きっかけを作ってもらった
2024.06.18
朝霧高原と言うと、まだアキコと結婚する前にこのあたりに来たんだっけなぁ。
あの頃は、この家具づくりの仕事をずっと続けていくのかなあとぼんやり不安になって、自分が何をしたいのかよく分からなくなってたような気がする。当時は家具作りというよりは、お店の家具ばかりを作っていて使う相手が見えないことや、作っても数年間で改装工事になって壊されてしまうようなものが多かったり、内装屋さんから降りてくる形は、見た目ばかりが重視されて、作りが貧弱だったり、使いづらいだろうかたちばかり作ることが楽しくなかったのかもしれない。
そして、やはりぼんやりと結婚という言葉が頭に浮かぶようになってきた頃だと思う。
不意に、動物の世話をしながら暮らしてみたいなぁという思いが以前よりも強くなったのだ。なんとなく、日の出とともに動物たちと起きて毎日を生きるという暮らしを夢見たのかもしれない。
口に出したからには実行しなければ、という思いがあって、ある牧場に見学させてもらえるように約束したのだった。
少し涼しい季節だったかな。とても広い高原を二人で歩いたことをなんとなく覚えている。
少し緊張しながら(一人だったらもっとガチガチになっていたかも・・)訪ねると、オーナーは最初から少し諦めた表情で、もう何度も繰り返しているだろう話をしてくれた。
動物と暮らすことは思っている以上に大変だし、それで食べていくのは、とても厳しいことだよ、と楽しそうな話はひとつもあがらなかった。きっとそのあとには、それでも生き物と暮らす喜びはそれ以上に素晴らしい、と無言で伝えていたのかもしれないが、二十歳過ぎのしかも一人で来られないような覚悟の子供が甘えてできる仕事ではないとふるいに掛けたかったのだろう。
「それでも、住み込みでやっていきたいと思うのなら、また来なさい。」
とそう言ってくれた。
案の定、私は行かなかった。その後の連絡も取らなかった。きっと失礼な若造だと思ったことだろう。
すみませんでした。
私は「あきらめろ。」と誰かに言ってほしかったのかもしれない。
情けないことに今までをきちんと自分自身で考えて生きてきたって胸を張って言えるわけではなくて、いつも誰かにきっかけを作ってもらって流れるように生きてきたように思える。大学を辞めたことも、今の仕事を始めたことも、インテリアの専門学校に行ったことも。
そして今もこうして誰かにこっちにくるなと言ってもらえて、いかなくて良い理由ができたことに安心しているのかもしれない。
このあたりに来るとそういう情けない自分が思い出されるけれど、その何もかもがあって今がきっとあるのだろう。
感謝しなくてはいけないよね。
現地に早く到着したので、こうして昔を思い出したのだ。
懐かしいね。