かわる暮らし

「ナラとコーリアンのデスクと一体になった食器収納のオーダー」

横浜 W様

design:Wさん
planning:daisuke imai
producer:hiroyuki kai
painting:hiroyuki kai

「初めまして、横浜在住のWと申します。
6月に家を購入予定で、カップボード等の家具を揃える予定なのですが、一度アトリエにお伺いして相談にのっていただくことは可能でしょうか?」
とWさんからメールを頂きました。

いらしてくださったWさんはまだ小さな赤ちゃんを連れた若いご夫婦で、このたび家を購入されたのですが、自分の思いの叶った暮らしにするためにまずは食器棚をいろいろと考えていたのだそうです。
それでお話をお伺いすると、キッチンはシステムキッチンが設けられていて、そのキッチンには標準設備として吊戸棚がついていたのだそうです。

コーリアンとナラ板目材を使ったキッチンバックカウンター

全体の印象。冷蔵庫スペースを残して長いカウンターにしたのです。コーリアンはなかなか重いので、搬入は大変なのでした。今回使用したコーリアンは「カメオホワイト」という真っ白というよりもオフホワイトな色味で温かみがあります。

製品をパッケージで売ることは、コストを抑えられることで広く皆さんに供給できる良い方法なのかもしれませんが、最近は吊戸棚を不要という声も多く聞くようになりました。
オーダーキッチンという場合なら、必要な要素を組み込んだ形で作り上げていくことができますが、システムキッチンだとなかなか細かい部分までは対応が難しいようで、そういう時に無駄になってしまう家具があるのかと思うと少し淋しい気持ちも生まれます。
そういう声を生かしてなのか、吊戸棚が不要な間取りになった時に食器棚をつけるスペースの上部についているのを見ることがよくあるのです。
でも、吊戸棚が不要な間取りっていうと、キッチンからリビングがよく見える間取りになるのですよね。
反対にリビングからもキッチンがよく見える間取りになるのですよね。

コーリアンとナラ板目材を使ったキッチンバックカウンター

冷蔵庫側から見た印象。最初デスクを設けたのは家事の合間に使うちょっとした書き物のスペース化と思っていたのですが、ウェブデザインのお仕事をされている奥様はここで仕事をするのだそう。お子さんもまだまだ赤ちゃんですので、キッチンに居る時間が一番落ち着くのかもしれません。

私は今まで食器棚のご相談を頂く時にお伝えしていることがあります。
吊戸棚のないペニンシュラタイプのキッチンだったり、アイランドキッチンだったりする時に食器棚の素材はキッチンに合わせるべきかどうかって。
私たちのところにご相談にいらしてくださる多くの方はやはり木の表情や手触りが好き、というお客様が多かったりします。
そうなった時にシステムキッチンの表面材はいろんな柄がありますが、基本的に樹脂素材が多いです。
「キッチンに立った時にそのキッチンと同じ樹脂素材にしないと食器棚はちぐはぐになってしまうのでしょうか。」

コーリアンとナラ板目材を使ったキッチンバックカウンター

この白い吊戸棚がもともとついていた吊戸棚。扉を開けないと分からないようにきれいに設置できました。


食器吊戸棚内部

実際に使っている様子。ちょっとおもしろいのは、扉のデザインとオープン棚の高さのバランスを考慮して、一番下に高さのない収納スペースを設けているところです。


コーリアンとナラ板目材を使ったキッチンバックカウンター

扉を閉めるとこのような感じ。

私はどちらかというと、リビングからキッチンを見た時の印象を揃えると全体が整うのではないかとお話しています。
キッチンに立っている時って、キッチンの表面材をよく眺めながら作業する、というよりは、使いやすさのほうに気持ちが向いていると思うし、キッチンの素材に合わせてもキッチンに立った時にだけ色柄があっていると感じるよりはリビングダイニングからふっと肩の力を抜いて部屋を見渡した時に印象が整っているように見えることで気持ちがより落ち着くのではないかと思うのです。

コーリアン カメオホワイト

今回のコーリアンは25ミリの厚みに見せて仕上げています。実際の厚みは12ミリなので、残りの13ミリ分は合板を接着して強度を出しています。木口の面取りは3アールくらい。このくらいのシャープな印象がWさんの好みにちょうど良かったのです。これ以上とがらせると痛いですからね。


炊飯器用スライドテーブル

一番左は炊飯器を収納するスライドテーブル。


引き出し 米びつ収納

その下は深めの引き出しですので、米びつやストックのペットボトルが入れられています。

そのようなわけで、Wさんの食器棚を設置するスペースにもシステムキッチンで使われなかった吊戸棚がついておりました。
でもせっかくついているもので使い勝手も悪いわけではないので、新たに作っても同じような形になるのなら生かして作れないものかな、というお話になっていったのでした。
今ついている吊戸棚は扉も白でキャビネットも白い仕上げのもので、白いものでも塗装で仕上げてあって質感がまろやかだったりするなら壁になじんで見えるのですが、化粧板の印象がはっきりしているのでリビングから見るとどうにも印象が軽く見えてしまうのでした。

引き出しの手掛け

収納の形態は主に引き出しです。使う人の好みによっては一部だけ扉にされる方もいらっしゃいますが、Wさんの場合は引き出しにして、奥まで使いやすく、を念頭に考えています。そして、引き出しの手掛けはいつもの掘り込み手掛け。

この形を生かしながら食器棚として使う安い形を考えましょう、とWさんといろいろと悩みます。
間取りから考えると、幅の広いカウンターを作ることができそうで、奥様が家事をしながら使うデスクを併設した食器棚にしましょうということに。そして吊戸棚は囲ってしまって白い印象を消してしまいましょうと。

コーリアンとナラ板目材を使ったキッチンバックカウンター

幅の広い引き出しの様子。


コーリアンとナラ板目材を使ったキッチンバックカウンター

幅の広い引き出しの様子。


コーリアンとナラ板目材を使ったキッチンバックカウンター

幅の広い引き出しの様子。

大まかな形がまとまって、ではこの形で納まるかどうか現地を確認しましょうということで、内覧会のタイミングに合わせてご新居にお伺いすることに。
設置するのには特に問題はなかったのですが、キッチンがあるのは2階で会談にはもう手すりがついてしまっているので、搬入がなかなか大変そうなのでした。

コーリアンとナラ板目材を使ったキッチンバックカウンター

幅の狭い引き出しの様子。


コーリアンとナラ板目材を使ったキッチンバックカウンター

幅の狭い引き出しの様子。


コーリアンとナラ板目材を使ったキッチンバックカウンター

幅の狭い引き出しの様子。


コーリアンとナラ板目材を使ったキッチンバックカウンター

幅の狭い引き出しの様子。

工房に戻って、細かい寸法を修正していよいよ制作に取り掛かります。
今回左側は冷蔵庫があって、寸法に余裕があるので、カウンターの制作は問題なかったのですが、吊戸棚はすでに壁につられていると戸棚にぴったりと被せるようにして作らないといけません。
特に吊戸棚の下にオープン棚があるので、両側のパネルはピッタリ作らないと変な隙間ができちゃう。
そこで、1ミリだけ戸棚よりも大きく作って、あとはうまくいきますように。
実際1ミリの逃げだけではかなりきつくて押し込んでどうにか設置できたのですが、まずは治まったのでひと安心。

コーリアンとナラ板目材を使ったキッチンバックカウンター

ゴミ箱の上の引き出しの様子。奥に見える赤い器、実は奥様のお父様の根来塗の作品で、朱色のなかに黒みが現れている美しい器です。


ゴミ箱収納 ケユカ アロッツ

引き出しの下のゴミ箱はすでに多くの皆さんが使われているケユカのアロッツ。両開きになっているので、高さ600ミリあれば全開する高さを抑えた形状がやはり人気なのです。ただ、私が使っていて1点気になったのは手で開けられる隙間が無いこと。必ずペダルを踏まないと開かないので、慣れるまでにちょっと間がありました。

それよりも大変なのはやはり搬入でした。
当時は夏真っ盛りの8月の初め。Wさん、気を使ってくださってエアコンを強く掛けてくださっていたのですが、階段の狭くクランクするところなんて、我慢大会のように同じ姿勢を保持していないといけないので、動いていないのに汗は噴き出るし、最後の最後でつっかえちゃって入らなかったりで、結局窓から揚げることになったりして、午前中で体力を使い果たしてしまうくらいなかなかハードな搬入でした。
そのあと一息入れて、取付作業のほうは一度工房で仮組していることもあって、順調に進み無事に完了したのでした。

キーボード用スライドテーブル

一番右は奥様のワークスペースであるデスク。気ボードが収納できるスライドテーブルも設けました。

で、これで終わりではなく、Wさんの思いが続いての形へ。
リビングから見える印象が温かみがあって、且つシャープな印象に変わってきたのに、キッチンを囲う対面カウンターが今ついているものがメラミン化粧板でできたポストフォームカウンターで、きっと暮らし始めてからの動線を考えてぶつかっても居たくないように角の部分を大きく丸くなっていて、さらには角の上下面も半円のように丸くなっているのだと思うのですが、それがキッチンの印象を引き締めるのに役立っていなかったのでした。さらにはジョイント部分があまりきれいではなかったので、この丸みとつなぎ目が、やはりデザインのお仕事をされているからか奥様としてはとても気になってしまうのでした。
ただ、素材として食器棚と同じくコーリアンにするほうが良いか、ナラにするほうが良いかを迷っていたのです。私自身もどちら良いかはなかなかイメージしづらい部分だったので食器棚を据えてから考えましょうということで、続いてはカウンターの細工です。

キッチン対面カウンターを無垢材で作る

お化粧直ししたキッチンの対面カウンター。


キッチン対面カウンターを無垢材で作る

キッチン側から見るとこのような感じ。上からかぶせてある印象にはなかなか分かりづらいでしょう。


キッチン対面カウンターを無垢材で作る

作りとしては、ナラ無垢材でトップを作り、木端面だけ厚みを持たせています。木口部分も厚みを持たせていますが、どうしても木口に接着すると厚みを持たせた材と小口の収縮で差異が生じるので、材が動いても剥離しないような仕上げにしています。


キッチン対面カウンターを無垢材で作る

コンロ前の壁に合わせて、カウンターも変形させていますので、とても自然な印象で仕上がりました。

結局、コーリアンの白いものだとモダンになりすぎて味気なくなってしまう、ということでナラでカウンターを作ることにしたのです。
ただ、壁を壊して、既存のカウンターを外して、となると大掛かりなので、既存のカウンターの上にすっぽり被せるように設置しました。
ちょうどナラでできたダイニングテーブルもこの頃に届きまして、途端にこの場所が優しく温かみのある場所に変わったのでした。
良い感じにまとめることができて良かったのでした。

ワークデスクとつながったナラと食器棚

価格:760,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は15,000円から、取付施工費は35,000円から)

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