良い形は使いやすい形
「ナラ柾目の食器棚とパントリー」
柏 Y様
design:Kさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:masakane murakami
painting:iku nogami
Yさんからメールを頂きました。
「フリーハンドイマイ様
自宅の建て替えにあたり、キッチン背面収納をお願いしたいと考えています。新居出来上りは2021年8月予定です。
イメージは制作例の「かわる暮らし」の横浜W様邸です。見積もりをお願いします。
寸法や大まかな食器棚のイメージを添付させていただきます。」
と図が一緒に添えられて届きました。
その図を基にどのくらいで制作できるのかをお伝えしまして、ご依頼頂けることに。
そして、こちらにいらして頂けることになりました。
メールというのは、文面に人となりが表れることもありますが、Yさんはいつも簡潔な文章でしたので、どのようなお人柄なのかが読み取れなくて、当日ドキドキしていたような気がします。
いらしてくださったのは、私よりも少し年上のご夫婦で、お会いしてまもなく気持ちが近い人だと思えたのを思い出します。
まるで親戚のお姉さんやお兄さんに話をするような。
話し合いはとても要領を得ていて、というか迷いがあまりなくて、最初に頂いた図のイメージに近い形で進んでいきました。
「自分ではこのように使いたい」と思う形がもう頭の中にあって、私はそれをお聞きした上で「それでしたらこういう方法もあります」とか「こういう使い方をするとここはこうなると思われます」というアドバイスをするだけで、
「それなら私にとってここはこうでありたい」という明確な考え方がその都度ハッキリと出てきたので、話は少し寄り道しても結果としてこういう形に、とたどり着いたのは最初の形に近いものでした。
あとで教えて頂いたのですが、Yさんは「私ね、子供達にご飯を作ってるのよ、給食のおばさんなの。」と教えてくださり、
ははぁ、それでキッチンに対して使い方が明確だったのだなあと知ることになったのでした。
そして、さらには好きな建築や好みが私の思いに近いということもあって、とても簡潔な形に辿り着いていったのは当然のことのようだったのです。
その工房での打ち合わせを楽しんでくださって、(工房はステキなものがいっぱいでワンダーランドでした。とうれしいメールを頂きました。)あとはご新居の工事の進み具合を見て設置場所の採寸に伺わせて頂くばかりになりました。
というところで、ちょっとお話それますが、ちょうど5月に私の自宅が完成して丸2年が経つということで暮らしながらのオープンハウスを行なったのでした。
なぜ、こういうイベントを開いたのかというと、やはり使い込んだ家具やキッチンの様子を皆さんに見てもらいたいからという気持ちがありまして。
ショールームのキッチンや家具もある程度使ってはいますが毎日使いこなしているわけではないですからなかなかリアルな様子が見えにくかったりします。
また、それに合わせて、私たちの建物自体も家作りの参考に見て頂けたらと思いまして、それがその人にとってオーダーで作ることが良いことなのか、あまり良さが得られないことなのかを判断してもらったり、木やステンレスなどが経年変化でどのようになっていくかを見て頂くことで、この先の家作りの参考にしてもらえたらと思って、この家に暮らし始めてから5月ごとに開いているのでした。(2022年はコロナの影響を考えて中止しています)
そのイベントにYさんもいらしてくださることになりまして、私たちの暮らしの様子を見て頂けたのでした。
私の自宅は、決して広くはないのですが心地よい場所でありたいと思っていて、設計を友人の福原さんに、施工はお仕事でお付き合いさせて頂いている加賀妻工務店さんにお願いしたのですが、木が溢れる気持ちのよい場所になりました。
もしよろしければ、こちらに詳しく書いておりますのでご覧頂ければうれしいです。
私は中村好文さんという建築家さんが好きで、設計を担当してくれた福原さんも好文さんとはどこかでつながりがあって、そういう人に考えてもらった家なので、さっぱりしていて使い心地が良くて気持ちが良いのです。
それをYさんも汲み取ってくださったみたいで、手仕事の良さとか、素材そのままの質感とか、とても良く感じてくださったのでした。
その後、いよいよ現地の採寸ができるタイミングでご新居の工事現場に伺わせて頂きました。
食器棚のようにお引渡のあとで取り付ける家具の場合、工務店さんによっては工事期間中は関わりのない業者の入場を嫌うところもあるのですが、今回の工務店さんは快く受け入れてくださって、当日も設置場所を教えて頂いたりと監督さんが立ち会ってくださって、とてもありがたかったのでした。
で、このYさんの家が建つところまで最寄駅から歩いて30分ほど掛かったのですが、とても心地よい道だったのを覚えています。その話を帰り際に話しましたら、「えっ、イマイさん歩いてこられたのですか!北柏から。それならちょっと遠いですけれど、帰りの電車の都合は良いし、気持ち良い道があるからぜひ柏までいかれると良いですよ。40分くらい掛かるけれど。」とうれしい言葉を頂いて。(笑)
「私もよく散歩する道なので好きなんです。途中まで案内しますね。」と、ちょうど夏に向かって花々が色鮮やかに咲きつつある小道を案内して頂き、この近くで取れた枝豆をお土産に持たせてくださって、その時に食べ物のお話をしていて「給食のおばさん」だってことを教えて頂き、それから器の話になって、柳宗悦さんのおはなしになったんですよね。
そうしたら、うれしい一言を頂いたのでしたね。
「イマイさん、それなら一度民藝館に行かれてみると良いですよ。」
私たちの住む家を見て、暮らし方をお伝えするとでYさんがそう教えてくださったのでした。
今まで幾度と聞いたことがありましたが、私もアキコもまだ訪ねたことがなかったのですが、Yさんが魅力的に話す様子を聞いて、これはぜひ行かなくてはと思ったのでした。
私たちの作るキッチンや家具も「民藝」とまではいかなくても、「普段使いの美しい道具」とみんなに思ってもらえたらよいなと思うのです。
その為にもいろいろな考え方を見知って、Yさんをはじめいろいろな皆さんとお話させて頂いて、良い形作りに努めることができるというのはとても素晴らしいことです。
こうしてYさんの形がまとまって、制作も無事に進めることができました。
今回のメインは食器棚なのですが、そこに並んで設置されることになるパントリー代わりの物入の造作も形はシンプルでも作業的になかなか大変な作業になったのでした。
このパントリー部分は白い可動棚だけがあるシンプルなスペースを工務店さんのほうで仕上げておいてもらって、そこに食器棚と同じ素材で三方枠と建具を私たちのほうで作る、というものでした。
箱になっているわけではなく、板状のまま持ち込んで現場で組み立てていくので、現場の壁のや床の精度によっては微調整が大変だったりするのですが、なるべくそのあたりがスムーズに進められるような作りで考えておきました。
ここから柏となるとなかなか距離があるので、往復すると移動時間がだいぶかかっちゃうからなるべくなら1日間で終わらせられるようにとスムーズに進められる方法で考えていたのですが、取付当日、肝心の部材をうっかり積み込むのを忘れてしまうという失態をさらしてしまいまして、結局Yさんには二日間を頂くことになりまして、どうにか無事に完了させることができたのでした。
「いいんですよ、全然大丈夫だから。」とおっしゃってくださいましたが、ご不便をおかけしてしまいましてすみませんでした。
そして、どうにか無事に設置工事が完了しました。
「昨日は納品ありがとうございました。大満足です。
今日仕事から帰って、リビングからキッチンを眺めてニコニコしてしまいました。
できあがった家具もともに、搬入してくれた御三方の仕事ぶりにも胸がすく思いでした。
丁寧な仕事、最後の微調整まで、主人も感心しておりました。
「すてきな家具を作ってくださってありがとうございます。とても幸せです。」とお伝えください。」
そして、その後あらためてご挨拶に伺わせて頂きました。
やはり良いです。
Yさんの暮らしかたがとてもステキで、このシンプルな形にいろいろな思いが詰まっているのがとてもよく現れていて、見ていてうれしくなったのです。
良い形を作らせてくださいましてありがとうございました、Yさん。
そして帰宅後、Yさんからメールが届いておりました。
「先程はありがとうございました。ひとつお伝えし忘れていたことがありました。
私は民藝の心が好きです。フリーハンドイマイさんの作るものから私は民藝の心を感じています。
うまく言葉で表現できないので、柳宗悦の文章を抜粋します。
「深き美術は師とも父とも思えるであろう。だが工藝は伴侶であり、兄弟や姉妹である。共に一家で朝な夕なを送るのである。そうして吾々の労を助け、用を悦び、生活を温めてくれる。それらの者に取り囲まれて、この世の1日が暮れる。」
「吾々は自分の力だけで、正しいものを築き上げることはできない。どうしてもそこには自然の加護がなければならない。自然さと美しさとは同義語だといえる。工藝の美は自然が与えるよき材料からくる。そうしてその材料から必然にある形や模様が要求される。美しい作には無理なところがない。自然への帰依が美の保証である。」
「最も健全な工藝は民衆のかかる団体的制作であった。私は工藝そのものの性質が、この協団を本質的に要求していると信じる。美も民衆的であり、作の分業的過程も協力を要し、作らるる物も民衆の用品であり、数もまた多量である。」
家具とイマイさんの書くものから感じるものです。フリーハンドイマイさんとの出合いで伝える・・・表現するって大事だなあとあらためて感じています。
それがなかったらこの家具は家にこなかったわけだし。
私も書いたり、伝えることを大事にしていこうと思います。」
うれしいですね。
「工藝」とまで言われるととても恐縮してしまいますが、日用使いの家具を常日頃から作りたいと考えているものですから、とてもうれしい言葉です。
良い形は使いやすい形です。
使いやすい形は、いかにその人の暮らしに馴染んでいるかです。
いかにその人の暮らしに馴染んでいるかを知ろうとするには、その人とよくお話をして、その人のことを知ることです。
これは、言葉にすると簡単なことですけれど、なかなか難しかったりすることです。
ナラ柾目の食器棚
価格:920,000円(制作費・塗装費)
ナラ柾目のパントリー扉の造作
価格:120,000円(制作費・塗装費)
ナラ柾目の玄関収納
価格:440,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は60,000円から、取付施工費は130,000円から)