待つ時間も愛着につながるのかな

「クルミ板目とステンレストップの食器棚」

町田 S様

design:Sさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:daisuke hirose
painting:daisuke hirose

クルミの食器棚とプチリフォーム
リビングダイニングから見た印象。パントリー撤去時に天井のクロスを張り変えなければならないので、入隅の縁が切れるところまで張り替えることとなり白い壁のクロス部分も合わせて張替え。それから、食器棚の扉や引き出しの前板は今回はクルミの無垢材を使用。クルミの無垢独特に鈍い色で仕上がりました。

「午前中にお電話致しましたSと申します。
キッチンのバックカウンターとその上のつり戸棚をお願いしたいと思っています。
はじめは直接お伺いして相談したいのですが、ご予定のあいている日はありますでしょうか。
納期はできたら年内にまにあったら・・・と希望しているのですが、やはり難しいでしょうか。
よろしくお願い致します。」

クルミの食器棚とプチリフォーム
(後述する)パントリーを撤去してやはり正解でしたね。カウンターの広く採れたとても使いやすい食器棚になりました。

と、Sさんからご相談のメールを頂いたのですが、ちょうどこの頃は、「コロナ禍でおうち時間が増えて・・」と呼ばれていた時期で、なぜかありがたいことに皆様からのご依頼がたくさん重なってしまっていて、スケジュールに間に合わせることは難しいのですが、「なるべく早く実現できるようにまずはお話をお伺いしましょう。」ということになったのでした。

「当日は主人と二人で伺わせて頂きます。
シロウトの計測ですがキッチンの寸法と写真と、不動産会社から貰った家の間取り図(?)と、こんな作りだったらいいなあという希望を持ってうかがいますが、他に何か用意していくと良いものはありますでしょうか?
キッチンの希望はぼんやりしたものばかりなので、便利になる作りなどいろいろ教えて頂けたら嬉しいです。
ホームページのお写真を拝見してとてもすてきで、早く我が家にもと主人とウズウズしておりますが、待つ時間も愛着につながるのかなと話しております。
よろしくお願い致します。」

と、うれしいお返事を頂き、こちらまでいらしてくださいました。

クルミの食器棚とプチリフォーム
sさんから頂いたスケッチ。

いろいろとお話を伺いますと、奥様がお腹が大きくて、時期が大きくずれてしまうと出産の時期と重なってしまうかもしれないということで、そのあたりを踏まえてどのように進めるかをお話させて頂きました。
その後、奥様の体調不良があったりお仕事が忙しかったりで、あっという間に3ヶ月くらいが経ってしまったのですが、その間に一番ネックだったゴミ箱問題についてSさんはあれこれ悩んでいたのでした。

オーダーキッチンだとシンクの下にゴミ箱を置くことができる形を実現しやすいのですが、マンションだとゴミ箱を置くスペースに困る、という声を聞くことが多いのです。
Sさんのところもその悩みがあって、本当はシンクの下に置けたら良いと思うけれど、シンクの下がたしか大きな扉だったので、扉の中にゴミ箱を入れると不便になるし、その扉部分を引き出しに改造するほどまでコストを掛けるのも大げさだし‥、と悩んでいたのでした。

そうなると、食器棚側にゴミ箱を置くことしかできないわけですが、この食器棚側の(Sさんが言うには)中途半端な位置に使いにくいパントリー代わり収納棚が備え付けられていたのだそうです。
これがあるから、食器棚のカウンターを大きく取ることもできなくて、奥行きが深いわりに中に棚板が入っているだけの作りだったので、しまえるもののサイズが限られてしまってとても使いにくくて、これはよくよく聞くと奥様というよりはご主人のほうがこれは要らないって強い意志をお持ちなのでした。

クルミの食器棚とプチリフォーム
撤去される前のパントリーがあった時の写真。中に可動棚が入っているだけのシンプルな作りなのですが、「とても使いにくくて・・。」とSさん。使い勝手と同様にこの素材がリビングから目に入る印象がSさんの暮らしとは違和感があったのです。ですので、クルミの食器棚が据えられた時に当たり前のように安心感があったのでした。

それでは、ということでパントリーの詳細が分かるような写真をあらためてお送り頂いて、これがきれいに私たちが撤去できるものかどうかを検討します。
写真を見る限りはきれいに外せそうなのですが、いろいろとお話を進めるうちに住み始めて出てきたクロスのほころびのようなものも気になり始めて、それならパントリーを撤去するとクロスが張られていない部分も出てくるので、それならそのあたりも含めてきれいに張り替えたいなという、ちょっとしたリノベーションへとお話が移っていくのです。

クルミ無垢の扉とステンレスの反り止め
無垢材でできた板は少なからず動きます。こうして裏に反り止めを入れていてもなお、無垢材の動く力は大きいです。この反り止めで動きを抑えながら1~2年ほどでその環境に落ち着いていきます。もちろん、板は真っすぐではなく多少波打って落ち着くこともありますが、木々それぞれにも癖はありますからいろんな動きを見せてくれるのです。

そうなると、私たちではなくていつもお世話になっているkotiさんに来てもらいます。
そういえば別のお客様からお聞きしたことがあるのですが、小さな修繕、リノベーションというのはなかなか相談しづらいのだそうです。大きな工事ならいろいろな工務店さんや設計事務所さんに足を運べるけれど、「タイルを貼りたい」とか「壁を一部だけ取ってほしい」というようなちょっとした話だと工事の規模が小さすぎるから話しにくいのだそうです。
なるほど、町の工務店さんのイメージとは本末転倒な形になってしまうのですね。
kotiさんだとそういう細かい部分でも相談に載ってもらえて、思い返すと私からは大きなお話よりも細かな作業ばかりお願いしているような・・。それでも気さくに引き受けてくださるので心強いのです。

クルミの吊戸棚と耐震ラッチ
耐震ラッチ。私たちが採用しているのはシモダイラのものを使うことが多いです。構造がシンプルなので、耐震装置が働いた場合でも解除の動作が不要なところが使いやすいのです。この色しかないのとちょっと印象がボッテリしているところはありますが、とても良い製品です。

そこで、パントリーを撤去する方向で、あらためてSさんからご要望をまとめたスケッチを頂いて、それをもとにお話が進んでいきました。
そして、お話がおおよそまとまってきたところで、Sさんのキッチンを拝見させて頂くためにお伺いしたのでした。
そこでパントリーが撤去できるかどうかをあらためて確認させて頂きました、
どうにかきれいに外せそうな感じです。というものフローリングがこのパントリーの下まで入り込んでいるように見えましたので、おそらく床は壁ができあがってからこの家具が設置されたように見えたので。

クルミの食器棚とプチリフォーム
引き出しの様子。
クルミの食器棚とプチリフォーム
引き出しの様子。
クルミの食器棚とプチリフォーム
引き出しの様子。今回のSさんのプランでおもしろいのは引き出しをあまりたくさん設けなかったこと。「食器棚」というよりは「作業カウンター」という印象で作りましたので食器よりも調理道具が多く収納される形になりました。そのイメージもあってから、天板もラフに扱いやすいステンレスで仕上げています。

そういう確認をさせて頂きながらひとつ目に留まったスペースが物入のようなスペースにデスクが付いた不思議な空間。
「モデルルームでは、このスペースがパソコンデスクのようになっていたので、自分たちもそういうふうに活用しようと思ったけれど、どうにも散らかってしまって・・。」とSさん。
マンション引き渡しの時に受け取った書類等が雑然となってしまっていて、物入としてもデスクスペースとしても中途半端になってしまいそうで、うまく使うことが難しそうなスペース。
むしろ、このスペースを作らないでもっとリビングダイニングを広く取ったほうが良かったようにも思えるくらいです。
でも、いろいろとお話を伺ううちにここはここでうまく活かせるような形ができるのではないかと思えてきます。
ただ、普段は閉めておく場所になりそうなので、食器棚をメインにあまりコストを掛けないでスッキリと使いやすい形ができないか、とSさんと考えていくことに。
結果として、宙吊りのオープン棚を作ることしたのです。
1ヶ所は幅も確保できそうでしたので、書類よりもかさばるカバンやそのほか細々したものをカゴなどに入れてしまえるような棚にして、奥の細い幅20センチくらいしかない部分は普段あまり見ることのない書類がしまえるような棚にすることに。

ステンレス張り棚板の調理道具棚
調理道具が置かれるオープン棚。棚自体は合板を下地にして、トップにステンレスを張った形ですが、棚が垂れないように棚の下に力板を入れたりして、棚自体が重くなっています。置かれる道具も重くなるので、棚ダボはいつもより大きめの12ミリの物を使っています。

こうして話がまとまって、制作に取り掛かり始めました。
そして、制作完了のタイミングに合わせて食器棚の設置工事に入れるように設置工事の1週間ほど前からkotiの伊藤さんにプチリノベーションの作業に取り掛かってもらいました。
もちろん事前にパントリー部分もクロスの様子も確認してもらっていますので、スムーズに作業を進められる予定だったのですが・・。

ステンレス張り棚板の調理道具棚
ステンレスを上に張り、小口にクルミを見せたオープン棚は冷たい印象にならずに使いやすい棚になりました。

ところが、いざパントリーを撤去してみると床がない・・。

マンションでは時々ある施工方法なのですが、大工さんが床を張る前、まだ軽量鉄骨しか組まれていない状態の時に先に収納を取り付けてしまうのです。
私もだいぶ昔にはマンション内の造作家具工事をしていたことがあるので、こういう取り付け方をしていたことがあるのですが、なぜまだ床も張られていないこのタイミングでわざわざ先行して家具をつけなくてはいけないのかが、いまだに理解できないところです・・。

そして、今からやはりだいぶ前にそういう物入家具の取り付け方をしていたマンションに住んでいるお客様のところに伺った時にこういうことがありました。
・・・その時は食器棚のご相談でお伺いしていたのですが、帰り際にお客様に「中にしまうものが重いとこういうふうになったりする可能性はありますか。」と言われて見せて頂いたのが、床が張られていない時に取り付けたであろう物入でした。物入を書棚代わりに使われていた、というそのお客様は「ぎっしり本を入れていたら、だんだんと家具が傾いてしまって・・。」ということで本当にかなり傾いてしまって、その物入の台輪の右側は床の下に沈んでしまっている感じで・・。

そのお客様にも上記のようなお話をさせて頂いて、マンションの管理会社さんに修繕してもらう形になったのですが、まさか住む人にとっては床がないところに宙吊りに家具が付けられているとは思わないでしょうからこういう施工方法はきっとなくなっていくとばかり思っていたのですが。

ステンレス張りのカウンタートップ
ステンレストップのカウンターと引き出しの手掛けを隙間の印象。

今回のSさんの時はパントリーの下にフローリングが張り込まれているように見えたので、まさか床がないとは思えず、伊藤さんもてっきり床が張られているもののように見えていたということで、外してびっくりだったのです。
そこで急きょ床下地を組んで似た色のフローリングを仕上げ材として張ることになりましたが、それでもきれいに施工してくれたおかげで、食器棚が設置された後では、どの部分を増し張りしたかが分からないくらい。
かえって、パントリーのままのほうが危なかったのかもしれないですね。

こうして、無事に設置工事が完了しました。

クルミのゴミ箱ワゴン
これは最終的にここに置くことに決めたゴミ箱。市販のゴミ箱をアレンジしています。

「おはようございます。
昨日はありがとうございました。
待ち焦がれた家具を無事設置して頂き、朝目がさめても夢じゃなく、夫婦ともニヤニヤが止まりません・・・
私の乏しい想像力では最後までどうなるのか、我が家に合う仕上がりになるのか、パントリーを撤去した時や、搬入された家具を見て想像より大きく感じたり、終盤までドキドキ心配でしたが、仕上がってみると、なんて素敵なお家に・・・!
家が生まれ変わったみたいに素敵です。
ありがとうございます。
このまま何も置かずに眺めていたいけど、はやく収納もしてみたい・・・
夫とウロウロ見ながらちょっとずつ食器を入れてみたり、いやよく考えてからと途中で止めてみたり・・です・・笑
設置して下さったお二人も終始大変丁寧に作業して下さり、私は興味津々でジロジロ見続けて申し訳なかったのですが、本当にありがとうございました。」

クルミのゴミ箱ワゴン
山崎実業さんの分別ダストワゴンの正面にクルミの突板を張っているのです。それだけだと前板の重みで手前に傾いてしまうので、後ろ面にも同じくらいの重量になるようにグレーの化粧板で板を作って取り付けています。

そして、もうすぐ赤ちゃん生まれちゃうんじゃないかというくらいのタイミングであらためてご挨拶に伺わせて頂きました。
「予定日過ぎちゃったので、いつ生まれても良いタイミングになりました。」とおなかの大きなSさんが迎えてくださいました。
大変な時期にお邪魔させてもらってすみません。
「おそらく産後はいろいろ大変になっちゃうから今のうちに見て頂いたほうが良いと思いますよ!」とおっしゃって頂けましたので、お言葉に甘えてお邪魔させて頂きました。
「おかげさまで、とても使いやすい食器棚になりました。理想通りです。」とおっしゃって頂けて、さらにひと安心。
「これですべて心残りなく気持ちがさっぱりしましたので、あとは元気な赤ちゃんを産むだけです!」ということで頑張ってくださいね。
そして、その間、お姉ちゃんになるお嬢さんと過ごすご主人もがんばってください。
私の昔の経験を振り返ると、その時のハルカ(私の長女です。)はとてもナーバスになってしまったので。
(やっぱりお母さんと長い時間離れるのは、子供にとってショッキングな出来事のようです。)
大変だと思いますが、家族が増えるというとても素晴らしい出来事なので、あとでたくさんみんなで笑いましょう。ありがとうございました。」
では、Sさん、頑張ってくださいね。

クローゼット内収納
こちらが廊下を挟んで食器棚の向かいにあるスペース。普段は引き戸で閉まっていて、戸を開けるとデスクとなる天板が備え付けられていて、また通信機器類もこのスペースの頭上に置けるようになっていました。想定としてはキッチンに立ちながらもちょっとしたデスクワークができるようなスペースだったのかもしれませんが、ちょっと使いづらいづペースで中途半端に開いた空間には棚板月しているわけでもないので、物もきちんと収納することもできない場所でした。そこに手前のようなオープン棚と奥に(写真にちょっとだけ写っている)幅がとても狭いけれどA4のファイルなどがきれいにしまえる細い本棚のようなオープン棚を作ったのでした。素材は、コストを抑えながらも味気なくならないように明るめのグレーの化粧板に木口にクルミを張った軽い印象の棚にしています。

クルミ板目とステンレストップの食器棚

価格:730,000円(制作費・塗装費)

物入のオープン棚

価格:170,000円(制作費・塗装費)

 

*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は20,000円から、取付施工費は60,000円から)

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