掘り出す

「クルミのダイニングテーブルとダイニングチェアのオーダー」

藤沢 N様

クルミのダイニングテーブルと椅子

納品したての様子。背が高い椅子はご主人と奥様、背の低い巣はいずれ大きくなったお子さんたちの物。右がキッチンに抜ける通路なので、背もたれが低い椅子はテーブルの下にまでしまえるので使い勝手が良いです。

design:Nさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:hiroyuki kai/kenta watanabe/daisuke hirose
painting:hiroyuki kai/kenta watanabe/daisuke hirose

例にもれず、私も子供の頃はゲームが好きでした。
特に剣と魔法が行き交うファンタジーの世界のロールプレイングゲームが好きでしたね。
敵をやっつけては経験を積んで自分が強くなっていって、最後の敵に立ち向かうというタイプのゲームですね。
でも好きなんですけれど苦手なんです。
主人公がダメージを受けると、「あぁ、やられてしまう。辛いなあ。」とか「暗い洞窟に入り込むときっと帰ってこられるだろうか。」とかTシャツに短パン(私の小学校は長ズボンが原則禁止でしたので)姿の自分がテレビ画面を見つめてコントローラーを動かしているだけなのに、気持ちは痛みを感じている戦士だったり、暗闇を怖がる魔法使いだったりするのです。
だから、何だか怖くてなかなか先に進めなくて・・。

クルミのダイニングテーブルと椅子

背もたれの低いダイニングチェアの制作中の様子。椅子はね、組む回数が多いのです。


クルミのダイニングテーブルと椅子

テーブルに比べて椅子は大きさは小さいですが、加工が細かい。それを考えると椅子を1脚だけ作るというのはかなり割高になってしまうため、こうして、4脚とか6脚まとめて作るのですが、それでも背もたれのカーブを作るための型板を作ったり、後ろ脚のアールを加工したりと、それはなかなか大変なのです。

そんな私でもこうして大きくなると、いろんな場面でロールプレイする機会が頂けるようになりました。
この家具を作るとこういうふうに過ごしやすくなったり、こんなふうに動きやすくなったりって皆さんに伝えられるようになったのです。
そういう役割が仕事になってくると、いろいろな場面や事象を想定してお話ができるようになる。
でもね、時々こういうふうにご相談頂くことがあるのです。
突然ご相談にいらしてくださって、「イマイさんはどう思われますか。」と。
うーむ、いろいろ想像豊かになった私でも、短時間で「どう思われますか。」と言われてしまうとなかなか答えにくかったりするのです。

クルミのダイニングテーブルと椅子

できあがった背もたれの低い椅子。以前に作ったこのタイプの椅子は、背もたれの材が細すぎてかえって持つときに不便があったのです。そこで少し幅を広げて、かつ足へと滑らかに続く形状にしました。


クルミのダイニングテーブルと椅子

これが背もたれの様子。滑らかにした部分の印象は分かりますでしょうか。背もたれのカーブと後ろ脚の交線が描く図形が逆三角形に見えるのです。

ステレオタイプな意見はあまり好みではないので、いつもはご相談にいらしてくださるまでにその人の思い描く形がある程度決まっていたりして、私が伝えるべきことがある程度限られているか、もしくは決まっていない場合はその前段階としてその方の暮らしぶりや好きなものをお聞きしながらその人の暮らしを思い描けるようになってからその人にとって良いと思えることをお伝えするようにしているのです。
そうじゃないと、自分の意見が希薄なものになってしまいます。
だから、私はロールプレイできるようになることで皆さんといろいろお話ができると思っているのです。

だからね、余談ですが、「イマイさんにお任せします。」と言われるのは大変苦手なのです。笑

でも、それがお話を重ねていてもなかなか思い描けない時もあったりします・・。

クルミのダイニングテーブルと椅子

こちらは背もたれが高いタイプ。ちなみに今回の張地はすべてファブリック。肌触りのとても良いリネンを使って、家族のみんなで好きな色を選んで張ってもらっています。


クルミのダイニングテーブルと椅子

この背もたれは厚み3ミリに挽いたクルミの無垢材を3枚重ねてこのカーブになるようなオスメスの型に入れてプレスして作ります。 背もたれを作るだけでも結構時間が掛かるのです。

それは、形がシンプルな時です。
ふだんオーダーキッチンやオーダーの食器棚などの形が複雑だったり大がかりだったりするものを考えている時は、条件や形の制約がいろいろあったりして、かえってそのおかげで、おのずとその人にとっての方向性は見えやすいのですが、シンプルにテーブルって言われるとかえってすごく悩むのです。
テーブルって言うと選択肢はそれほどないように思えてしまうのです。
もちろん、それ自体のサイズや使う人の体に合うかどうか、天板や脚の形状をどうするか、搬入に合わせてどういう形にしたら良いかというようないろいろと考えることはあります。
でも他の大きな家具たちに比べると、ある程度選択肢は限られているから、お話しできる方向も決まってしまうような気がするのです。

だから、Nさんが何度も何度もテーブルの具合を確認しに来てくださった時は、うーん、すみません、もう私がお話しできることはあまりなくて・・、なんて思っていたのですが、当のNさん、すごくうれしそうにニコニコしながらテーブルを使う時のバランスや触り心地や脚の形などを奥様とまだ小さなお子様をあやしながらお話されていたのです。
それを見ていたら、(ああ、そうか・・。家具を作ってもらうってそういうことだよね。)ってふと思ったのです。

クルミのダイニングテーブルと椅子

天板の角は10R,上下はC2ミリ面取り。椅子のそれぞれの角もC2ミリ。

はやくもこの仕事を初めて27年が経つのですが、こういう言い方は失礼になってしまうかもしれませんんが、いつの間にかロールプレイもいろいろなシチュエーションがあっても、方向性が似たように思えたりして、皆さんの暮らしかたは千差万別ではありますが、こういう場合はこう、というような型が自分の中でできてしまっていたようで・・。
「最初にある程度お金を貯めたら強い武器を買って、ある程度の経験値がたまるまではボスをやっつけに行かない」みたいなゲームの紋切り型が仕事でも出ているような気がして・・。
そういう時にNさんのように目をキラキラさせながら、テーブルの脚についてずっと家族の思いを描いている姿を見ると、家具を作らせてもらうことってこういうことだよね、って気づかされたのです。

クルミのダイニングテーブルと椅子

脚部はショールームにある脚と同じように下に向かって細くなっているデザイン。

だから写真で見ると形はとてもシンプルで、ショールームにある形と大きな違いは無かったりします。
それでもね、こうして、Nさんのダイニングに置かれると、そうだよね、この形はここにしかない形だったんだよね。
仏師が木の塊を見つめてその中に隠されている仏像を掘りだすように、Nさんはここに置かれる形がこれだって知っていたのですよね。
ああ、おもしろい、だから家具作りはおもしろいって、再びみたびと気づかされました。

クルミのダイニングテーブルと椅子

Nさんらしさが出たところ。脚と脚をつなぐ幕板ですが、これが無いデザインのテーブルというのもたくさんあります。直接天板に脚をつけているタイプです。私はなるべく幕板の付く形にしたいと考えております。なぜなら、天板の反り止めになるし、天板の上に人が乗ってもグラつかないくらい頑丈になるからです。シンプルな理由ですが、ずっと使っていける形でありたいのです。そして、Nさんからのリクエストで、幕板は付けたいけれどなるべく足を入れる空間を高く採れたらよいなということで、幕板が緩やかに弧を描いていてちょうど中央あたりが一番幅が狭くなっているのです。

クルミのダイニングテーブル

価格:260,000円(制作費・塗装費)

クルミのダイニングチェア

価格:65000円/95000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は13,000円から)

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