
【Iさんのモールテックス仕上げのキッチンを制作して:スタッフヒロセ君の制作日記】
2025.12.13







今回は、壁付けキッチンとアイランドキッチンと1件のお宅に2台のオーダーキッチンを作らせて頂きました。
その形はとても独特なデザインで、まずは天板は5mm厚のステンレスを使用しています。
天板は壁付けキッチンは650ミリ×3506ミリ、アイランドキッチンは1040ミリ×3506ミリと、どちらもサイズが大きく、重量も相当な重さのものになります。(ゆうに100kgは超えてしまいます。)
また、今回のキッチンは前板やキャビネット外側面は突板や無垢材ではなく、化粧板でもなく正面から小口面までを塗り包むような塗りつぶしの塗装仕上げになっています。
このような塗りつぶし塗装の時はいつも専門の塗装屋さんに依頼して塗ってもらっています。ですので、塗り包むことで面の柔らかさも出るので仕上がりはやはり色味、質感ともに化粧板とは違った上品な仕上がりになります。
またさらにリビング側の扉表面、側面というリビングから目に入ってくる部分は、モールテックス仕上げになっている点もいつもとは違う仕上げ方でした。モールテックスとはモルタルの一種で防水性があり薄塗りしてもクラックが入りづらく強度があるのが特徴の材料です。
ただ、その施工は私たちのような家具工房ではそこまで専門的な技術がありませんので、今回もいつものように現場で左官屋さんに仕上げてもらいました。このモールテックスは講習を受ければ誰でも塗ることができると言われているのですが、誰でも塗ることができてもきれいに塗ることができるというのはまた違うことだと思っていて、今までモールテックスを使用した仕上がりをいろいろなところで見てきましたが、塗る人によってだいぶ表情が変わってしまうので、やはり餅屋は餅屋だなあと思っているのです。
アイランドの側面やリビング側台輪も同様にモールテックスで統一して塗っています。
キッチン側の台輪は塗りつぶしでキャビネット小口も塗りつぶしになるため、ここで難題が出てきます。塗装の塗りつぶしとモールテックスの塗りつぶしの境界をどの位置で分けるか、(通称、どこで見切るか)またその見込み寸法の収め方については社長と確認を重ねながら決めていきました。
このようないろいろな特徴があったキッチンですが、制作の手間を考えるとサイズが大きいということを除けば、特別に複雑な部分はなかったのですが、このモールテックスと塗りつぶし塗装の見切りの処理と納まりは、今回の製作で私が最も神経を使うポイントになりました。
具体的には、塗りつぶしの塗料はほとんど厚みがつきません。モールテックスは2ミリくらいの厚みがつきます。それぞれを塗り上げた時にフラットになるようにするために、モールテックスが塗られる部分だけは厚みを2ミリ薄く作るというのが難しいところだったのです。さらにはその見切りがあからさまに表から見えないように工夫すること。地味な部分ではありますが手間が掛かったのでした。
そして、引き出し部分には、通常使用しているハーフェレの木製引き出し用のソフトクローズレールではなく、今回はノヴァプロスカラのレールとレーリングシステムの組み合わせという鋼製の引き出しを使用しています。ノヴァプロは私自身、使用したことがそこまで多くなかったため、作業前は多少の不安がありましたが、スムーズに作業が進んだ印象でした。

このような制作の細かな難しさのほかに、もう一つたいへんだったのは搬入です。
まずは5ミリのステンレスと言っても大きいとコシがないのでたわみます。
ですので、搬入時にステンレス天板が傷まないよう、またたわまないよう木枠で天板のまわりを固めて補強しての搬入となりました。
また、今回の立地が海から急にせりあがる丘陵地帯にあってさらには人がギリギリすれ違えるくらいの私道がメインの通りになるような場所でしたので、搬入はトラックが建物の横まで付けられませんでした、そのため、少し離れた丘の上からの下りながら台車を使って四人がかりで玄関まで運びいれたのでした。100kgを超える天板ですから、誰かがうっかりしようものなら台車ごと天板が坂を下って行ってしまいます。現場に運び入れるだけでも大変な緊張感でした。
さらに、玄関からは人力で搬入することになります。現場には足場も残っており、さらには階段もあり、搬入難度はたいへんたいへん高いものになったのでした。

そしてアイランドキッチンの設置場所は、アイランドと言ってもキッチンの両側に筋交いがあるレイアウトで、その間に収まるように設計されており、この重い天板をどのようにキッチンの上にあげて寝かそうかと納まりとしても不安な点でしたが、現場の寸法もピッタリで予定通りの納まりになり無事に取り付けが完了しました。
今回は重量物の搬入、モールテックスと塗装の納まり等、制作することだけではない難しい点が多くありましたが、こうしてうまく据え付けられる事ができてたいへん安心いたしました。



とても大きなキッチンでとても迫力はあるのですが天板が5ミリ厚と薄く、前板等も塗りつぶしの落ち着いた色味で塗られており、シャープな印象で非常にスッキリとまとまったキッチンに仕上がっていると感じました。私としては、この素晴らしい空間に携われた事を大変うれしく思います。
Iさんありがとうございました。
