培う

「ステンレスヘアラインとクリのペニンシュラキッチンと背面収納」

つくば T様

design:Tさん
planning:Tさん/daisuke imai
producer:kenta watanabe
painting:kenta watanabe

クリとステンレスヘアラインのペニンシュラキッチンとクリの背面食器収納
リビングから見たキッチンの様子。回遊できる動線になっているため、キッチン制作前には「よく似た間取りですね。」ということで、私の自宅までその使い勝手を見に来て下さいました。
クリとステンレスヘアラインのペニンシュラキッチンとクリの背面食器収納
特長的な屋根の形状。平屋ならではのダイナミックな形状をしていて、頭頂部の格子部分から循環された空気が出て入ってという構造になっているのだそうです。なので空調機器は最小限でも心地良い温度の室内になっていました。
クリとステンレスヘアラインのペニンシュラキッチンとクリの背面食器収納
キッチンから庭を見た様子。庭というよりもすべて畑になっていて、一人で作業するにはけっこう大変な広さで、玄関側にもこの半分くらいの広さの庭があるというとても魅力的な場所。

つくばに住まわれるTさんのご新居にキッチンを作らせて頂きました。
ふだんは都内の設計事務所に勤務されているTさんですが、自宅は自分で考えた家にしたいということで、ご実家に近いつくばに家を建てられることにしたのだそうです。
つくばと聞くとここからちょっと距離がありますので、最初はお請けできるかどうかためらったのでした。

オーダー家具やオーダーキッチンというのは、いつもきまった形のものを作り続けているわけではないので、その都度違った素材の扱い方や納め方を考えながら作っていくものです。ですので、使い始めてみると予想していないことが起きたり、また使い続けていくと消耗していく部材も出てくるので、「長くずっと使えるものを作っている」と言っていても、長くずっと使えるような状態を保てる環境が大事だと思っております。
そう考えると、つくばの町までは気軽に出かけられる距離ではないので、そう安易にお引き受けするのは怖い気持ちもあります。
そう言いながらも、以前には、水戸や静岡や伊豆や軽井沢など、ここからそれなりに遠いところにも納品させてもらっておりますので、よく考えたら遠距離でも作っているじゃないか、なんて何だか気持ちが揺らいじゃっているなあと思うところもありますが、今のところ幸いにも皆様からその後不具合のご連絡を頂いていないので、そう考えると大丈夫なのかなあ、という思いもあったりして、いまだにそのあたりは悩みながら、状況を見ながらお話をお請けしているところです。
(どちらかというと納品直後のほうが板が動いたり、お手入れの方法をあらためてお知らせしたりすることが多く、時間が経つと皆さん使い慣れてくださるのでしょうかね。)

洗剤ポケット付きのオーダーシンク。
天板やシンクはステンレスのヘアラインで仕上げていて、シンクには洗剤ポケットを設けています。
クリとステンレスヘアラインのペニンシュラキッチン。
今回は食洗機を入れないプランです。このあたりのレイアウトも私の自宅のキッチンと近い印象でしたので、いろいろと見て参考にしてくださいました。引き出しのハンドルはシロクマのシンプルなステンレス丸棒ハンドル。

今回は、Tさんが設計士さんということもあり、そのあたりの対応はご自身で手配して頂けるということもあって、お話を請けさせて頂くことにしました。
なんて言うと偉そうですが、わざわざ遠方になるのにお声掛けくださることにとても感謝しております。

さて、設計士さんだとなかなか難しい形を考えてこられるのかと最初はドキドキしておりましたが、物静かなTさんが持ってきてくださったプランはどちらかというとシンプルな形のキッチンでした。
「いやあ、今の住まいと打って変わってまわりに何もないところでして、そういう自然に囲まれた場所できちんと暮らせるような家にしたいと思っておりまして。」
そういう言葉を頂いていて、平屋を建てるということでどのような印象の家になるのか楽しみだったのです。
打ち合わせの最中には、私の自宅も見に来て頂いて、実際にキッチンを使っている様子を見てもらって、メリットデメリットを直にご説明させて頂いたりしましたね。

クリとステンレスヘアラインのペニンシュラキッチンの引き出し。
引出しの様子。今回はソフトクローズレールではなく、引き出しの両側面につける一般的なベアリングレールを採用。こちらは動きは軽く全開するので、使い勝手がよく、ソフトクローズレールよりもコストを抑えることができるのですが、レールのストッパーが少し頼りなくて、10年くらい使い続けていると、きちんと閉めるための樹脂ストッパーが劣化して、自然と開いてしまうことがあるのです。その樹脂ストッパーを取り寄せできればよいのですが、耐用年数によっては廃番になってしまうこともあるので、その場合はレールを交換する必要が出てきたりします。そのあたりを踏まえて皆さんにレールを選んでもらうようにしております。
クリとステンレスヘアラインのペニンシュラキッチンのワイヤーシェルフ。
IHヒーターの下はスライドワイヤーシェルフ。

そうして、最初の打ち合わせから1年くらいが経つ頃にいよいよ工事が始まりました。
そして、そろそろキッチンの制作に取り掛かる時期かというタイミングで一度現地を確認しに伺わせて頂きました。
どんな建物なのかな。
外から見ると大きな屋根が特長の家が遠くからでもよく分かりました。
そして、室内に入らせてもらうと、おや、まだ根太が見えたままで床も張られていないのでした。壁も柱が表れていて今しばらくはボードが張られる様子もなさそうです。
「Tさん・・。」
「いやあイマイさん、実はコロナのこともあって、物流が滞りがちなことと大工さんと納まりの相談を細かくやっているとなかなか進んでおりませんで、まだこの状態なのです。でも、墨出しはできますので、制作寸法はこの状態でも決められますから大丈夫です。」
ということで、その場で納まりを確認して制作寸法を決めていき、ひとまず制作に取り掛かれるように段取ることができました。

クリとステンレスヘアラインのペニンシュラキッチンとクリの背面食器収納
リビング側の印象。200ミリの高さでオープンスペースを確保し、その下は扉で隠す収納、という形にしています。
クリとステンレスヘアラインのペニンシュラキッチンのサイドパネルのデザイン。
今回のちょっとしたポイント。側板を薄く見せたいというTさんのリクエストがあって、そこをどのように見せたらよい印象になるかと考えた時に、「顔をあわせてお話ししましょう」の埼玉のUさんのデザインが目に留まって採用することになりました。天板を浮かせた印象にしているので、この丸みがより引き立つ形になりました。
リビング側の扉収納の内部の様子。内部はシナ合板で仕上げています。
リビング側の内部は木の質感でまとめたいということで、シナ合板で作っています。Tさんが内部まで塗装してくださったので、色みが落ち着いた印象になっています。ただ、内部を塗装するとオイルの匂いが籠ってしまうので、使用するオイルによってはなかなか匂いが抜けにくかったりするので、通常は無塗装で作ることが多いです。塗装される場合は、このように扉をなるべく長時間空けておくようにすると、2週間ほどで匂いは放散されると思います。

現場からの帰り際に、「何もないところでしょう。実際隣家も結構離れていますので。でもこの前の土地を使って畑をやろうと思っていまして。」と、Tさん。
思いがけない言葉が聞けて興味深くなりました。
設計士さんとしてなら都心から離れた場所でも仕事ができるでしょうから、てっきりこの場所で設計に専念されるものだと思っておりましたので。
「義父がすぐそばで畑をやっていることもあって、この場所で自分も自分の食べるものを作っていきたいと思うのです。それに、この家もこの土地の気候を生かして、心地よい風が通るような家にしたいのですよね。」とすてきな将来のお話を聞かせて頂いたのでした。
私のこの時期のちょうど1年ほど前に自宅を建てたばかりで、自分たちですてきに暮らしていくことの憧れや模索することがあって、こうしていろいろなお話を聞く機会がとてもうれしい時間だったのです。
「Tさん、今日はありがとうございました。それではさっそく制作に取り掛からせて頂きますね。」とご挨拶をしてその日はうれしく帰ってきました。

背面食器棚の様子。
背面収納の印象。セパレートタイプの食器棚と背の高いパントリーのような収納、という組み合わせ。ちなみに冷蔵庫と食器棚を仕切る厚みのあるパネルは工務店さんがシナ合板で建ててくださっています。パネルの見付部分だけクリ材が練りつけられていました。

そうして、2ヶ月弱ほどの時間を掛けて、ワタナベ君がペニンシュラキッチンと大きな背面収納は完成させました。
それではそろそろ取付のタイミングではなかろうかとTさんに打診してみますと、「いやあイマイさん、実は・・。」とお返事。
とても丁寧に作っていることもあって、まだボードが張られていない状態なのだそうでして。
なるほど・・。
ちょうど繁忙期に掛かりそうなタイミングでしたので、今しばらくは保管できそうでしたがそのあとは難しそうだなあ‥、と思っていたところ、Tさんのご実家に仮置きさせて頂けるということで、ひとまずそちらに納品させて頂いて、然るべき時が来たら工事に入らせて頂くことになったのでした。

背面食器棚の吊戸棚内部の様子。
吊戸棚の扉内の様子。
吊戸棚の下にはオープン棚。
その下にオープン棚。

そうして、実際に設置工事に入ったのは、現地を確認してから約半年後でした。
制作を担当したワタナベ君とサポートでノガミ君とヒロセ君の3人で泊りがけで設置工事を行なって無事に完了。
なかなか長いお仕事でした。

それからさらに数か月かけて、Tさんの新居はようやく完成。
その数か月後にお邪魔させて頂きました。

食器棚の炊飯器用スライドテーブル。
炊飯器だけは表から見えづらいようにということで、スライドテーブルを設けました。テーブルのトップは水分がついても大丈夫なようにステンレスを張っています。
食器棚の引き出し。
食器棚の引き出しの様子。

「周りに民家が無いものですから、夜になると真っ暗になっちゃうんですよ。でもこの外との空間がひとつながりになった様子はとても心地よくて。」とお話しするTさんは、実はこのタイミングで独立することになったそうで、ここで設計と畑仕事の二足の草鞋です、何ておっしゃっていました。
今回あらためて完成した室内をいろいろと拝見させて頂くと、屋根と地面に広く通気口があって、壁内に配されたファンで壁内も空気を循環させることができるようになっていたり、工夫された間取りを案内して頂いたり、私が知らなかった金物などを教えて頂いたりといろいろな形があるのだなあと大変勉強になる時間だったのです。
今回のこのクリ材を使ったキッチンと背面収納は塗装をTさんと奥様のお二人で仕上げるということでして、多少のザラツキはあってもきちんと塗り上がっていて、すでにクリの濃さが出てきていて良い印象になっています。
ただ、今回はワトコオイルを使ったので、扉内を塗った時の匂いがなかなか取れなくてその点はちょっと気がかりでしたが、使い続けていくうちに風で馴染んでくると思いますので、通気良くお使い頂けるようにお知らせさせて頂きました。
Tさんがそのように家のことをひとつずつ話してくれる様子はやはり親の心境でしょうか。とても感慨深く、また楽しそうに説明してくださいます。
ダイナミックな天井の造作や細かい枠の納まりはこの場所に来て初めて分かる心地良さで、窓を開け放つと見える畑もすでにご両親と一緒に開墾されていて、元気の良い作物が実っている様子がここからでも目に入ります。
設計と農作業とでは大変ではないのかな、と思うのですが、Tさんの目を見ているとキラキラしていて大変なことも心地よいこともすべてを楽しんでいる様子が伝わってくるのでした。

パントリー代わりのトールタイプの戸棚。
パントリー部分は内部はシンプルに可動棚があるだけの形にしています。

それから、帰り際にその当時我が家でもいろいろと考えていた外構のことでTさんがすてきなお話をしてくださいました。
家の前の広い土地は畑になるのですが、その手前の玄関のそばには木を何本か植えるのだそうです。
その木々は、枝葉が高いところに付くような少し背の高い木々なのだそうです。
「ここの辺りを雑木林にしたいのです。」
「えっ、そうなのですか。」
実は私たちもちょうどこの時期に外構の相談に伺っていた厚木にある景色工房サフランさんから、そのような話を聞いていたのでした。
日本のこの地域の風土のあった枝葉の低くない木々を植えることできちんと風が通るようになるというお話を聞いていただのです。
まさか、この離れた土地で、このタイミングで同じお話が聞けるとは思わず、うれしくなったのでした。
次はTさんの野菜が獲れた頃に挨拶にこようかしら。
お邪魔しました。
とても心地よい時間でした。

天板 ステンレスヘアライン
キッチン側扉・前板 クリ板目突板
側面・リビング側扉 クリ板目突板
本体外側 クリ板目突板
本体内側 ポリエステル化粧板
塗装 オイル塗装仕上げ
キッチン仕上げ

ステンレスヘアラインとクリのペニンシュラキッチン

価格:1,290,000円(制作費のみ、塗装費と設備機器費用は別)

クリの背面収納

価格:980,000円(制作費のみ、塗装費は別)  
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は120,000円から、取付施工費は200,000円から)

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