椅子を作るのは大変

2023.09.27

私たちの工房の2階は、私たちがどのような家具を作っているのかを実際に見て頂けるようにと小さなショールームを設けているのですが、そこには意外と椅子が多く置かれています。

ショールームを訪ねてくださる皆さんのお話の中で「ここにあるものは全部イマイさんの工房で作られているものなのですか?」と時々聞かれることがあります。

「そうです。試作したものが多いですが、すべて私たちが作ったものですよ。」とお伝えすると、

「いろいろな家具屋さんを見ていると、小物や椅子などはそのオーナーさんご自身で選んだ家具が置かれていたりするので、なかなかすべてを作られている家具屋さんで珍しいなと思いまして。」と少し驚きながらもうれしそうな様子で訪ねてくださいます。

なるほど、そう言われるとそうかもしれませんね。

特に椅子となると、いろいろ異なったデザインのものを作っていくのは実は結構たいへんですから、そうなるとキッチンやダイニングテーブルはオーダーで手掛けて、そこに合うスツールやチェアはほかのメーカーさんや作家さんのものを選んで持ってくる、というのはそのお店の一つの表現方法なのだと思います。

でも、私たちとしては、すべてを自分たちで手掛けたいという気持ちを置いてけぼりにすることはできないので、椅子から照明や木の器まで、はたまた作家さんにご協力いただいて陶器の器まで私たち独自の形を作ったりしています。

でも、椅子に関していうと、実はここで販売するために置かれているのではなく、試作したものがその時の置き土産のように置かれたままだったりするのです。

何度も言ってしまうのですが、椅子を作るのは大変なのです。

大変ということは、当然作るためのコストが高くなってしまうところが、悩みの種なのです。

なぜ、家具屋さんで販売されている椅子たちはあれほど手に取りやすい価格でできるのだろう・・、といつも悩むのです。

私たちの椅子作りの進め方としては、まずはここに置かれている何種類かの椅子に座って頂きながら、どのような椅子を希望されているのか話を具体的にしていくのですが、人の体型はみんなバラバラですので、微妙にサイズを変えたり角度を変えたり微調整してくことになります。

そこから、座面や背もたれ、クッションの形や張地を決めてと、ひとつずつが決まっていくのですが、ここに置かれている椅子だけではどうやっても体感しづらい部分が出てくることがあります。そうなると部分的に試作してそれを実感して頂いて、調整して実感して頂いて・・、そうしてようやく本制作へと移っていきます。

本制作に入ってからもなかなか作業日数が掛かります。

椅子というのは、幕板に貫板等、細かい部材だけでいかに強固に作っていくかが肝心ですので、部材ごとに強度を保ちつつあまり重くならないような加工を行ないまして、そこから組んでいくのですが、とにかく一つずつをきちんと組んでいくために組み立てる回数がたいへん多い。

前後の脚と幕板、貫板を組んだら、続いては左右の組み立て、さらには背もたれの組み立てや肘掛けを組み立てなどなど。まだダイニングテーブルを作るほうが作業数が少ないくらいです。

そうなると、客数をまとめて制作することで、工程を単純化させていくのですが、なかなか10脚も20脚もまとめて作る機会もなかったりするので、さらには先ほどの試作するための時間やカーブしている椅子だったりするとその治具(木型)を作成するための時間を考えると、やはりほかの家具に比べると高価な家具と感じられてしまうのが椅子なのであります。

でもね、椅子を作るのは楽しいのです。

以下に工夫して自分らしい形を表現できるか、構造をうまくクリアできるかなど、自分の思いを表現しやすい大きさの家具だったりします。

だから、「難しいなあ。」なんて言いながらもみんなにこやかに取り組んでいる姿を見ることが多い家具でもあります。

ですので、建築設計の仕事をされている方々も椅子を手掛けるかたは多く、名作巣と呼ばれるものは家具作家さんと同じくらい建築家さんの作品も多いのです。

そのうち時間の余裕ができたら、椅子のフレーム作りとペーパーコードで座面を編んでいくワークショップなんてやれたらおもしろいだろうなあ。

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