ルドルフ・シンドラーに憧れていた
「コーリアンとブラックウォールナットのセパレートキッチンとカップボード」
鎌倉 W様
design:平成建設さん/daisuke imai
planning:平成建設さん/daisuke imai
producer:kenta watanabe
painting:haraki tosou
以前に横浜のIさんのキッチンを作らせて頂いた時にお世話になった設計士のTさんからお声掛けを頂いたのです。
「お世話になっております。
平成建設のTです。
I様邸ではとても素敵なキッチンを作っていただき、ありがとうございました!
I様も大変お喜びで完成後に初めて見にいらした時、奥様はキッチンに触れるのをためらってしまうほどとても感動されていました。
お忙しい中、ご協力本当にありがとうございました。
お陰様で完成見学会も開くことが出来て、いろんなお客様にも見ていただけました。
そして、今お打合せを進めているW様にも見ていただき、是非オーダーキッチンを検討したいとご要望をいただきました。
セパレートタイプのキッチンとキャビネットと、そして食器棚です。
カウンターより下の高さの収納は、基本引出し、扉面材はひとまずオークをこげ茶に着色、カウンターは人工大理石、
コンロ横のキャビネットには、アイレベルでビルトインオーブンをご希望です。(ガスご希望ですがガスは難しいですか?)
今のお宅も8年前に新築されているのですが、キッチンが狭くて使いづらくてリフォームをされたいそうです。
ご夫婦ともにインテリアにお詳しく今のお宅もとても素敵でして、I様同様にキッチンへの想いが大きいお客様です。
是非お力をお貸しいただけたらと思います。」
というメールと一緒に写真が数枚添えて送られてきました。
さっそく拝見させて頂きますと、その内装の様子は、濃い茶色の板張りの壁と白い塗り壁の仕上がりで、和風な作りのようにも見えるのですが、どこか涼しげな山荘を思わせるような写真でした。
黒っぽい板張りの床に若草色のソファが置かれたその写真が少し古い海外のインテリア写真を思わせるような印象。
独立したキッチン室をもっと手前に持ってきて庭を眺めながら料理ができるようなキッチンに変えていく、というのが今回の計画のようです。
なるほど。
この写真とそのキッチンのプランのお話を聞いてあるキッチンを思い浮かべました。
以前にご縁がある工務店さんからお声掛け頂いて同じく鎌倉でリノベーションを行なわれたお仕事を手伝わせて頂いたことがありました。
そのお客様が都内のセレクトショップで家具の買い付けからリメイクまでされているとても興味深い方でして、その時のキッチン制作の中で、夜のファミリーレストランに工務店さんと3人で頭を突き付けながらいろいろなことを教わりました。
そのキッチンのご要望を頂いた時に
「ルドルフ・シンドラーの自邸のキッチンのような印象にできたらうれしいです。」
と言われて、私は全くその方を知らなかったものですから、「なるほど。」とだけお答えして、さっそくいろいろと勉強したのでした。
そこには、どこか日本の建築を思わせる構成の住宅があって、その中になるで大福?やお豆腐?のような質感の共同生活の場で使われるキッチンがあったのでした。
濃い色の木材で組まれたキャビネットに白い石(でしょうか。)の天板が載っているシンプルな形のキッチンが広々とした土間に据えられている様子がとても気持ちよく映っていたのです。
予算のこともあり、その丸みのある天板は実現できませんでしたが、全体的にシンプルな印象はイメージに近づいたキッチンを作らせて頂いたことを思い出したのでした。
この家にもそういう和洋折衷な印象のキッチンがあるのではないかなあ。
そう思って、何となく自分の好きな形をスケッチしてみてさっそくTさんに相談してみたのです。
その時の日記
「もっさりした質感」
「さっそくスケッチをお送りいただきまして、ありがとうございます!
ルドルフ・シンドラーの自邸のキッチン、素敵ですね。
私自身「すっきりと、線を細く少なく」に考えが行きがちでしたが、W様邸は最近作ってきている住宅とは少し違う雰囲気なので、あえてカウンターに厚みを持たせても素敵かもしれません。
とてもいいと思います。ご提案ありがとうございます!
スケッチも拝見させていただきました。
「シンク」も、ご提案通り人工大理石でお願いします。ワークトップについて渡部様にお聞きした時、「ステンレスはかっこいいけど、水の跡とか傷とかが気になる」とお話されていましたので。」
ということで、この原案を持ってTさんとWさんとでお話を進めて頂けることになりました。
さて、どのような形になるかなあ。
数日後の持ち帰ってきてくださった内容は、
「W様にご説明差し上げましたら、もう少しモダンな印象がお好みのようでした。スケッチの印象はとても気に入ってくださいましたので、あの形をベースに詳細について検討を重ねてゆけたらと思っております。」
ということで、もっさりした素材の印象がよく現れる形よりは、もう少しカチッとした感じで進めてゆくことになりました。
ただ、あまりスッキリしすぎてしまうとあの空間にはちょっと物足りないように思えるかもしれないので、石や木がきちんと感じられる形にしたいな、という思いはぶれずにお話を進めてゆくのでした。
設計士さんを交えてお話を進めさせて頂く時は、その設計士さんの空間があって初めてそのキッチンや家具が成り立っているので、いつもどのように進めたらよいか迷うところですが、Tさんの場合はタイミングよくお話を振ってくださるので、何となく自分の好きに進めさせてもらえました。
その後も、
「詳細については、もうイマイさんの形にお任せしますので直接内容をお伺いしてまとめて頂けるとありがたいです。
W様は好き嫌いがはっきりしているので、打合せではドキドキしますが(笑)、毎回素敵なものを選んでくださるので、私も完成が楽しみです。今のご自宅もとても素敵ですのでプランの参考までにいろいろと拝見させて頂けるとよいと思いますよ。」
ということで、Tさんにお任せいただいたので楽しみにしてお伺いしたのでした。
さて、前回1度Tさんと監督のMさんを交えてWさんとはお話しできていたのですが、その時はまだ細かい部分についてお話ができてないところもありました。
今日のお話でWさんがどのように暮らしているか、どのように暮らしていきたいかをお伺いできたらと思っておりました。
全体的なお話の中ではWさんの好みなども見えない部分もまだたくさんありましたので。
あらためてお伺いさせて頂いた日もとても良いお天気の日。
Mさんの家が建つ場所は鎌倉山の山裾の辺りのというのでしょうか、少し小高い場所に立つすてきな門構えの家で、庭を通ると今回もきれいに海が臨めました。
これはぜひとも外に向かってキッチンに立ちたいと思えるすてきな場所なのです。
「イマイさん、さあどうぞ。」
と、さっそくリビングにご案内いただいた後にさっそくキッチンをあらためて拝見させて頂きながら具体的なお話を聞いていきます。
今お使いのキッチンはシステムキッチンで、シンク下にはよく見られるような大きな引き出しがついています。
その隣には少し深すぎる印象の引き出しがあって、Wさんが工夫されて高さをうまく活かして使っていらっしゃいます。
その他にも調理道具をたくさんお持ちで、入りきらない大きなお盆やザルなどがそこかしこに置かれていて。
「少しずつ増えていくのよね。でも時々使うから手放すには惜しいと思ってしまうし。」
そしてお話の中で、お持ちの手に馴染んだ道具に限らずキッチン自体の使い方も今までの動線や収納方法に慣れ親しんでいるところがありますので、なるべく使い勝手は大きく変えないでゆけたら良いな、というWさんの気持ちもあらためて聞かせて頂くことができました。
その中で、変えないで使うほうが使いやすいだろうという部分と、変えることでストレスなく使っていける可能性が高い部分もあるということなどいろいろとお話をさせて頂きました。
Wさんもとてもご理解のある方で、私の拙い説明でも要領よく捉えていってくださいます。
そうして、形はまとまりました。
私自身、「この使い勝手をなるべく変えないで。」という部分が今までいろいろな考え方があるのだなあと感じてきました。
今まででよく聞いたことがあったのが、「シンクの下は扉の収納のほうが使いやすいのよね。」という意見です。
個人的には、そこにゴミ箱を置けるように開けておいたり、収納にするなら奥のものが取り出しやすい引き出しのほうが使いやすいのではないかと思うのですが、「オープンだとホコリが溜まりそうだし。」というお答えを頂いたり、(確かに我が家もホコリが溜まっていますね)「ほら、引出しって重いでしょう。」というお答えを頂いたりして、「だから今までのキッチン通りに扉で良いのよ。」と言われたことがありました。
最近のレールはとても良くできているので、開け閉めの不便は特に感じないのですが、「でも、やっぱり引出しに食器や調理道具をしまうこと自体がイメージしづらい部分がまだあるの。」ということも言われたりして、先入観があると別の使い方が見づらくなってしまうことがあったりします。
反対に私も教わることが多かったりして、これはこういう使う方をするとよいと思っていたけれど、あえて古い方法を用いることで別の良さが表れることも多々あり、今の私たちの家具作りに活かされていることの多くは皆さんから教わったことだったりもするのです。
何事もお話をすることで生まれる広がりですので、お伝えできる方法はなるべく細かくお伝えして、どのような形が自分にとって適しているのかを決めて頂く形が最善なのかなと思っていつもいろいろとお話をさせて頂くことにしているのです。
Wさんはなるべく使い勝手を変えたくない、という気持ちがありながらも使い心地が良くなるならぜひ変えていきたい、というお考えを示して下さったので、私としてはいろいろと物事を決めやすかったのでした。
こうして詳細の打ち合わせを経て形がすべて決まりまして、いよいよ工事の段取りも決まって、解体が始まりました。
そして、おおよそ採寸ができるタイミングであらためて現場に伺わせて頂きました。
平成さんの現場ですのであまり細かな心配はなく、監督のMさんともあらためて図面の内容をチェックさせて頂いて、現地の給排水やガスや電気の位置を確認して設置工事の納期も確認して、制作の開始です。
今回はワタナベ君が担当してくれます。
表面部分は無垢で仕上げていくので、まずは段取りから多くの時間が掛かります。
設置工事まで少し多めに時間をもらいましたが、それでも手早く進めていかないとあっと今に時間が経ってしまいます。
まずは一番時間の余裕を見ておきたい無垢材を製材する前の風に当てておく時間を先に確保します。
その他にも、今回初めて導入する機器があったり、納まりが複雑な部分があったりと制作しながら考えて形を決めていくところも多くあったので、余裕を見ながら進めていきます。
そうして、2ヵ月ちょっとの時間を頂いて完成。
ちょうど木工事がおおよそ目途がついてきたあたりでMさんから連絡を頂いて取付に伺います。
事前の現地確認で想定される問題はクリアできていたので、キッチン自体かなりの大きさがあったり、レンジフードと吊戸棚の納まりを揃える部分や、ビルトインタイプのガスオーブンを始めて組込んだりと、内容が盛りだくさんでしたが無事に設置工事は完了。
このあと、壁が塗られて、タイルが張られてと仕上げ工事が入っていき、無事工事がすべて完了しましてお引渡となりました。
が、実はこのあとに、食洗機の化粧パネルが反りかえってしまって強制したり、ガスオープンのシンプルすぎる使い勝手のため、放熱の方法が分かりづらくてメーカー担当者さんに説明に来て頂いたりと、細かな点で後からお時間を頂くことになってしまいましたが、おかげさまで無事にすべてが完了いたしました。
そのあとにあらためてご挨拶に伺わせて頂き、使い心地などをお聞かせ頂き、とても心地よく使ってくださっている様子を拝見できてほっとひと安心。
そして、最初に思い描いていたようなそれぞれの素材の温かみがよく分かるキッチンになっており、とてもうれしくなったのでした。
Wさん、ほんとうにありがとうございました。
天板 | コーリアン「セージブラッシュ」 |
---|---|
キッチン側扉・前板 | ブラックウォールナット板目無垢材 |
側面・リビング側扉 | ブラックウォールナット板目無垢材 |
本体外側 | ブラックウォールナット板目突板 |
本体内側 | ポリエステル化粧板 |
塗装 | ウレタンクリア塗装仕上げ |
コーリアンとブラックウォールナットのセパレートキッチンとカップボード
費用につきましては、お問い合わせくださいませ。
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