無骨というよりは小鳥のようなキッチン

「ステンレスバイブレーションとクルミのペニンシュラキッチンとバックカウンター」

大田区 H様

design:Hさん
planning:Hさん/daisuke imai
producer:masakane murakami
painting:kenta watanabe

クルミの引き戸のある飾り棚
Hさんがおっしゃっていたハードな印象というよりはほっこりする感じになったように思えるのです。飾られたお人形たちの表情かな。引き戸の印象もそうですね。でもよく考えると、Hさんご夫婦も柔和な表情のお二人ですから。何というか、このお住まいが暖かそうな鳥の巣のように思えたのですね。
ステンレスバイブレーションとクルミのペニンシュラキッチンとバックカウンター
キッチンとバックカウンターのレイアウト。もともとキッチンがあった場所から大きく変わっているので、ちょっと変わったレイアウト。そしてどこか懐かしい印象。台所という言葉が浮かびます。床はコルクで仕上げております。このコルクがとても足触りが良いのでした。

リノベーションにしてはなかなか長期間のやり取りをさせて頂いたHさん。
当初はまだご新居の間取りも決まっていない段階での打ち合わせでした。
「オーダーキッチンを考える時に、どのくらいのタイミングで相談にお伺いしたらよろしいですか。」と聞かれることがあります。
私個人的には、間取りが決まってからでよいのではないかと思っているのですが、キッチンをオーダーで考えたいという皆さんにとっては、キッチンがある場所を中心に間取りを考えていく方も多かったりします。
そうなると、間取りを決めるよりもキッチンでどのような形にすることができるか、どのような使い方ができるのかを先に知っておきたいという気持ちが大きくなりますので、「こんな漠然とした状態でお話を聞きに来てしまいましたがよかったですか。」なんて言われることも多かったり。
それで良いのです。
いろいろなことを知ることができる機会が多いというのは良いことです。選択肢が増えれば、何か大切で何か重要ではないかの判断がしやすくなりますものね。

Hさんもそのような形でお話が始まりました。

ステンレスバイブレーションとクルミのペニンシュラキッチン
こちらがキッチンの全体像。ステンレスカウンターからそのままバックガードに立ち上がって、リビングの戸棚の天板までステンレスになるという作り。しかもリビング側の天板はステンレス板1.2ミリの厚みそのままで見せたいというHさんのご要望。最初はステンレス部分はすべて一体で作ろうと思っていましたが、板金のタカハシさんに相談したら、「材をつながないと実現できないので、そうなるとかえって溶接痕が出ちゃうかもしれないよ。」と言われて、リビング側の天板だけは別パーツで作っています。
洗剤ポケット付きのステンレスシンク
シンクの印象。シンクのサイズは、食洗機をメインに使って洗い物をするので、ということでちょっと小さめの610ミリ×450ミリ。水栓器具はクリンスイの「F914」。
洗剤ポケットにはバーをつけています。
洗剤ポケットは最近私たちの標準サイズとなりつつある230ミリ×100ミリ。なぜこの寸法にしたのかを知りたい方は気軽にご連絡くださいね。そして、今回は6Φのバーをつけています。ぶら下げたり、立て掛けたりするためですね。
上手工作所さんのタオル掛けとステンレスパイプ棚
シンクの前には上手工作所さんの真鍮のタオル掛けをつけています。シンクの下には通気良く物が置けるように、ということで13Φのステンレスパイプを30ミリ間隔で8本並べています。

「イマイ様
Webを拝見しています。
とても丁寧な説明と、クライアントの意向も組まれた素敵な作品だったので、問い合わせさせていただきました。
家の全体的なイメージですが、中古の軽量鉄骨の2階建てです。
2階はキッチンダイニングとなる場所の天井は全部はがして、軽量鉄骨の骨組みを黒のままみせるつもりです。
なので、雰囲気としては、優しい感じというより、ちょっと男前、骨太。
言葉通りの工場のようなインダストリアルなハードな感じにするつもりはないのですが、北欧とインダストリアルのミックスという感じでしょうか。
あくまで、雰囲気ですが(笑)
壁はバックキャビネットの壁以外は白系で、床は木ですが、まだ色味とかは全然決めてないです。
先日の要望は、各部の引きだしの高さ、幅のバランスなどは全然考慮していないので、良きアドバイスお願いします。
また、こんな風にしたいなと参考イメージも載せましたが、実際イマイさんのお客さんで実はそれは使い勝手がわるかったとか、そういう後日談もあるなら、教えてください。
また、コストダウンをはかるなら、こういう選択肢もありますよというのもあれば助かります。
ということで、お返事楽しみに待っています。」

クルミの突板を使ったキッチン前板
食洗機はBOSCHの45センチのもの。この頃はコロナ禍ということで海外のキッチン家電や建材がが軒並み品薄になっていた時期でもあってゼオライト搭載のものが手に入らずもっともスタンダードな「SPI46MS006」だけがどうにか手に入るという状況だったのです。
ガスコンロの高さをシンクの高さよりも低くしています。
ガスコンロはプラスドゥを希望されていたのですが、これは五徳が結構高いのですね。奥様がそれほど背が高くないということもありまして、お鍋を使う時に高すぎて疲れてしまうということで、シンクあたりのカウンターの高さは880ミリ、コンロあたりのカウンターの高さは800ミリにしています。
段差を利用したコンセント
その段さを利用して設置したコンセントはJIMBOのNKシリーズ「KAG2501」。最近はグレーをよく使うのです。

というメールを頂いたところでまずはこちらまで見にいらして下さいました。
そこで、私たちのキッチンがどのようなものかをいろいろと見ていってくださいました。
いろいろと言っても、何か特別目新しいわけでもなく、暮らしが楽になるような機能に溢れた形というわけではないのですが、私たちが何を考えて、どのような素材を使って、どのようなことを心がけて作っているのかを見ていってくださいました。
私たちが作るキッチンの特長は何かと聞かれると、自分でも言葉を探してしまうほど特長あふれる形ではなく、反対にほかのオーダーキッチンメーカーさんとどう違うのだろうって、自問自答してしまうくらいよく見る形に思える時もあったりします。
でも、よく見てみるとやっぱりそれは私たちにしかできない形で、一見するだけでは分からない、作る人と使う人の気持ちが重なった結果がその形に現れていて、そういう空気というのでしょうか、思いというのでしょうか、そういうものをここに来て感じてもらいながら、皆さんが思い描く暮らしの予感も感じてもらえたらうれしいなと思うのです。
そうすると、おのずとこういうキッチンが良いなというイメージが膨らんでくるのではないかと思えるのです。

ハーフェレのクッキングエージェント
コンセントの下はハーフェレのクッキングエージェント。Hさんのご要望でこの金物を採用しましたが、「これはちょっと使い方が限られてしまうので使う人を選ぶかもしれませんね。」という貴重なご意見を頂きました。
スライドワイヤーシェルフ
コンロの下はスライドワイヤーシェルフ。
スライドワイヤーシェルフ
この部分のカウンターの高さが800ミリと低めということで、今回はワイヤーシェルフを2枚入れています。
調味料用の引き出しとフレームバスケット
調味料用の引き出し。上段は白いポリエステル化粧板のコンパクトな引出しで、下はハーフェレのフレームバスケットという高さ調整ができる金物を採用。

Hさんにはそういう思いが形になった姿を見て頂けたおかげで、キッチンの形は順調にまとまっていったのでした。
形はまとまったのですが、リノベーション工事のほうがなかなか大変なようでして、戸建て住宅の構造を残して内装のほぼ全体を作り替えるという内容だったのですが、着工までがかなり時間を要したこともあって、かつHさんのお引越しの日程も決められていることから解体後から3ヶ月半で仕上げていくというタイトなスケジュールになったのだそうです。

クルミのバックカウンター
こちらがバックカウンター。
クルミのバックカウンターの引き出し
バックカウンターの引き出し左列1段目。
クルミのバックカウンターの引き出し
バックカウンターの引き出し左列2段目。
クルミのバックカウンターの引き出し
バックカウンターの引き出し左列3段目。
クルミのバックカウンターの引き出し
バックカウンターの引き出し左列4段目。

私が初めて現地にお伺いしたのは、めずらしく年初から雪が降った1月6日の静かな朝でした。
年末までに解体が終わっていよいよ内部の木工事が始まる直前で、設計士さんとHさんご夫婦と私とで打ち合わせを行ないまして、制作寸法や納め方を確認していきます。
作りについては問題なさそうでしたが、何しろ戸建て住宅の2階に大きなステンレスカウンターのあるキッチンプランでしたので、搬入ばかりが気がかりでした。
階段は、一般的な回り込んで挙がっていく階段でしたので、カウンターはバルコニーから揚げるしかないのですが、今回のステンレスカウンターが大きなバックガードがあったり、天板が段差があったりで、表面積が大きいのでステンレスを使う量が多かったのですね。そうなると重いわけで、普通の戸建て2階のバルコニーにある手すりを乗り越えながらの搬入がスムーズにいくのかどうか・・。心配だったわけです。

クルミのバックカウンターの引き出し
バックカウンターの引き出し右列1段目。
クルミのバックカウンターの引き出し
バックカウンターの引き出し右列2段目。
クルミのバックカウンターの引き出し
バックカウンターの引き出し右列3段目。
クルミのバックカウンターの引き出し
バックカウンターの引き出し右列4段目。

ひとまず現地確認が済みましたので、約1か月半後に設置工事に入れるように制作に取り掛かります。
今回はリビング側は引き戸の戸棚になっていて、下の引き戸はクルミの無垢材を使って制作することもあり、それなりに時間が掛かりそうで、食器棚となるバックカウンターも一緒に制作するため、2月末に間に合うかどうかギリギリなところでした。

それでもどうにかその予定に間に合って、ステンレスカウンターともうまく組み合わせることができたところで、予定を確認したら、現場のほうがまだまだ難航しているとのことで、取付は3週間ほど予定がずれた3月後半に行なったのでした。

ブログより【3月22日 ステンレス対面カウンターのあるクルミのキッチン】
https://www.freehandimai.com/?p=52530

古い木造住宅ということで壁の立ちがあまり良くなかったところもあって、設置に手こずったところはありましたが、ひとまず完了。
次回は、Hさんお二人がキッチンの塗装を行なうタイミングに再びここにやってくる予定です。

クルミのバックカウンター
バックカウンターのトップもステンレス。トップ部分だけで小口はクルミで見せる仕上げにしていて、リビング側から見た時にリビング天板もこの印象に揃えたいということで、なかなかシビアなキッチンのステンレスカウンターになったのでした。
クルミのバックカウンターと無印のステンレスバスケット
一番右は無印のバスケットを使いやすいように収納しています。こういう使い方は初めて見ましたので、とても勉強になりました。ちなみにこのあたりが白っぽく見えるのは、内部はまだ無塗装の状態でして。「落ち着いたらそのうちに塗装しようと思って。」と照れ笑いのHさん。
クルミのバックカウンターと無印のステンレスバスケット
引き出しの中も無印のバスケット。ですので、バスケットのサイズに合わせて引き出しを設計しているのです。

そうして、いよいよ塗装。

ブログより【4月3日 キッチンの塗装をするHさんご夫婦】
https://www.freehandimai.com/?p=52590

すっかり現場はきれいに片付いているかなって思っていたのですが、資材の納品遅延などもあって現場は結構遅れているようで、塗装もこの状況でしちゃってよいのかな、というくらいまだそこら中に道具や資材が置かれて、なかなか足の踏み場が見つかりにくい状況でした。
とりあえず一部屋確保できたので、そこに外した引き出しや扉を持ち込んで奥様がそれを塗って、ご主人は本体のほうを手際よく進めていきます。
事前に建具や棚板のオイル塗装を実践されていたようで、またご主人が物作りに携わるお仕事をされていることもあってけっこう順調。
レクチャーは問題なく終わりましたので、あとは頑張ってくださいね。

クルミの引き戸のある飾り棚
リビング側の戸棚の様子。
クルミの引き戸のある飾り棚
クルミの引き戸は表面に無垢材を張って内部は合板を使って反りを抑えた作りにしています。奥行きが浅いだろうからそれほど重くならないで作れるだろうと思って、このサイズを1本で作ったら、ステンレスカウンターと同じくらい荷揚げが大変だったのでした。

そして、無事の塗装が完了したのちに実際に使っている様子を拝見させて頂きにお邪魔しました。
最初のご相談から1年と3ヶ月が経っていたのでした。

ブログより【5月21日 飾り棚のあるクルミとステンレスバイブレーションのキッチン】
ttps://www.freehandimai.com/?p=52928

そしてそのあとにとてもうれしいお礼のメールを頂いたのでした。

ガラス引き戸の手掛け
思いがけずガラスの引手がとてもよく似合っています。実はこの引手はいつも指定しないのでもっとシンプルな舟底に削られてくるだろうと思っていたのですが、こういうアールの砥石で削ってくれるなんてうれしかったのでした。

「イマイ様、いつもながら、迅速な対応ありがとうございます!!
作っていただいたキッチンやバックキャビネットの仕上がりはもちろんですが、いつも主人と話すのが、イマイさんの迅速、丁寧で、しっかり対応する姿勢が本当に素晴らしいということ。
今回家のフルリノベで様々な業者さんとやり取りをし、工事に入っていただきましたが、お願いしたものをきちんと期日に作り上げ納品する事や予算が合わない場合の代替案の提示などをやっていただけたのはイマイさんだけでした。
業界は全く違いますが、私も主人も、クライアントの依頼にこたえ、形のないものをイチからつくる、サービスを提供するということをやっているので、正直個人宅の家づくり業界のずさんさには本当にびっくりでした。
お客様が神様ではないですが、お金を払う側がひたすら気を遣う、個々の業者の足りないところを補うなんて、もうびっくりです。
私たちが少しおかしいのかな?と途中何度も思いましたが、イマイさんのように当たり前のことをきちんとやってらっしゃるかたもいる。
このリノベ期間、イマイさんの仕事の進め方が私たちの心の救いでした。
どなたかのキッチンづくりの参考になるのであれば、お客さんを連れて実物見に来ていただいても全然大丈夫ですよ。社交辞令ではなく。またひと段落して、住みながら、ここにこれが欲しいなと思うときにはイマイさんに連絡します。
それではまた、お手入れの相談とかで連絡することがあるかと思いますので、引き続き宜しくお願いします。」

クルミの引き戸の手掛け
クルミの引き戸の引手は上から下まで突き通すタイプです。指が入りやすいように幅12ミリで溝をついています。よい印象に仕上がりました。

「Hさま、うれしい言葉をありがとうございます。
自分の心掛けとして、「早くお返事しないと忘れちゃうから。」ということと「あとで忘れそうになった時に見返しても分かるように全部書いておかないと」というなんだか後ろ向きなお答えになってしまうのですが、
その気持ちがHさんをはじめ、皆さんにとっての丁寧さにつながっているのかと思うとうれしい限りです。(笑)
それでも、自分にはまだまだ足りない部分がありますから、皆様からいろいろな意見や提案を頂いて日々どうにか頑張っております。
物作りを仕事とする上での大切なことは、その形を作ることができる、というのはもちろんですが、ほしいと望んでいる人と気持ちがうまくあうようにすることが一番大切なことだと思っています。
さいわい、ウェブサイトを見て声をかけてくださる皆さんは事前にある程度私たちの気持ちを知ってくださっている方々ばかりですので、どこかしら感覚が近い皆さんですので、気持ちを近づけることがそれほど大変なことではなかったりします。
でも、その人の中心にあるものを見つけるのはなかなか難しかったりして、美しさだったり、使いやすさだったり、その人が持つ好きなところに辿り着くのは楽しくもあり、大変でもありますが、そういうことも含めて物作りは素晴らしいなと思っております。
今回はすてきなご縁を頂きまして、ありがとうございました。
また、何かありましたらいつでも気軽にお声掛け頂ければうれしく思います。
それでは、今後ともよろしくお願い致します。」

クルミの引き戸のある飾り棚
引き戸の棚板の納まり。いつもこのくらいの奥行間で仕上げています。引き戸の場合は戸が2枚重なりますので、その分奥行が狭くなるのです。それでも、開け閉めのしやすさを考えるとダイニングや食器棚の吊戸棚で取り入れるお客様は多いのです。
クルミの引き戸のある飾り棚
引き戸の敷居はシンプルにクルミ無垢材に溝をついているだけの作りです。
天板 ステンレスバイブレーション
引き戸 クルミ板目無垢材
前板 クルミ板目無垢材
本体外側 クルミ板目突板
本体内側 ポリエステル化粧板
塗装 オイル塗装仕上げ
キッチン仕上げ

ステンレスバイブレーションとクルミのペニンシュラキッチン

価格:1,390,000円(制作費のみ、塗装費と設備機器費用は別)

 

ステンレスバイブレーショントップとクルミのバックカウンター

価格:465,000円(制作費のみ、塗装費と設備機器費用は別)

 
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は50,000円から、取付施工費は140,000円から)

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