ガッツポーズ

「ステンレスバイブレーションとホワイトオークの壁付けキッチンとエアコン用格子扉のある食器棚」

稲城 H様

design:内田雄介設計室さん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:masakane murakami
painting:daisuke hirose

ホワイトオークの壁付けI型キッチンと格子扉のある食器棚
ダイニングから見たキッチン全体の様子。キッチンのフロアレベルが150ミリ下がってダイニングとの視線がやさしくつながるという内田さんの間取り。勾配天井がキッチン奥に向かって下がっていっているのですが、開放感のある明るく心地良いリズムがあります。
ホワイトオークの壁付けI型キッチン
壁付けキッチン全体の様子。使用した樹種は内田さんの作品ではおなじみのホワイトオーク。3枚で接ぎ合わせた濃淡豊かな突板を使って制作しました。天板はステンレスバイブレーション仕上げで、今回は標準よりも少しだけうすくして厚み22ミリで見せています。

久しぶりに内田雄介さんからキッチンのご相談を頂きました。 「花差し込む」の調布のSさん以来の5年振りですね。
こうして、声を掛けて頂けるのはとてもうれしいことです。
ありがとうございます。

ホワイトオークの壁付けI型キッチン
今回のシンクは壁付けキッチンということもあって、洗剤を直接天板の上に置いて使うということで、ポケットもデッキもないシンプルな四角いシンク。そして、シンクの下は、ゴミ箱を置くために大きくオープンスペースを採っています。
ホワイトオークの壁付けI型キッチン
食洗機はパナソニックの引き出すタイプの食洗機。深型でドア面材が引き出しと揃えられるタイプのものを導入しています。

私は家に帰ると、自転車通勤のためまずはじっとりした体をさっぱりさせたいので、風呂に入って汗を流してからアキコが食事の支度を整えてくれるのです。
だいたい帰宅する時間が21時くらいになることが多くて、夕飯のタイミングがみんなとバラバラになってしまうのに、風呂に上がるタイミングできっとひと段落したはずなのに当たり前のように再びキッチンに立って用意をしてくれる彼女には頭が上がりません。
ですから、夕飯の後の自分の食器や最後まで残っていた鍋などの洗い物くらいは私が担当するのです。
この夕飯、洗い物の次にようやく晩酌の時間がやってきます。
ご飯の後にすぐにお酒を飲み始めちゃうと、後でもう洗い物なんてできなくなってしまいまして・・。
そして、彼女もこの時間を楽しみにしていてくれて22時くらいまでなら付き合ってくれるのです。

もともと若い時は彼女のほうがお酒は強かったのですが、「ハルカとチアキが生まれてからは体質が変わったのかしら、お酒がそれほど飲めなくなったような気がするの。」ということで、22時を過ぎる場合は、私は一人で言葉通りちびちびウィスキーを飲むのです。
これを、最近手に入れたウルティマツーレのオールドファッションというイッタラのグラスに注いでストレートで飲んでいる時間がホッとするのです。

真鍮丸棒の取っ手
引き出しのハンドルやタオル掛けは真鍮丸棒の直径8ミリのものを採用。磨き仕上げのハンドルなので、使い込むことでこうしてくすみが出てよい表情になってきます。
キッチンの引き出しの様子
キッチンの引き出しの様子。「まだ雑然としていてごめんないさいね。」
キッチンの引き出しの様子
最下段の深めの引き出しの様子。

私はこうして長年インテリアの業界の端っこにいたのにも関わらず、イッタラ社の製品にほとんど関心がありませんでした。
そして、ガラス自体にもそれほど心惹かれることが少なかったのです。
しかし、アキコは私と違ってガラスもの好きでして、そんな彼女がある展覧会のことを教えてくれました。
「今、東京ステーションギャラリーでタピオ・ヴィルカラ展という催しがやっているみたいなの。行ってみない?」
相変わらずあまり関心がなかった私ですが、古い東京駅の建築の様子が見られるのはすてきだな、なんて軽い気持ちで出掛けて行ったのです。
ところが、その展示を見ているうちに、タピオ・ヴィルカラという人が、終わりにたどり着いた寂寥感というのでしょうか、そういう思いを紹介しているコーナーがありまして、その感じに圧倒されてしまいました。
「こういう思いで物作りをしている人が居たのだなあ・・。」
淋しげに見えるけれど、心温かに暮らしている様子を見て、ある種の憧れのようなものを感じて慌てて手に入れたグラスでして、今の私の一番のお気に入りのグラスなのです。
そして、そこに琥珀色の液体を注ぎながら、暗黒の塊のような色合いのかりんとうを食べる。これが私の楽しみなのでした。

コンロはリンナイのドロップインコンロ
ガスコンロはリンナイのドロップインコンロ「RD641STSA」を採用。
コンロ下の収納スペース
コンロの下はガスの元栓や電池のスペースにしていて、収納というよりはメンテナンススペースとなっていますが、みなさんこのスペースを工夫して使っていらっしゃって、Hさんもフライパンをうまくしまっていますね。ここは下に向かって開く扉になっています。
キッチンのコンロ下の引き出し
ガスコンロのメンテナンスハッチの下は引き出し。ガスの元栓を上段に設置したので、この引き出しは奥まで作ることができましたので、通常のガスコンロ下の引き出しよりも奥行き深くなっています。
キッチンのコンロ下の引き出し
ガスコンロ下の最下段の引き出し。

お酒を頂きながらその時間の流れているニュースをひと通り見終わってしまうと、おもむろにチャンネルを変えだしてよく見ているのが、吉田類さんの酒場放浪記。
最近私はあまり飲まなくなってしまった日本酒や焼酎を美味しそうに吉田さんが飲んでいくわけですが、その吉田さんの仕草がね、好きなのです。
何というか物腰柔らかいのにそれ以上踏み込ませないような印象と美味しいお酒を口にした時のガッツポーズの感じが。
そして、その表情やら仕草やらがなぜか内田さんを彷彿とさせるのです。アキコに伝えても「なんで?」と言われてしまうのですが。
内田さんも物腰柔らかでいろいろな話を柔軟に取り込んでくださるのですが、自分が据えている芯だけはブレないというか。
ブレない人間に私もなりたいなあと思いながら、毎晩ウィスキーでかりんとうをポリポリやるのです。

キッチンの調味料用の引き出し
調味料用の引き出し。今回は上段と、中段下段が連結された2杯の組み合わせ。以前は中段下段が連結されたこの形をよく作っていたのですが、今は3杯それぞれ分割する形を標準としています。それは、以前に「私のキッチン」の鎌倉のNさんに、「実際に使ってみると一番下のボトルをスッと真上に引き上げて取り出したいと思うことが多かったです。」ということを言われて、2段だと斜めに取り出さないといけませんので、なるほどと思いまして、それからは3段を標準としていたのでした。でも見た目と下は2段のほうがすっきり見えますので、このあたりは皆さんの好みに合わせて作っています。
toolboxのフラットレンジフード
レンジフードはtoolboxのフラットレンジフード。

前置きが長くなってしまいました。
今回のHさんのご新居は、元々稲城にあった内田さんのアトリエからすぐ近い場所に建つということで、何となく親近感のある土地です。
稲城駅のまわり自体はこのところ開発が進んでいるようですが、どこかゆったりした空気の流れるすてきな土地ですのでそう感じさせるものがあるのでしょう。
その線路沿いの一角に建つHさんのご新居の施工を担当されたのが、今回初めて顔合わせをする諫早建設さん。
いつもは市丸さんや内田産業さんと言った何度か顔合わせのしたことのある工務店さんばかりでしたので、何となく段取りは分かっているつもりでしたが、初めてとなるとやはり緊張するのです。
でも、「内田さんがいつかお願いしたいと思っていた工務店さんなのですよ。」とおっしゃっていたので、それならきっと仕事がやりやすいのだろうと思っておりました。

ホワイトオークの食器棚
こちらがキッチンの対面に設置した食器棚。床レベルの切り替えがあるので、右壁の端まで食器棚を延ばさずにゆとりのあるサイズ感で納まって見えます。エアコンが格納されているのも一つのポイント。

私はこうして半世紀近く生きてきましたが、やはり初めて工務店さんの担当者さんにお会いするのってけっこうドキドキするのですよ。
ここでも何度か書いたことがあるかもしれませんが、監督さんによってはおっかない人もいたり、段取りが良くない人もいたこともあって、何となくうまくかみ合わないで仕事が進んでいくことも時にはありました。
特に家具屋なんて現場では何故だか下に見られることが多くて、さらには私が30代、40代くらいの時だと、若造だと思われるのかけっこう邪険にみられることが多かったのでした。
「現場を散らかしに来た」くらいに思われることもあったりして、なかなか苦労したこともありましたが、だんだんと年を取ってきたためなのか、まわりが何となく丁寧に思ってくださる人が増えてきたように思えて今ではとても居心地良くさせていただけることが多いのですが、やはり初めては緊張します。

吊戸棚のエアコン用格子扉
エアコンが格納されている部分。この納まりは内田さんの設計する家で何度か取り入れられてきたこともあって、定番の納まりです。正面の格子扉は上に向かって開く扉にして、スライド蝶番を使った扉なので、エアコンメンテナンス時には簡単に外せるようにし、エアコン上部の板もメンテナンス時には外せるようにしています。
吊戸棚のエアコン用格子扉
上に開いた時の様子。普段は開け閉めを頻繁にしない扉ですので、開けっぱなしにできるような構造にはしていませんので、手を離すとバタンと扉が下がります。
吊戸棚内部の様子
エアコン格納部の隣は通常の開き扉の収納。エアコンが隠せるのは魅力的というお話をよく頂くのですが、このように吊戸棚と隣り合った形で設計しないとエアコンだけを隠す囲いを木で作るだけだとかえって目立ってしまうことが多いので、収納とうまく組み合わせて計画することが多いです。

今回、施主であるHさんとの打ち合わせは内田さんを通してお話を進める形で、すんなりとこの形にまとまりました。
素材は内田さんのいつものテイストということホワイトオークとステンレスの組み合わせになり、ちょっと変わったところとしては食器棚にエアコンを組み込むことくらいでしたが、このレイアウトも内田さんとのお仕事では何度か経験している形なので、揉んだくなく収まりそうです。
そこで、ご新居が上棟して採寸ができるタイミングで現場に伺わせて頂きました。

ホワイトオークの食器棚の引き出しの様子
食器棚の左列の引き出しの様子。
ホワイトオークの食器棚の引き出しの様子
食器棚の右列の引き出しの様子。
ホワイトオークの食器棚の引き出しの様子
食器棚の右列の引き出しの様子。
ホワイトオークの食器棚の引き出しの様子
食器棚の右列の引き出しの様子。

「こんにちは、フリーハンドイマイと申します。」
と、お邪魔させて頂くと、大工さんか監督さんかパッと見た感じでは分かりかねる方々が数名いらっしゃって、その中にきちんと作業服を着て眼鏡を掛けたすこし気難しそうなおじさまがいらっしゃいました。
現場で作業をしているというよりは会社の管理業務をされている方だろうかという印象のそのおじさま(変な印象を持ってしまってすみません!)にお話をしてみると、現場監督のKさんなのでした。
「あぁ、キッチン屋さんですか。じゃあ上で打ち合わせしましょうか。」と、気難しそうというよりは少しぶっきらぼうな話し方に聞こえて、(このような言い方はとても失礼かもしれませんが)うーん、仕事がしづらい方なのかしら・・、なんて思えた第一印象だったのですが、納まりや寸法などの話を進めていくと、細かい納まりがすべて分かっていらっしゃる人で、一つ質問しても知りたい以上の答えを伝えてくれるとても仕事がしやすそうな方だと分かってきたのでした。
Kさんも、最初は私がひょろっとしたキッチンデザイナーだかなんだかのように思えていたのかもしれませんが、細かい納まりや流れをキャッチボールのようにやり取りしていくうちに、話が分かる人物なのだろうと思ってもらえたようでして、話を重ねていくとぶっきらぼうさの中にもユーモアのある返事が混じったりして、これは魅力的な人だなあ、と見え方が逆転。
これは内田さんがお付き合いしている工務店さんみなさんがそんな感じなのですが(笑)

さらには大工さんの仕事がとてもきれいで、ちょうど食器棚の端部と巾木が関わってくる部分の納まりなどがとても美しく納まっていたのが今でも頭に残っております。
そういう仕事の心地よさがきっかけになって、実はこの時から数年後に設計事務所さんに諫早建設さんをご紹介させて頂く機会があって、同じく稲城でとても心地よいキッチンを作らせて頂くことになったのですが、そのお話はまた今度。

設置工事当日も駐車スペースや搬入についても、ちょっと気難しそうな表情のまま細やかにいろいろと気配りしてくださってとても仕事がしやすくすんなりと納めることができたのでした。

食器棚の扉の中の様子
一番右端は1枚の片開き扉にしています。すべて引き出しにしてすっきり見せても良いのですが、こうして扉を設けるレイアウトにすることが多いです。引き出しというのは奥のものを取り出しやすくて便利なのですが、設計の段階で高さを計画しておかないといけません。もし、引き出しの深さ以上のものがしまいたくなった時に入らないと不便に感じてしまう。また、わざわざ引き出しに入れる必要がないような大型の家電や調理道具もあったりします。大きなものは奥まってしまうことも少ないですので。そういう時に扉にしておいて高さが変えられる可動棚が入っている形だとより柔軟に収納を考えられると思うのです。

こうして無事にすべてが終わってお引っ越しとにHさんのところにお邪魔させて頂いた時も、Hさんが「工務店さんとは小さなぶつかり合いは何度かあったりしましたが(笑)、全体的にとてもきれいに作ってくださったのでたいへん満足していますよ。」とうれしそうにお話されているのが印象的でした。

こうして心地よくできあがった家というのはやはり居心地が良い。
ちょうど住み始めて1年ほどの頃に伺わせて頂いたキッチンはまだまだ真新しく、収納スペースもがらんとしたままだったりして、ここからさらに居心地が整っていくのでしょうね。
楽しみにしております。

食器棚のステンレス天板の様子
天板にはステンレスバイブレーションの板を張っています。ステンレスの存在をシンプルに見せるために天板の小口はオークの挽き板を張って仕上げています。
食器棚のサイドパネルの様子
Hさんが私たちのショールームに来てくださった時にそこにおいてある食器棚を見て気に入ってくださった納まりがこのちょっと立ち上がりがある形。もともとは雑巾摺りのようなイメージだったり、横から物がポロっと落ちない目的だったりした形なのですが、印象としてきれいに見えることもあって、時々この納まりを希望されるお客様がいらっしゃいます。
吊戸棚の側面
食器棚のサイドパネルは木目の動きが長く見えるようにということでタテ目使いで仕上げていまして、吊戸棚の側面もそれに合わせてタテ目にしています。
天板 ステンレスバイブレーション
前板・扉 ホワイトオーク板目突板
本体外側 ホワイトオーク板目突板
本体内側 ポリエステル化粧板
塗装 オイルノーマルクリア塗装仕上げ
キッチン仕上げ

ステンレスバイブレーションとホワイトオークの壁付けキッチンと食器棚

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