物を隠すと探しにくくなる
2022.03.07
私はできる限り自分の目の届く範囲で暮らしたいと思っています。
以前は、そんなことなく目の届かないことも多くありました。
例えば、あれがあると良いな、こういう使い方をしたいなと思って買っておいたものを、買ったことで何だか満足してしまって、いつか時間ができた時に活用しようって思ったまま、時間が経って使わずに忘れてしまっていることなどが。
仕事でも「目の届く範囲」という思いを持ち続けて日々努めております。
手前味噌になりますが今まで作った家具はすべて私がデザイン、設計しております。
一時期思ったことがあります。家具制作の依頼がたくさん頂けるならもっと手を広げたほうが私たちの良さが分かって頂けるのでは、と。それならば、制作を担うスタッフだけではなく、デザインや設計においても後継となる人を育てることが良いことなのではないだろうかと。
そういうふうに大きく手を広げることが、何となく楽しそうに見えた未来がありました。
でもね、よくよく考えると、そこまでして私は何を求めるのだろうって、ふと疑問に思ったのです。
私は家具を作りたかったのです。
家具を作りたくて手を動かしていることが楽しくて、今度はその家具をきちんと考えてみたくなったのです。
使う人の意見を頂いて、自分の中でうまく咀嚼してきちんと理解したらその人の思う形を描いていくこと、それがしたかったのです。
それを手を広げてしまうと、私のマニュアル通りに物事が進んでも私が考えた形ではなくなってしまうのではないか、と。
それならば自分で手の届く範囲で家具を考え、形にしていく在り方が理想なのではないだろうか、と。
そのようなわけで、ずっと昔からいまだに小さな工房で少しずつキッチンや家具を作っております。
前置きが長くなりましたが、冒頭のように暮らしかたでも自分の目の届く範囲で暮らしていきたいのです。
最近は手頃な金額でいろいろなものが手に入る時代になってきました。
そうなると暮らしの中で物がいろいろと増えていくこともあると思います。
そうなった時に、それぞれのものがきちんと収納できるような場所を作っておくことはとても大切です。
キッチンで使うものは動線が短くて済むように、支度、調理、片付けなどの作業に合わせて使いたいものが整理されてしまわれていることが理想で、ダイニングやリビングにおいてもそれぞれの用途に合わせてコンパクトに収納できているととてもすっきり暮らせると思うのです。
でも、私は必要以上の収納は、かえって暮らしを複雑にしてしまうのではないかと考えております。
冒頭の様に「あったらいいな」というものが手軽に手に入る時代ですので、収納する場所があるならば、その分物は増えていく暮らし方になりやすいのです。
そうなると収納場所はあってもそのしまわれているものが活用できない収納になってしまうことがあります。
時々テレビのコマーシャルで見るような、扉を開けたら、中のものがガラガラ崩れ落ちてくるような、ただしまったことで部屋が片付いたと思ってしまうこともあったりします。
「この前買ったあれはどこしまっただろうか・・。」
「この奥のものは手前の小さなものを出さないと取り出しにくくて、手前のものがコロコロ倒れてしまうなあ。」
と片付けたつもりでも実は片が付いていない、決まって落ち着いた形になっていないことがあるのです。
例えば、
・部屋の出っ張りにあわせてちょっと奥行を深い収納をオーダーで作ったので物がたくさん入るのは良いけれど、かえって取り出しにくくなって、奥にどんなものをしまったか把握しづらくなってしまった。
・パントリーなのに棚板が少ないまま使っていたら、かえって物を積み上げてしまうようになって、下のものが取り出しにくくなってしまった。棚一枚増えるだけでこれほど使い勝手が変わるなら、もっと早く棚板を追加して作ってもらっておけばよかったかな。
・ワゴンタイプの収納を作ったのは良かったのですが、以外と木で作るワゴン自体は重くて、出し入れする時にも周りにぶつけやすくて気を使うので、毎日出し入れしなくなってしまってワゴンは中に入れたまま使うことが多くなってしまったので、普通の引き出しでも良かったかもしれません。
・吊戸棚の扉を普通の両開き扉ではなく、上に向かって開く扉が使いやすそうでそうしてもらったけれど、だんだん年を重ねていくと、使っているうちに手を上げる動作が億劫になって肩が疲れるようになってしまったのです。
・子供が小学校を上がるのを機に家具を作ることにして、おもちゃや文房具を自分で片づけられるように大小さまざまな引き出しを作ったのですが、子供が大きくなると自分の部屋で過ごすことが多くなってしまったので、かえって私たちのしまうものがそれほどなかったので、もっとシンプルな収納にしておいてもよかったかもしれません。ただ、おかげさまで片付けの習慣は身についたようでそれは大変ありがたかったです。
・いろいろなAV機器をしまうためにサイズを調整して作ったテレビ台ですが、最近は機器もコンパクトになり、内蔵されるものも増えてきて、それぞれに合わせて作った専用のスペースは、他のものをしまうには微妙なサイズ感で、いろんな細かいものをそこに入れているうちに何をしまっていたか分かりづらくなってしまいました。
などなど。
私が以前に家具を作ったなかでもこういう貴重な意見を頂いたことがありました。
家具のかたちを考えている時って楽しいのです。
「あれをここにしまって、こういう動きをしてくれたらこれが使いやすくて、あの隙間にこれがしまえるね。」とかいろいろ考えてしまうことがあります。
ただ、自分が実際に暮らしているなかで経験したことや、皆さんから頂いた意見を踏まえると、突き詰めていくと、家具の形はあまり複雑な形にしないで、収納量もある程度の物量が収納できる容量を確保したら、あとは暮らしにあわせて必要な物を取捨選択しながら、必要な物がきちんとしまえるようにしてそのものと付き合っていくことが一番暮らしやすいのではないか、と思うのです。
ですので、物をしまうことは整理整頓につながる基本なので大切なことなのですが、しまうものが多いとしまってもかえって見つけにくくなってしまいますので、まずは今の暮らしに必要な物か今の暮らしを見つめて整理し、必要と思われるものを整頓できる場所を作ることが暮らしやすさにつながるのではないかと思っております。
そうすると、物を隠すようにしまうのではなく、きちんと必要な物が必要な場所にしまわれていって、もの達は目の届く範囲に常に在って、探し物に時間を費やすこともなくなるし、使いにくさのストレスも感じにくくなるのではないかと思っております。