収納計画は柔軟に

2021.10.14

少し前(6~8年前くらい)までは、リビングの壁一面にテレビまできちんと収納できて天井まで戸棚になっている壁面収納を作る機会が多かったのですが、「キッチン屋さん」なんて呼ばれるようになってオーダーキッチンを制作する機会が増えたからか、最近はそういった大きな壁面収納をご依頼頂く機会が少なくなってきたように思えます。

そういう大きな収納のご相談を頂く時は、皆さんけっこうしっかり収納計画を立ててご相談にいらしてくださる方が多かったです。

たしかに、そういう整理収納に関する書籍もたくさん出版されていて、「使いやすい高さやしまいたいものに合わせた収納を作りましょう。」というお話をよく見聞きしました。

しかし私が長年いろいろな家具作りをしてきて思うのは、「使いやすいサイズは、ずっと使いやすいサイズではいられない。」ということです。

<暮らしで必要とするものは時代とともに変わります>

今から10年前を振り返ると、私自身スマートフォンさえ持ち合わせていませんでした。

そのさらに昔には、家具の図面を描くのに平行定規というなんともアナログなものを使っている時代でした。それがパソコンで図面が描けるようになると目に見えないラインまで記録として残せるようになり、スマートフォンを持つことで地図帳も持たず、現場ではトランシーバーを使うこともなくなり、それひとつでプレゼンテーションが行なえるようになるなんて何という時代の移り変わりでしょう。

そう考えると、少し前によく考える機会が多かった「リビングにパソコンを使用するスペース」や「プリンタをしまうスペース」、「FAXをしまうスペース」、「CDをしまう引き出し」や「テレビを置くスペース」がもはや数年でガラッと変わってしまう時代になったのですね。

そういう諸々のものをリビングに置くことも少なくなり、そういう機器自体少なくなってきています。

パソコンは決まった場所で使うことなく、無線LANや軽量化によって家のどこでも使えるものとなったので、使う場所ではなくしまうだけの場所があればよくなり、FAXを持つ家庭も少なくなってきました。

CDやレコードをたくさんお持ちのかたも少なくなり、AV機器もとてもコンパクトで少数台で迫力ある音や映像が楽しめる時代になりました。

以前お客様のなかでも耳にしたのは、プリンタ収納を作ってもプリンタをしまう必要が無くなってしまったり、スピーカーを置けるスペースを確保しておいたけれど、小型で高性能のものを使い始めたらスペースを持て余してしまったということを聞いたことがありました。

<時間とともに家族との距離も変わります。>

お子さんがいらっしゃるご家庭ではまだお子さんが小さなうちに考える収納は、どうしても散らかりやすく増えやすいお子さんのものを主体に考えることが多くなります。玩具、学習文具、本、ゲーム機、などなど。

でも、子供は中学校に入るくらいになると、リビングで過ごすよりも自分の部屋で過ごすことが多くなるご家庭が多いです。

そうなると、「今まで子供部屋を物置のように使っていて、子供が自分の部屋を持つようになったら、その物をリビングにしまわないといけなくなりまして。」というお話をよく聞きます。

お子さんの細々したものをしまうサイズで考えていたところに、場合によってはゴルフバッグやトランクケースなど大きなものをしまう必要が出てくることも。

そうなると、あの時は使いやすかったリビングの大きな収納は、今ではかえって使いにくいものになってしまった、となってしまうこともあります。

このように、その物々がしまえる所定の場所を作ってしまうと、その物を使わなくなった時にその場所が必要なくなってしまって、せっかく作った収納がうまくいかせなくて、物が雑然としまわれることになってしまうこともあるのです。

もちろんオーダーで作ったものですから、そうなった時でも棚板を追加したり、扉だった部分を引き出しに作り替えたりすることも可能ですが、やはり柔軟に使い続けられる収納にしておくといつまでも不自由することが少なく使ってゆけるのではないかと思うのです。

そう考えると、オーダーで大きな収納を作る時に求められるものは、昔と考え方が大きく違ってきています。では、私の思う柔軟な収納は、というと、「必要最小限の要素で組み立てていく収納」と考えています。

具体的には、パントリーだったら、シンプルに扉を開けたら可動棚が入っているだけの形で、場合によっては引き出しを少しだけ。

リビングに作る場合は、お部屋の広さに余裕があるようでしたら、壁面いっぱいにあっても良いかと思いますが、個人的には高さを抑えたシンプルな扉のみの収納が良いのではないかと思っています。

扉を開けて棚が入っていて、そこに市販のケースを使って引き出し代わりに使う。

奥行を深く採る必要があったり、細々した文具やお薬など散らばりそうなものをしまうなら、奥のものが取り出しやすいように、細かなものが探しやすいように、引き出しを設けたりする。

機能を限定しないで、ゆとりのあるサイズや仕様にすることで、家具は使いやすくなるのではないかと思うのです。

家具を作る時には、いかにその物がその場所にしまえるように工夫された形よりも、その家具を使う皆さんの暮らしかたをお伺いして、今どういう暮らしをされたいか、こういう暮らしをしてゆくのならどういう形にすると使いやすい形を考えることが大事なのだと思うのです。

でもいろいろ考えても、行きつくところは結構シンプルな形になることが多いのです。

今度、この形が巡り巡って戻っているお話はまたどこかでお伝えしますね。

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