熱情
「タモ板目とステンレス4.0ミリバイブレーション無垢材の壁付けキッチン」
茅ケ崎 K様
design:Kさん/daisuke imai
planning:Kさん/daisuke imai
producer:kenta watanabe
painting:kenta watanabe
設計士さんであるKさんからキッチンの相談のメールを頂いた時に添付されていた図面を見て、私は苦笑いというかへんに汗をかいてしまったのでした。
Kさんの図面はとてもきれいな図面でした。
こういう言い方をすると、なんだ生意気なヤツめ、という感じがしないでもありませんが、キッチンや家具が木賃と書けている設計士さんってなかなか少ないように思えるのです。(どこかでも書いたかな。)
奥行が900ミリ近い扉の収納や、幅600ミリ以上もある片開き扉やいろんなところがトメになっている形などなど・・。
それをいかに工夫して実現できるかを考えるのが私たちの仕事だと思うのですが、それを実現しても使いにくいのでは、と思える形が時々あったりするのです。
でも、Kさんの図面は見ていてとても使いやすそうなことが分かったのでした。
そして、その一つ一つの形がきちんと理由があってその形になっている美しい形だったのです。
なので、図面を見ただけで、わあ、きれいな形だなあ、と思ったのですが、ひとつだけ冷や汗をかいてしまうような素材が入っていたのでした。
「カウンター:ステンレスバイブレーション仕上げ t=4.0mm」で、サイズが650ミリ×4320ミリと書かれていました・・。
そして、図面の右下には、「2階キッチン詳細図」と書かれていたのでした・・。
どうやって2階に上げようか・・・。
4ミリでこのサイズでシンクがくっつくと100kgは越えちゃうなあ。それにこの厚みだとあまりコシが無いからそのまま持ち上げるとぐわんぐわんたわんじゃうし・・。
5ミリくらいあるともう少ししっかりするのだけれど、それ以上重くなるのはまずい、いやあまずいなあ。
クレーンなんて手配したことがないし、何人いれば上がるかなあ・・。
それに、4ミリだとシンクの溶接部分に仕上がりがきれいと評判の良い高橋さんでもうっすらひずみが出ることがあるからなあ・・。
なんて、さっきの美しい図面があっという間に頭を悩ませる図面になっていったのでした。
それから、Kさんのご主人と奥様(お二人とも設計士さん)にいらして頂いて、ほぼ完成された形でしたが、私たちのショールームを見て頂きながら、細かい部分をKさんのご要望に合わせて再度かたちを考え直していきます。
でも、頭の片隅(と言うか半分くらい)には常にどうやって持ち上げようかしら・・。という思いが渦巻いていたのでした。
さらには建築地は茅ケ崎ということで、地図で確認させて頂くとやはりちょっと入り組んだ住宅街。茅ケ崎は、散歩したりサイクリングするのはとても気持ちのよい町ですが、車で行くのは道が狭くてくねくねしているのでなかなか厳しい土地なのです。
そのようなわけで、形を決めながら私が心配している点もいろいろとお話させて頂きました。
するとKさん、「分かりました。工務店さんにも搬入について私のほうから聞いてみますね。」とおっしゃってくださって、ありがたいのでしたが、個人的には全然重量が軽くなる1.2~1.5ミリの板を使って作る形でも十分シャープな表情は出ると思いますがというお話もさせて頂いたのですが、やはり4ミリは譲れないそうで・・。分かりました、頑張ります。
そして、もう1点難しい納まりになりそうだったのがレンジフードの納まりでした。
今回はキッチンを設置する北側の壁は屋根の勾配が出てくる部分でもありまして、本来メンテンナンスしやすいようにレンジフードのダクトが目視できる納まりにするのが一般的なのですが、屋根の勾配に重なってきそうなので、これは工務店さんと綿密に打ち合わせておかないといけないなあと、ちょっと不安もあったのでした。
というのも、工務店さんによっては仕事の関わり方がかなりばらつきがあって、毎回違う工務店さんとお付き合いすることの多い私たちは結構ドキドキしているのです。
そこでKさんに今回はどこの工務店さんが施工してくださるのかを確認すると、葉山工務店さんでした。
葉山さんというと、6年前に友人である設計士の福原さんの自宅のリノベーションの時に施工していたのが葉山さんでしたね。
あれからだいぶ時間が経っておりますが、あの時の納まりを見ていましたので、その葉山さんなら安心です。
でも、あの時は社長さんにちょっとご挨拶させて頂いただけだったから今度の現場はどんな感じなのだろう・・。
こうして、プランが決まってドキドキしながら現場に向かいます。
場所は駅の南口から少し歩いたところにある2つの道が交差する角に建つ家です。住宅地なのですが、それなりに車が通る場所でした。ちょっと心配ですね・・。
「こんにちは、今度キッチンとソファの制作を担当させて頂くフリーハンドイマイと申します。」と現場の中をのぞくと、貫禄のあるおじさんが出てきて、「あれ、家具屋さんかい。」と気さくに応じてくださいました。この方は棟梁で、「おーい、Iさーん。」となかに声をかけてくださって、出てきたかたがひょうひょうとした印象の私よりも一回りくらい年上に見える監督のIさんでした。
「イマイさんかい、よろしくね。」とやはり棟梁と同じように気さくな方で、安心させてくれる何かを持っていらっしゃる。
しばらくしてKさんご夫婦も自転車でいらしてくださって(ご近所に住まわれているのだそうで)。それで、事細かに配管の位置や吊戸棚の納まりを確認していきます。
今回は、レンジフード以外にも吊戸棚が付く部分の壁だけを付加したり、エアコンの配管を交わしたりと、細かい造作がシビアだったので、こうして細かく打ち合わせしてくださる監督さんだととてもありがたいのでした。
そして、「天板でしょ。大きいもんね。サッシが入る前にこの開口から上げちゃいましょう。」と言ってくださって、「その時はみんなで手伝いますから。」とも言ってくださいました。
「まあ、その時期に上げちゃうと床張るのに邪魔になっちゃうけれど、それしかないものね。」とにこやかに応じてくださって、大変ありがたかったのです。
そういうサポートが得られた安心感もあってそのあとの段取りはスムーズに進みます。
まずはキッチンの制作に入る前に天板を高橋さんに作ってもらいます。
やはりぐわんぐわんしているので、合板で型枠を作って大工さんにも動かしやすいように固めておきます。
そして、天板の搬入の日程は、キッチンの配管位置の確認の日程と合わせておこなうことになりました。
まだキャビネットのほうが制作の段取りも始めていないのに天板だけ先に搬入するなんて初めてのことでしたので、なかなか緊張します。
当日は2月のまだ寒さの真っただ中でしたがお電気に恵まれまして、問題なく荷揚げができそうです。
その日は私は一足先に現場に入って、Iさんと一緒に配管位置の確認を行ないます。
1時間ほどしてからみんなが到着。4メートルを超える天板なので、トラックからはみ出ちゃうものですから、トラックの後ろに軽のワンボックスがしっかり張り付いて狭い住宅街にどうにか入ってこれました。
さて搬入です・・。
でも、工房で持ち上げた時の重さを考えると、足場があっても結構大変だろうなあ、なんて思っていたら、「イマイさん、いいよ。どんどんやっちゃおう。」とIさんと大工さん。他の職方さんも「みんなちょっとだけ手を借りれるかなあ。」ってIさんの掛け声で集まってきてくださって、Kさんが見守る中、「せーの、よいしょ、せーの、よいしょ」って掛け声とともに何だかあっという間に2階まで上げられちゃったのでした。
「よかったね。」とIさん。「うん、上がった、上がった。あとはね、大丈夫。僕たちが動かしながら作業するからね。」と大工さん。何だか皆さん普通な感じなのですが、本当にありがたかったのでした。
その後、納まりが本当にシビアなので、2,3回現場の寸法を確認して、制作を担当するワタナベ君に作りを調整してもらって制作を進めていきます。
並行して、ヒロセ君がリビングに置かれるソファの制作に取り掛かっていまして、こちらは形がシンプルでしたので先にフレーム部分が完成。あとはフジタケさんに張ってもらう座面とクッションの仕上がり待ちです。
と、そのような流れでキッチンの現場の納まりの確認やら制作の進捗をIさんとこまめにコンタクト取りながら進めていたら、「いやあ、イマイさん実はね、お願いしたいことがあるんですよ。」ということでKさんからではなく、葉山さんからKさんの下駄箱の依頼を頂くことに。
あとでIさんに聞いたら、「いや、イマイさんならきれいに納めてくれるって分かったからさ。他の家具屋さんよりもちょっと高くても安心だし。」といううれしい言葉を頂いたのでした。
その玄関も形はシンプルなのですがなかなかシビアな作りだったのです。収納の扉を開けるとポストとつながっていて、さらには収納の天板の一部が階段の踏み板になっていて、さらに階段のササラが玄関収納に突き刺さっている形。
できあがるときれいだろうけれど、これは大変だ。
それから、洗面カウンターや、1階のKさんのご両親が使うキッチンのパネルだけを作ったりと、いろいろと作らせてもらいました。こうして頼られるのはうれしいことです。
ただ、制作のほうは予想外のいろいろなお話でてんてこ舞いです。
取り急ぎ鉄骨階段が納入される前に玄関収納を設置しないといけないので、キッチンやソファと並行して制作を進めていくことに。あわせて洗面カウンターも設備工事の関係でキッチンと同時期に設置しないといけません。これは忙しい。
私たちのような小さな工房だとこのくらいのボリュームになるともういっぱいいっぱいになっちゃう。それでも主任のノガミ君を筆頭にみんなでうまく進めてくれるからありがたいわけです。
こうしてまさに工務店さんも私たちも一丸となってKさんの家ができあがっていく様がとてもドラマチックだったのです。
まるでみんなでお神輿担いでいるような熱情あふれる現場でした。
まずは、キッチンを鉄骨階段が入る前にどんどん荷揚げして組み上げていきます。
それと並行して洗面カウンターも。
2階の目途が付いたら、玄関収納も設置していきます。Iさんがうまくスケジュールを組んでくださったので、作業は順調に進められまして、無事にどの家具も設置完了。
と、思っていたら、玄関収納の納まりをシビアに考えすぎてしまって、収納内を貫通している鉄骨階段のササラと仲の板が接近しすぎちゃってを固定するボルトが締められないことに・・。
急きょ現場でボルトが当たるあたりの板のほうを開口して対応することに。
現場で、しかも機械が入りにくい場所だったので、開口面は少し荒々しくなってしまいましたので、その上からシナの無垢材でカバーを作ってきれいに化粧して可能完了。
無事に締めることができて、階段もガッチリ設置されました。
これですべて完了です。
このあと、Kさんには私たちの家具をとても気に入ってくださって、テーブルやテレビボードも作らせて頂いて。
葉山さんには特にIさんに気に入ってもらえて、次のキッチンのお仕事を頂いたりして。
「イマイさんは設計さんの受けもいいんですよ。先日の現場の建築士さんたちもとても喜んでくれてましたからね。うちの家具屋さんはイマイさんしかいないから。」なんてお世辞を言ってくれて、思わず電話越しに顔がほころびます。
すてきなご縁は皆さんとの緩やかで温かな熱情からこうして生まれるのですね。
ありがとうございます。
天板 | ステンレスバイブレーション |
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扉・前板 | ナラ節アリ無垢材/突板 |
本体外側 | ナラ節アリ無垢材/突板 |
本体内側 | ポリエステル化粧板 |
塗装 | オイル塗装仕上げ |
タモ板目とステンレス4.0ミリバイブレーション無垢材の壁付けキッチン
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