はっちゃんの家
「ネコが遊べるタモ板目の壁面収納」
茅ヶ崎 S様
design:猫と建築社さん
planning:猫と建築社さん/daisuke imai
producer:iku nogami
painting:iku nogami
猫と建築社さんという珍しお名前の設計事務所さんからメールを頂いたのでした。
「はじめまして。鎌倉で「猫と建築社」という設計事務所を主宰しております中村と申します。
この度、茅ヶ崎市のマンションリフォームで猫と人のためのリビング壁面収納を計画しております。
現場に近いところで良さそうな家具屋さんを探していたところ、御社のホームページを拝見し、是非お願いしたいと思いご連絡させて頂きました。
作り手の想いが伝わるホームページ、作られてきた家具の雰囲気、予算の目安などに加え、看板猫ちゃんがいらっしゃること、代表がICSご出身であることなど(主人がICS出身者なのです 笑)、私共の設計する住宅にとてもマッチする気がしまして、是非一度お会いしてお話をさせて頂きたいなと思っております。
今回の茅ケ崎のリフォームはすでに設計契約を頂いている案件で、大枠の内容も固まってきているので、出来れば今後お施主様も交えて詳細のお打合せをさせて頂ければと思っております。工期は特に急いでいるという訳ではありません。
現段階での図面を添付致しますのでご覧頂き、一度直接お打合せをさせて頂ければと思います。
よろしくお願い申し上げます。」
楽しそうなお話です。
私たちの工房には、なぜいつも猫が居ります。
今のここに工房を移す前はここから車で3分ほどの倉庫を借りて仕事をしていたのですが、そこにいたころからですね、猫が出入りするようになったのは。多い時では一度に13匹くらいの猫が出入りしていて、なんだかのんびりしていたような気がします。
今はどんどん増えちゃうからということでノラ猫がノラ猫で居られる場所が少なくなってしまって、この工房になってからもどこからかお母さん猫が寄ってきては子供たちを育てていた時期もありましたが、ご飯をあげづらくなってしまって、今はアイだけが出入りをしているのです。
それでもアイがどこかでウーウーとケンカする声が聞こえるので、この町でもどこかしらにノラさんたちが居て元気にやっているでしょうね。
今回のクライアントのSさんのところにはSさんご家族に溺愛されているハチちゃんがいます。そのハチちゃんと一緒に過ごせる家具を作りたい、というお話でした。
なるほど、いろいろな考え方があるのですね。私なんて、猫は勝手に自分で楽しみを見つけて暮らしているからお互い歩み寄らないくらいが良いのではないかと思っているくらいでしたので。
アイとの関係もそんな感じで家族というよりは、同じ立ち位置で一緒に暮らしている感じで、彼自身帰ってこない時はそのまま放っておいて、寝たい時はここでずっと寝ているし、ルームシェアしている友人のような感じです(笑)
そのくらいさっぱりした感じでネコと一緒に暮らしてきた私ですが、それでも今まで、猫がご縁で家具を作らせて頂くことは何度かありました。
「猫との暮らしはこれから」目黒K様
「ネコ階段」大船N様
「キャットタワー型の壁面収納」藤沢Y様その1
「キャットタワー型の壁面収納」藤沢Y様その2
「ネコ階段」藤沢H様
「hop step」相模原H様
「ネコ寄り」海老名O様
どうやって遊んでくれるかはネコ次第なのですが、中村さんの設計はなかなか楽しそうで、猫の居場所というよりは質感の違ういろいろな通り道があって、それがひとまとまりになって一つの大きな家具となっているという面白さがありました。
ただ面白さはあるのですが、なかなか作る形が大変そうで・・。
最初のプランはそれはもう芸術品のように格子が並んで、猫の通り道も格子で囲まれた、大変手の込んだ形で、作れたらとても面白そうだったのですが、これは作る時間がなかなか読めないぞ・・、ということでコストもかなりかかってしまうだろうことで断念。
もう少しシンプルな形になっていったのですが、それでも、いろんな材を使ったり、キャットタワーもオリジナルで制作するなどなかなか手の込んだ作り。それでも手間を抑えられるところはシンプルにしていき、さらに中村さんとSさんの女性らしい色使いや素材の選び方で優しい印象にまとまっていったのでした。
さて、もう一つ頭を悩ませていたのは、今回は新築ではなくリノベーションということで、しかも集合住宅のリノベーション。
茅ヶ崎の古いマンションの一室を改修してこの家具を入れることになったのですが、壁は躯体のままのところにこの壁から突き出た形たちをどのように支えたらよいかが悩みだったのでした。
全面的に四角い箱にしてしまえば簡単だったのでしょうけれど、そうなるとすごく圧迫感も出てしまうし、形も限定されて野暮ったくなっちゃう。それで今回のような形になっていったのですが、それを支えるためにある程度箱型にして工房で組んでおかないと強度的に持たないということでいくつかの塊にして形を作っていったのですが、エレベーターのない周り階段と玄関からリビングまでの動線が果たして家具が入るかどうか、ちょっと心配だったのです。
制作途中の様子
「一方その頃、工房では」
今回は、大変久しぶりにノガミ君の制作日誌があるのですよ。(うれしい。)
【Sさんご家族と猫の暮らす壁面収納を制作して:スタッフノガミ君の制作日誌】
https://www.freehandimai.com/?p=56965
「少し前に『建築知識』という雑誌に自分が担当した家具が掲載されました。
その家具は壁一面に納めるネコちゃんの為の大きな家具でした。
僕らが造らせて頂く家具はすべてオーダーですので、それぞれの家具にひとつ以上は見せ場といえるポイントがあります。
ポイントといってもそれはデザインであったり、お客様のこだわりであったり様々です。
例えば、分かれている扉でも木目が全て繋がっていて俯瞰でみると美しい家具であったり、量販店では見られない特殊な収納や加工であったりします。
頂いた図面を読み解いていくと、S様の家具はどこを切り取ってもその家具の主役になれるほどのポイントばかりでした。
写真を見て頂けたら分かると思いますが、いろいろな仕掛けが詰まっているとても大きな家具でした。
僕たちの会社では図面をもらったらまずある程度目を通してから社長と打合わせをします。(社長が全ての図面を書いています。)
打合せでは家具の詳細や設置する場所の様子、細かい収まりを聞いて造り方などを相談します。
打合せが終わると自分の作業台に戻り「木取表」というものを書きます。
僕らの会社でいう「木取表」とは家具図面とは別の分解図のようなものです。
具体的にはパネルや扉、引出しなどをどういう構造や材料で作るかを書いたり、突板ベニヤの切り分け方などを書きます。
製作担当者が家具のパーツを必要な材料・作り方・組立て方法・運搬、搬入方法・設置の仕方などを考えながら書いていきます。
家具をパズルに例えると、そのパズルのピースを考えていく作業です。
ちなみに木取表を書いている他の家具屋さんはあまり多くないようです。
僕らはの会社はオーダーメイドですので基本的には同じ物は造りません。
ですが数年後に家具のメンテナンスで伺う事もありますし、ありがたいことに過去の製作事例を参考に注文して下さる方もいます。
ですので僕らは製作前の準備として、材料のロスを無くすため、製作の詳細をデータとして残しておく為に木取表を書いています。
まず考え方としてこの家具を5ブロックに分けました。
「階段型収納」「小屋ベンチ」「スロープ」「下の段の収納部分」そして「登り棒」という感じです。
色々な要素が詰まっていて大きな家具ですから全部を一気に考えてしまうと難しく思えますが、ジョイント部分だけ決めておいてそれぞれを造るというふうにすると簡単に考えられます。
シンプルに考えられると作業スピードもあがりますしミスをするリスクも減らせます。
難しく思える時こそ視点を変えてシンプルにすることが大切です。
ところで家具の造り方というのは正解がなく、セオリー通りのやり方や、昔ながらの加工方法はもちろんありますが、場合によってはそのやり方は不便であったりします。
ましてや僕らが作っている家具は既製品にないオーダー家具ですので、初めて生まれる形もあります。
従来のやり方が合わないこともしばしばあります。
そういった時は今までやってきた方法をバージョンアップさせることもあればやった事のない、見た事のないその時に思いついた加工方法をやる事もよくあります。
ですので「ひらめき」や「アイデア」が家具造りで必要な事のひとつだったりします。
作り手のアイデア次第では難しい加工も簡単に、時間のかかる作業も短く出来たりします。
今回の家具でいうとスロープの坂道と踊り場のジョイント部分がまさにそのパターンでした。
壁から水平に出ている踊り場の板に角度のついた登り坂と下り坂の板がジョイントされています。
もちろんネコちゃんが通るのでジョイント部分は頑丈でなければなりませんので、接着剤を入れて圧着したいところです。
圧着するには固定しながら締めつけるクランプをいう道具を使いますが、直線的にしか締め付けられません。角度がついているものを締め付けようとするとずれていってしまいます。
そこで当初はクランプを使わずに接着する方法としてジョイント部分を「蟻溝加工」にしようかと考えていました。
「蟻溝加工」とはジョイント部分の凹凸を台形が組み合わされたようにする昔からある加工方法で入れてしまえば抜けにくい特徴があります。
ですが加工が難しく時間がかかる為、他に良い方法がないか悩んでいました。
もちろん「蟻溝加工」がダメな訳ではありませんが、限られた時間の中で他にも特殊な加工が多い家具でしたから少しでも時短を狙いたいところです。
そこでちょうど工場の手伝いに来てもらっていた同期のコバヤシくんに相談してみました。
すると「蟻溝加工」でなく「通し溝」にして凹凸の中に材料同士を引っ張る金具を入れたらどうか、という良いアイデアをだしてくれました。
これにすれば蟻溝加工より早く加工出来て、クランプと同じように圧着する力を加えながら接着剤で固定することが出来ます。
先程、家具造りにアイデアは必要とか偉そうに書いてしまいましたが今回のアイデアは人の知恵を借りました(笑)
いいんです。
人脈も家具造りに大切なことです!
とにかく他にも色々な仕掛けがありますから、それぞれに工夫を凝らして造った家具です。
あとはネコちゃんが気に入って遊んでくれるかが心配でしたが、後日にちゃんと遊んでくれていると聞いてとても安心しました。
猫と建築社さんのInstagramで動画がアップされています。
よかったら覗いてみてください。
【nekotokenchikusya」
先日完成したSさま邸のねこも人も楽しいリビング収納」
何度か採寸と打ち合わせにお伺いして、いろいろな苦労を克服してノガミ君が完成させてくれて、いよいよ設置工事です。
搬入経路はおそらく大丈夫だろうという判断でこうしてここまで進めてきましたが、あらためて箱を持ってきてみると、回るのか・・。
最初に試してみると、うーん、これはちょっと厳しいか・・。
汗が流れる中の静寂・・。これを階段の踊り場からロープで上げるのもなかなか難しそうだし、やはりもっと細かく作っておくべきだったか・・。と後ろ向きな空気が流れそうになったところで、「もう1回やってみましょう。」「ここはこうで、あっちはああで。」といろいろやり繰りしていたらどうにか振り回すことができて、ふぅ。
大きな箱ものたちをすべて上げることができました。
あとは、壁や床が元々コンクリートだったので、その不陸をうまく吸収できれば工房で仮組した時のように順調に進んでいくはずです。
最終的に壁のほうがなかなか垂直を出すことが難しかったのですが、そうして2日間をかけて工事は完了したのでした。
「昨日、一昨日はありがとうございました。
またお写真ありがとうございます。
昨日ノガミさんたちが帰られた後、Sさんのお宅に伺いましたが、はっちゃんもSさんご家族皆さんも大変喜んで下さっていました。
お母さんと妹さんはノガミさんたちがとても感じよく、仕事もとても丁寧にして下さったと感心されてましたし、家中の雑多なものが全部入るね、と、とてもうれしそうでした。
はっちゃんは部屋に入るなり興味津々で、ステップを上ったり、おこもり部屋に出たり入ったり、柱で爪を研いで勢いよくハンモックに乗ってみたり、あちらこちらに匂いを付けて、少し興奮気味のようでした(笑)
いつも比較的フレンドリーな子ではありましたが、昨日はいつもより断然すりすりしてくれたり、甘噛みまでしてくれて、まるで「おばちゃんありがとう!」と言われているようでした。
家型の部分はまだ使い方がわからない感じでチャレンジ出来ませんでしたが、日に日に色々と探検してくれることと思います。
仕上がり、大変きれいでした。
ありがとうございました。
今後ともどうぞよろしくお願い致します。」
ネコが遊べるタモ板目の壁面収納
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