乾杯

「ブラックチェリーとステンレスバイブレーションのアイランドキッチンと背面収納」

中野 H様

design:Hさん
planning:Hさん/daisuke imai
producer:kenta watanabe
painting:kenta wataknabe

ステンレスバイブレーションとブラックチェリーのアイランドキッチンと背面収納
リビングから見た印象。部屋を仕切っていた壁を取り払って一つの大きな空間にしているので、アイランドキッチンと背面収納が大きくてもとてもコンパクトに納まっている印象です。背面収納の柱型が表れている部分も目立たないように納まっています。
ステンレスバイブレーションとブラックチェリーのアイランドキッチンと背面収納
玄関から入ってくるとこのような印象。やはり部屋の主役となっているのですね。
ステンレスバイブレーションとブラックチェリーのアイランドキッチンと背面収納
バルコニー側から見た印象。キッチン側面にはダイニングテーブルで家電が使えるようにコンセントを設けています。そして、背面収納のガラス天板はこのような印象です。ガラス越しにチェリーの色柄が見えるのです。
ステンレスバイブレーションとブラックチェリーのアイランドキッチンと背面収納
再びバルコニー側から。レンジフードはHさんが自分で設置して、おまけの棚も自作されています。

平成建設さんのOさんのキッチンを作らせて頂いた時に、「はじめまして、Hです。このたびはよろしくお願いします。」と、私やOさんよりもずいぶんとお若い青年が出てきて挨拶してくれまして、それが今回のHさんでした。
Hさんは現場監督さんで、「僕は形を考えるのも好きですが現場に出てる方が好きなんですよね。」とおっしゃっていて、いろいろなところでお会いする機会がありました。
平成さんの式典に出席させて頂いた時もOさんのご配慮だったのかもしれませんが、Hさんと隣の席を設けてくださって、お酒を飲みながらいろいろなお話をさせて頂きましてとても楽しかったのを覚えております。
その時に「いつか自分も家を持つときはイマイさんにキッチンをお願いしようと思いますので、その時はよろしくお願いします。」と言っていたっけなあ。
それが実現するのはいつだろうなあ、なんてぼんやりと考えていたらその二年後、いよいよ家を持つことになったのでキッチンの相談を‥、とHさんからの連絡。それはうれしかったですね。
私はてっきり三島や沼津のほうに住まわれるのかと思っていたのですが、実は「中野のほうですてきなマンションがありましてね、古いのですが作りはしっかりしているし、会社に向かうにも良い土地でしたのでそこに決めたいのです。」と教えてくれました。
そうか、都内で暮らすのですね、たしかに最近はこのあたりでお会いすることが多くなっていましたものね。

というお話をお聞きして、少しした頃にキッチンの打ち合わせに私たちのところにご夫婦でいらしてくださいました。
Hさんとは知り合ってからそれなりの時間が経っていましたが、こうしてあらためて私たちのところに来て下さったのは初めてでしたので、何だか試されているようで緊張するのでした。
だって、平成さんというと大工さんの腕の良さのほかにも自社で家具制作までされますので、私たちと同業でもあるわけですので。
しかし、うれしそうに「やっぱりこういうところが良いんだよねー。」と引き出しを開けながら奥様に説明してくださるHさん。聞いていてうれしく安心できたのでした。

そして打ち合わせの話の中で、奥様からもいろいろな提案やアイデアを頂きました。
そのおもしろかったアイデアを二つばかり。

デッキと洗剤ポケット付きのシンク
シンクは水栓器具がついている部分を1段下げたデッキ付きタイプにして、さらに洗剤ポケットを付けています。
水撥ねガード
今回おもしろいなと思ったのが、一般的にガスコンロの奥に置くオイルディバイダーをここに置いていること。けっこうお水が跳ねちゃうのでここにあると便利なのです。」と奥様。これは市販されているタイプで、不要な際は片づけられる便利なもの。
オーダーキッチンのシンク下の様子
シンク下はこのような市販の収納を入れて、包丁差しを扉の裏につけています。
オーダーキッチンのシンク下の様子
ここにオイルなどのボトルが入っているのですね。

扉にはすべてローラーキャッチをつけたいということ。
なるほど。
お聞きすると、扉を閉めた時にあの、カチッと閉めた感じが分かるあの感覚が好きなのだそうです。
最近の蝶番というとスライド蝶番と言って、閉まる側にバネが入っていて、締める途中で扉から手を離しても自然と閉まっていく蝶番が主流でしたが、最近はダンパー付きのものが主流になっています。
これは閉まる側のバネで扉がバタンッと勢いよく閉まるのを防いで、ゆっくり閉まるようにするダンパーがバネのそばに内蔵されているものです。
手を離してもきちんと静かにゆっくり閉まるので、この蝶番を取り入れることが多いのです。
それに逆らって、Hさんのところでは昔ながらのキャッチをつけたいというのが希望でした。
「地震の時にも開きにくくなりますものね。」と奥様。おっしゃる通りです。

ステンレスバイブレーションとブラックチェリーのアイランドキッチンと背面収納
シンクの隣は前面ドアタイプの食洗機。
ASKOの食洗機
食洗機はASKOのオートオープン機能付きの60センチのものを導入。
オーダーキッチンの引き出し
食洗機右隣上方の引き出し。
オーダーキッチンの扉収納の内部
その下の扉を開けるとこのような感じ。

続いては、「キッチンの背面収納の天板をガラスにしたいのです。」ということ。
なるほど。
「ぜひ一度やってみたかったのです。」と奥様。
「ガラスのほうが汚れは掃除しやすいし、印象がとてもきれいだから憧れていたのです。」ということで、この面はガラスに決まりました。
ただ、ガラスだけだと怖いので、ガラスの下にチェリーの板を下地にして、ガラスの周りもチェリー材で縁取るという強度が得られて、さらに印象がすてきな形にしたのです。
ただ、これがなかなか難しくて・・。
搬入に関しては、古いマンションによくあるような広くて大きな階段室があったので、比較的長い材も階段から運び込める状況だったので、このガラスの天板も1枚で作りたかったのですが、この背面収納を設置する壁面に柱型が表れる関係で途中から奥行が変わる変形した背面収納になっています。
そこで天板もこの部分は1枚で作って、てっきりガラスの加工でこの変形する入隅部分は直角にカットできるものだとばかり思いこんでしまっていまして、ガラス屋さんに難しい注文を付けてしまっておりました。アールを小さく見せるために何度か加工してもらっても、切断面が欠けてしまって、上から見ると映り込んでしまったりときれいにならず、最終的にはこの部分で一度分けて制作することに。
いろいろな納まりがあるのだなあと勉強になったのでした。

ノーリツのプラスドゥ
ガスコンロはノーリツのプラスドゥ。
プラスドゥとコンビネーションオーブンレンジを組込んだオーダーキッチン
オーブンはノーリツの大容量の「NDR514」。(今は残念ながら生産終了になってしまいました。)

その他については、私たちの形を見慣れているHさんでしたので比較的作りやすい形で考えてくださいましたので、プランのほうもきれいにまとまりまして、あとは現場が進むのを待つばかりとなりました。
というタイミングで、制作に着手する前にひとつだけ懸念材料が出てきました。
リノベーションだと必ず出てくる配管位置の問題です。
今回のHさんのキッチンの位置は元の間取りのキッチンの位置から大きく変えてアイランドキッチンにしています。
そうなると問題が出てくるのが排水管の水勾配です。キッチンの排水口からマンションの外に向かって少しでも傾斜して下げないといつまでも排水できなくなってしまいますので、その距離が延びれば伸びるほど排水管の位置が高くなります。
今回は床下で勾配が取れるかどうか床を開けてみないと分からないということで、あらかじめ床上で排水管が横たわっても大丈夫なようにキッチンの収納内部で排水管を内包できるようにと考えていたのでした。

オーダーキッチンの引き出しの様子
ガス機器横の引き出し、上段。
オーダーキッチンの引き出しの様子
ガス機器横の引き出し、中段。
オーダーキッチンの引き出しの様子
ガス機器横の引き出し、下段。

そうして、いよいよ工事が始まりました。
まずはその排水の件やそのほか配管のことを確認するために初めて現地に伺わせて頂いたのでした。
ちょうど8月の暑い時期で最寄り駅で降車して午後の日差しの暑さで静まった細い道を幾度かくねくねと行きます。
私は暑いのが最近苦手になってきたのですが、この時期が昔から好きでして。

暑すぎて虫も鳥も鳴くのを止めてしまってどこかでじっとしていて、路地の塀の向こう側からは涼んでいる様子の子供たちの楽しそうな声が聞こえてきたり、風鈴やピアノの音がわずかに聞こえていたり。お盆が近いからかいろいろなところでお線香に香りが漂ってきて、みんなが生き生きしている感じが伝わってくるのに通りはとても静かな感じが。

オーダーアイランドキッチンのダイニング側の扉の様子
リビング側の扉の様子。奥行920ミリにしているので、A4サイズのものがきちんとしまえます。
オーダーアイランドキッチンのダイニング側の扉の内部の様子
リビング側の扉の様子。

そんなことを考えながら、細い路地のような通りを幾度か曲がったところに古めかしいえんじ色の集合住宅が見えてきました。建物のまわりには階上まで届きそうな大きな木もそこかしこに生えていて、居心地がよさそうな古い佇まい。
オートロックもないエントランスは広い大きなガラスの開き扉で夏の暑さで開放しておりましたが、中に入るとどこかひんやりと懐かしい団地のような空気。
ふと横を見ると広めの階段。 今回はキッチンの天板が920ミリ×2700ミリという大きさ。集合住宅だとキッチンまで運べるかどうかが大きな問題ですので、ここはどうにかクリアできそう。
そのまま階段を上がって、4階の突きあたりの部屋に。
「こんにちは、お邪魔します。」
と上がらせてもらいました。現場はまだスケルトンの状態。ようやく大工さん(も顔なじみのAさん)が下地を組み始めた頃で、AさんとHさんが迎えてくださいました。

ガラス引き戸のオーダー吊戸棚
吊戸棚の印象。扉は框組して制作し、ガラスを押さえる縁を正面にも見せるデザインにしています。吊戸棚を引き戸にする場合にもソフトクローズ機能をつけることは可能ですが、その場合は鴨居部分にレールを仕込む必要があります。吊戸棚って見上げるので、その金属のレールが目だって見えることがあるのです。そこでシンプルな戸車だけを使う引戸にすることが今のところは多いです。
ガラス引き戸のオーダー吊戸棚
引手は上から下まで溝を突き通すシンプルなタイプ。吊戸棚の場合はアクリルのほうが割れにくくで安全ですが、反りや歪みが出るので、映り込む像がうっすら揺らいで見えるのです。そこで今回はガラスにして、飛散防止フィルムを張った仕上げにします。

「イマイさん、こんにちは。遠くまでありがとうございます。」とみんなで汗をかきながら打ち合わせを始めます。
平成さんのすごいところは図面通りに部屋ができあがっていくこと。
当たり前に聞こえるかもしれないのですが、一般的に壁や床の寸法は図面の仕上がり寸法から数ミリは前後することが多かったりします。
後付けの家具なら多少壁や床の傾斜が出ていても部屋が完成してから採寸すればよいので問題は起きにくいのですが、新築や特に工期の短いリノベーションなどの場合は、図面の寸法で判断して家具作りを始めなければ間に合わなかったりします。
でも、実際の現場は、壁や床を作っていく過程で傾斜がついたりとその通りに仕上がらないことが多かったりします。
(右と左、上と下で10ミリも違うという現場もあったりしました。)
そうなると家具がピタッと納まらなくなるので、あらかじめ逃げを見ておいたり、現場で削れるように調整代を作っておいたりするのです。
そうなるとその分の加工の手間も増えるし、施工の手間も増えて複雑になって行きます。
それを、図面通りに仕上がる安心感を抱きながらも、念のためこの解体直後の段階でどのようにしていくかを相談させて頂きました。
また、今回は前述のように大きな天板になるのですが、玄関からキッチンまでの道がクランク状になっています。そうなると階段でここまで持ってこれても搬入ができないので、一部だけ壁を仕上げないで、キッチンの天板を通してから壁を仕上げる、という施工順序を確認させて頂いたり、水勾配の問題もおそらくキッチンの影響ないように排水管を施工できそうだということでひと安心。いろいろと明確にできたりときちんと打ち合わせができましたので、いよいよ制作に取り掛かります。

ガラス開き扉のオーダーカップボード
冷蔵庫の隣に来る背面収納の一番左のカップボード。
ガラス開き扉のオーダーカップボード
奥様念願のストウブを収納するスペース。「ずっと眺めていられます。」という奥様にご主人は微笑ましく見守ります。

今回の制作はワタナベ君。
大きなキッチンと背面収納ですが、特殊な形ではないので、順調に制作は進みます。
というところで、「シャチョウ、このゴミ箱専用の金物が取り付けられないのですが見て頂けますか・・。」と仕込みの途中でワタナベ君から声が掛かりました。
今回は、シンクの下にゴミ箱を置くのではなく、背面収納のほうにゴミ箱を置きたいということで、かつ、背面収納側だとリビングダイニングから丸見えになるので、そのゴミ箱は普段隠しておきたい、ということで、ハーフェレのゴミ箱専用の金物を使おうと思ったのですが、奥行サイズを私が10ミリほど見誤ってしまって・・。
かといってこの450ミリの奥行で収まるゴミ箱用の金物がほかには見当たらなくて、それでいつも通りに白いポリエステル化粧板で引き出しを作って、市販のゴミ箱を入れて頂く、という形で制作を進めさせてもらったのでした。
あとは、ガラスの天板の細工も無事にできあがって、いよいよ設置工事。

ブラックチェリーのオーダー背面収納
背面収納はほとんど引出しにしています。引き出しは手を掛けて開ける形です。
オーダーキッチン背面収納のガラス天板
ガラス天板の継ぎ目。

当日はあいにくの雨でしたが、日程を変更する余裕はないので、皆でレインウェアを着こんでの搬入となりました。 幸いそれほどの土砂降りではないかったので、家具に布団をかぶせて運ぶことで濡らさずに運び込むことができて、大きな天板は前日の時点で濡れても良いようにブルーシートや布団で養生しておいたのでこちらもうまくエントランスに運び入れられたのですが、どうにか運べるだろうという私の目算が甘かったようで、階段からの搬入は一応できたのですが、わずかに回転させるスペースが取れなくて、その都度エレベーターを呼んで、エレベーターの中に天板を差し込んでは切り返すの繰り返しで4階まで上げることができたのでした。 その後は、工房で仮り組みした通りに組み上げていく形でスムーズに設置は完了。

オーダーキッチンの引き出しの様子
カップボードの隣の背面収納の引き出しの様子。
オーダーキッチンの引き出しの様子
カップボードの隣の背面収納の引き出しの様子。
オーダーキッチンの引き出しの様子
カップボードの隣の背面収納の引き出しの様子。
オーダーキッチンの引き出しの様子
カップボードの隣の背面収納の引き出しの様子。
オーダーキッチンの引き出しの様子
中央部分の引き出しの様子。
オーダーキッチンの引き出しの様子
中央部分の引き出しの様子。
オーダーキッチンの引き出しの様子
中央部分の引き出しの様子。
オーダーキッチンの引き出しの様子
中央部分の引き出しの様子。

続いては塗装です。
今回はHさんご自身で壁を塗ったりするセルフビルドが数多くある中で、キッチンの塗装も自分たちで行なう、ということで、Hさんファミリーで行なって頂きました。
その様子はこちら。
「自由な手たち」>>「西から東へ」

そして、その塗装も完了して、無事に引き渡しと引っ越しが済んで、約半年後にあらためてお邪魔させて頂きました。
「どうぞ、どうぞ見ていってください。」と案内して頂いたキッチンの様子は半年ですでに大分色が濃くなっていてとても良い印象です。奥様も揃えているストウブの鍋たちがきちんと納まってとても快適に使ってくださっているそうで。
「イマイさんもいかがですか。このあとはお仕事ではなくご自宅まで戻られるようでしたら。」とおもむろに缶ビールを持ってきてくださって。その日はまだ仕事が残っておりましたので、残念ながらお付き合いできませんでしたが、また、以前同席させて頂いた時のように、楽しくお酒を頂ける機会があったらうれしいなあ。
こうして楽しんでキッチンを使ってくださって、楽しんで作ってくれる人とのお酒は楽しそうですから。
また機会があればぜひお伺いしますのでぜひ呼んでくださいね、その時を楽しみにしております。

オーダー背面収納のゴミ箱収納部の様子
ゴミ箱収納部。
オーダーキッチンの引き出しの様子
ゴミ箱収納部の下の引き出し。
オーダー背面収納の開き扉内部の様子
一番右端は引き出しの深さに納まらないものもあるかと思いましたので、中に可動棚を入れて高さを自由に変えられるような開き扉の収納にしています。
天板 ステンレスバイブレーション
扉・前板 ブラックチェリー板目突板
本体外側 ブラックチェリー板目突板
本体内側 ポリエステル化粧板
塗装 オイル塗装仕上げ
キッチン仕上げ

ブラックチェリーとステンレスバイブレーションのアイランドキッチンと背面収納

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