
ガッツポーズ
「ステンレスバイブレーションとホワイトオークの壁付けキッチンとエアコン用格子扉のある食器棚」
稲城 H様
design:内田雄介設計室さん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:masakane murakami
painting:daisuke hirose


久しぶりに内田雄介さんからキッチンのご相談を頂きました。
「花差し込む」の調布のSさん以来の5年振りですね。
こうして、声を掛けて頂けるのはとてもうれしいことです。
ありがとうございます。

私は家に帰ると、自転車通勤のためまずはじっとりした体をさっぱりさせたいので、風呂に入って汗を流してからアキコが食事の支度を整えてくれるのです。
だいたい帰宅する時間が21時くらいになることが多くて、夕飯のタイミングがみんなとバラバラになってしまうのに、風呂に上がるタイミングできっとひと段落したはずなのに当たり前のように再びキッチンに立って用意をしてくれる彼女には頭が上がりません。
ですから、夕飯の後の自分の食器や最後まで残っていた鍋などの洗い物くらいは私が担当するのです。
この夕飯、洗い物の次にようやく晩酌の時間がやってきます。
ご飯の後にすぐにお酒を飲み始めちゃうと、後でもう洗い物なんてできなくなってしまいまして・・。
そして、彼女もこの時間を楽しみにしていてくれて22時くらいまでなら付き合ってくれるのです。
もともと若い時は彼女のほうがお酒は強かったのですが、「ハルカとチアキが生まれてからは体質が変わったのかしら、お酒がそれほど飲めなくなったような気がするの。」ということで、22時を過ぎる場合は、私は一人で言葉通りちびちびウィスキーを飲むのです。
これを、最近手に入れたウルティマツーレのオールドファッションというイッタラのグラスに注いでストレートで飲んでいる時間がホッとするのです。
私はこうして長年インテリアの業界の端っこにいたのにも関わらず、イッタラ社の製品にほとんど関心がありませんでした。
そして、ガラス自体にもそれほど心惹かれることが少なかったのです。
しかし、アキコは私と違ってガラスもの好きでして、そんな彼女がある展覧会のことを教えてくれました。
「今、東京ステーションギャラリーでタピオ・ヴィルカラ展という催しがやっているみたいなの。行ってみない?」
相変わらずあまり関心がなかった私ですが、古い東京駅の建築の様子が見られるのはすてきだな、なんて軽い気持ちで出掛けて行ったのです。
ところが、その展示を見ているうちに、タピオ・ヴィルカラという人が、終わりにたどり着いた寂寥感というのでしょうか、そういう思いを紹介しているコーナーがありまして、その感じに圧倒されてしまいました。
「こういう思いで物作りをしている人が居たのだなあ・・。」
淋しげに見えるけれど、心温かに暮らしている様子を見て、ある種の憧れのようなものを感じて慌てて手に入れたグラスでして、今の私の一番のお気に入りのグラスなのです。
そして、そこに琥珀色の液体を注ぎながら、暗黒の塊のような色合いのかりんとうを食べる。これが私の楽しみなのでした。

お酒を頂きながらその時間の流れているニュースをひと通り見終わってしまうと、おもむろにチャンネルを変えだしてよく見ているのが、吉田類さんの酒場放浪記。
最近私はあまり飲まなくなってしまった日本酒や焼酎を美味しそうに吉田さんが飲んでいくわけですが、その吉田さんの仕草がね、好きなのです。
何というか物腰柔らかいのにそれ以上踏み込ませないような印象と美味しいお酒を口にした時のガッツポーズの感じが。
そして、その表情やら仕草やらがなぜか内田さんを彷彿とさせるのです。アキコに伝えても「なんで?」と言われてしまうのですが。
内田さんも物腰柔らかでいろいろな話を柔軟に取り込んでくださるのですが、自分が据えている芯だけはブレないというか。
ブレない人間に私もなりたいなあと思いながら、毎晩ウィスキーでかりんとうをポリポリやるのです。

前置きが長くなってしまいました。
今回のHさんのご新居は、元々稲城にあった内田さんのアトリエからすぐ近い場所に建つということで、何となく親近感のある土地です。
稲城駅のまわり自体はこのところ開発が進んでいるようですが、どこかゆったりした空気の流れるすてきな土地ですのでそう感じさせるものがあるのでしょう。
その線路沿いの一角に建つHさんのご新居の施工を担当されたのが、今回初めて顔合わせをする諫早建設さん。
いつもは市丸さんや内田産業さんと言った何度か顔合わせのしたことのある工務店さんばかりでしたので、何となく段取りは分かっているつもりでしたが、初めてとなるとやはり緊張するのです。
でも、「内田さんがいつかお願いしたいと思っていた工務店さんなのですよ。」とおっしゃっていたので、それならきっと仕事がやりやすいのだろうと思っておりました。
私はこうして半世紀近く生きてきましたが、やはり初めて工務店さんの担当者さんにお会いするのってけっこうドキドキするのですよ。
ここでも何度か書いたことがあるかもしれませんが、監督さんによってはおっかない人もいたり、段取りが良くない人もいたこともあって、何となくうまくかみ合わないで仕事が進んでいくことも時にはありました。
特に家具屋なんて現場では何故だか下に見られることが多くて、さらには私が30代、40代くらいの時だと、若造だと思われるのかけっこう邪険にみられることが多かったのでした。
「現場を散らかしに来た」くらいに思われることもあったりして、なかなか苦労したこともありましたが、だんだんと年を取ってきたためなのか、まわりが何となく丁寧に思ってくださる人が増えてきたように思えて今ではとても居心地良くさせていただけることが多いのですが、やはり初めては緊張します。


今回、施主であるHさんとの打ち合わせは内田さんを通してお話を進める形で、すんなりとこの形にまとまりました。
素材は内田さんのいつものテイストということホワイトオークとステンレスの組み合わせになり、ちょっと変わったところとしては食器棚にエアコンを組み込むことくらいでしたが、このレイアウトも内田さんとのお仕事では何度か経験している形なので、揉んだくなく収まりそうです。
そこで、ご新居が上棟して採寸ができるタイミングで現場に伺わせて頂きました。
「こんにちは、フリーハンドイマイと申します。」
と、お邪魔させて頂くと、大工さんか監督さんかパッと見た感じでは分かりかねる方々が数名いらっしゃって、その中にきちんと作業服を着て眼鏡を掛けたすこし気難しそうなおじさまがいらっしゃいました。
現場で作業をしているというよりは会社の管理業務をされている方だろうかという印象のそのおじさま(変な印象を持ってしまってすみません!)にお話をしてみると、現場監督のKさんなのでした。
「あぁ、キッチン屋さんですか。じゃあ上で打ち合わせしましょうか。」と、気難しそうというよりは少しぶっきらぼうな話し方に聞こえて、(このような言い方はとても失礼かもしれませんが)うーん、仕事がしづらい方なのかしら・・、なんて思えた第一印象だったのですが、納まりや寸法などの話を進めていくと、細かい納まりがすべて分かっていらっしゃる人で、一つ質問しても知りたい以上の答えを伝えてくれるとても仕事がしやすそうな方だと分かってきたのでした。
Kさんも、最初は私がひょろっとしたキッチンデザイナーだかなんだかのように思えていたのかもしれませんが、細かい納まりや流れをキャッチボールのようにやり取りしていくうちに、話が分かる人物なのだろうと思ってもらえたようでして、話を重ねていくとぶっきらぼうさの中にもユーモアのある返事が混じったりして、これは魅力的な人だなあ、と見え方が逆転。
これは内田さんがお付き合いしている工務店さんみなさんがそんな感じなのですが(笑)
さらには大工さんの仕事がとてもきれいで、ちょうど食器棚の端部と巾木が関わってくる部分の納まりなどがとても美しく納まっていたのが今でも頭に残っております。
そういう仕事の心地よさがきっかけになって、実はこの時から数年後に設計事務所さんに諫早建設さんをご紹介させて頂く機会があって、同じく稲城でとても心地よいキッチンを作らせて頂くことになったのですが、そのお話はまた今度。
設置工事当日も駐車スペースや搬入についても、ちょっと気難しそうな表情のまま細やかにいろいろと気配りしてくださってとても仕事がしやすくすんなりと納めることができたのでした。

こうして無事にすべてが終わってお引っ越しとにHさんのところにお邪魔させて頂いた時も、Hさんが「工務店さんとは小さなぶつかり合いは何度かあったりしましたが(笑)、全体的にとてもきれいに作ってくださったのでたいへん満足していますよ。」とうれしそうにお話されているのが印象的でした。
こうして心地よくできあがった家というのはやはり居心地が良い。
ちょうど住み始めて1年ほどの頃に伺わせて頂いたキッチンはまだまだ真新しく、収納スペースもがらんとしたままだったりして、ここからさらに居心地が整っていくのでしょうね。
楽しみにしております。

| 天板 | ステンレスバイブレーション |
|---|---|
| 前板・扉 | ホワイトオーク板目突板 |
| 本体外側 | ホワイトオーク板目突板 |
| 本体内側 | ポリエステル化粧板 |
| 塗装 | オイルノーマルクリア塗装仕上げ |
ステンレスバイブレーションとホワイトオークの壁付けキッチンと食器棚
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