ふんふんふん

「ブラックチェリーのサイドボード」

渋谷 W様

design:Wさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:daisuke hirose
painting:daisuke hirose

ブラックチェリーのサイドボード
納品の時の様子。背中合わせにジョイントしています。Wさんでも取り外せるようにジョイントボルトというものを使ってつないでいます。こちらはWさんが過ごす親世帯。
ブラックチェリーのサイドボード
こちらは子世帯の2台。色が上の写真と違って見えますが、私の写真の写しかたが良くなかったせいでございます。ただ、チェリーという木は見る角度からの表情がものすごく変わってしまう木で、左から眺めた時と右から眺めた時でベルベットのような風合いに思えます。

「今井大輔さん。
ネットで工房や作品を見るにあたり、現在新築中の自宅用にリビングとダイニングの間用のサイドボード(キャビネット?)を特注依頼したいのですがお願い可能でしょうか?
特注の家具は上添付キャビネット図を参考にしてください。
図はあくまでも私の私案で、今井さんの進言・提案・修正も対応可能です。
材料はCherryかRed Oakと思ってます。
床はWhite Oak です。特注を受けてくださるのであれば同じキャビネットを4つ制作してもらいたいです。
二世代用に建てた家ですので2つずつ必要です。
ダイニング側向きとリビング向け、後ろ合わせに設置予定で全部で4つ必要!
私は香港在住ですが渋谷区に自宅を新築中です。
よろしくお願いします。」

と、少し不思議な文体で、Wさんからメールが届いたのでした。

ブラックチェリーのサイドボードのスケッチ
Wさんから頂いた図。脚部やキャビネットの繊細な様子などとても丁寧に描かれていて、どの部分を大切にされたいかがよく分かりました。このイメージを損なわないように実現可能にしていくことが今回のお仕事ですね。

正直なところ、ご年配(と言っても自分ももうすぐ50歳に届く年になりつつありますが・・。例えば、自分よりも一回りくらい年上の)男性からのご相談って、今までの経験からすると、きちんと当てはまる形になったことが少ないのです。
こういうことを言うと怒られてしまうかもしれませんね。
ご年配の男性からのご相談って、ある程度、もうその人の頭の中で形が決まっていることが多かったりするのです。
もちろん、その形がとても魅力的で使いやすい形になることが多いのですが、時に、それだと使い勝手に不便が生じたり、作り方がかえって複雑になったり、余分な材を使うことになったりすることもあるのです。
でも、そういう場合でも「それは大丈夫です。」と言われてしまうことが多くて、実際にできあがってみると、やはりあの時にこうしておけばよかったかな、というご意見が出たりすることがありましたので。
今回のWさんの場合でもこのサイズで引き出しが5段になっていたり、脚の繊細なデザインが難しそうだったりと少し考えていきたい部分がありました。
ですが、香港在住となると気軽にお会いできるわけはなく、メールもそれほど得意ではないというお話でしたので、これは実現が難しいかな、と考えていたのでした。

ブラックチェリーのサイドボードの取っ手
こちらは引き出しの手掛け。工房2階にあるキチン(Wさんの発音より)をみて、「この形、美しいね。」とおっしゃってくださって、決まった形。「でも僕はあまり丸みのある形は好みではないんだよ。」ということでエッジがしっかり出た仕上がりに。
ブラックチェリーのサイドボードの取っ手
ヒロセ君がふんふん♪と言ってサンプルを作ってくれた扉の取っ手。この部分はお任せいただけたので、ヒロセ君とああだこうだと言いながら、サイズとバランスを決めていきました。
ブラックチェリーのサイドボードの取っ手
取っ手を別の角度から。しかし、こうしてみるとチェリーの色の様子がよく分かりますね。木目が横になっている部分と盾になっている部分で、日差しを浴びている具合でこれほど色と表情が変わります。でも数年すると、全体がきれいな赤褐色になっていくのです。
ブラックチェリーのサイドボードの取っ手
引き出しの取っ手の様子。最初この引き出しは5段にする予定でした。昔の引き出しのように吊桟で作る引き出しならば5段でもある程度使いやすい深さを確保できたかもしれませんが、ずっと使っていくことを考えるとスライドレールを使う方が良いかと思います。そのスライドレールも側付けのものでは、レールが見えてしまうことと、ご年配の方が使うにはばねの力が少し大きいので、開ける際に不便があるかと思われます。そこで、底引きのソフトクローズレールを採用しています。

でも、まずはどのくらいのコストで作ることができるかをお伝えしないといけないですから、頂いた図の形で作るとどのくらいの費用が掛かるのかをご説明したのです。
そうしましたら、ぜひお願いしたいです。とご連絡を頂けまして、今度一時帰国されるということで、こちらまでいらして頂けることになったのでした。
とてもうれしいご連絡でしたが、きちんと私とWさんのイメージを合わせないといけません。

ブラックチェリーのサイドボードの棚板
Wさんの好みのものたちがこうしてここに納められていきます。可動棚は棚の小口部分に直行した材を接ぐことで反りを抑えて、強度が得られるようにしました。

お話がそれますが、以前どこかにも書いたかもしれないのですが、ちょうどアキコとこの前この話をしていたのです、「イマイさんにお任せします。」というのが苦手なんだよね、と。
私はどちらかというと、与えられた条件の中で最良の形を私と家具を使いたいと望んでいる人とで一緒に考えていく作業が好きです。
「私はイマイさんの形が好きなので、お任せしたいです。」って言われちゃうと、とても困ってしまう。
イマイさんらしい形というものをいまだに自分の中できちんと理解できていなかったりしますので・・。
過去に何度かこういう経験がありました。でもどのケースも結果的には本当にその人の望んだ形になったのか、分からず終いのように思えています。もちろん、「ありがとうございます。」と言ってはもらえるのですが、本当によかったのだろうか。

むかし、20年以上前のことです。
たしか、ウェブサイトを見てご相談くださったのだったと思うのですが、Nさんというご年配のご夫婦からいろいろな収納を頼まれたことがありました。
父とNさんの年が近いこともあって、私や設計と制作をメインに行なって、父が打ち合わせをして、という形で話が進んで、できあがった家具もとても気に入ってくださって、そのあとも何度か家具や建具を作らせて頂いておりました。
その数年後に、「小さなベッドサイドに置くテーブルが欲しいのです。細かい形はお任せします。」と相談されて、Nさんはクラシカルな家具の輸入をお仕事にされている方で、当時の私はいろいろな装飾を施した形に興味があって、自分の好きな形で作ってみたのでした。今考えると、装飾それぞれには意味があるし、天板に張る革もきちんと適した素材があっただろうに、Nさんからの具体的な要望は置きっぱなしにして、自由に作らせてもらって、なかなか良い形ができたぞって思って納品に向かったのですが、「ありがとう。」と言って頂くことはできたのですが、「わあ、すてきね。」とはならなかったのでした。
あの時のNさんの表情がとても残念そうに見えて、こんな私は独りよがりなことをしていてよいのだろうか、ととても考えさせられたことがありました。

その時から、私たちの仕事というのは、その性質上、とても独りよがりな形になりがちなのですから、「きちんと使うべく形にならなくてはいけない」という気持ちのほうを大きくおいて、自分で良かれと思う形に傾いてはいけないと思うようになりまして、ですので、「イマイさんにお任せします。」という言葉を聞くと何だか口の中が苦くなるのです。

ブラックチェリーのサイドボードの脚部
「でも僕はあまり丸みのある形は好みではないんだよ。」というあの言葉を思い出しながら、ヒロセ君と決めた面取り具合。1アールくらいで仕上げています。

「こんにちは。」
低く張りのある声がショールームの玄関から響きます。
「イマイさんかな。はじめまして。」
恰幅の良い穏やかな表情のWさんがそうにこやかにご挨拶くださいました。

ブラックチェリーのサイドボードの脚部
さらに脚をつなぐ貫板はとても緩やかな曲線を描いていましたので、Wさんの図のとおりに原寸を書き出して、削り出しています。貫板のつなぎはキャビネットの重量を支えるには少し貧弱になるような気がしましたので、それぞれの帆立が立つ位置に加えさせて頂いて、荷重がうまく逃がせるようにしています。

「うん、そうだね、このキチンとダイニングルームの間に置きたいんだ。背中合わせでね。」
「なので、このくらいのサイズ感がちょうどよいと僕は思っているんだよ、どう思うかな、イマイさん。」
「そうですね、幅についてはこのくらいの大きさがあれば十分のように思えます。高さについてはどのように使われたいかにもよると思います。奥行きはカップボードには少し小さいかもしれませんがいかがでしょうか。」
「うん、あまり大きくなりすぎてはいけない。バランスが大事だからね。しまいたいものは十分に入るはずだよ。」
「そういうことでしたら、高さはあまり変えずにとなると、引き出しをここに5杯設けるとなると、1杯がかなり浅い引き出しになってしまいます。スライドレールを使わなければある程度深さは確保できるのですが、レールのない引き出しというのはこの先のことを考えると不便に感じることのほうが多くなると思われます。そのあたりを踏まえて、レールを使わないという方法もありますが、いかがでしょうか。
「うん、そうだね。あなたの意見が正しいと思うよ。ここは4段がベストだね。」

ブラックチェリーの扉の端ばめと留めの納まり
キャビネット本体と扉や引き出しの関係はインセットで見せるという図でしたので、その印象に合わせて仕上げています。インセットにするということは、本体の側板や天板、地板の小口が正面に見えてきます。そのまま見せても良いのですが、丸みをつけるとよいのではと考えていたのですが、やはり「でも、僕は・・」の言葉が浮かんで、内側にテーパーをつける形で仕上げました。

最初に心配していたようなコミュニケーションのしづらさは一つもなく、私の考えをとてもよく受け入れてくださって、形はまとまっていったのでした。
「イマイさん、僕はね、あなたの作る家具のプロポーションがとても好きなんです。そして北欧の家具が好きでね、あなたの形にはそれに通じているものがあるように見えるよ。だからね、プロポーションが美しいのだから、あとはあなたにお任せするよ。」 「ほら、このスツールもたいへんすてきだ。」ニッコリ。
うれしく楽しい時間でしたが、なかなか緊張するお題をもらったのでした。

試作で作っていた気に入ってくださったスツール。このスツールもヒロセ君がフレームを作ったのでした。脚部と座面の四隅が接合される部分は、ヒロセ君がうっかり面を取りすぎてしまったのでしたが、(本当はボウズ面にする予定でした)実際にできあがってみるとこの部分がとても印象的に仕上がりまして、その形から「マカロンスツール」と名付けたのです。

あとで、みんなから聞いたことが、「シャチョウ、トラックの前にロールスロイスが止まっていたのですけれど。運転者さんがずっと控えていらっしゃいましたよ。お声掛けしたのですが、私はここで大丈夫ですとおっしゃっていて。」と、車の世界ではたいへん名前の通った方だということを知ったのでした。
いろいろな良い形を見てきたと思われる方にこのように声をかけて頂けるなんてありがたいことです。

ブラックチェリーの扉の端ばめ
扉の端ばめの印象。無垢の扉というと裏面に金属の反り止めを入れる形が多かったのですが、材が動くときはその反り止めでも抑えることが難しかったりして、それでは、と以前に私が仏壇を作っていた時に端部に端ばめを入れた扉がかなりしっかりとそりを抑えてくれていたのを思い出しまして、今回は「君にお任せだ」と言ってくれたこともありまして、このような意匠で仕上げたのです。

さて、細かい部分は任せるといわれてしまったので、まずはWさんの図を見返して、このバランスをうまく表現しながらも使いやすい形にしないと。
このWさんの図は本当に美しくて、脚とキャビネットのバランスやその細さがまさに家具作家さんのようにちょうど良い感じで、忠実に表現したいと思わせてくれる図だったのです。

ブラックチェリーのサイドボード
金属の反り止めを使わないと扉を軽量化できることがメリットの一つです。こちらが扉を開けた時の様子。蝶番はダンパー付きのスガツネのスライド蝶番「オリンピア」を採用しています。

今回の材はブラックチェリー。それほど重くない材ではありますが、引き出しの箱以外は無垢材で作るのでかなりの重量になります。脚部にもう少しキャビネットを支える材がないとキャビネットが歪んでしまいそうでしたので、Wさんの図のバランスを見ながら補強を加えます。
扉のデザインは任せて頂けましたので、今回は裏面に金属の補強を入れる形ではなく、扉の上下端に端ばめを入れる形で作らせて頂くことにしました。
合わせて棚板も小口に端ばめを入れる形にしています。
少し困ったのは、取っ手の部分。
引き出しについては、事前にこの工房にあるキッチンに取っ手の形を見て頂いていたのでご理解頂けていたのですが、扉の方はどうしようかな。

ブラックチェリーのサイドボードのカトラリーケース
あとからオーダー頂いたカトラリーケース。ケースを入れる予定ならもう少し引き出しに余裕を見て考えるべきだったかなあ。という心配がありました。引き出しのスライドレールは奥まで引き出せる振るスライドレールなのですが、インセットの仕上がりなので、20ミリほど天板の中に引き出しが隠れた状態になるのです。そうすると、カトラリーケースはそのまま上に引き抜けない。手前に斜めに持ち上げながら引き抜かないといけない。そうなるとケースの高さと奥行を踏まえて対角線のサイズよりも大きくなると引き抜けない。その分奥行の小さなカトラリーケースになるので、しまえるスプーンやフォークのサイズに限りが出てくるのでした。
ブラックチェリーのサイドボードのカトラリーケース
でも、Wさんは、「いいじゃない、このサイズの仕上がり。このまま食卓に運べるようにできるなんてよいアイデアでしょう。」とにこやかに喜んでくださったのでした。

制作を担当したのはヒロセ君。
ヒロセ君、今回のこの制作をとても楽しみにしていたのです。
キャビネットの側板と天板、地板は留めでつなぐ難しさ、端ばめの制度や脚部の緩やかなカーブの表現だったり、脚部の丸みだったりと制作が難しい部分や表現が繊細な部分があるのですがとても楽しんで作っておりました。

「脚の丸みですが、どのくらいが良いですかね。丸みが大きいほうがよいですかね。それとも糸面くらいにしますかね。サンプル作ってみますね。」ふんふんふん。

「シャチョウ、扉の取っ手どういう納まりが良いですかね。サンプル作ってみますね。」ふんふんふん。

制作日誌があるので載せておきましょう。
【Wさんのサイドボードを制作して:ヒロセ君の制作日誌】
https://www.freehandimai.com/?p=56401

「今回はブラックチェリー無垢材を使用したサイドボードを担当させて頂きました。
四台製作し二台を背中合わせにして二カ所の場所に設置するそうです。
ここまでふんだんに無垢材を使用して作らせて頂ける機会というのはなかなか無く、私達の工房では珍しい製作物になります。
無垢材を扱う際、私達の工房では「粗取」という作業を行います。通常、製作を始める一週ほど前、長く時間を取る必要があるものですと数ヶ月前にやったりする作業です。
粗取とは、一枚の板から使用するサイズより少しだけ大き目に切り分け、再び乾燥させる事により、切り分けられたサイズでの木の反りやねじれが出ないか、木の動きを見る作業です。
そして、粗取期間を経て落ち着いた木を使用する寸法に製材しています。
勿論、無垢材なので時期や天候によって生じる木の収縮や、反り等を避けきる事は出来ませんが、無垢材でのリスクを少しでも減らせればと考えております。
その無垢材なのですが、工場には丸太を割った荒木の状態の物が工場に運ばれてきます。原木の丸太を帯鋸で割った面はザラザラで反りやねじれもでている板です。
割れている部分を切り落としたり、白太の部分を挽き落としたり、反りやねじれを製材していくと使用できる巾や長さも全て異なってきます。
勿論の事ですが、無垢材は同じ樹種でも木の表情は全て違く、一枚として同じ柄や色味のものはありません。
完成した時に前板や前板上部の手掛け、扉、オープン部分の棚や背板など、家具を見た時に少しでも良く見える様、そして違和感の無い仕上がりになる様、予め使用する板の色味や柄を選別し、どこに使用するかを細く決めていきました。この作業も非常に悩み苦労した点となりましたが、やはり完成した時の雰囲気にも影響する重要なポイントだと考え慎重に割り付けていきました。
本格的に製作を開始してから納品予定までは1ヶ月程。なかなかタイトなスケジュールなので遅れを取らぬように一週間毎の作業予定を考え取り組みましたが、四台製作するという事と、どの部材にも様々な加工がある為、作業時間の読みづらさが非常に難しい点になりました。そして数物の為、何か一つでもミスをしてしまうと多くの時間と材料を無駄にしてしまうかもしれないという緊張感の続くなかでの製作となりました。
完成した形では見えないのですが、背板は9mm厚で本実接ぎになっていたり、扉や棚には反りを抑える為に、はしばめ加工が施されています。脚部分に関しましても、勾配が付いていたり、Rの部分があり中々思うように捗らず、非常にやりごたえのあるもので、今回の家具製作は私1人の力では到底出来るものでは無く、応援で来てくれていたコバヤシ君をはじめ、スタッフのみんなにも手を借してもらったお陰で完成させる事ができたと思います。
製作期間中は、緊張感もありましたし、頭も手もフル回転で作業にあたっていましたので、正直楽しみながら製作をできる程の余裕は無かったのですが、完成した際には、最善を尽くせた仕事ができたたのではないかと思えました。
そして、納品させて頂いた後の今となっては、すごく楽しく、大変良い経験、勉強をさせて頂けたと思っております。
W様、ありがとうございました。
まだできたばかりの淡いピンク色の状態もすごく良いのですが、時間と共に色合いも変化し、深みを増し、この家具達がどのようになっていくのか大変興味があるところですね。」

そうか、とても楽しそうに見えたけれどなあ。
このような感じで、ひと手間ずつ時間をかけて楽しくできあがったのでした。

納品時にはWさんに「やあ、いいじゃない。」と言って頂けて、「ほら、このカトラリーケースもばっちりじゃないか。」とグッドのサインまで頂いて、大変喜んでもらえたのでした。

ブラックチェリーのサイドボード

費用につきましては、お問い合わせくださいませ。

ちょっと関わりのありそうな家具たち