カビのお話

2024.06.18

雨が多いこの時期に気になるのが湿気だと思います。

素足でサラッと感じていた床の足触りなども少しべたつきを感じたりすることが気になりますが、湿気が多い時に一番気になるのがカビではないかと思います。

私たちが作る家具は、主に自然塗料と呼ばれているオイル塗料を使用して仕上げることが多いです。

木は製材されて家具になった後でも乾湿の影響を受けて調湿するので、木の内部に浸透して硬化するタイプのオイル塗料はその調湿の妨げが小さく、木にとってストレスが少ないことと、また内部で硬化して仕上がるため、表面の塗膜が薄く木にそのまま触れているような質感に仕上がることが特長です。その代わりに合成樹脂塗料(ウレタン塗料)よりは塗膜が薄く塗膜の硬度もないため、傷や汚れが付きやすかったりするのですが、その都度ペーパーを当ててオイルを擦り込んでいくことでストレスなく良い風合いに変化していくため、最近は特に好まれる仕上げでもあります。

ただ気を付けなくてはいけないのが、傷や汚れが付きやすいことのほかに湿気の影響を受けやすいことです。

私たちは、家の中の水場であり湿気が多い場所であるキッチンや洗面台も他の家具同様に無垢材や突板を使って制作することが多く、塗装はオイルで仕上げることが多いので、カビと出会う機会もそれなりにあります。

まずは、ホコリのようなフワッとした白いカビ。

こちらは、家具の扉などの表面にポツポツと付着することが時々ありますが、木の中まで浸透していないので軽く水拭きするだけで取れることが多いのでそれほど心配は要りません。

ただ、オイル塗装は水拭きするだけでも徐々に摩耗していく塗膜のうすい塗装なので、そうやって水拭きした後は良く乾かしてから手触りがザラっと感じるようなら目の細かい(400番くらい)サンドペーパーで表面をなでるように軽く磨いてからオイルを擦り込んでおいてください。
そうすれば表面の塗膜がまた強くなりますので、その後はカビが付きにくかったり、付いても落としやすくできます。

反対になかなかきれいにするのが大変なのは黒いカビです。

今まで私の自宅やお客様のお宅も含めて、どのような場合に発生したのかいくつかご紹介しましょう。
時々見かけるのが普段奥まで引っ張り出さない引き出しの奥を掃除しようとして中身を出したら奥の板が黒くポツポツとなっていたことがありました。

これは湿度の高い地域(山あいに建つ家や川のそばに建つ家、海のそばに建つ家など)に立てられたお宅のキッチンに時々見られます。多湿なため、家具の中まで湿気が溜まってカビが入り込んでしまうのですね。ふだん開け閉めしている引き出しでも奥のほうは空気が対流しづらいのでカビが発生することがあるのです。

最近は、引き出しを作る時には掃除がしやすいようにと樹脂塗装でコーティングされた化粧板で作ることが多くなりましたので、内部に黒カビが付くことは少なくなってきましたが、無塗装の仕上げで合板や無垢材を使って作る引き出しなどは、黒カビがつきやすいのです。以前、磨いてもどうしても取りきれなかったので、白いポリエステル化粧板の引き出しに作り替えたことがありました。

続いては、天板の上です。
ダイニングテーブルや食器棚の天板などは濡れ布巾や濡れた調理道具などを置きがちです。
短時間ならシミになったりすることはないと思いますが、置いて濡れてしまったらきちんと水気を拭き取って乾かしておかないと、繰り返しているうちにそこだけ黒ずんでくることがあります。
また、天板の上だけではなく、キッチンや食器棚の側面を木製のパネル上になって仕上がっていると、そこにまな板などを立てかけたりしがちです。またはそのパネルのそばに洗った食器を乾かす水切りかごなどが置かれていたり。

以前、まな板を長時間キッチンのサイドパネルにピタッとくっつけて置いていたというお客様のところでは、まな板とサイドパネルの両方の木目の中にカビができてしまっていて、磨いても漂白剤を使っても取れませんでした。ちなみにこの時はオイル塗装ではなく、ウレタン塗装で仕上げていたのですが、導管の中に入り込んでしまったカビは取ることができなかったのです。
この状態からサイドパネルを外すことはできないので、きちんと完全に乾燥して表面のカビを掘ったり削ったりして除去してから、ステンレスなどの水が付着しても問題ない素材を張ることをお伝えしたのですが、いまだ連絡を頂いていなくてそのままお使いくださっている形です。

同じく、水切りかごから飛んだ水分がいつの間にか水溜りになっていて、そこだけ真っ黒になって取れなかったこともありました。この時は、何度も水はねしていたためかオイルが取れてしまっていたので、まずは完全に乾いた状態で表面をやすりで研磨しまして、表面の黒ずみだけはある程度取れたのですが、やはり導管に入り込んだ黒カビは取り切れませんでしたが、研磨後にオイルを塗ったら表面はある程度きれいにすることができました。

続いてはシンクの前です。
このシンク前のエプロン部分(シンクの手前の板の部分)に布巾を掛けておいたり、濡れたエプロンがしょっちゅうエプロンに触れている場合などはエプロン部分がだんだんと黒ずんできます。

それからよく見かけるのがタオルをかけて置いたところがうっかり黒くなってしまったという例です。
キッチンや洗面台の扉のハンドルにタオルをかけられるように作ることが多いのですが、手を拭いて濡れたタオルが木の表面にそっと触れた状態であると、いつの間にかそこが黒くなっていることがあるのです。
私たちのキッチンはシンクの下にゴミ箱を置く形が多いので、タオルをぶら下げても木に触れることは少なかったりするのですが、洗面台の場合は扉のハンドルにタオルを引っ掛けたりします。
そうなるとじわじわと黒くなってくることがあるのです。
ですので、我が家の場合は、湿気が多い梅雨やこの秋の時期は、面倒ですがタオルはそこにはぶら下げないで別の場所にハンガーに引っ掛けてしまっています。
我が家の場合もポツポツと黒いカビが出てきてしまっていたので、アルコールスプレーを使って拭き取ってからオイルを上塗りしました。

どのような事例も基本的に木が水気を含んだ状態で通気が滞ってしまう場合に起きています。
ウレタン塗装にすればこのような症状は軽減されますが、絶対ならないというものでもありません。
以前にはウレタン塗装で仕上げたカウンターに和食器の粗い高台が擦れてできた引っ掻き傷から水分が入ってしまって、塗膜でコーティングされた表面と木の間でカビが広がってしまって取れなくなってしまったという、コーティングがかえって通気を阻害することでカビが広がった例もありました。
ですので、木のキッチンや家具を使う時は、「濡れてしまったら早めに乾かす」ということが一番の基本です。
なるべく早めに水分を拭き取って、風通しよくする、という当たり前のことを心がけていればそれほど大きなシミや汚れにはなりにくいのです。
今、いろいろな高機能の住宅建材があるのは、そういう手間を軽減できるようにと苦労して考えられた知恵でできたものです。
天然の素材にあまり手を加えず使う、ということはそういう苦労が良い意味できちんとつきまとってきます。
その手間暇をかけてできあがったものを私たちは良いと感じている今があるのですから、その時間を惜しまずに、キッチンや家具を良い具合に自分の道具にしていってほしいと思っております。

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