オーダー家具の形は選択肢を広げて

2021.10.14

キッチンや家具をオーダーして作ってもらう機会ってなかなかないことだと思います。

私が中学生だった頃に父がこの仕事を始めたものですから、私にとって家具というのは「買うというよりは作るもの」ということが何となく日常ではあったのですが、普通は購入するものですものね。

今から26年ほど前、私がインテリアと建築の専門学校に通っていた頃でしょうか。

目黒通りが慌ただしくなっていろいろすてきな家具屋さんやインテリアや建築という言葉が日常でよく聞かれるようになり、あのころを境に建築家という言葉や家具をオーダーするということが少しずつ身近になってきたように思うのです。

ちょうど、「インターネットでホームページを作りましょう。」というような番組が教育テレビでちらほら放映されていた頃だと思います。

知らない情報が身近に手に入るという時代の幕開けの頃だったのかもしれません。

私もちょうどその頃にホームページを立ち上げて、少しずつですがオーダー家具というものを身近に知って頂けるようになってきました。

と、話がそれてしまいましたが、今日はキッチンや家具のご相談を頂く時に私が皆さんにお伝えしようと心掛けていることをお話したいと思います。

まずは、オーダーで作ってもらうってなかなか無い機会だと思いますので、ご相談を頂いた時には、皆さんから言われたことを「できます」「できません」とお伝えするだけではなく、なるべく私たちにどんなことができるか、家具にはどんな形があるか、どんな暮らしができるのかというお話をさせて頂いております。

・・・ちなみにまたお話それますが、「できません」とは言わない、という考えってあると思うのですが、私はできないことはきちんとできない、と伝えることも必要だと思っております。このお話もまた今度。・・・

具体的には、「引き出しを作りたいのです。」と言われた時には、使いやすいゆっくり閉まるスライドレールがあるとお話したり、押せば開く引き出しがあるというお話をしたり、コスト重視でシンプルなスライドレールをつけたり、もしくは細工を見せるためにレールを使わない昔ながらの引き出しの作り方をお知らせしたり。そして、それを選ぶことでどんな良いことがあって、どんな悪いこともあってというお話をさせて頂きます。

さらには、それを使うとこういう時間の過ごしかたができて、こういう空間の見せ方ができて、とお話は枝分かれに広がっていきます。

その話を聞いたお客様からも、さらに枝分かれにお話が広がっていって、かえって私自身知らなかったことを教わることもあったりします。

こうして、私たちでできることの広がりというか方法・可能性をすべてお伝えして、その中から家具を使う皆さんにとって、自身の暮らしにとって何か必要なのかをひとつずつ選んでもらうのです。

その選んでいく過程の中で、いつの間にかモヤモヤしていたイメージが整理されて、自分が望んでいるキッチンや家具の形が見えてきたり、暮らしかたが整っていったりするのです。

できます、できません、この中からセレクトしてください、だけでは思い描けなかったことが生まれるのです。

ですので、自分の望むキッチンや家具のかたちを考えていく作業って、いいかえると自分の暮らしを見つめ直す作業だって常々思っているのです。

いろいろな選択肢を示されて、自分はどんなふうにこのキッチンを、家具を使っていきたいのだろう、どう暮らしたいのだろう、自分には何か必要なのだろうって、皆さん時間をかけて悩まれるのですね。

「リビングボードにパソコンデスクを作ろうと思ったけれど、お話を聞いていたら、家でパソコンするよりもスマートフォンを使う時間のほうが多いと気づいて、それならときどきしか使わないデスクになりそうだから、ダイニングテーブルを広げてそこでパソコンやそれ以外の作業もできるように考えたほうがよいかな。」とか、

「小学校に上がる子供のためのデスクを作ろうと思ったけれど、お話を聞いていたら、子供はもっと親のそばに居たいことがよく分かりましたので、みんなで一緒に勉強や作業ができるようにダイニングテーブルを大きくします。」とか、

「イマイさんの家のキッチンの様に子供たちがもう少し大きくなったら、一緒にキッチンに立てるようにみんなで動きやすいキッチンにします。」とか。

そう。お話をしながらみなさん暮らしを見つめ直しているのです。

そして、その作業はとても大切です。

もちろん、見つめ直すと全てがうまくいくというわけではなく、できあがって暮らし始めてから、「ああ、こうする方法でも良かったかな。」と思い返すこともあるのですが、その過程を経てきたことで、自分の今の暮らしがあることのうれしさや大切さを感じられるっておっしゃってくださいます。

それから、打ち合わせが終わってひとつの家具の形が決まると、「あー、おもしろかった。自分の好みを思い描くことで自分の考えがどんどん研ぎ澄まされていくような感じ。」っておっしゃってくださった方もいらっしゃいました。

素晴らしい感覚です。

だから、私が皆さんにお話しする時には、まずどんなことができるかという「手の内を明かす」というのでしょうか。いろいろな道を見せてさしあげることがとても大事なことだと思っているのです。

でもね、いろいろな選択肢をお伝えしてお話がいろいろと広がっていても、結局最初の形に戻るってことが多かったりするのですけどね。

でも、それも見つめ直した結果です。

その結論に至るまでの過程がすべてその人のキッチンや家具の形の現れですから、要望が最初のシンプルな形に戻ったとしても、それはきちんと考えが巡ってたどり着いた先のことですので、最初の思いとは大きく違っています。

目に見えない思いが込められた形はこうして生まれるのです。

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