わると、私も本当にうれしくワクワクするのです。
それから、何度かNさんのお宅にお邪魔させて頂きましたが、伺うたびに私の気持ちが落ち着くうれしい場所になっていました。
そして、その年の秋。
「ご無沙汰しています。元気ですか。
我が家も皆、元気です。
クスッと笑顔になる面白いことがあったので、メールしました。
年中組の息子と今年の夏は、「アゲハチョウ」を何匹も育てました。(卵→幼虫(イモムシ)→サナギ→チョウ)
庭の鉢でタネから育てている「レモン」に蝶々がちいちゃな卵を産んでいるのを知って、「育ててみようか」ということで始めたのです。
一見グロテスクなのですが、卵からイモムシになり大好物のレモンの葉をムシャムシャ食べる姿は知れば知るほど可愛いものです。
そして、ある時期が来ると大人しいイモムシ達がかなりの速度で這い回り、サナギになる場所を探し、その本人(イモムシ)達が気に入った場所で時間をかけサナギになります。
人工的な場所でもサナギになるのですが、見ていると「致し方なくその場所を選んだ」雰囲気が伝わってきます。
やはり、自然な枝、葉など、自然の恵みの場所の方が落ち着いてサナギになれるようなのです。
9月に入り、秋に息子ともう一回アゲハチョウを育ててみようかと、何匹もの卵からかえりたての小さなイモムシを探し、部屋で飼い始めました。
小さいイモムシは体調2、3ミリなので、うちの中で行方不明にもなりました。
そして今朝、9月からの第1匹目がチョウになりました。「ありがと、頑張って卵産んでね、サヨナラ!」と息子も満足げ。
そしてふと、お気に入りのイマイさんのダイニング棚の扉の下を見ると…
なんと行方不明になっていたイモムシと思われるサナギが付いているのです。
開閉される扉に丁度挟まれない「法面(のり面)」に「うまーく自らを固定して」チョウになる準備をしているのです。
そしてここは行方不明になった場所から2メートルも離れたところ。しかも、人間の眼につかなくて天敵も来そうにない物理的にも潰されない場所。
イモムシの能力と自然の力に息子とびっくりしました。
そして何より、自然のイモムシが安全安心と判断したフリーハンドイマイの家具。(笑)
我が家の人間以外に、自然に生きるチョウにも安心を与えているのですよね。
我が家の棚でチョウになる準備をしているサナギ、多分あと数日でチョウになると思います。
それまでこの家具のそばで安心して準備してくれたらな、と息子と見守っています。」
いろんな形で皆さんの暮らしを支えることができていることをとてもうれしく思っております。
Nさんありがとうございました。
いろいろなご縁がつながって、またここからNさんのユニークな表現力が私たちをつないでくれるのを楽しみにしております。
オークダイニングサイドボード
価格:570,000円(制作費・塗装費)
オークリビングテレビボード
価格:750,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は40,000円から、取付施工費は80,000円から)
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